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本編
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大広間へと繋がる階段の上から見下ろすと、シャンデリアが煌めく中で大勢の貴族達がダンスをしている。
その周りで噂話に勤しむ夫人と令嬢達。
これからそこへ飛び込んでいくのだと思うと今すぐに引き返したくなる気持ちに襲われるが、そこはグッと堪える。
「王太子フィリップ殿下、王太子妃エスメラルダ様でございます」
侍従の声掛けにより、ざわめいていた人々が一斉に静かになってこちらを振り返った。
フィリップ様は私の手を取り、優雅に微笑みながら大階段をゆっくりと降りていく。
それと同時に扇子を口元に当ててこちらを見ながら、何やらひそひそと噂話をしている女性達。
大方何を言われているのか想像はつくが、私は素知らぬ顔をしてその横を通り過ぎる。
そして大階段を降り終えた私たちは、国王夫妻が座っている中央の王座へと向かった。
「おお、来たか。エスメラルダが舞踏会に参加するのは久しぶりだな。余計なことを言う奴もいるかもしれんが、気にせずにな」
「言わせておきなさい。あなたはれっきとしたユーカリ国の王太子妃であり、私の大切な娘ですからね」
国王であるお義父様と王妃であるお義母様は、本当に良い方たちだ。
結婚して三年、未だに世継ぎができない私のことを気にかけてくれる二人には何度も助けられてきた。
しかしだからこそ、その優しさが辛く感じるようになってきたのもまた事実なのだ。
「エスメラルダ、皆が待っている」
参加した貴族達は皆、私達夫婦に声をかけられるのを今か今かと待っている。
国王夫妻への挨拶もそこそこに、私はフィリップ様に手を引かれて王座を離れ、貴族達の集まる方へと向かった。
「これはこれは王太子殿下、お目に掛かれて光栄です」
真っ先に声をかけてきたのは、でっぷりと太ったザリアン公爵だ。
私の実家であるメイフィールド公爵家に次ぐ、ユーカリ王国の有力貴族でもある。
「久しぶりだな、ザリアン公爵。元気にしていたか」
フィリップ様は微笑みを絶やさずにそう尋ねた。
「ええ、こちらは変わらずです。それにしても、王太子妃様のお姿を拝見する機会がここ最近ではほとんどなかったので、もしやご懐妊では? と思っておりましたぞ」
ギラリ、とこちらを探るような目付きで見つめる公爵の口元は笑っているが、本心は違うだろう。
──ほら、始まった。
心配するふりをして、こちらの様子を探りたいだけなのだ。
確かザリアン公爵には、私と同じ年頃の令嬢がいたはず。
「王太子ご夫妻がご結婚されて早三年。皆がお世継ぎのご誕生をお待ちにしており、エスメラルダ様の荷も重く大変でしょう」
労わるような表情でこちらを窺う公爵の嘘めいた言葉に、自然と鳥肌が立つ。
「いいえ、私はそのような……。むしろ王太子妃としての役割を果たせず、申し訳ありません」
「ご無理はなさらずに。実は我が家の娘シエナが今年十八になり、親の贔屓目ながらも美しく育っております。いずれ折を見て殿下の元に遣わしても良いと思っておりますので、その際はなんなりとお申し付けください」
そう言うと公爵は手招きをして、一人の令嬢を呼び寄せた。
そしてやってきたのは真っ青で派手なドレスを着て金髪を片側にまとめた、美しいけれど気の強そうな女性。
その周りで噂話に勤しむ夫人と令嬢達。
これからそこへ飛び込んでいくのだと思うと今すぐに引き返したくなる気持ちに襲われるが、そこはグッと堪える。
「王太子フィリップ殿下、王太子妃エスメラルダ様でございます」
侍従の声掛けにより、ざわめいていた人々が一斉に静かになってこちらを振り返った。
フィリップ様は私の手を取り、優雅に微笑みながら大階段をゆっくりと降りていく。
それと同時に扇子を口元に当ててこちらを見ながら、何やらひそひそと噂話をしている女性達。
大方何を言われているのか想像はつくが、私は素知らぬ顔をしてその横を通り過ぎる。
そして大階段を降り終えた私たちは、国王夫妻が座っている中央の王座へと向かった。
「おお、来たか。エスメラルダが舞踏会に参加するのは久しぶりだな。余計なことを言う奴もいるかもしれんが、気にせずにな」
「言わせておきなさい。あなたはれっきとしたユーカリ国の王太子妃であり、私の大切な娘ですからね」
国王であるお義父様と王妃であるお義母様は、本当に良い方たちだ。
結婚して三年、未だに世継ぎができない私のことを気にかけてくれる二人には何度も助けられてきた。
しかしだからこそ、その優しさが辛く感じるようになってきたのもまた事実なのだ。
「エスメラルダ、皆が待っている」
参加した貴族達は皆、私達夫婦に声をかけられるのを今か今かと待っている。
国王夫妻への挨拶もそこそこに、私はフィリップ様に手を引かれて王座を離れ、貴族達の集まる方へと向かった。
「これはこれは王太子殿下、お目に掛かれて光栄です」
真っ先に声をかけてきたのは、でっぷりと太ったザリアン公爵だ。
私の実家であるメイフィールド公爵家に次ぐ、ユーカリ王国の有力貴族でもある。
「久しぶりだな、ザリアン公爵。元気にしていたか」
フィリップ様は微笑みを絶やさずにそう尋ねた。
「ええ、こちらは変わらずです。それにしても、王太子妃様のお姿を拝見する機会がここ最近ではほとんどなかったので、もしやご懐妊では? と思っておりましたぞ」
ギラリ、とこちらを探るような目付きで見つめる公爵の口元は笑っているが、本心は違うだろう。
──ほら、始まった。
心配するふりをして、こちらの様子を探りたいだけなのだ。
確かザリアン公爵には、私と同じ年頃の令嬢がいたはず。
「王太子ご夫妻がご結婚されて早三年。皆がお世継ぎのご誕生をお待ちにしており、エスメラルダ様の荷も重く大変でしょう」
労わるような表情でこちらを窺う公爵の嘘めいた言葉に、自然と鳥肌が立つ。
「いいえ、私はそのような……。むしろ王太子妃としての役割を果たせず、申し訳ありません」
「ご無理はなさらずに。実は我が家の娘シエナが今年十八になり、親の贔屓目ながらも美しく育っております。いずれ折を見て殿下の元に遣わしても良いと思っておりますので、その際はなんなりとお申し付けください」
そう言うと公爵は手招きをして、一人の令嬢を呼び寄せた。
そしてやってきたのは真っ青で派手なドレスを着て金髪を片側にまとめた、美しいけれど気の強そうな女性。
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