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本編
7
「シエナ、ご挨拶なさい」
「お初にお目にかかります。ザリアン公爵の娘シエナと申します。以後お見知り置きを」
挨拶をと言っても、彼女は私の方を最後まで見ようとはしなかった。
まるで存在しないかのようにこちらには目もくれず、上目遣いでフィリップ様の方ばかり見つめていたのだ。
チラと見ると目が合ったような気がしたが、勝ち誇ったような顔で微笑まれた後に視線を逸らされてしまいなんとも不快である。
「ああ。よろしく。でも僕はエスメラルダがいてくれれば、それで満足だからね。さあ行こうか」
フィリップ様は厭味ったらしい挨拶をサラリとかわすと、腰を抱いてザリアン公爵達の輪から助け出してくれた。
「大丈夫? 君が嫌ならもう帰っても……」
「いいえ、大丈夫ですわ。挨拶を続けましょう」
ここで帰るのはなんだか癪に触った。
私にもプライドがある。
もはや意地のように、私はニッコリと張り付けたような笑みを浮かべて挨拶回りを続けた。
「王太子妃様、お久しぶりですわ」
次に声をかけられて振り返ると、そこには中年の女性の姿が。
「あら……マチルダ侯爵夫人」
マチルダ侯爵家は、王家とも繋がりの深い由緒ある家柄である。
夫の侯爵はフィリップ様との歓談に夢中のようだ。
──困ったわ。
そう、何を隠そう私はこのマチルダ侯爵夫人が大の苦手なのだ。
会う度にネチネチと嫌味をぶつけられ、何を勘違いしているのか王太子妃の私相手に説教じみたことさえ言われてしまう。
しかも夫である侯爵とフィリップ様が気づかないようにやるところが、何とも彼女のいやらしいところなのだ。
高貴な公爵家出身と聞いているが、私は筆頭公爵家出身であり王太子妃だ。
一体どの立場から物を申しているのだろうか。
「お久しぶりですわご夫人。お変わりありませんこと?」
だがもちろんそんな心の声が表に出てくることはない。
私は平常心を保ちながらその場を終えようとする。
「ええ、お変わりなく。それよりもエスメラルダ様、またお痩せになられたんじゃありませんこと?」
「……そうかしら?」
「お世継ぎを挙げるはずのお方がこのようにお痩せになられていては、いつまで経ってもご懐妊なさる訳がありません。ご結婚三年目にもなりますのに……王太子様がご不憫ですこと」
わざとらしく扇子を口元に当てて、嘆くような仕草をしているのが憎たらしい。
いつも私のやることなすことにケチをつけて、最終的には世継ぎのことを遠回しに言われるのだ。
──ええい、だまらっしゃい!
王太子妃として絶対に口に出すことのできない言葉を心の中でぶつけながら、張り付けたような笑顔は絶やさない。
「愛人を持つように進言してさしあげるのも、王太子妃たる者のお役目だと思いますわよ?」
「ほほほ……そうですわね。ご忠告ありがとうございます」
縋るように隣を見ると、夫同士の歓談もひと段落した様子。
私はフィリップ様の腕を引っ張り、逃げるようにその場を後にした。
「お初にお目にかかります。ザリアン公爵の娘シエナと申します。以後お見知り置きを」
挨拶をと言っても、彼女は私の方を最後まで見ようとはしなかった。
まるで存在しないかのようにこちらには目もくれず、上目遣いでフィリップ様の方ばかり見つめていたのだ。
チラと見ると目が合ったような気がしたが、勝ち誇ったような顔で微笑まれた後に視線を逸らされてしまいなんとも不快である。
「ああ。よろしく。でも僕はエスメラルダがいてくれれば、それで満足だからね。さあ行こうか」
フィリップ様は厭味ったらしい挨拶をサラリとかわすと、腰を抱いてザリアン公爵達の輪から助け出してくれた。
「大丈夫? 君が嫌ならもう帰っても……」
「いいえ、大丈夫ですわ。挨拶を続けましょう」
ここで帰るのはなんだか癪に触った。
私にもプライドがある。
もはや意地のように、私はニッコリと張り付けたような笑みを浮かべて挨拶回りを続けた。
「王太子妃様、お久しぶりですわ」
次に声をかけられて振り返ると、そこには中年の女性の姿が。
「あら……マチルダ侯爵夫人」
マチルダ侯爵家は、王家とも繋がりの深い由緒ある家柄である。
夫の侯爵はフィリップ様との歓談に夢中のようだ。
──困ったわ。
そう、何を隠そう私はこのマチルダ侯爵夫人が大の苦手なのだ。
会う度にネチネチと嫌味をぶつけられ、何を勘違いしているのか王太子妃の私相手に説教じみたことさえ言われてしまう。
しかも夫である侯爵とフィリップ様が気づかないようにやるところが、何とも彼女のいやらしいところなのだ。
高貴な公爵家出身と聞いているが、私は筆頭公爵家出身であり王太子妃だ。
一体どの立場から物を申しているのだろうか。
「お久しぶりですわご夫人。お変わりありませんこと?」
だがもちろんそんな心の声が表に出てくることはない。
私は平常心を保ちながらその場を終えようとする。
「ええ、お変わりなく。それよりもエスメラルダ様、またお痩せになられたんじゃありませんこと?」
「……そうかしら?」
「お世継ぎを挙げるはずのお方がこのようにお痩せになられていては、いつまで経ってもご懐妊なさる訳がありません。ご結婚三年目にもなりますのに……王太子様がご不憫ですこと」
わざとらしく扇子を口元に当てて、嘆くような仕草をしているのが憎たらしい。
いつも私のやることなすことにケチをつけて、最終的には世継ぎのことを遠回しに言われるのだ。
──ええい、だまらっしゃい!
王太子妃として絶対に口に出すことのできない言葉を心の中でぶつけながら、張り付けたような笑顔は絶やさない。
「愛人を持つように進言してさしあげるのも、王太子妃たる者のお役目だと思いますわよ?」
「ほほほ……そうですわね。ご忠告ありがとうございます」
縋るように隣を見ると、夫同士の歓談もひと段落した様子。
私はフィリップ様の腕を引っ張り、逃げるようにその場を後にした。
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