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本編
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あれから二週間ほど経つが、フィリップ様との離婚話がどの程度まで進んだのか全くわからない。
お父様が私の耳には入らないように内々で進めていてくれるのだろうか。
王太子夫妻の離婚話となったら国を揺るがす一大事だが、まだその話題が社交界に出ていないと言うことは、正式な離婚は成立していないのかもしれない。
社交界とはそのくらいに噂話が広まるのが早いのだ。
それと同時に、フィリップ様が側室を迎えられたという話も聞こえてこない。
優しいあのお方のことだ。
私との関係が綺麗に清算されるまで、我慢されているのかもしれない。
「何事もなく、このまま綺麗さっぱり終えられると良いのだけど」
もう傷つくのはたくさんだ。
私は温かいハーブティーに口を付け、ふぅとため息をついたのだった。
◇
「いやぁ、驚いたなエシー。しばらく見ないうちにこんなに美しい女性になっていたなんて」
リリーの言葉通り、午後に従兄弟のルシファー様がメイフィールドの屋敷を訪れた。
久しぶりに見る彼は、記憶の中よりも格段に男らしくなっていて、不覚にも私は少しときめいてしまう。
フィリップ様とは正反対の漆黒の髪は後ろで一つにまとめられ、髪の色と同じ漆黒の瞳が凛々しい。
……こんな時にまでフィリップ様と比べてしまう自分が嫌になる。
「ありがとうございます。ルシファー様こそ、随分と背が大きくなられたのですね」
最後に会った時は私の頭より僅かに高いくらいであったのに、今では見上げるほどだ。
華奢だった体つきも今では筋肉を纏った男らしいものへと変化しており、再会までの月日の流れを感じさせられる。
「留学先でだいぶ鍛えられた。肉体的にも、精神的にもな」
「貴重な体験をすることができたのですね。羨ましいですわ」
「エシーこそ、王太子妃という重圧によくこれまで耐えてきたな。人にはわからぬ苦労も多かっただろうに……さぞ大変であっただろう」
ルシファー様は眉を下げて慈しむような目で私を見つめる。
これまで王太子妃としての役割をフィリップ様と家族以外の人に労ってもらったことはほとんどなかったため、それだけで涙がこぼれそうになった。
傷ついた心に優しい言葉が染み渡る。
「って、ええ?! 泣いてるのか?」
私の涙に気づいたルシファー様は、あたふたとする。
そして、戸惑いながらも私の頬に流れる涙をそっと指で拭った。
「……世継ぎのこと、大体は聞いているよ。きっと城で色々嫌な思いをしたんだろう。可哀想にな」
ルシファー様は事前にお父様達から話を聞いて、大方の内容を理解していたらしい。
私の口から経緯を説明する羽目にならなくて良かった。
また一から傷を抉るような真似をしなくて済むので、ありがたい。
「もう良いのです……離縁は私の希望なのですから。フィリップ様は引き止めてくださったのです。それよりも、なぜルシファー様はこちらに? 」
「留学がひと段落したというのもあるが……両親にそろそろ結婚をとせがまれてな」
ルシファー様ほどの男性ならば、すぐに縁談がまとまるだろう。
「まあ、そうなのですね。それで、良いお相手はいらっしゃったのですか?」
「色々と縁談話は入ってきているが、なかなかこれだと思える女性には出会えていないんだ。みな俺の容姿や家柄しか見ていない」
「ルシファー様は素敵な男性ですもの。きっと良いお相手が見つかりますわよ」
私がそう励ましの言葉を送ると、ルシファー様は急に真剣な顔付きでこちらをジッと見つめてきた。
「エシーは……」
「はい? 」
「エシーは、今後どうするんだい? 聞くところによるといくつか縁談の話も来ているそうじゃないか。再婚とか、考えているの?」
またその話か。
私はもう結婚には懲り懲りなのだ。
愛した人との子どもが望めず、相手が他の女性と一緒になるなどという経験はもう二度としたくはない。
お父様が私の耳には入らないように内々で進めていてくれるのだろうか。
王太子夫妻の離婚話となったら国を揺るがす一大事だが、まだその話題が社交界に出ていないと言うことは、正式な離婚は成立していないのかもしれない。
社交界とはそのくらいに噂話が広まるのが早いのだ。
それと同時に、フィリップ様が側室を迎えられたという話も聞こえてこない。
優しいあのお方のことだ。
私との関係が綺麗に清算されるまで、我慢されているのかもしれない。
「何事もなく、このまま綺麗さっぱり終えられると良いのだけど」
もう傷つくのはたくさんだ。
私は温かいハーブティーに口を付け、ふぅとため息をついたのだった。
◇
「いやぁ、驚いたなエシー。しばらく見ないうちにこんなに美しい女性になっていたなんて」
リリーの言葉通り、午後に従兄弟のルシファー様がメイフィールドの屋敷を訪れた。
久しぶりに見る彼は、記憶の中よりも格段に男らしくなっていて、不覚にも私は少しときめいてしまう。
フィリップ様とは正反対の漆黒の髪は後ろで一つにまとめられ、髪の色と同じ漆黒の瞳が凛々しい。
……こんな時にまでフィリップ様と比べてしまう自分が嫌になる。
「ありがとうございます。ルシファー様こそ、随分と背が大きくなられたのですね」
最後に会った時は私の頭より僅かに高いくらいであったのに、今では見上げるほどだ。
華奢だった体つきも今では筋肉を纏った男らしいものへと変化しており、再会までの月日の流れを感じさせられる。
「留学先でだいぶ鍛えられた。肉体的にも、精神的にもな」
「貴重な体験をすることができたのですね。羨ましいですわ」
「エシーこそ、王太子妃という重圧によくこれまで耐えてきたな。人にはわからぬ苦労も多かっただろうに……さぞ大変であっただろう」
ルシファー様は眉を下げて慈しむような目で私を見つめる。
これまで王太子妃としての役割をフィリップ様と家族以外の人に労ってもらったことはほとんどなかったため、それだけで涙がこぼれそうになった。
傷ついた心に優しい言葉が染み渡る。
「って、ええ?! 泣いてるのか?」
私の涙に気づいたルシファー様は、あたふたとする。
そして、戸惑いながらも私の頬に流れる涙をそっと指で拭った。
「……世継ぎのこと、大体は聞いているよ。きっと城で色々嫌な思いをしたんだろう。可哀想にな」
ルシファー様は事前にお父様達から話を聞いて、大方の内容を理解していたらしい。
私の口から経緯を説明する羽目にならなくて良かった。
また一から傷を抉るような真似をしなくて済むので、ありがたい。
「もう良いのです……離縁は私の希望なのですから。フィリップ様は引き止めてくださったのです。それよりも、なぜルシファー様はこちらに? 」
「留学がひと段落したというのもあるが……両親にそろそろ結婚をとせがまれてな」
ルシファー様ほどの男性ならば、すぐに縁談がまとまるだろう。
「まあ、そうなのですね。それで、良いお相手はいらっしゃったのですか?」
「色々と縁談話は入ってきているが、なかなかこれだと思える女性には出会えていないんだ。みな俺の容姿や家柄しか見ていない」
「ルシファー様は素敵な男性ですもの。きっと良いお相手が見つかりますわよ」
私がそう励ましの言葉を送ると、ルシファー様は急に真剣な顔付きでこちらをジッと見つめてきた。
「エシーは……」
「はい? 」
「エシーは、今後どうするんだい? 聞くところによるといくつか縁談の話も来ているそうじゃないか。再婚とか、考えているの?」
またその話か。
私はもう結婚には懲り懲りなのだ。
愛した人との子どもが望めず、相手が他の女性と一緒になるなどという経験はもう二度としたくはない。
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