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本編

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 ーー翌日のこと。

 リンドの予想通りである。
 彼はアレックスの公務の補佐を行なっているが、王城の執務室でいつも通り執務を行なっていると、アレックスの気配を感じた。
 アレックスがつかつかと一直線にリンドの方へと向かって歩いてくるのがわかり、恐らくカリーナの件で話しかけられるのだろうと覚悟する。

 「リンド」

 「言いたいことはわかっている。カリーナのことだろう」

 リンドは即答する。
 知らないフリをしてとぼけようかとも思ったが、国王には通用しないとわかっていた。

 「なんだ、わかってたのか。驚いたよ。例の元侯爵令嬢が、あんなに美しく素晴らしい女性だったなんて。なんで黙ってたんだよ」

 アレックスはあの短時間ですっかりカリーナの虜になっているようだった。
 これまでどんなに美しい貴族令嬢が近づいてきても、全くなびかなかった男だ。
 公爵令嬢を王妃候補へという話が本格化しそうではあったが、アレックス本人は全く乗り気ではなかった。
 側でその様子を見てきたリンドだからこそ、よほど今回のカリーナへの想いが本気だと言うことがわかる。

 「俺は絶対に彼女を王妃に迎えたい。彼女以外の女性を妻にする事は考えられない。そう決心したんだが、まだ彼女はシークベルト公爵家の者だろう? リンドの許可を得てから正式な申し込みをしようと思ってね」

 「婚約者候補の公爵令嬢2人はどうするんだ。お前がシークベルト家から王妃を娶ったとあれば、残りの公爵家二家から顰蹙を買ってしまうではないか」

 「彼女達にはそれぞれ他国の王なり公爵なり、それなりの嫁ぎ先を用意してやるさ。各公爵家の家業への融資も増やそう。シークベルト公爵家への文句は言わせない」

 アレックスなら、そう言うだろう。
 そして言葉通りにするだろう。

 「出会ってすぐこのように狂ったような事を言う俺を愚かだと思うか? 恋煩いだと思うか? 俺もこんな気持ちは初めてだ。自分が自分でないような、浮足だったような、不思議な感覚だ。彼女と出会うまでの日々にはもう戻れない」

 アレックスの目には強い恋の炎が燃え上がっていた。

 「だがしかし……」

 「リンドから許可が貰えないのならば、カリーナ嬢に直談判と行こうか。最悪シークベルト家の許可が得られなくとも、王命としてしまえばいいだろう? 」

 「私利私欲のために権力を振りかざすのは、お前が1番好まないやり方ではないのか? 」

 「なぜだい? 確かに私利私欲かもしれないが、リンドのよくわからないこだわりに振り回されるよりも、王妃となって俺に大切にされる方が何倍もカリーナ嬢にとって幸せではないのかい? 」

 確かにその通りだ。
 図星すぎて何も言い返すことができない。

 「大体そんなにカリーナ嬢を渡したくないのなら、なぜもっと早く自分の物にしなかった? 彼女を引き取ってから何年経ったと思っているんだ。彼女にだって気持ちはある。物じゃない」

 アレックスは俺の目をまっすぐ見つめてこう言った。

 「大方、敗戦国出身の彼女を受け入れる勇気がお前になかっただけだろう。」

 アレックスはそう言うと、自分の席に戻って執務を始めた。
 ローランド辺境伯とアレックスに言われた言葉がリンドに刺さる。

 (所詮、俺はカリーナにふさわしい男ではないのだ……)

 その日リンドは1日中執務に集中することができなかった。
 シークベルト公爵家を国王が訪問したのは、その数日後のことである。



 「……え、あの、これはどういう……」

 とある日の昼下がり。
 自室でくつろいでいたカリーナは、ドアをノックする音がしたため、ガチャリと開けた。
 そこにいたのは、先日の舞踏会で会った男だ。

 「やぁ、初めまして……ではないか。先日は名乗ることが出来ず申し訳ない。バルサミア国王アレックス・ウィザーだ。以後、お見知り置きを」

 そう言って、アレックスはカリーナの手を取り、恭しく手の甲にキスをした。

 「は……はあああぁぁぁ!? 」

 相手が国王であることもすっかり忘れ、淑女としてのマナーも忘れて大声を出すカリーナ。

 「ふっはははははは!! カリーナ嬢、君は本当に最高だ。今日は君と話がしたくて来たんだ。かけてもいいかい? 」

 アレックスはそんなカリーナの様子を見て吹き出しながら、楽しそうだ。

 「ええ……まあ、はい……失礼致しました」

 アレックスはカリーナの正面のソファにどしりと腰掛ける。
 その風貌はいかにも国王といった堂々としたものだ。
 カリーナは慌ててメアリーを呼び、お茶とお菓子を用意させた。
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