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 「あなた様が目覚めた時、すぐに真実をお話ししようと思いました。ですが、殿下に口止めされてしまい身動きが取れなかったのです……」

 「ノア様が? 」

 「ええ。あのお方は、以前からあなた様がご自分に気がないことを、知っておられました。自分だけがあなたに夢中であると。そしてあなた様のそばに付き添っていた私とあなた様の仲を、疑っておられた」

 「でもノア様は、以前から私には興味がないようだったわ」

 「あれは照れ隠しです。あなた様に嫉妬して欲しかったのでしょう。あのお方は、愛の意味を履き違えておられる」

 だがレティは、そんなノアの作戦に期待通りの反応を見せてはくれなかった。
 そしてノアは、レティのステアに対する秘めた想いにも気付いていたのだ。
 彼女の心が欲しいと焦った彼は、安易な考えで呪術に手を出した。
 金ならいくらでもあるノアにとって、高額な見返りを必要とする呪術師を探すことは容易であったらしい。
 レティを心から愛する者の口付けで目覚める呪いをかけて、自分がその呪いを解くことができれば。
 周囲の皆からも祝福され、レティからも感謝されるだろう。
 極め付けは、記憶を失うこと。
 これでレティのステアへと向けられた思いも、消えてなくなるはず。

 だがそんな企みは儚く崩れ去る。
 レティは、ノアの口付けでは呪いが解けなかったのだ。
 
 「なぜだ、僕はレティを心から愛しているというのに……」

 呪術というのは複雑で、相手にかけた際にその内容が若干の変化を起こすことがよくあるらしく。
 レティにかけられた呪いも、当初は彼女の事を愛する男性の口付けで解けるはずであった。
 しかしいつのまにか、彼女もその男性のことを愛していなければならない、という条件が加わってしまったのだ。

 呪いが広がり毎日のように寝たり起きたりを繰り返すレティを見舞いに来たノアは、そばに控えるステアに八つ当たりした。

 「どうせお前なんだろう!? レティの呪いを解けるのは! 」

 「そのような。恐れ多いことです」

 ステア自身はそんなはすがない、とその言葉を鵜呑みにはしておらず。
 公爵家に来てからずっとそばで見てきた令嬢は、いつしかステアの最愛の女性となっていた。
 だが彼女は自分の主人であり、自分は彼女の護衛騎士だ。
 この立場が覆ることはなく、彼女と結ばれることなど夢のまた夢。
 ノアの主張も聞き流す毎日であったというのに。


 「私はあなたが好きなの、ステア」

 
 信じられないことに、最愛の女性はその心を自分に与えてくれたのだ。
 レティの命を失うような真似はしたくない。
 レティに請われ、ステアは迷うことなくその唇に口付け、彼女にかけられた呪いを解いた。
 と、ここまでは良かったのだが。
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