リリアン

まつり

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黒の街 ヴァロラブリーデリ

赤の時代

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早くに結婚したヴァロラブリーデリの幸せな期間を赤の時代とする事が多い。

妻のフェリノが作るシープベリーと呼ばれる花を使った、後にソルフェリーノと呼ばれる特徴的なピンクがかった赤は、画集の表紙に使われる程認知されている彼の色となっている。

初期は特徴的な赤のモチーフを必要としていたが、市場を描いた「喧騒」あたりから、場のエネルギーをありありと表現するかの様に全体が赤い構成も増えてきていた。

その中で異質な絵が2つある。
前項で記した、赤と白の2輪が小さく描かれた、ミニマルなもの。

もう一つのもの、そちらは連作で、その絵は1人の人を描いたものだが、この辺りの作風であるエモーショナルでエネルギーに満ちた物とは違い、静かな、しかし強い感情に溢れている。



「ほら、これも持っていきな。
そろそろだろう?

タオルなんていくらあったっていいんだ。
…なんか私らの方が張り切ってしまっているね。

あっはっは!」

フェリノと結婚して数年たち、画家としても食うには困らない程になった。
それでもヴァロは宿屋の一室をずっと借りていた。

一度作品に取り掛かると社会性が終わり、自活能力が無くなるのと、薄っすら人の話し声が聞こえている方が集中できるタイプなので、わざわざ宿屋の一室をアトリエとしていた。

フェリノはちょくちょくやって来て片付けて行ったり話をして行ったりしているし、ヴァロはヴァロで丘の上の家に部屋をもらい、絵にのめり込んでいる時以外はそちらで過ごしている。

最初はフェリノの両親はその生活スタイルに余り理解を示していなかったが、何ヶ月か経って2人が幸せそうだし、フェリノも絵の具の改良や新色の研究をしてダメダメになる事が多かったので、この2人はこれでいいのかもと、今は思っている。

なんだかんだと2人で色々なところへ出掛けているようだし、お土産のセンスは全くないが必ず買ってきてくれる。

穏やかで、少し卑屈なところがあるが優しい彼は上手く受け入れられたと言っていいだろう。

ここ数日、ヴァロは絵を一切描いていなかった。

両親は仕事なんだから描いていて構わないと言ってくれたが、ヴァロ自身が手につかず、ずっとお腹の大きくなったフェリノの近くにおり、お腹に耳を当てたり、子供が産まれる準備をしたり、この街に来てから彼の親代わりと言っていい宿屋の夫婦にこれからどうすべきかを相談しに行ったりしている。

そう、子供が産まれるのだ。

自分の出生もあるので、妊娠が発覚した時は凄く不安な気持ちになった。

周りが皆んな大喜びで、おじさんも親父さんもベロベロになって踊り狂い、二人して羊に埋もれて眠る程だったので、なんかヴァロも釣られて嬉しくなった。

段々と実感もしてきて、今はただただ楽しみにしている。

夫婦で秘密にしている不安もある。

ヴァロの魔女の血だ。

ヴァロがフェリノ以外の絵の具を使って絵を描くと雨が降るのは、おそらく魔法だ。
学んでいないので半端に発動しているのだろうという結論に落ち着いた。

それすらも誰かに聞いて確認した訳ではなく、多分そうなのだろうということと、文献に残った野良魔女の魔法のなかに、特定の行動が魔法現象を起こすというものがあったので、恐らくそうだろうと判断した。

「ヴァロの雨を降らせるって魔法すごいのかもね。
雨が降るなんて、見た目より大きな事が空で起こっているって事でしょう?
もし魔法を学んでいたらすっごく有名な魔法使いになれたかもね。」

フェリノはそう言ってくれたがヴァロ自身は、漏れでた魔法が危ない物ではなくて本当に良かったと思っていた。

今が幸せなのだ。

文献には野良魔女が料理をすると火が爆発的に大きくなったり、水に触ると尖りながら凍ったりする様な危険な物も沢山あったのだ。

我が子にそんな事が起こらなければいいね、と夫婦で話していた。
平和な今、彼か彼女かはまだ分からないが、危ない目にあって欲しくはなかった。

女将さんに貰った大量のタオルを丘の上の家に運んで、一枚ずつたたみ直していると、家の中が騒がしい。

早足で騒ぎの方へと駆けつけると、フェリノが産気づいたようだった。

以前のヴァロなら自分を見失う程慌てたに違いない。
しかし、この数年で随分落ち着いた物だ。

「義母さん!フェリノ、フェリノが、フェリノ!」

「あらぁ、そろそろだと思ったけど、今日来たのね。
じゃあ私はフェリノに付くから、ヴァロちゃんは産婆さん呼んで来てね。
お父さんはお湯を沸かしておいて。
後で必要になるからたくさんね。

はい!動く動く。

いってらっしゃい。」

こんな時に母の強さを感じたヴァロは、小走りで産婆さんの家へ向かう途中に、自分の母親も、僕が産まれる前はこんな感じだったのだろうかと考えていた。

そう考えるとちょっとだけ、今の幸せな様子を見せたいと思った。
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