リリアン

まつり

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黒の街 ヴァロラブリーデリ

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「なぜ、この本の著者がヴァロラブリーデリなの?
自伝を残すような人には感じなかったけれど。」

ロウディアは疑問に思った。
彼の人生を辿り、どうしても自分の事を絵以外で描くような人には感じなかったからだ。

「あぁ、簡単な事ですよ。
彼ではないヴァロラブリーデリが、彼の事を教えてくれたんです。
私に、直接。

丁度貴女の様に遭難して、ここに来た時にね。」

直接…?
彼の親族は全て亡くなっているし、魔女も彼の魔法で滅びただろう。

彼をきちんと知るものは1人も残って居ないはずだ。

「本はね、ドンデン返しが醍醐味ですよ。
ヴァロの目線で描いた場合、彼が知らない事もあるのです。

娘が生きていた、とかね。」



ヴァロの母はヴァロを洞に入れた後、丘の街を通って王都へ向かおうとした。

しかし、その頃にはもう兵士が雪崩れ込み、戦火は街を飲み込んでいた。

顔を見られぬ様にしなくては。
もしかしたら魔女である私の顔を知る人物がいないとも限らないのだから。

遠くに見える丘の裏を周って行こうと思ったその時、丘から大きな火柱が立った。

「何故?
あっちに魔女が行く理由がない!
何故あそこで魔法が発動しているの…。」

もしかして。

彼女の想像は半分だけ当たっていた。

彼女はヴァロが目を覚ましてしまったと思った。

宿で絵を描く後ろ姿を見た時に、間違いなく魔法の才能があったし、何かのきっかけで能力が目覚める可能性もある。

魔法を行使出来れば有象無象には負けないだろうが、それは訓練していればの話だ。

彼女は急いで丘の上に向かうと、火柱の中心に居たのは赤毛の小さな女の子だった。

ルージュが火を迸らせていた。

兵士が剣を突き立てて来た瞬間、母のフェリノが庇い覆い被さった。
フェリノが刺された事に気がついた時に、ルージュの魔法は目覚めた。

扱い方を知らない大きな力。
それが火柱となり屋敷を燃やし尽くしたのだった。

彼女は直ぐに泣いているその子がヴァロラブリーデリの娘だと気がついて話しかけた。

「あなた、ヴァロの、ヴァロラブリーデリの子供かしら…。」

ルージュも初めて見るその女の人が、父と同じ顔をしている事に気がついた。
泣きながら頷くと、炎は消えてルージュは気を失った。

火柱に気がついた兵士達が駆けてくるのが見える。
ルージュが守る様に立っていた、女の人はもう生き絶えていた。
この子が息子の娘だというなら、恐らく妻で、自分の義娘だろう。
ほんの少し祈ってから、彼女はルージュを抱えて走り出した。

他の事はもう全てどうでも良い。

自分も死ぬわけには行かなくなった。
まさか、息子に子供がいるなんて。
まさか、自分に孫がいるなんて。

出来れば孫だけでも、叶うなら2人共を私が、守る。
その為に動き出した彼女は、ヴァロを隠した洞へ向かったが、そこにはもう誰も居なかった。

予想はしていたが、こんなに早く自分の魔法を抜け出すなんて。

親が子を見捨てる事などしない。
なるべく突き放そうとした自分ですらそうなのだ。
ならばヴァロは街へ向かったであろうことは予想出来る。
洞でヴァロの元に向かおうか、それとも確実に孫を守るべきか迷っていると、丘の方で莫大な魔力を感じた。

あぁ、ヴァロだ。
見た事ないほどの赤黒い魔力が暴れ狂い、丘が捲れ上がって行くのが見える。

悲しい光景。
妻を亡くした男の力は、世界を終わらせてしまいそうな程だ。

迷ったが、孫を守る事を優先する事にした。

ヴァロが正気か分からないし、あの魔法を制御できているのか分からない。

ヴァロに娘が生きている事を伝えぬまま、彼女はルージュと共に姿を消した。
戦場となる事が確定している王都へ向かう事も、もうやめた。

全てを捨ててでも背中でおぶられている孫を生かす事に決めた。

避難する民に紛れて小さな他国へ渡った2人は、そこから何年も2人で過ごして行く事となる。
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