リリアン

まつり

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黒の街 ヴァロラブリーデリ

ノラとルージュ

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「おばあちゃん?
お父さんのお母さんなのね。」

「そうよ。
離ればなれになっていたけれど、戦争が起こるって分かってヴァロを助けに行ったんだけどね、結婚していたなんて知らなかったの。

それで、その時偶然に貴女を見つけたの。

…覚えて、いるかしら、ごめんなさいね。
貴女を見つけた時には、もう…。」

ルージュはきちんと覚えていたし、理解していたので、この女性が自分を守ってくれた事も、母の死も理解していた。

そして、父が起こした丘の崩壊も、祖母の背中で見ていた。

「お母さんは、お父さんについて行く事にしたみたい。
あの時、お家が浮き上がって行くのが見えた時にそう感じたの。
だからいつか、また会えると思う。」

ルージュもやはり魔女だった。

この世界に2人残った正統な魔女。
この大切な孫に魔法を教える事を決めた。

彼女を守る為に。
いつか父と再会させてあげる力とする為に。

「おばあちゃんの名前はなんて言うの?
わたしはルージュっていうの。」

「私は、ノラ・ヴァロラブリーデリ。
じゃあ、貴女はルージュ・ヴァロラブリーデリね。」

「え?
お父さんの名前がヴァロラブリーデリじゃないの?」

「え?
あの子は、ヴァロ・ヴァロラブリーデリって言うのよ。

実はね、ヴァロって男の子って意味らしくって、本当はラブリーデリが家名だったんだって。
だけど、うちは何故かヴァロラブリーデリって言うのよ。
可笑しいでしょう。」

「変なのー。」

そういえば、村であの子の名前を呼ぶ者などいなかったな、と思った。

まぁ、もうどうでも良い事だ。
どうせあの子の名前を知る者も、ここにいる2人だけになってしまったのだから。

いつか、ルージュがそんな可笑しな話を教えてあげられるといい。



2人での生活を始めて1年ほど経った時、侵略していた方の国の異変が風の噂で伝わって来た。

雨が降り続けているらしい。

ノラは戦慄した。

「信じられないわ。
いくら魔法使いになったからってそんな大規模な魔法が使えるなんて有り得ない。

あの子、本当にすっごい才能があったのね。
男の魔女は魔法の才能が無いなんて聞いていたのに。

こんな事ならキチンと教えてあげればよかった。」

ルージュは魔法の練習中だったので、不思議に思った。
それがどの程度なのか分からなかったのだ。

「うーん。
どのくらい凄いのかって比べるのは難しいけど、一日だけ雨を降らせるだけだって、私とかルージュみたいな普通の魔女が5人くらい必要よ。

それを1年も続けるなんてどう考えても普通じゃ無いわよね。」

それを聞くと確かにそう感じる。

「私にもそのくらい才能があれば、お父さんも教えてくれたのかな。」

ルージュが口をとんがらせて呟くと、ノラは笑い、あの子は別に自分が魔女なのを分かって無いと思う、と話した。

雨が止んだと伝わって来たのはそれから5年ほど経ってからだった。
それを聞いたノラは、魔女が本当に自分たち一家の3人だけになったんだろうと思った。



19歳になったルージュは、旅に出る事にした。

魔法を修めたのもある。

ルージュはいつか、父に会いたいと前より強く思っていた。
当時は子供でよく分かっていなかったが、何故か最近街で父の絵を見る事があった。

母が作る赤い絵の具で、赤い絵ばっかり描いていたのを覚えている。
私は羊を描いた絵が好きだった。
よく見る光景が絵になり、赤くないところを赤く描いていて、ヘンテコな、力をもらえる様な絵だった。

ところが最近の作品だというこの絵は黒を基調に重くるしく、悲しい怒りをたたえる辛い絵だった。

それを見て決心した。
話そう。
父と、私で今までの全部を。

その話を祖母にすると、喜んで賛成してくれた。
ノラの賛成で旅立つ決心をした事もある。

若く見えるが、もう70近い祖母を1人で置いて行くのは迷ったが、父をここに連れて来るのも一つの目的にしよう。
2人の生活を始めて、本当に可愛がって貰ったと思う。

一度だけ、18歳のお祝いに一緒にお酒を呑む機会があり、祖母が父を村から出した際の事を聞いた。

後悔はしていないが、内心はかなり悲しんでいたのだと感じた。

「私の全てで突き放そうと思ったんだけど、やっぱり親は子供の事になると弱いもんでね。

一つとして繋がりを残さない予定だったんだけど、筆を作って渡しちゃったのよ。

…まぁ、それがギリギリ縁を繋いでくれて、ルージュを保護出来たんだから、今となればそれで良かったんだろうけどね。

もし普通の生活をしているなら、この筆が呪いになっていないかって不安だったのさ。

それこそ夢に見るほどね。

絵描きの夢に押しつぶされるあの子の姿が何度浮かんだ事か。
それでも絵描きとしてやっていけたんだ。
アンタの母親には大感謝さ。

多分その娘のお陰だ。
あの様子じゃ、絵を描く時に魔法が暴走していたはずなんだ。

今も、こんな絵になっちゃってるみたいだけど、描き続けてる。
多分、悲しい絵だとしても…良い事だと思うよ。

絵描きじゃなかったら、ただ単に世界を呪う化け物になっていたかもしれないから。

強大な魔力でね。」

ノラは魔女らしい、イタズラっぽい笑顔を見せた。
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