リリアン

まつり

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梨の王

ホールドウィン

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ホールドウィンは王族の分家の子孫で裕福な産まれであった。

成績は良く品行方正と評されており、将来は政治家としての道を期待されていたが、医師となり各国の貧しい地域を巡っていた。

王政で育ったホールドウィンは他国の政治体制を知る機会はこれが初めてで、長が敬われるような、体系の近い国もあったが、民主主義で運営されている地域もあり、それに感銘を受けた。

しかし現状に不満もなかったし、現王は有能で民を大切に思っており、ホールドウィン自身とも仲が良く、別の政治体制があるのだなと、知識として覚えた程度であった。

帰国した後は他国を巡った際に出来た関係を使って貿易会社を興して、その経営も上手くいっており、王家の分家という名家の実家に見劣りしない人物になっていた。

ホールドウィンの大きな転機は2度あり1度目は結婚をしたことだ。

出会いは貴族特有の家の思惑が絡むお見合いのような形だったが、気も合う善良な女性でボランティアや訪問活動を好んでいた。
そんな彼女は女性には珍しく、同じく貧困地域を巡っていたホールドウィンとは度々政治の話をすることもあった。

過去の活動を通じて彼女は自分の生まれが貴族な事を悪いことの様に受け取っていて、裕福な生まれを呪っているような節があった。

何もしていない自分の幸福と、何もしていない不幸なものを比べての罪悪感の芽生えは、なかなか家族には理解されていなかった。

解消の目処が立たない悩みを抱える彼女は、ホールドウィンという理解者を得て知見を語る機会を増やしていった。

いつしか平等を理想とし、皆が貧しくもなく裕福ではない状態を幸福と定め、活動を始める。

ホールドウィン自身は、妻とは厳密にいえば思想の方向性は違った。

それでも当時としては珍しく、勤勉だが血筋の悪い者を自身の会社で採用したり、女性であろうと優秀であれば取り立てていたりと、貴族社会では嫌われるような行動を当たり前にしており、王政とは思想が違う運営を行なっていた。

妻の理想は上から下まで均等化される事だが、経営者であるホールドウィンはそれをあくまでも理想だとし、有能な少人数でその他を使い運営していく方が良いとしていて、ある意味とても経営者的な思想でもあった。

2人のこの思想の違いは最後まで解消することは無かったが、妻と共に地域を巡り、医療などで手を貸して周るホールドウィンの民衆人気は高かった。

このまま血筋と民衆の人気で政治家になる道もあったが、そうはならなかった。

あまりにも人気がありすぎるために、国の運営内に抜擢した場合、国王らのやり方に異を唱えるに足る力を持っていた。

民の代弁者として振る舞えてしまうのは、良い面と悪い面、両方があるのだ。
それで宰相や王に近しい人達からの反対の声が多かった。

他国の戦争や様々な要因が重なり、税が少し重くなまた時に、などで民衆の不満が高まる時期がきた。

不満を表すデモが起きた時は、図らずも旗印となる事になり、王と貴族派とホールドウィンと民衆派での政治闘争が始まっていく。

ホールドウィン自身は後に

「国王とは幼少期より仲が良かった。自分も政治に興味は無かったので不満などあろうはずもない。

彼らが民衆の言葉を真摯に受け止めて、説明を果たしていたならば、なんの争いも起きなかったと思う」

そう懐古した。



「あのさー、リリアンさー。
なんで上から下まで均等化したらダメなの?
良いじゃん平等ってさ、誰か不幸になるわけ?」

リリアンは机からペンを一握り持つと、アプリードの前に並べた。
ペンは軸の色も筆先も様々で、数少ないリリアンの趣味のコレクションだ。

「良いですか?
これを人間だとしますよ。

黄色ペンくんは、太い字を書くのに適しています。
やや短くて、カリグラフィーなんかを描きやすいんですね。
力もよく伝わり、やや太めでグリップもあるからです。

それで、こっちの青軸ちゃんは長く細めなので、字をよく見て書けます。
手元と字が重ならないんですよ。
素材もしなりが全く無く、細すぎて力が入れにくいですが、細かい字を書くにはちょうど良いです。

他も特徴が色々ありますね。

羽ペンさんは、美しいですが自然物なので安定せず脆いし、こっちの深緑軸は万能ですが何の面白みもない。

あと、使い倒されてすり減って軸先がヘロヘロなので、入るペン先と入らないペン先があります。

ペンだけでもこんなに使い分けが必要なんですよ。

男女差がない物ですら適性があるのに、人なんて余計に能力差が大きいに決まっていますよね。

公平って力仕事も頭脳労働もあるのに、どう分けるんですか?」

「えー。
クジとか?

ははっ、無茶だよな。
…訓練適正で分けるんじゃないかな。

力が強いとか、数字に強いとかがわかればいいだろ?」

「さっきも言った通り、この緑軸のペンはもう消耗してヘロヘロなんですが後継者が居ません。

適格者が居ないのですよ。

困っているんですが、ペンなので出会いの運命に身を任せていますよ。

でも、国の運営ではそうも言ってられませんね。
そしてね、今まで酷使してきましたが特別何かこの子に対価があった訳ではないです。

ペンなのでね。

貴方は命懸けの仕事とそうではない仕事の給金を画一化しますか?

適正があるからって放り込んでおいてね。
それは無茶でしょう。

外界の情報を断ち脳に思想を刷り込ませられれば不満も生まれにくいかもしれませんが、自分で気づくヤツも必ずいます。

そいつはどうします?
殺しますか?」

アプリードは考えた。
今の話は、ペンで見立てて説明されたのはわかるが、どこか釈然としない。

「おい、俺は全員って言ったんだよ。
お前が使っているんだから、王様が存在するじゃねぇか。」

今度、リリアンは紙を持ってきた。

「これが国だとしますね。

さぁ、ペン達よ、好きに描いていいですよ。」

当然1人でに動き出す事はなく、紙は白紙のままだ。
100年待ってもそのままであろうことは想像出来る。

しかし人は自律して動くのだ。
リリアンの言う通りにはならない。

「こいつらが勝手に描き始めるかもしれねぇじゃねぇか。」

「そうですね。
いつかはなるかもしれませんが、周りには他に自身以外の指針で動く国が沢山あります。

まごまごしてまとまらない間に、この国は隣の国の一部になってますよ。
誰が命令もなく、何もしなくても貰える均一なお金で、国を命懸けで守るんですか?」

「よっしゃ、分かった。
20歳から25歳まで、兵役に就かせる。
防衛はそいつらの仕事だ。
国には家族がいるし、親父やお袋もそうして来たんだ。
文句を言う筋合いはないし、家族を守る為に戦うはずだ。」

「でも、貴方自身、そういうところから逃げて来たんでしょう?」
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