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梨の王
ホールドウィン ②
しおりを挟むホールドウィンは数人の有能で、政治を回すべきと考え、妻は民衆の力で政治を回すべきと考えた。
2人の話は並行だったが、激昂したりなどする事はなく、幾度となく討論をしていた。
それも夫婦のコミュニケーションの一つだったのだ。
ある日、妻が言った
「民衆に貴方の言う有能を選ばせられれば、お互いの話は擦り合うんじゃないかしら。」
「なるほど、民衆に長を決めさせるのだな。
しかし、大きな声が正しいとは限らないだろう。
善人の顔をした悪魔もいる。
有能な親から、有能な子が生まれるとは限らないし、人は他人に平等にはなれないだろう?
俺はお前が誰よりも大切だし、我が子は他より多少無能でも、やっぱり目は曇ってしまうだろうな。」
しかし少し可能性があるような気はした。
これは頭の隅に置いてホールドウィンの思考は煮詰まっていく。
2人が気がつく事はない。
2人は既に、大多数の者から見た場合、選ぶ側にいると認知されていることを。
思考に傲慢さがあり上に立つのが当然だと思っている事を。
国は不満が高まった民衆に配慮し、議会を広く開くように政治転換をした。
民衆人気の高いホールドウィンは、その中の民衆側の議員として選ばれて前に立つ事となった。
今までは、必要かどうかよりも身分が高いものが望むように動いていたので、ロビー活動で全てが完了しているも同然なので、議会自体はあっという間に終わっていたのだ。
しかし民衆派が入ることにより、誰が言ったかでは無く、国に必要かが重視されて話合う為に、遅滞を招いた。
そんな停滞した国に、ある時自然災害が起こった。
大雨から続く一連の災害で多くの人命が失われた。
ホールドウィンはボランティアや難民地区への知識を活かして、迅速に動き始めた。
必要なものと必要なことへの理解は誰より深く、正しかった。
しかし、彼を邪魔するものがいる。
議会を遅滞されたのをよく思っていない議員の中には、一方的にホールドウィンの責任と思い込むものがおり、ここぞとばかりに本当に必要かの確認を無理に議論に挙げて、それに大幅な時間を取られた。
議会は時間が掛かっても構わない。
直ぐに命に関わることがないし、修正には更に時間が掛かるので、慎重になるに越したことはない。
なので話し合い、精査して、最善を追求して然るべきだ。
だが今はこうしてまごついている間にどんどんと人命が失われている。
大正解でなくてもいい。
なるべく早く判断をして動くべきなのに。
そう強く言うホールドウィンだったが、ただ彼が人気があり、議会の中心にいる事をよく思わないという感情のみでそれを邪魔する者もいる。
そんな中、もう1人素早く動いた者がいた。
彼の妻だ。
ホールドウィン夫人は議員ではない。
ある意味身柄なので、早く動き現地に物資を届けて回った。
国の助けが来るまでの繋ぎとして、少しでも救命になれば良いと動いた。
夫が必ず動く。
それまでの繋ぎでいい。
彼はいま政治の真ん中にいて、素早くは動けない。
だから、彼女が動いた。
夫人の考えは正しく、彼女が居なければ被害は万単位で増えていたことだろう。
被害の大きな場所の各地を周り、物資を届けて次の場所へ向かう。
しかし、国はまだ動いていない。
意味のない議論で忙殺されて結論が出ていない為に行動に移せないのだ。
夫人は後になるほど治安の悪化を体感していた。
補助のない状態で生き延びれるとは限らないので、他人から奪ってでも生き残ろうとするものが出てくるのは当然だった。
夫は何をしているのか。
知識も経験もあるはずなのに。
彼女は今際にそう日記に書いていた。
暴動に巻き込まれ亡くなった後、届けられたそれを読み、ホールドウィンは泣き崩れた。
間違っていた。
やはり、無能は民を殺す。
善良な者から死んでいく。
彼女も間違っていたのだろう。
しかし、善良ではあった。
私が立たねば。
私が守らねば。
彼の二つ目の転機はこうして訪れた。
ここから彼の政治活動は変化していく。
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