リリアン

まつり

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梨の王

歴史に残らぬ空白期間 その3 ②

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前回のイレギュラーな訪問から丁度10日後に予定が合い、ギルバートの元へ尋ねる事になった。

前回買ったお菓子はピアードとギルと3人で試食した結果、こんな小さくて味もひたすら甘いものは自分では買わないが、女性には人気がありそうだという頭の悪い結論だった。
酒飲みの自分達が喜ぶものを買っても仕方がないなで、同じ物をもう一度購入してから向かう予定だ。

しかし、絶対男は食べないであろう酒とも食事とも合わない本当に甘くカラフルなだけの物なのだが、大丈夫だろうか。

もし、正解だったのであれば、あのウェイトレスへも同じ物をあげようかと思う。
自分では頭に浮かびすらしなかったし、3人で食べて、何か感想を言おうと思うが何も浮かばず終始無言だった。

約束の時間は丁度昼食時なので、果たして昼食を食べてから行ったらいいのか分からない。

一食抜いたくらいではどうって事ないので食べないで行く事にするが、きっとギルバートやシェリルには言わなくても分かる貴族の不文律なんかもあるのだろう。

知識が不足している。

リリアンも頭には入っているのかもしれないが、別に貴族じゃない。
知っているのと実践できるのは天と地の差があるが、それを本人に言うと少し不満そうだったのを思い出す。

お菓子を買う際、前回は大分待たされたので早めに出たが今回はすんなり買えてしまったので、屋敷に早く着きすぎてしまった。

どうしようかと思ったが既に門の前では家宰の爺さんが待っており、貴族とはそういうものかと思ったがどうやら違うようで、もう直ぐシェリルがお稽古事から帰って来るらしく、それの迎えとの事だった。

「…私がお出迎えしたら、驚くと思います?」

なんの気なしにいたずらの提案をすると大笑いし、手をパンパンと2回叩くとメイドがやって来た。
すぐに俺は使用人室へ通されて、急いで執事服に着替えていると、ギルバートがやって来てドアの枠にもたれながらニヤニヤしていた。

「アプリードリヒも面白い事を思いつくもんじゃないか。
良い音楽家はお茶目なもんだ。

あぁ、挨拶はいいよ。
それよりもシェリルが驚く顔の方が大切だ。

あれから度々君の話しが娘から出てね。
あの演奏は素晴らしい思い出になっているようだ。

…ふふ。
しかし、どうしようかな。
陰から見るのも楽しそうだが、近くで見たい気持ちもあるね。

…おっと、そろそろ帰って来る頃かな?

私は…そうだな。
とりあえず隠れるとするかな。」

門のところへ戻ると家宰が手招きしている。
本当にもう直ぐ帰って来るのだろう。

「馬車から降りる際のエスコートもお願い致しますね。
普段は私の仕事なのですが、驚かせるならとことんやりましょう。

…旦那様はまたあんな所に。

子供に返るのですよ、たまにね。
私もあちらに居ましょうかね。

お任せする事にしましょう。
ふふふ。
楽しみですな。」

全く、陽気な家だ。

爺さんとギルバートが建物の陰に入った所で、坂の下からガタガタと馬車がやって来た。

濃い赤色に金の模様、この家の色だ。

なるべく顔を見せないように俯き気味で待つ。
まず御者の使用人と目があったが、前回踊ってくれた男の人だった。

俺だと気がついたようで目だけで辺りを見回し、陰にいる大きなイタズラ小僧達に気がついたようで、苦笑いをしていた。

門を開けて、馬車を誘導しながら小さな声で、
「誰の案ですか。」
と言って来たので、
「ぼそっと言ってしまったらあれよあれよと。」
と返すと、唇を噛んで笑いを堪えていた。

馬車が止まったのでドアを開けて、静かに待つ。
中でゴソゴソ準備をして、立ち上がった気配がしたので、ドアの陰から手だけを伸ばしてエスコートをする。

シェリルはそっと手を取り、ゆっくりと降りて来た。

お稽古後で疲れているのかこちらに気が付かず、2、3歩歩いたところでおそらくいつものように、
「いつもご苦労様」
と言おうとしたのだと思う。

しかし実際発せられたのは、
「いつ…」
迄で、俺に気がついたらしいシェリルは、髪やスカートや袖を順番にパタパタと触って、ようやく一言、

「お父様の仕業ですか。」

と言った。



「いやぁ、悪かったよ。
でも楽しかったなぁ。
ヴァージェもイタズラ好きなんだよ。
真面目な家宰姿からは想像できないだろう?

たまに油断していると、執務室の椅子の敷物がハート柄になっていたりするんだよ。」

着替えたあとにダイニングへ行くと、むくれたシェリルはまだこのイタズラの発案者がギルバートだと思っているらしく、ギルバートもギルバートで積極的に否定はしていない様だ。

「すいません、お嬢様。
私がぼそっと言ったばっかりに。

なので発案者は私、共犯はヴァージェさんで、団長は賑やかしですよ。」

「あら。
それでも止める立場はお父様ですから。
もう!
今度仕返ししますから!」

…これはこの家のコミュニケーションなのだろうな。

あぁそうだ。
お土産を渡さなくては。

「そうだ。

この間泊めて頂いたお礼にお土産を持って来たのですよ。

えー、まず、団長へはこちらですね。
謎の古酒です。」

「なんだいそれは。
興味をそそるね。

…確かに古そうだ。
何年ものだい?」

「160年らしいです。
弟にはからかわれていると言われましたが、友人に貰ったもので、あの、ほら、遭難してた時に助けて頂いたリリアンというのですが、その人から貰ったのですよ。

冗談かもしれないし、本当かもしれない。
でも古そうだし、面白いかなって。」

「…160年…。
本当なら凄いな…。

私も弟さんの意見に一票入れようか。
…もし開けてみて、本当に私が飲んだ事がない程の年代物なら、君の望みを一つ叶えよう。

ちなみに80年ものまでは飲んだ事があるね。
まぁ、古ければ古い程美味いというのは幻想らしいが…楽しいよな、こういうのは。

ありがとう。
後で本当に開けちゃうよ?
良いかい?」

「もちろんです。
正直私も、眉唾だとは思っているのですが…楽しいですよね、こういうの。

さて、もう一つはシェリル様に、こちらはお菓子ですね。

気にいると良いのですが。」

「あら…。

…。

こちらは、その、リリアンさんからお聞きになって選ばれたのですか?」

…なぜリリアン…?

「いえ、私が、聞いて回って選びました…。
お気に召しませんでしたか…?
申し訳ない。」

「いえ!
いえいえ!

とんでもないです!

でも…あの…。
いえ、嬉しいです。
好きなのですよ、これ。

お稽古の帰りとかに食べると元気が出ます。

ありがとうございます。」

…ハズして気を遣わせたかな…。
まぁ、仕方ない。
今の知識で精一杯気を遣った結果だ。

「さ、まずは昼食にしようか。
シェリルも着替えておいで。」

ギルバートがそう促すとシェリルは一時退室した。
お菓子は持っていってくれた様だが、腑に落ちない。

「…あのお菓子はね、若い女性に人気って物でね。
あんまり男は買わないんだ。
しかも名前も売れ始めたばかりで、知る人ぞ知るってやつさ。

逆に言うと、君がその知る人から聞いたって事だろう?

あんなに情熱的なデュエットをしておいて、君も隅に置けないね。」

…は?
なにを言っているのだろうか。
なぜ急にギルバートまでも不機嫌になるのか。

「リリアンさんから教わったのかい?」

ん?
なるほど。
確かにリリアンは国によっては女性らしい名前に聞こえる。

「失礼。

リリアンはね、男ですよ。
ハゲた男です。

お菓子も色々リサーチした結果に、レストランのウェイトレスのおすすめを採用しただけですよ。」

「あ!そうかい。
それは失礼したね。
…ヴージェ、もしかして、今、僕は少し、やってしまったかな。」

「ええ旦那様。
もし我が家で同じ事をしたなら、私は娘から何年口を聞いて貰えないことやら。」
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