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終章
プラントリー伝説1
しおりを挟む蒼白の肌に、磨いた金剛石のような白銀の睫毛と眉が輝いていた。焦げ茶髪の僕は、笑顔を向けられなくとも『魅了』されそうだ。
だが、気を失っている『サイナス・プラントリー』の美しい寝顔は、口を開けばたちまち台無しになる。言動がその容姿を帳消しにしてしまうのだ。
傷を負った直後に僕が魔石の水で患部を洗っておいたので、重い感染症は防げるだろう。
宮廷医によれば、イコリスとフラリスの血液が適合したらしく、命に別状はないとのことだ。刀傷は浅いと分かっていたが、出血が多く少し心配だった。・・とりあえず一安心だ。
輸血の準備を進めるイコリスとフラリスだけでなく、トゥランやチェリンもサイナスの傍を離れようとしない。
ファウストと最善の処置を命じた国王も、治療の行方を見守っていた。
(あれだけのことをしでかしたのに、王族から礼を尽くされるのか・・。)
それにしても『俺は王族を、愚弄する』と言い放ったのは痛快だった。サイナスは常識が欠落しているというより、価値観が逸脱していて、僕を飽きさせない。
王侯貴族達に悟られぬよう静かに医務室を出ると、廊下の角から国王の従者が手招きした。彼は王城に勤めている同胞だ。
「サイナス様は無事だ。これで蜂起は阻止できる。次の早馬を出して良いぞ。」
「・・カインに早馬を任せるかもしれない。次の早馬の使者が―」
「?!」
通用門へ急ぎ向かうと、大木の枝から男が飛び降り、駆け寄って来た。早馬の使者は、僕の報告を待ちきれず城内に侵入していたらしい。
「・・国王は改心し、イコリス様は退学を取り消されるでしょう。しかしながら、魅了を用いたサイナス様の正鵠を射た断罪返しに、親衛隊団長が刃を向けました。負傷した御子息は失血により眠ってますが、王家の采配により適切な治療を受け、致命傷には至りませんでした。・・早馬は僕が代わりましょうか?王城には密偵が複数勤めておりますので、御子息の容体を確認できますよ。」
かつて優秀な密偵として我々の間に名を轟かせていたサイナスの父は、美しい顔を引き締め深い影を落とした。サイナスの面差しは、プラントリーの母よりも、平民の父によく似ていた。
「・・・・。サイナスは一見放蕩だが、聡い子だ。田舎にいるはずの私に気付くことがあれば、よけいな心労をかけてしまう。早馬は私が乗るよ。それよりも、ナザフォリスが激高してはやまらないように、伝達内容を精査しよう・・。」
我々はプラントリーに仕える間諜でありながら、反乱を抑えるために報告の内容や時機を調整していた。
ナザフォリスは一族への思いが強く情が厚いが、飄逸ながら過激な一面もある。ナザフォリスの従妹であるサイナスの母も、夫とは激しいやり取りが多いそうだ。
サイナス曰く、両親は『喧嘩っぷる』らしいが・・『ぷる』の意味が不明だ。
毎年忘年会を開いている宿泊施設の大宴会場に、プラントリー一族が集結していた。
大人たちは、飛転の間で強制される甲冑を着て、『ファウストの進級を祝う納会』の経過報告を待っていた。式典用に誂えた軽量の甲冑だが、防護服代わりくらいにはなる。
そして、プラントリーの使用人は一般人に扮し、宿泊施設から王城までの道のりに点在していた。一触即発の危機的状況が続いている・・。サイナスの父の言う通り、報告は慎重を要するのだ。
王妃が出席した『自然循環式完全自給養護施設の落成式』にも、我々の同胞は潜んでいた。養護施設の完成披露には、ブリストン一族の頭首と幹部連中が勢ぞろいしていて、アッシュの祖父は目を白黒させたようだ。
落成式の終盤、侍女から何かを耳打ちされた王妃は、ハンカチで目頭を押さえたという・・。ブリストン一族と王妃は、ファウストとジェイサムが断罪に備えて講じた策を事前に知らされ、準備していたのだ。
**
サイナスの予後は順調で、宰相邸で養生を続けていた。自室には毎日のように誰かが見舞いへ訪れた。フラリスに連れられてガルディと共に見舞うと、僕だけ残るようサイナスに言付けられた・・。
「・・僕は、サイナス様が引き籠っている間、隠れて艶本を提供していたよしみで、サイナス様の断罪返しに協力したことになっているんです。僕だけ引き止めたら、養生生活にまた艶本を要求していると思われますよ。」
二人きりになると、笑いを堪えながら聴取でついた嘘を打ち明けた。
「なんだよ、その理由!?皆、それを信じたのか・・。だからさっきイコリスが冷たい目で俺を見たのか・・。」
「ハハっ・・ゴホン。えー、僕に聞きたいことでも?」
「フェリクスは釈放されたんだろう?それにしては、昨日来たシャンス先輩が暗いというか・・何か思い悩んでいるようだった。カインは原因を知っているか?」
(・・察しがいいな・・。)
アッシュとお見舞いに訪れた『シャンス・グランドル』は恐縮するだろうが、サイナスに心配させるような態度は取らないはずだった。
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