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終章
プラントリー伝説2
しおりを挟む「・・シャンス先輩は、進路に悩んでるようですよ。」
普段とぼけているサイナスだが、シャンスの苦悩を察知していた。
「それだけか?俺とイコリスが混凝土研究室に入り浸ったから・・ファウストに情報提供を強要されたりしてしないか?」
「・・王太子からの密告の打診は、シャンス先輩は断りました・・。 今は、父親の職を継がずに、プラントリーに仕えようか迷っているとのことです。 宰相邸を訪れ、そこで働く使用人達を直に見て、思うところがあったのでしょうね。」
「そうかー、断ったんだー・・って、どうしてすぐ答えられるんだよっ。カインはファウストとプラントリーの二重間諜じゃないだろうなっ?!」
「へまをして、そういう役回りになった同胞は確かにいます。でも僕は、王太子に使われませんよ。・・『納会』でファウスト様とジェイサム様が講じた策は、我々平民の間諜に一切情報が下りてこなかった。王妃の生家のブリストンや宰相には、事前に共有されていましたけどね・・。ファウスト様はあらゆる可能性を視野に入れ、何手も先を読んでいる。末恐ろしいですよ・・。」
ファウストはまだ十代なのに、同胞の諜報活動を掴むと、その者を脅して自らの密偵に勧誘するなど、独自の情報網を拡大していた。
納会では王族の権威が失墜しかねない策に、追放した政敵の末裔達をファウストが関わらせなかったのだ。我々が主権の簒奪を願っていなくとも、つけ入られる隙を与えぬよう徹底していた・・。
僕が、艶本を提供していた繋がりでサイナスに協力したという虚偽の供述も、ファウストに目溢しされているだけだ。
(・・僕の嘘を額面どおりに信じているのは、純真なイコリス様ぐらいだろう・・。)
でも、おもしろいので、サイナスに伝えるつもりはない。
「ファウストはまだ若いのに、怒った顔が恐ろしくて、かなり迫力があるよな・・。」
(恐ろしいのはそこじゃない・・。いや、サイナス様はわざと斜に構えているのか?)
「シャンス先輩が今さら進路に悩むのは、俺が傷を負ったせいか?プラントリーに仕えるために、フラーグ学院へ入学したわけじゃなかっただろう?」
フラーグ学院の職人クラスで学ぶシャンスは、水車大工の後継ぎだ。
「イコリス様が断罪される『納会』の開催に合わせ、いつもの宿泊施設に『春の大笑い花見まつり』を装って、プラントリーが集結していたわけだけど・・。大宴会場の舞台に桜の木を設置した従業員の中に、シャンス先輩がいました。長期休みのたびに、あの宿泊施設でシャンス先輩は臨時従業員として働いていたんだ。」
「・・プラントリーの宴席に、従業員は入れない。決起寸前だった一族を、シャンス先輩は目撃してないよね?」
「厳戒態勢だったので、もちろんです。・・『納会』の参加者にも箝口令が敷かれ、事の次第は伏せられています・・。しかし、納会と同日に初開催された『花見まつり』の異様さに、シャンス先輩は気を揉んでいた。結局、プラントリーに恩があるにもかかわらず、何も出来なかったことを後に知―」
「待て。シャンス先輩のプラントリーへの恩って、カインは聞いているのか?」
「はい。声変わりをして歌手になる夢を諦め、フラーグ学院へ進学することにした頃、シャンス先輩はプラントリーの忘年会を覗き見て、感動したそうです。それから毎年、忘年会を覗いているようですよ。」
「ええ!?忘年会、覗いてるの??魅了されて、プラントリーを盲信してしまったんじゃ・・。」
「それはありません。三代前のグランドル家に、プラントリーとサウザンドの駆け落ち夫婦の娘が嫁いだので、シャンス先輩には一般の平民よりも魅了に耐性があります。念のため客席の笑顔は見ないようにして、舞台で披露される芸に集中したら、大丈夫だったと言ってました。」
「プラントリーとサウザンドの・・駆け落ちは、初めて聞いたな・・。」
シャンスの鶯茶の髪色は、緑髪のサウザンドの名残である。
「入学前のイコリス様が、忘年会で披露した『プラントリー替え歌』には、シャンス先輩は涙が止まらなかったようです。」
「え?あの替え歌が??・・へー・・ふーん・・。」
どうしてか、サイナスは不満げな表情だ。
「夢に挫折して自分を見失い投げやりになっていたが、一族の不幸を笑いに昇華して、たくましく前向きに生きるプラントリーの人々に、励まされ救われたそうですよ。」
「・・・・。」
「シャンス先輩は最も辛い時期に、プラントリーに救われ恩を感じていた・・なのに、イコリス様の窮地に何も出来なかったことが悔しくて、プラントリーに仕える選択肢を考え始めたみたいです。」
「あれ?俺の負傷は??・・まあいいや・・。血筋だけなら、シャンス先輩はプラントリーの使用人に最適だろうが―」
サイナスがイコリスを庇って斬られたことに、シャンスはとても胸を痛めていた・・。だけど僕は、サイナスに周囲を気遣い自分自身を押し殺して欲しくなかったのだ。
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