笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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終章

プラントリー伝説3

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「瞳を閉じて聞いてよ♪僕は君と違うから♪銀髪のプラントリーは♪夏は頭皮が赤くなる♪黒い袋を被ればー♪アカンベーしがちなのさ♪」
「ははっ。・・シャンス先輩、その歌、誰かに聞かれたら不敬罪になりますよ・・。あははっ。」
 放課後の混凝土研究室で、シャンスが実験記録を取りつつプラントリー替え歌を透き通った声で歌っていた。

「カイン?びっくりした!窓から入ってくるなよー。」
「最近、身体がなまっていたので、訓練を兼ねて窓から入らせてもらいました。今日は一人みたいですね。」
「研究室には僕しかいないって分かってて、窓から入っただろう・・。情報収集か?アッシュは催眠が解けて、思い出したりしてないよ。」


 『納会』に参加した同級生たちは、自白を促した魅了の余波が周囲に及んだため、ファウストの指示により、一連の記憶をサイナスが催眠で消去したと説明を受けていた。
 サイナスの魅了によって『アイ・レットエクセル』の自白を促した事実だけが残され、同級生を操った断罪返しはなかったことにされているのだ。 
 さらにサイナスは、国王の前で許可なく魅了を使用したとして親衛隊に取り押さえられ、その際に負傷したとされた。 
 しかしシャンスは、アッシュすら覚えていない納会の全容を、僕から直接聞いて把握している。


 箝口令が敷かれていたが、アッシュはシャンスに『納会』の内容を漏らした。だがシャンスはそれを鵜呑みにせず、僕を呼び出して問いただした・・。『春の大笑い花見まつり』にこっそり出入りしていた僕の父を、シャンスが見つけてしまったからだ。
 僕とシャンスは同じ学区で育ったため、行商人である父の顔を知られていた。シャンスは、宴会場へ何度も忍び込む男が僕の父だとすぐに気づいたのだ。

 呼び出された僕は、プラントリーへの思いをシャンスから告げられ、自らの正体を明かし、真相を語るしかなかった。


「僕は王太子のように、シャンス先輩に情報提供を求めたりはしませんよ。」 
「カインが情報を集めるのはプラントリーのためだ。協力は惜しまないよ。ただ面白がるだけなら話は別だが・・カインはそうじゃないだろう。」

 シャンスの前では、サイナスと『偽乳』をめぐって言い争ったこともある。
 僕がサイナスの異端な視点を引き出し面白がっていたと、正体を明かして露見したわけだが・・シャンスは根底にある僕の忠誠を見抜いていた。
 「・・いやあ、参ったな。」

「僕はカインのように器用に立ち回ることはできない。間諜や密偵なんて僕には無理だ。だがプラントリーの役に立つなら、僕が知る情報はカインに渡すよ。」 
「・・情報収集のために来たわけじゃありません。サイナス様からシャンス先輩への伝言を預かってきたんです。」 
「サイナス様の・・?」


 サイナスがシャンスに望んだ進路は、プラントリーの使用人でも、水車大工の後を継ぐことでもなかった。

 「サイナス様は、シャンス先輩に『歌手』になってほしいと思っています。声変わりして、自分では納得できない歌声かもしれないけれど、親睦会で聞いたシャンス先輩の『舟歌』は本当に素晴らしかった。多くの人にその素晴らしい歌を、届けてほしいとのことです。」 
「だけど僕は、プラントリー一族に・・。」

 「プラントリーへの恩は、かつてのシャンス先輩のように、思い悩み辛い日々を過ごしている人々を、歌で救うことで返せばいい・・。シャンス先輩の歌には、荒んだ心を慰め、癒やし、励ます力があるから、とサイナス様は話していました。親睦会ではイコリス様も、歌手を諦めるなんてもったいないと仰ってましたよ。僕もそう思います。」

「グズっ・・。僕の歌で・・誰かを救えるだろうか・・グズっ。」 
「それはシャンス先輩次第です。サイナス様は信じているようですが。」
 「!!・・グズっ。」

 シャンスの涙がなかなか止まらなかったので、僕は温かい蜂蜜茶を淹れてあげた。



 屋根から垂らした綱で窓を叩き、合図を送った後に綱づたいに降り、開いた窓から侵入する。
 月明かりしかない闇の中では足元が心許なかったが、これはサイナスの指示だった。

「カイン、ご苦労様。ちょうどお湯が沸いたところだ。紅茶でいいか? イコリスが焼いたクッキーもあるぞ。」 
「はい、いただきます。・・あの、深夜にこっそり侵入したのがバレたら、イコリス様にますます悪印象を与えませんか?」 

「くっ・・。バ、バレなければいいだろうが。」
 幼い頃の結婚の約束を思い出し、サイナスはイコリスに格好をつけたいのかと思っていた・・が、そうでもなさそうだった。 「俺に呆れ、結婚を嫌がられるのは歓迎する。だが、エロ以外の理由で愛想を尽かされたい」と、サイナスは、理解に苦しむ意向を示していた。


「カイン。あのメイドは、何歳だった?」 
「へっ?? あー・・ナザフォリス様が手配したメイドは・・二十八歳でした。」
 しょうもない依頼だったので後回しにしていた調査を、いきなり訊ねられてしまった。僕は紅茶を飲みながら、適当に答えた。

「ぎりぎり二十代だったか・・。」
  不織布のマスクで表情は見えないが、サイナスの呟きには安堵の色がにじんでいた。

 深夜に危険を冒してやって来たのに、話し始めた途端『童貞好きメイド』の年齢を確認され、僕は脱力感に襲われた。
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