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笑24
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自室に戻った俺は、上着を雑に洋服掛けへ投げた。テーブルに軽食が用意されていたが、靴と靴下を脱ぎ捨て長椅子に横たわる。
(・・・・疲れた・・・・本当に疲れた。)
怒涛の展開で、空腹も感じない。
額に置いた手の甲をずらすと、白銀の前髪がサラサラと横に流れた。フラーグ学院の校門を出た時から、うねっていた銀髪は直毛へ戻っている。
まだマスクを着けている事に気付いた俺は、外しながらファウストとの会話を振り返った。
イコリスが桃色髪の女の子の件に触れると、ファウストは一瞬返事に窮した。
先んじてトゥランから、桃色の髪をした平民の入学を聞き及んでいる事を俺が伝えると、ファウストは話し出した。
「髪が桃色の者は過去、存在しなかった。なので出生時から、リヴェールの戸籍総括機関も把握していたんだが・・・。」
「魔力があるんだって?魅了と無効化以外は全部使えるとか。」
「・・・そうだ。五大貴族の魔力を全て発現した。だが、魔力量はほんの少しで、小さな魔石一つを満たす程度だ。」
「魔力があるって聞いたから、今日会えると思ったのに・・・。」
イコリスは同じ歳の女の子と仲良くなれるかもしれないと、期待していたようだ。
「母子家庭で、花屋を営んでいると聞いているが、父親は?全て調べたんだろ?」
今日、フラーグ学院へ来ていなかったという事は、貴族の血縁は確認出来なかったのではないか。どうせ調べ上げている筈なので俺は訊ねた。
「父親とは死別だ。両親とも貴族との血縁は親族に見あたらなかった・・・母親の髪が赤茶色だけど、平民によくある髪の色だ。魔力を持つ祖先も全くいない・・・。」
「桃色は茶色より赤の系統だよね。ケーナインとの不義や密通の線も調査したり・・・。」
「ちょっと、サイナス。迂闊なこと言わないで。もしそうだとしても、五大貴族の魔力が使える理由にはならないでしょ。」
「イコリスの言う通り、貴族間での婚姻でも五大貴族全ての血縁を祖に持つ者はまだ確認出来ていない。出現するなら未来だな。」
「じゃあ、突然変異ってこと?歴史ある貴族専用の娼館が実はあったりしない?」
「ちょっとちょっとー。サイナスの願望でしょ。それは。貴族専用の娼館があれば行きたいってっ。」
「残念ながら、昔も今も貴族専用の娼館は無いよ。」
娼館へ行くのは最終手段だと思っているまだ16歳の俺は、自分の名誉の為に説明した。
「前例の無い桃色髪を持つ者へ強制力が執行されるか不明な限り、不安要素は払拭出来ない。不貞であれ売春の末であれ、貴族との血縁が確認出来たならば、策も講じられるというものだ。」
「すごく早口ね。」俺の懸命な説明に、イコリスは引いていた。
「少なくとも母親の不貞ではない。面差しは父親似で、榛色の瞳も父親譲りだ。娼館は東の果てに平民が利用している老舗が数件あるけど、・・・両親とも西の山の麓出身だった。」
「じゃあ桃色髪の女の子は、平民の新入生達と同様に入学式に初登校するのね。」
「貴族との血縁は無いから、そうなるよ。」
俺は伸びをした後上体を起こし、長椅子に座りなおしてこれからの事を企てる。
(年に一度の実親に会う里帰りは今年は止めておいて、その代わりアルティーバ叔父さんのところに、副会長職の助言が欲しいとの名目で会いに行こう。いや、叔父さんはイコリスを気にかけてるから、イコリスの学生生活を相談したいって言うか。・・・イコリスも叔父さんに会いたいって言ったら嫌だな。まだ娼館に行く訳じゃないから、構わないか・・・けど、やっぱり嫌だな。どうにかしてイコリスを撒けないかな。まだ娼館は使わないけれど。)
俺は東の果てへ左遷された義理の叔父、アルティーバへ会いに行き、娼館のある街の下見をしたかった。
学院で良い出会いに恵まれなければ、利用するかもしれない娼館の雰囲気や傾向を知る為に考えを巡らしていると、扉を叩く音がした。
「お風呂の用意が出来ました。」
使用人が扉越しに、頼んでいた入浴準備の終了を報告する。
夕食までは3時間以上ある。ゆっくり湯船につかって、要否不明の娼館の現地調査を画策することにした。
・・・俺は本当に疲れていたのだ。
(・・・・疲れた・・・・本当に疲れた。)
怒涛の展開で、空腹も感じない。
額に置いた手の甲をずらすと、白銀の前髪がサラサラと横に流れた。フラーグ学院の校門を出た時から、うねっていた銀髪は直毛へ戻っている。
まだマスクを着けている事に気付いた俺は、外しながらファウストとの会話を振り返った。
イコリスが桃色髪の女の子の件に触れると、ファウストは一瞬返事に窮した。
先んじてトゥランから、桃色の髪をした平民の入学を聞き及んでいる事を俺が伝えると、ファウストは話し出した。
「髪が桃色の者は過去、存在しなかった。なので出生時から、リヴェールの戸籍総括機関も把握していたんだが・・・。」
「魔力があるんだって?魅了と無効化以外は全部使えるとか。」
「・・・そうだ。五大貴族の魔力を全て発現した。だが、魔力量はほんの少しで、小さな魔石一つを満たす程度だ。」
「魔力があるって聞いたから、今日会えると思ったのに・・・。」
イコリスは同じ歳の女の子と仲良くなれるかもしれないと、期待していたようだ。
「母子家庭で、花屋を営んでいると聞いているが、父親は?全て調べたんだろ?」
今日、フラーグ学院へ来ていなかったという事は、貴族の血縁は確認出来なかったのではないか。どうせ調べ上げている筈なので俺は訊ねた。
「父親とは死別だ。両親とも貴族との血縁は親族に見あたらなかった・・・母親の髪が赤茶色だけど、平民によくある髪の色だ。魔力を持つ祖先も全くいない・・・。」
「桃色は茶色より赤の系統だよね。ケーナインとの不義や密通の線も調査したり・・・。」
「ちょっと、サイナス。迂闊なこと言わないで。もしそうだとしても、五大貴族の魔力が使える理由にはならないでしょ。」
「イコリスの言う通り、貴族間での婚姻でも五大貴族全ての血縁を祖に持つ者はまだ確認出来ていない。出現するなら未来だな。」
「じゃあ、突然変異ってこと?歴史ある貴族専用の娼館が実はあったりしない?」
「ちょっとちょっとー。サイナスの願望でしょ。それは。貴族専用の娼館があれば行きたいってっ。」
「残念ながら、昔も今も貴族専用の娼館は無いよ。」
娼館へ行くのは最終手段だと思っているまだ16歳の俺は、自分の名誉の為に説明した。
「前例の無い桃色髪を持つ者へ強制力が執行されるか不明な限り、不安要素は払拭出来ない。不貞であれ売春の末であれ、貴族との血縁が確認出来たならば、策も講じられるというものだ。」
「すごく早口ね。」俺の懸命な説明に、イコリスは引いていた。
「少なくとも母親の不貞ではない。面差しは父親似で、榛色の瞳も父親譲りだ。娼館は東の果てに平民が利用している老舗が数件あるけど、・・・両親とも西の山の麓出身だった。」
「じゃあ桃色髪の女の子は、平民の新入生達と同様に入学式に初登校するのね。」
「貴族との血縁は無いから、そうなるよ。」
俺は伸びをした後上体を起こし、長椅子に座りなおしてこれからの事を企てる。
(年に一度の実親に会う里帰りは今年は止めておいて、その代わりアルティーバ叔父さんのところに、副会長職の助言が欲しいとの名目で会いに行こう。いや、叔父さんはイコリスを気にかけてるから、イコリスの学生生活を相談したいって言うか。・・・イコリスも叔父さんに会いたいって言ったら嫌だな。まだ娼館に行く訳じゃないから、構わないか・・・けど、やっぱり嫌だな。どうにかしてイコリスを撒けないかな。まだ娼館は使わないけれど。)
俺は東の果てへ左遷された義理の叔父、アルティーバへ会いに行き、娼館のある街の下見をしたかった。
学院で良い出会いに恵まれなければ、利用するかもしれない娼館の雰囲気や傾向を知る為に考えを巡らしていると、扉を叩く音がした。
「お風呂の用意が出来ました。」
使用人が扉越しに、頼んでいた入浴準備の終了を報告する。
夕食までは3時間以上ある。ゆっくり湯船につかって、要否不明の娼館の現地調査を画策することにした。
・・・俺は本当に疲れていたのだ。
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