笑ってはいけない悪役令嬢

小川コタ

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門1

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 温もりを乗せた日差しに肌寒い風が混在し、真新しい制服を着た新入生を浮足立たせている。
 俺はフラーグ学院の絢爛な校門の前で、そんな若葉のざわめきを眺めていた。
 一族を象徴する色を持たない彼らの制服には、黒の二重線が誂えられており、皆、茶系統の髪色をしている。

 俺達が事前登校をした日から十日経ち、今日はフラーグ学院の入学式だ。
 俺とラビネは、初登校した平民の新入生達を誘導する係なので、校門の前で待機中である。イコリスも生徒会を手伝う補助要員として、俺の隣に居た。

「始めよう。一人ずつ案内してくれ。」
 ファウストの指揮に従い、校門前に集まった新入生を順次招き入れていく。
 今年の入学者数は、俺達を含め89名だ。いつもならおおよそ百名前後が入学しているので、例年に比べるとやや少ない。
 一人ずつ校門を通らせるのは、勿論、強制力の有無を確認する為だが・・・事前登校の帰路でのファウストの言葉どおり、今年の入学は特殊だった。
 
 フラーグ学院は、校門をくぐった新入生達の悲鳴で溢れていた。
 強制力の対象にならない者がいなかったからだ。
 平民が強制力を執行されるのは、通常なら1割程だが、今のところ百発百中である。現時点で60名、校門を通ったのだが、全員、強制力の対象となった。


 61番目の男子生徒が、怖々と校門へ入って行った。
 彼の頭部が光輝き、眩さに俺は目を細めた。
 光の粒が消え去ると同時に、頭をまさぐった彼は叫んだ。
「なんでだーーーーーーー。」
 61番目の男子生徒は、5人目の坊主になってしまった。
 よく見ると、おでこの生え際から頭頂部の髪は少し長い、角刈りだった。
 角刈りの坊主は既に一人いたが、髪の色が濃い焦げ茶だ。彼は薄茶色の角刈りである。
 トゥランの告げる書き換え率は、彼の耳には入ってなさそうだ。ファウストが手鏡を渡しながら、背中をポンポンと優しく叩いていた。
 ・・・既に4人も坊主がいたのだ。その内の一人は、彼と同じ角刈りである。
 まさか自分もそうなるとは思わないだろう、落胆が大きいのはしょうがない。
 手鏡を見て震える彼に、ジェネラスが声を掛け寄り添っている。校門を通った後の誘導係はジェネラスだったが、今では落ち込む平民達を慰めて励ます係になっていた。

 
 次は16歳らしからぬ、長い巻き毛で肉感的な女子生徒だ。
 キャルクレイやパッド4枚のイコリスよりは大きくない胸だが、全体的にぽっちゃりしているのにくびれが有って、男好きする体つきだ。
 もう、嫌な予感しかしない。
 彼女は青い顔で校門へ前進した。

 これまでいた豊満な女子生徒はことごとく普通の体形に変質し、例外はなかった。
 やはり彼女も、胸とお尻が校門をくぐる前より平らになってしまい、くびれも消えた。
 そしてそれだけでは終わらず、クルクルと巻いていた長い髪が、頭頂部で丸くひとつにまとめた髪型となった。
「せっかく、早起きして巻いたのにーーーー。どうしてーーーー。」

 今年は、王太子と五大貴族頭首の息子達が入学している。見初められるかもしれないと気合いを入れたのだろうが、普通体型のお団子頭になってしまった。
 今や16歳とは思えない、大人びた色気は無い。ファウストは気の毒そうにしながらも、しっかりと手鏡で自分の姿を確認させていた。


 校門へ案内するのは、登校した順だ。
 順番を待っている生徒達の(後の方が強制力の対象にならないのでは)という淡い期待は、裏切られ続けていた。

 フラーグ学院は3学年有るが、平民の強制力で変質した内容は、学年を通じ重複することは今迄なかった。
 例えば、強制力で坊主になった者は3学年合わせた全校生徒の中で、一人しか存在しなかったのだ。
 俺達は今、未曾有の状況に直面している。


 長い巻き毛がお団子頭になった女子生徒以降も、校門を通る新入生達は強制力が執行される光で覆われ続けた。
 お団子頭や地味顔になるのはましな方で、小太りになったり足が短くなる者もいる。

 また、稀だった語尾が変化した者が、複数出ていた。
 強制力が働き光ったのに、容姿に変化が見られない、もしくは変化した見た目より書き換え率が高い場合、言葉の語尾に強制力が執行されているかどうかをチェリンが確認する。用意した文章を読ませて、課された強制力を調べるのだ。

 
 俺は最後の男子生徒を、校門の前に導いた。彼は背が高く、顔も整っている美形だ。
 優れた容姿に自信があるのか、魅了に臆さずイコリスへ近づいて何度か話しかけてきたりしていたが、今はもう、先に校門を通り終えた者達の哀哭に怯え、萎縮してしまっていた。
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