笑ってはいけない悪役令嬢

小川コタ

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門2

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 校門へ入った、最後の男子生徒の肩まである灰茶色の髪は、光の粒で瞬く間に包まれた。体は光っていないので、体形は変わらなさそうだ。
 光が消え、彼の強制力が課され終えた姿を見たファウストは、悪役じみた顔でにやりと笑った。
 あからさまにイコリスへ粉をかけていた彼を、認識していたようだ。

 無作為に柔らかく降りていた前髪は不自然な程真っ直ぐに切り取られ、そして後頭部は刈り上げられた短髪に彼は変わっていた。幼い頃に、無理矢理母親が散髪して、失敗したみたいな髪型だった。
 悪い笑顔のファウストから渡された手鏡を見た彼は動揺した。
「・・・なんて変な髪型・・・ん?」

「書き換え率は28%だ。チェリンっ。」
 石板で書き換え率を確かめたトゥランは、直ぐさまチェリンを呼んだ。

「肩の力を抜いて、この文章を20秒以内で読むように・・・。」
 チェリンは文章が書かれた四つ切りの画用紙を、彼の前に翳して見せた。

「猫がこっちを見てこない。はっ?」
「止まらないで、続けて。」

「見てくると思いきや、見ない・・・。くっ。見そうだけど見ない・・・ハァハァ。猫がこっちを見ないう・・・。やっぱり猫がこっちをチラチラ見ない、全然見ない。あっ・・。ついに猫がこっちをやっと見た・・・いや、見てない。猫が目を閉じてる。その目が今開こうとして・・・開かない。グスっ。猫が寝た・・・グスッ。」
 強制力で変化した口調を出さずに回避しようと努めても、逃れることが難しい構成となっている文章を読んだ彼は、終盤泣いていた。

「~でござる。と、語尾につくようだな。」
 文末に足された語句を冷静に分析したチェリンは、横に居るフラリスに伝えた。
 フラリスは記録係で、事細かに変質した内容を名簿へ書き記していた。

「『なり』と『でやんす』は各二名、『ある』と『でござる』は初の事例で各一名だね。語尾への変質が6人も居たよ・・・。」
「何もかも異常だろ・・・。」
 フラリスの報告にチェリンは呆気にとられている。

 校門の前に、入学する生徒はもういない。
「アイ・レットエクセルがまだ来てない。」
 ラビネが校門の向こうで取り仕切るファウストへ、大きな声で告げた。
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