笑ってはいけない悪役令嬢

三川コタ

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わくわくwack×2フラーグ学院 箱庭 編

相9

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***


 姉の『裁刃さいはゆきひ』が感染症で救急搬送された日、私は林間学校に参加していた。

 私が中学生になって初めての宿泊学校行事が、林間学校だった。
 医療事務の資格を取って働き始めていた母は、仕事を休むのを渋って二泊三日の林間学校を欠席しろと何度も言ってきた。私が放課後は友達と遊ばず部活動にも入部しないで、姉の体調の良し悪しに関係なく帰宅し家事を頑張っていた事を知っていた祖母は憤慨した。
 林間学校は私の内申点もあるだろうと言って祖母は母を黙らせ、姉が一人になる時間帯は祖母と過ごす事になった。
 姑の来訪を嫌がる母親に隠れ、姉がこっそりと私の林間学校参加の必要性を祖母に知らせてくれたのだ。

 このいきさつを聞いていた私は、姉と祖母の後押しに応えようと、真面目に林間学校のプログラムに取り組んでいた。けれど、最終日までプログラムをやり切る事は出来なくなる・・・。

 林間学校二日目の夕食のカレーを、普段の家事で調理に手慣れていた私は手際良く作り、友人達にふるまった。その後、レクリエーションルームで談笑していると、教師から呼び出された。
「裁刃さーん。『裁刃かるら』さん。早急に荷物をまとめて。お姉さんが緊急入院されたので、先生と山を下りましょう。」
「え?姉はこれまでも、調子が悪いと入院していたんですが・・・緊急って・・・?。」
「そうですか・・・流行性感冒で良い状態と言えないと聞いています。おじい様との合流地点迄、先生が車で送るので準備を急いで。」
 教師は言葉を選んで私を急かしていたが、私はショックで動悸が激しくなり固まってしまった。話を聞いていた友人達が、私の荷物をまとめ教師の車に乗るまで励まし続けてくれて、私はなんとか体を動かせた。

 山のふもとに迎えに来た祖父は、車の運転が上手なのにタクシーを手配していた。動揺して事故を起こす危険の回避と、携帯電話で連絡を取る為だ。

「おじいちゃんっお姉ちゃんは?っ」
「救急車で病院へ運ばれた・・インフルエンザで熱が・・・。元々、体の状態が良くないから全身が・・・。」
 気丈夫な祖父が、涙を溢れさせそうになっている。

「・・いつから・・私が林間学校に行ったから・・?」
「それは関係ない。昨日の『ゆきひ』は調子が良い日だった。・・ばあちゃんが有機野菜のシチューを作ったら、完食したんだ。・・だが、惣菜を買って帰ってきた母親とばあちゃんが喧嘩になった。勝手に台所へ入るなと怒鳴られたらしい。」
「おばあちゃんはお姉ちゃんのために作ったのに・・・おばあちゃんが度々来ないように、怒鳴ったんだ・・・。」
 私が察した母の思惑に、祖父は触れなかった。

「昨日、ばあちゃんは午前から行って食事を作ったが・・・・今日はヘルパーとの交替時間に、行ったら・・・何故かヘルパーが来てなくて、ゆきひが一人で高熱にうなされていたんだ。」
「一人で・・・そんな・・・。」
 ヘルパーは、私が平日、学校へ行く時間帯に依頼していた。

 週末は父母が中心になって姉に付き添う事になっていた。・・とは言え、私は週末もほぼ、姉にべったりしていたが・・。
 母は週末に出かけたくなると、姉の調子が良い日のヘルパー訪問をキャンセルして、勝手に週末へ訪問日を替える時があった。そしてヘルパーが居るのだからと、私と父に言い放ち、母だけで長時間どこかへ行ってしまうのだ。

「よりにもよってインフルエンザに罹った時に、ヘルパーをキャンセルするなんて・・・。」
 怒りに震える私に、祖父が優しく話しかけた。
「じいちゃんは母親の携帯にもう一度かけてみるよ。かるらは父さんに電話してみて。」
「お母さん、連絡がつかないの?勤務先は?」
「勤め先の病院には、ゆきひを救急搬送した後・・4時過ぎにばあちゃんが連絡を入れたが・・定時通りに、もう帰っていると言われたらしい。」
「は?定時?」
 母親はいつも夜7時過ぎに帰って来ていた。9時を越え、父親より遅い時も時々あったのだ。
 林間学校を、仕事を休みたくないから欠席しろと言っていた事を思い出して、私は頭に血が昇って拳を握りしめた。

「母親はまだ電源を切っているな・・・父さんの携帯に電話をかけてくれないか。会社には連絡してあるが、・・・本人とはまだ連絡が取れていないんだ。」
 父は昨日から近県へ出張していた。以前は半年に一度位だったのだが、母に姉の世話をいやらしい目で見てしているんじゃないかと言われだしてから、金銭面で姉を援助する事にして、出張の頻度を増やしていた。
 林間学校では教師に預けていた私の携帯から、父へ掛けた電話は、コールするが出ることはなかった。焦って涙目になりながら何度も電話を掛けていると、タクシー運転手が話しかけてきた。

「僕の携帯でかけてみます?知らない番号だと、連絡してくるかも。」
 成り行きを見ていたタクシー運転手が、私に携帯電話を貸してくれた。
「会社の携帯だから、大丈夫。時々お客さんが使うこともあるんだよ。」

 運転手の言葉に少し落ち着いた私は、借りた携帯へ番号を間違えないように何度も確認して数字を入力したが、父は電話に出なかった。
 落胆してぼんやりしていると、運転手の携帯がブルブル振動した。携帯の画面は番号非通知と表示されている。
「お父さんっ??」
 半ば叫ぶようにして私が応答すると、携帯から聞こえた声は女性だった。

「私は裁刃さんの会社の者です。裁刃さんはまだ手が離せなくて・・どうかされましたか?」
「すぐに伝えてくださいっ。お姉ちゃんが・・お姉ちゃんが救急車で、あの、あの・・・病院に・・。」
 うまく言えない私に代わって、祖父が電話口の女性に、状況と搬送された病院を伝えた。この時の私は、しっかりと喋る事も正常な判断も難しかった。
 そんな私の様子を、タクシー運転手は複雑な表情で見ていた。
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