76 / 152
夏の宴 告白 編
宴2
しおりを挟む午前の授業が終了し昼休憩となり、生徒はぞろぞろと大広間へ向かい始めた。
俺達はイコリスが風邪だと思われているので、最後に教室を出ることにした。トゥランとフラリスも、席を立たない。
「サイナス、食事が終わる頃に個室へ行ってもいいアルか?」
「別にいいけど。今日は、前みたいに甘味は用意してないよ。」
「甘味が目当てみたいに言われるのは、心外アル。サイナスが入れたお茶で十分アル。」
「・・それじゃあ、お茶目当てじゃないか。」
俺とアッシュの会話を聞いたエルードが、勢いよく立ち上がった。
「あの、自分も・・。」
「エルード、大広間へ行くのが遅れると、軽食メニューしか残らないだろう。もう出た方が良い。」
エルードの言葉を遮ったファウストは、力強く彼の肩を掴んだ。
「・・お気遣いありがとうございます。自分はうどんが好物なので大丈夫です・・。サイナス様、自分もアッシュと一緒に、お邪魔してよろしいでしょうか。」
「・・ああ、構わないよ・・。」
(強引なファウストの牽制に、平民であっても抗うとは・・エルードは爽やかなだけではなく、度胸もあるのか・・。)
それに、イコリスが本当は風邪ではない事を知らないのは、この中だと彼だけだ。俺の中で、エルードの株が爆上がりした。
ファウストはふっと笑った後、イコリスに話しかけた。
「イコリス、今日は君達の個室で食事をしながら話をしたい。」
「え?アイさんは・・・。」
「ジェネラス達に任せる。3人居れば、アイは問題ないよ。」
俺が教室の前扉を見ると、ジェネラスとチェリンとラビネに囲まれたアイと目が合った。
アイはペコリと頭を下げると、ジェネラス達と教室を出て行った。
「今日は大所帯だな。」
「サイナス、僕、お茶入れるの手伝うよ。」
「フラリス様、お茶は・・慣れてないですけど、自分がサイナス様を手伝いますから。」
トゥランとフラリスも個室へ来るらしい。エルードはファウストが俺達と居ることになっても、一歩も引かない。
誰一人として王太子をものともしないからか、ファウストが僅かに顔を曇らせた。
「はぁ・・アッシュ、来る時は椅子を何脚か持ってきてくれ。」
「了解したア・・。」
「「キャーーーッッ」」
アッシュの俺への返事は、廊下からの悲鳴でかき消された。
ついさっき、アイが廊下へ出たばかりだ。ファウストが駆けて行き、フラリスが追随した。トゥランはエルードとアッシュにイコリスの傍を離れないように言ってから、様子を見に行った。
聞えてくる騒がしい声は、女性のざわめきに複数の奇声が混じっている。
俺が教室の扉から半身を出して騒ぎの元を窺うと、廊下では演出効果の葉っぱがひらひらと舞っていた。
演出効果に歩み寄ると、ファウストとトゥランが並び立つ間から、降ってきた葉っぱを頭に乗せた『フェリクス・ストライト』が顔を出した。困り果てた表情が、妙に艶めかしい。
「サイナス様っ。弟からイコリス様が登校したと聞いて・・・。」
フェリクスは複数の一年生女子が起こした演出効果を浴びていた。黄色い声を上げてフェリクスに近づこうとする女子達を、『シャンス・グランドル』とフラリスが宥めながら手で制していた。
「トゥラン、アイは?」
「ファウストが通り道を開けさせて、ジェネラス達と早々に離脱したよ。」
アイの無事を俺がトゥランに確認していると、フェリクスがファウストに頭を下げた。
「・・・ファウスト殿下、申し訳ありません。イコリス様がまだ教室に居るか訊ねようと、声を掛けたらこんな騒ぎに・・・。」
「君は・・弟のキースもだが、女生徒から熱狂的な好意を持たれるみたいだな。君に慣れていない1年生に声を掛ける時は、注意してくれ。」
「・・はい、気を付けます・・。」
女生徒達が王太子に謝るフェリクスの姿を目にすると、降っていた葉っぱは収まり始めた。
「落ち着いてきたな。速やかに大広間へ移動して、食事を採りなさい。高揚しただろうから、ちゃんと休息を取って午後の授業に備えるように。」
フェリクスに夢中になっていた女生徒達は、両者の間へ割り入って助言するファウストに、うっとりしながら頷いていた。
俺達が大広間へ入室すると、全校生徒の注目を集めた。
ファウストがいつもいる顔ぶれとは異なる生徒会役員を帯同し、更に容姿の優れた平民を引き連れていたからだ。
母親に大切に育てられ世間知らずなところもあるフラリスだが、先程の騒動では状況に応じた行動を即時に判断し取っていた。実は結構、頼りになるし、眼帯と前髪で見え辛いが顔立ちも綺麗なのだ・・。
ファウストの後ろに、フラリスと冷静で聡明なトゥランが黙って歩いていると・・橙と紫、金色の髪の高水準な美形が揃い、とても絵になる・・。
そんなファウスト達に続くイコリスの背後に、顔がそれなりに良いサラサラしたおかっぱ髪のアッシュが、背が高くて格好良いエルードとフェリクスを両隣に従えていた。坊主のエルードは、整った顔に側頭部の交差した線が粗野な魅力を醸しだし、いつも女生徒の熱い視線を集めているのだ。
・・この美形集団の真ん中で、イコリスの横にいる俺は肩身が狭かった・・。
当事者だったはずの一緒に入室したシャンス先輩は、いつの間にか外野の生徒と同化して、ファウスト率いる大名行列を眩しそうに見ていた。
0
あなたにおすすめの小説
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる