1 / 1
とある少女の自殺の話
しおりを挟む
賽子を振った。
そしたら1が出た。
だから、死ぬことにした。
別に死にたいわけでもない。だからと言って生きたい訳でもない。
なんとなく。ただ、なんとなく。真っ赤に染まった一つの魂が出たら死のう。
そんな軽い賭けだった。
そうして本当に純白に紅一点と言うのは違うかもしれないけれど、紅の一点が描かれた1が出たのだ。
その為、私は本当に死ぬ事にした。
とは言っても、死に方なんて知らない。首を吊ったら死ぬとか、毒を飲めば死ぬとか、なんとなく人並みに、世間並みに知っているくらいだ。
スマホでとりあえず調べてみる。
『自殺 方法』
なんて打ったら「あなたの悩みを聞かせて下さい」とか「自殺の前に相談を」とか安っぽくて最も信用できない言葉がずらっと並んでいた。
死ぬ事よりもよっぽどこちらの方が憂鬱である。
そんなことを言っているとほら。
自殺方法とか調べないで命大切だよ。とか。
神は自殺をすることは赦さないのです。私たちの神は信じれば永遠に楽園に連れて行って下さるのです。とかヤバイ宗教まで。
自殺の方法について調べているのに、目的の記事が全く見当たらない。
軽く絶望してみる。
人生悟りました。私には希望がありません。自分には幸も不幸もありません。
ありふれた言葉で気取ってみても自分が空っぽだと痛いほど自覚するだけだった。
なるほど、だからあれほど太宰治という作家は愛されるのか。
仕方がないので適当に縄を見繕う。
いつ使ったのか、引き出しの奥から何メートルも巻かれている塊を見つけた。
去年、高校の廃品回収に使った紐かしら。いくら学校行事とは言えども、新聞紙は重いし、纏める紐は短いし痛いから今年はサボりたい。とか来るはずもない未来のことを考えながら輪っかを作って縛る。
首吊り自殺。
定番だがこれしか思い浮かばない。
すっと、食卓に並べられたお肉でも食べるように、ネックレスを掛けて、ブランコを楽しむ。
思ったよりも痛くなかった。
でも、首が一斉にストライキを始めたのが嫌になるほど解った。
掃除機の様に首の細胞がネックレスに吸われていった。
脳は空気を寄越せと暴れまわっては、膨張する。このままいくと脳髄という芋虫が、頭蓋骨という甲冑を突き破るかも知れない。
視界は雷の様に、目が焼ける程明るくなったり、闇夜かと思われるほど暗くなったりした。
痛くない。悲しくも辛くもない。ただ苦しかった。
次第に手足は一人でにダンスをはじめ、私という肉体の支配者の言うことは聞かなくなった。
視界は急に狭まり、首飾りに吸われる細胞も底を尽きた。
嗚呼。なんて思う間もなく私の意識はこの世から分離した。
めをさます。
あたりをみまわす。
いきている。
いきている? わたしが?
こきゅうをしていることをかくにんする。
しんぞうはこんなことがあってもふみんふきゅうだった。
てをみる。ぐー。ぱー。うごく。
つねってみる。いたい。
いきている。
私は生きている。
改めて状況を観察する。
横に倒れていたであろう私と、床に叩き付けられた首輪と天井を結んでいた結び目。
失敗。
嗚呼、そうか、失敗したのか。
ようやく理解した。
ほかにどうすれば死ぬのか。
急に、入水と云う二文字が浮かんだ。
先ほど太宰かぶれをしたときの事を思い出した。
拝啓、太宰治さま。
恥の多い人生を送ってきました。
自分は賽子の1が出たので死のうと思います。
途中までそんなことを考えてはみたが流石にやめた。
いくら私でもそれでは恥を知ることになる。
でもこのくらいは許されるだろうと、全力で悲劇のヒロインぶって、本棚に在った『人間失格』を手に取り河川に向かった。
川は「こんないい天気と言うのは絶好の自殺日和だねぇ」と言っている様に思えた。
それほど朗らかで、てらてらとしていて、さらさらとしている。
水はひんやりとしているが、心地の悪いものではなかった。
流れの最も早い、したがって一番深いところまで私は水をかき分け向かった。
勿論手には『人間失格』を握りしめて。
彼は水を飲み身体からゆっくりと言葉が流れ出していた。
それでも彼の顔は普段と変わらず穏やかなものだった。
私は力強く握りしめながら、ゆっくりと死に逝く彼に目を奪われていた。
そして私は足を滑らせ川の流れに押し流された。
あんなにてらてらと天使のように朗らかだった水は、悪魔の様に私の意志に反して戯れてくる。
美しかった手も中の彼も今や数ページと汚れた表紙しか残っていない。
水は私を魚か何かと勘違いしているのか容赦なく触れ合いを求める。
咳が止まらない。水中でも咳が出る。水を吸い込む。苦しい。怖い。
ふと彼を握る手から力が逃げる。
ふやけた本だったものは何処かへ逝ってしまった。
冷たい水の中、私一人。
暗い水では、濁った水では聖なる陽光すら届きません。
外からはあんなにも清らかな聖水も、中から見れば冒涜にすら値しないものね。
川の流れに身を任せて目を閉じて。安らかに『死』を受け入れる。
今日ママが作るハンバーグ食べたかったなぁ。なんて思いながら。
目が覚める。
やっぱり生きている。
どこかの川岸に投げ捨てられた様だ。
石のベッドの品質のせいか身体のあちこちが痛い。
服は流石、お天道様と言ったところか。
匂いは残れどほとんど乾いている。
ポケットのスマホは行方不明ではないらしい。
電源ボタン。押した後に応答せよ。もしもしスマホさん、聞こえますかー。
レスキュー隊の声は聞こえないらしい。これではただのスマホに似た置物だ。
小銭はまだ生きている。
良かった。何とか家には帰れそうだ。
河川敷を歩くと心地が良かった。
昔誰かが『生きているときは死にたくなって。いざ死ぬときは生きていたくなる。人間ってね、この上なく身勝手な生き物なのよ』と言っていたのを何故だか思い出す。
死を目の前にした私なら言葉の本当の意味が解るのかなぁ。
終わりのない河川敷をひたすら歩く。歩いて、人休みしてまた歩く。
駅が見えた。
駅に入るとそこが隣町の駅であることが分かった。
田舎の一駅とは非常に距離が長い。そんなところまで私は水に襲われていたのか。
安くはないお金で切符を買う。
時間通りにきた電車に乗って、ひたすら揺られる。
今日私は自殺未遂と言う人生史に残る大事件を犯したのに、町は、世間は相変わらず平穏に、時に殺伐としながら生活を送る。
私の町の駅で降りて、駅直結の本屋で『人間失格』を買う。
家に帰ったら用水路に落ちたとでも言っておこう。きっと怒られて呆れられると思うけど。
今度は1が出たらショートケーキでも買ってやろう。
そんなことを思いながらいつもの、酷く見慣れた帰路についた。
そしたら1が出た。
だから、死ぬことにした。
別に死にたいわけでもない。だからと言って生きたい訳でもない。
なんとなく。ただ、なんとなく。真っ赤に染まった一つの魂が出たら死のう。
そんな軽い賭けだった。
そうして本当に純白に紅一点と言うのは違うかもしれないけれど、紅の一点が描かれた1が出たのだ。
その為、私は本当に死ぬ事にした。
とは言っても、死に方なんて知らない。首を吊ったら死ぬとか、毒を飲めば死ぬとか、なんとなく人並みに、世間並みに知っているくらいだ。
スマホでとりあえず調べてみる。
『自殺 方法』
なんて打ったら「あなたの悩みを聞かせて下さい」とか「自殺の前に相談を」とか安っぽくて最も信用できない言葉がずらっと並んでいた。
死ぬ事よりもよっぽどこちらの方が憂鬱である。
そんなことを言っているとほら。
自殺方法とか調べないで命大切だよ。とか。
神は自殺をすることは赦さないのです。私たちの神は信じれば永遠に楽園に連れて行って下さるのです。とかヤバイ宗教まで。
自殺の方法について調べているのに、目的の記事が全く見当たらない。
軽く絶望してみる。
人生悟りました。私には希望がありません。自分には幸も不幸もありません。
ありふれた言葉で気取ってみても自分が空っぽだと痛いほど自覚するだけだった。
なるほど、だからあれほど太宰治という作家は愛されるのか。
仕方がないので適当に縄を見繕う。
いつ使ったのか、引き出しの奥から何メートルも巻かれている塊を見つけた。
去年、高校の廃品回収に使った紐かしら。いくら学校行事とは言えども、新聞紙は重いし、纏める紐は短いし痛いから今年はサボりたい。とか来るはずもない未来のことを考えながら輪っかを作って縛る。
首吊り自殺。
定番だがこれしか思い浮かばない。
すっと、食卓に並べられたお肉でも食べるように、ネックレスを掛けて、ブランコを楽しむ。
思ったよりも痛くなかった。
でも、首が一斉にストライキを始めたのが嫌になるほど解った。
掃除機の様に首の細胞がネックレスに吸われていった。
脳は空気を寄越せと暴れまわっては、膨張する。このままいくと脳髄という芋虫が、頭蓋骨という甲冑を突き破るかも知れない。
視界は雷の様に、目が焼ける程明るくなったり、闇夜かと思われるほど暗くなったりした。
痛くない。悲しくも辛くもない。ただ苦しかった。
次第に手足は一人でにダンスをはじめ、私という肉体の支配者の言うことは聞かなくなった。
視界は急に狭まり、首飾りに吸われる細胞も底を尽きた。
嗚呼。なんて思う間もなく私の意識はこの世から分離した。
めをさます。
あたりをみまわす。
いきている。
いきている? わたしが?
こきゅうをしていることをかくにんする。
しんぞうはこんなことがあってもふみんふきゅうだった。
てをみる。ぐー。ぱー。うごく。
つねってみる。いたい。
いきている。
私は生きている。
改めて状況を観察する。
横に倒れていたであろう私と、床に叩き付けられた首輪と天井を結んでいた結び目。
失敗。
嗚呼、そうか、失敗したのか。
ようやく理解した。
ほかにどうすれば死ぬのか。
急に、入水と云う二文字が浮かんだ。
先ほど太宰かぶれをしたときの事を思い出した。
拝啓、太宰治さま。
恥の多い人生を送ってきました。
自分は賽子の1が出たので死のうと思います。
途中までそんなことを考えてはみたが流石にやめた。
いくら私でもそれでは恥を知ることになる。
でもこのくらいは許されるだろうと、全力で悲劇のヒロインぶって、本棚に在った『人間失格』を手に取り河川に向かった。
川は「こんないい天気と言うのは絶好の自殺日和だねぇ」と言っている様に思えた。
それほど朗らかで、てらてらとしていて、さらさらとしている。
水はひんやりとしているが、心地の悪いものではなかった。
流れの最も早い、したがって一番深いところまで私は水をかき分け向かった。
勿論手には『人間失格』を握りしめて。
彼は水を飲み身体からゆっくりと言葉が流れ出していた。
それでも彼の顔は普段と変わらず穏やかなものだった。
私は力強く握りしめながら、ゆっくりと死に逝く彼に目を奪われていた。
そして私は足を滑らせ川の流れに押し流された。
あんなにてらてらと天使のように朗らかだった水は、悪魔の様に私の意志に反して戯れてくる。
美しかった手も中の彼も今や数ページと汚れた表紙しか残っていない。
水は私を魚か何かと勘違いしているのか容赦なく触れ合いを求める。
咳が止まらない。水中でも咳が出る。水を吸い込む。苦しい。怖い。
ふと彼を握る手から力が逃げる。
ふやけた本だったものは何処かへ逝ってしまった。
冷たい水の中、私一人。
暗い水では、濁った水では聖なる陽光すら届きません。
外からはあんなにも清らかな聖水も、中から見れば冒涜にすら値しないものね。
川の流れに身を任せて目を閉じて。安らかに『死』を受け入れる。
今日ママが作るハンバーグ食べたかったなぁ。なんて思いながら。
目が覚める。
やっぱり生きている。
どこかの川岸に投げ捨てられた様だ。
石のベッドの品質のせいか身体のあちこちが痛い。
服は流石、お天道様と言ったところか。
匂いは残れどほとんど乾いている。
ポケットのスマホは行方不明ではないらしい。
電源ボタン。押した後に応答せよ。もしもしスマホさん、聞こえますかー。
レスキュー隊の声は聞こえないらしい。これではただのスマホに似た置物だ。
小銭はまだ生きている。
良かった。何とか家には帰れそうだ。
河川敷を歩くと心地が良かった。
昔誰かが『生きているときは死にたくなって。いざ死ぬときは生きていたくなる。人間ってね、この上なく身勝手な生き物なのよ』と言っていたのを何故だか思い出す。
死を目の前にした私なら言葉の本当の意味が解るのかなぁ。
終わりのない河川敷をひたすら歩く。歩いて、人休みしてまた歩く。
駅が見えた。
駅に入るとそこが隣町の駅であることが分かった。
田舎の一駅とは非常に距離が長い。そんなところまで私は水に襲われていたのか。
安くはないお金で切符を買う。
時間通りにきた電車に乗って、ひたすら揺られる。
今日私は自殺未遂と言う人生史に残る大事件を犯したのに、町は、世間は相変わらず平穏に、時に殺伐としながら生活を送る。
私の町の駅で降りて、駅直結の本屋で『人間失格』を買う。
家に帰ったら用水路に落ちたとでも言っておこう。きっと怒られて呆れられると思うけど。
今度は1が出たらショートケーキでも買ってやろう。
そんなことを思いながらいつもの、酷く見慣れた帰路についた。
1
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
【完結】ドレスと一緒にそちらの方も差し上げましょう♪
山葵
恋愛
今日も私の屋敷に来たと思えば、衣装室に籠もって「これは君には幼すぎるね。」「こっちは、君には地味だ。」と私のドレスを物色している婚約者。
「こんなものかな?じゃあこれらは僕が処分しておくから!それじゃあ僕は忙しいから失礼する。」
人の屋敷に来て婚約者の私とお茶を飲む事なくドレスを持ち帰る婚約者ってどうなの!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
表現の自由さに惹かれました。何かすごい良質なまだ聴いたこともないような音楽を聴いたようなそして日本刀のような危なっかしさを孕んだ文体。そして自殺志願者としての息苦しさ(首吊りによらず),美々しさ儚さ,そして最後は、、、自分が無機的でありながら無であると悟ったように感じました。