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財布落とした
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土曜日の午前9時半頃、それは——いや、その事件は9時開店の大型食料品店で買い物を終えた後に起きた。
「痛だあああぁーい‼︎」
ズサアアアーッ。私は転倒した。
民家の駐車場に置かれていた固定されたブロックの車止めに右足を持っていかれた。
この寒空だ。上着はダウンジャケットで完全防備。
手袋をしていない両手はもちろんジャケットのポケットの中に突っ込んでいた。
その両手を塞がれた状態——しかも、背中には食料を詰め込んだ重いリュックサックを背負っていた——で車止めに右足がつまずいたのだ。
回避は不可能な状況だ。
『前見て歩けよ』
『歩きスマホでもしてたのか?』
と思う読者もいるだろう。
だが、歩きスマホはしていなかった。両手はポケットの中に常にインしていた。
スマホは左ポケット、そして肝心の財布は右ポケットに入れていた。
現場は車二台が幅寄せしなければ通れないような住宅地の裏道だ。
そんな狭い道だ。後ろから車が来ないか警戒するのは当たり前の行動である。
その時(転倒直前)も後方20メートルの距離に車が見えたので、私は気を利かせて、車道から民家の駐車場に移動した。
そう、後ろを見ながら前に向かって歩いたのだ。
その高難度歩行の結果、予想外の出来事が起きてしまった。
本来ならば道にあるはずがない障害物が突如として出現したのだ。
高さ10センチ、横幅30センチ程度の低く過ぎる障害物だとしても、私にとっては完全に死角の外から現れた、明確な止めるという意思を持った強固なる凶器だ。
相手は車を止める為だけに作られた物体だ。人間程度の力で抵抗できるわけがない。
アインシュタインの万有引力の法則のごとく、私は前に向かって転倒を開始することになった。
だが、あえて言おう。
その瞬間、私の驚異的な反射神経と判断力が本領を発揮した。
まずはポケットから両手を素早く外に出した。
しかも、左手はスマホを掴んだ状態でだ。
右手は財布を掴んでいたか分からないが……。
このまま両手を地面について倒れれば、見事な受け身で無傷の転倒が成功する。
けれども、左手にはスマホが握られている。
二ヶ月前に最新機種16に替えたばかりのスマホだ。
これをクッションに使う金銭的な度胸は私にはない。
だから、私は手の平を上に向けて、水平にした両腕の前腕から地面に着地してやった。
トォン。
「痛ぁ……」
だ。右手の手の平を負傷したが、唾付けておけば治る程度の軽傷で済んだ。
これも私の驚異的な反射神経と判断力がなせる尋常ならざる神技というものだ。
決して無様に地面を痛みで転げ回るという醜態は晒していない。
クールに手に付いた土を叩き落とし、何事もなく立ち上がって歩き出した。
だが、ここで私は二つのミスを犯してしまった。
一つは20メートルほど後方に見えた車だが……これは駐車場に止まっていた車だった。
つまり動いてない車が、私には動いているように見えていたのだ。
まあ、これは……大多数の人が経験したことがある日常的な出来事だ。
二つ目のミスが実は重要である。
後方を確認しただけで、地面を念入りに確認していなかったのだ。
いち早くこの場から立ち去ろうという心理状態が、確認をおろそかにさせてしまった。
この時、冷静に確認していれば、地面の財布を華麗に拾って、ポケットに戻すことが出来ただろうに……。
では、私がいつ財布を落としたのに気づいたかだ。
それは10分後の自宅のマンションに到着した時だった。
ポケットから財布を取り出し、財布の中に入れている鍵を取り出そうとした時だ。
本来ポケットにあるはずものが、ポケットの中になかったのだ。
その瞬間、私はあの時だ!と財布のある場所を瞬時に悟ることに成功した。
背中のリュックサックを玄関扉のドアノブに預けると、そこから現場までの全力ダッシュを開始した。
「はぁはぁ! ハァハァ!」
財布の中には現金1万1千円が入っている。
銀行のキャッシュカードも入っている。
マイナンバーカードも入っている。
そして、一番重要な自宅の鍵も入っている。
「クソォおおおお‼︎」
約5分後。転倒してからの自宅までの移動時間も合わせると、約15分後。
現場に到着した私は【私の財布ネコババ事件】に遭遇することになった。
「ウラァッアアアツ‼︎ 誰が盗みやがっだアアアツ‼︎ 出て来いやあああ‼︎」
もちろん、こんな奇声を上げてブチ切れたりはしてない。
警察に来てほしい状況だとしても、加害者ではなく被害者の立場で対応してもらいたいからだ。
「やれやれ、仕方ないですなぁ」
だからこそ私は紳士的に二度目の全力ダッシュを開始した。
向かう場所はもちろん現場から一番近くの交番だ。
「ハァハァ! ハァハァ! す、すみません……」
約8分後、交番に到着した。
全力ダッシュではなく、全力競歩でなんとか到着した。
「財布を落としたんですけど、届いてませんか……」
冬なのに額からは汗が流れ落ちまくっている。
そんな必死な姿で24歳ぐらいの若い女性警察官に訊いた。
答えは「NO」だった。つまりは「ありません」だ。
「な、何だって⁉︎」
私はその答えに絶望した。ここは外国じゃなくて、日本だ。
他人が落とした財布を盗むような卑劣な日本人がいるはずがない。
私は日本人の「お・て・も・な・し」の心、素晴らしい精神を信じている。
まだ届いてないだけ……と信じることに、いや、信じたいと思う私の綺麗な気持ち(純粋な心)を信じることに決めた。
交番で遺失物届けを出すと、入れない家に引き返すことにした。
帰り道に財布が落ちてないか再び確認して、現場周辺にある防犯カメラもスマホで撮影した。
「絶対に犯人を捕まえてやる!」
水谷さんの【相棒シリーズ】をほぼ見ている私にとって、警察官並みの捜査を自力で行なうことは造作もないことだ。
周辺は比較的人通りの少ない住宅地の裏道だ。
犯人は日常的に使う近隣住民の可能性が高いと考えた。
現場近くには16階ぐらいの高級マンションが1棟、3階建てのアパートが3棟、民家が7軒ぐらいある。
犯人候補は200人ぐらいだろうか?
まあ、それはどうでもいい。
肝心で重要なのは防犯カメラだ。犯人の姿を想像するよりも、実際に見た方が早い。
まず自宅とは逆方向のコインパーキングの防犯カメラは、現場から20メートルほどの離れた場所にある。
犯人が私の財布を持って、その前をニヤニヤと通っていたのならギルティ(有罪)だ。
次に私の自宅方向で現場から5メートルほどにあるアパートの防犯カメラだ。
この近距離なら誰にも見られないように持ち逃げしようと考える前の、財布を持った油断した犯人の姿が捕らえられる可能性大だ。
そして、これがほぼ完璧なカメラだ。その名も【車載カメラ】だ。
私を転倒させた車止めも、転倒する私の姿もバッチリ撮影できる位置、現場から3メートルに停車していたカメラだ。
しかも、ある会社の駐車場に停めてある車が4台、カメラ4台だ。
もう犯人の姿が無修正で丸写りしているようなものだ。
だが……車載カメラは2つの録画方法があるらしい。
運転中だけ録画するものと、停車中も常に録画するものだ。
運転中だけ録画する設定にしていた場合、犯人の姿も私の姿も映っていない。
この場合はコインパーキングとアパートの防犯カメラに、財布持った犯人の姿が映っていると祈るしかない。
「落とした財布が帰ってくる可能性は……と」
家に帰った私だが、家の外で待機するしか出来ない。
だから、スマホで捜査を始めた。
その結果、財布が戻ってくる確率が60~70%もあると分かった。
これなら戻ってくるじゃないの?と期待してしまう数値だ。
だが、世の中そんなに甘くないと私は知っている。
事件発生から1時間半待っても、警察から連絡は来なかった。
時刻は午前11時だ。このまま期待して待つという手は愚策としか思えない。
このままだと家の外で野宿確定だ。しかも、食べ物もなく、トイレも出来ない。
さらに最悪なのは財布の中には住所が分かるマイナンバーカードと自宅の鍵だ。
犯人に隙を見せれば自宅の中まで荒らされる可能性大だ。
迂闊に家から離れることは出来ない。
ある人物が言っていた格言『最悪の状況を想定して動け』を実行する時だと判断した。
まずはマンションの管理会社に連絡。
合鍵で扉を開けてもらうのと、鍵の交換をお願いした。
鍵を交換しないと外出中に荒らされてしまうからだ。
私はもう二度と今日は油断しないと決めている。
けれども、管理会社は「合鍵は大家が持っている」と言ってきた。
大家に連絡すると「今は外出中で夕方までは無理」だと言ってきた。
……常人が何もせずに夕方まで待てると思っているのか?
もちろん不可能だ。スマホの充電は残り40%だ。
シーモアでコミックでも読んで楽しく時間を潰したりしたら、連絡不能状態になってしまう。
この状況で連絡、助けを呼べなくなるのは最悪だ。
だからこそ、大家と交渉することにした。
鍵はどうせ交換しなくてはいけない。というか絶対にすると決めている。
つまり合鍵で開ける必要はなく、壊して開けてもいいはずだ。
その巧みな交渉の結果、合鍵を待つ必要を省略することに成功した。
管理会社に再び連絡して、鍵開けと鍵交換をしてくれる業者の手配をお願いした。
それも了承されて、手配が出来たら再び連絡すると言われた。
これで一安心だ。あとは待つだけでいい。
………………3時間後。手配が出来たと管理会社から連絡がきた。
窓ガラス割って、家の中に入っても許されるレベルだと思うんですけど、どうでしょうか?
もちろん、そんな苦情は言わない。思ったとしても言わない。
そこからは業者の人との電話連絡になる。
なんと!「30分」で来てくれるそうだ。神様だとしか思えない早さだ。
しかも、到着後。扉の外側の覗き穴から器具を突っ込んで、パパッと鍵を開けてくれた。
3分もかかってない神技で、鍵交換も10分もかからなかった。
もう神様としか思えない。料金も【2万8千6百円】だ。
「安ぅ~~い♡ 社長、安ぅ~~い♪」と、どこぞの通販番組の女性並みに身悶えしても許されるレベルだ。
喜んで自宅に置いてあった預金通帳から、近所のATMで現金を引き落としてお渡しさせていただいた。
「はぁ~~、助かったぁ~~」
家の床に寝転んで一息ついた。時刻は午後3時を回っていた。
無一文の危機的状況から奇跡の大復活を遂げたような達成感だ。
ついでに財布落としてから6時間だ。交番に届けるつもりがあるなら、遅すぎる時間だ。
確実に犯人がネコババしていると判断していい時間だ。
私の財布はどうやら60~70%の良心的な人達には拾われなかったみたいだ。
今頃は私の金で寿司でも買って食べているのだろう。
だが、お前の罪は重いと言ってやろう。
落とし物を盗んだ場合、2つの罪があるらしい。
【遺失物等横領罪】と【窃盗罪】だ。罪が重いのは窃盗罪だ。
スマホで調べた中で分かりやすい説明があったので、この説明を使わせてもらう。
遺失物等横領罪とは路上などに捨てられている壊れた傘を盗むようなものだ。
捨てているのか、置いてあるのか、よく分からない物を盗むのがこれだ。
逆に窃盗罪は雨の日のコンビニなどの傘立てにある傘を持っていく行為だ。
明らかに人が使っていると、使うと分かっている物を持っていくのが窃盗罪だ。
ゴミかもしれないものと、使用中のものを持っていくのは確かに違うことだ。
そして、私の財布の中にはレシートが入っていた。
その日、事件発生日に食料品店で買い物をしたレシートだ。
数十分まで使っていたという、これからも使うという明確な証拠だ。
つまりは【窃盗罪】が適用される可能性があるということだ。
「犯人よ。お前の示談金で寿司を食う日が楽しみで、今夜も眠れそうにないぜ!」だ。
やられたら、やり返す。盗られたら、取り返すだ。土下座だけで済むなと思うなよ。
【完?】——【このまま泣き寝入りか、倍返し成功なるか】
「痛だあああぁーい‼︎」
ズサアアアーッ。私は転倒した。
民家の駐車場に置かれていた固定されたブロックの車止めに右足を持っていかれた。
この寒空だ。上着はダウンジャケットで完全防備。
手袋をしていない両手はもちろんジャケットのポケットの中に突っ込んでいた。
その両手を塞がれた状態——しかも、背中には食料を詰め込んだ重いリュックサックを背負っていた——で車止めに右足がつまずいたのだ。
回避は不可能な状況だ。
『前見て歩けよ』
『歩きスマホでもしてたのか?』
と思う読者もいるだろう。
だが、歩きスマホはしていなかった。両手はポケットの中に常にインしていた。
スマホは左ポケット、そして肝心の財布は右ポケットに入れていた。
現場は車二台が幅寄せしなければ通れないような住宅地の裏道だ。
そんな狭い道だ。後ろから車が来ないか警戒するのは当たり前の行動である。
その時(転倒直前)も後方20メートルの距離に車が見えたので、私は気を利かせて、車道から民家の駐車場に移動した。
そう、後ろを見ながら前に向かって歩いたのだ。
その高難度歩行の結果、予想外の出来事が起きてしまった。
本来ならば道にあるはずがない障害物が突如として出現したのだ。
高さ10センチ、横幅30センチ程度の低く過ぎる障害物だとしても、私にとっては完全に死角の外から現れた、明確な止めるという意思を持った強固なる凶器だ。
相手は車を止める為だけに作られた物体だ。人間程度の力で抵抗できるわけがない。
アインシュタインの万有引力の法則のごとく、私は前に向かって転倒を開始することになった。
だが、あえて言おう。
その瞬間、私の驚異的な反射神経と判断力が本領を発揮した。
まずはポケットから両手を素早く外に出した。
しかも、左手はスマホを掴んだ状態でだ。
右手は財布を掴んでいたか分からないが……。
このまま両手を地面について倒れれば、見事な受け身で無傷の転倒が成功する。
けれども、左手にはスマホが握られている。
二ヶ月前に最新機種16に替えたばかりのスマホだ。
これをクッションに使う金銭的な度胸は私にはない。
だから、私は手の平を上に向けて、水平にした両腕の前腕から地面に着地してやった。
トォン。
「痛ぁ……」
だ。右手の手の平を負傷したが、唾付けておけば治る程度の軽傷で済んだ。
これも私の驚異的な反射神経と判断力がなせる尋常ならざる神技というものだ。
決して無様に地面を痛みで転げ回るという醜態は晒していない。
クールに手に付いた土を叩き落とし、何事もなく立ち上がって歩き出した。
だが、ここで私は二つのミスを犯してしまった。
一つは20メートルほど後方に見えた車だが……これは駐車場に止まっていた車だった。
つまり動いてない車が、私には動いているように見えていたのだ。
まあ、これは……大多数の人が経験したことがある日常的な出来事だ。
二つ目のミスが実は重要である。
後方を確認しただけで、地面を念入りに確認していなかったのだ。
いち早くこの場から立ち去ろうという心理状態が、確認をおろそかにさせてしまった。
この時、冷静に確認していれば、地面の財布を華麗に拾って、ポケットに戻すことが出来ただろうに……。
では、私がいつ財布を落としたのに気づいたかだ。
それは10分後の自宅のマンションに到着した時だった。
ポケットから財布を取り出し、財布の中に入れている鍵を取り出そうとした時だ。
本来ポケットにあるはずものが、ポケットの中になかったのだ。
その瞬間、私はあの時だ!と財布のある場所を瞬時に悟ることに成功した。
背中のリュックサックを玄関扉のドアノブに預けると、そこから現場までの全力ダッシュを開始した。
「はぁはぁ! ハァハァ!」
財布の中には現金1万1千円が入っている。
銀行のキャッシュカードも入っている。
マイナンバーカードも入っている。
そして、一番重要な自宅の鍵も入っている。
「クソォおおおお‼︎」
約5分後。転倒してからの自宅までの移動時間も合わせると、約15分後。
現場に到着した私は【私の財布ネコババ事件】に遭遇することになった。
「ウラァッアアアツ‼︎ 誰が盗みやがっだアアアツ‼︎ 出て来いやあああ‼︎」
もちろん、こんな奇声を上げてブチ切れたりはしてない。
警察に来てほしい状況だとしても、加害者ではなく被害者の立場で対応してもらいたいからだ。
「やれやれ、仕方ないですなぁ」
だからこそ私は紳士的に二度目の全力ダッシュを開始した。
向かう場所はもちろん現場から一番近くの交番だ。
「ハァハァ! ハァハァ! す、すみません……」
約8分後、交番に到着した。
全力ダッシュではなく、全力競歩でなんとか到着した。
「財布を落としたんですけど、届いてませんか……」
冬なのに額からは汗が流れ落ちまくっている。
そんな必死な姿で24歳ぐらいの若い女性警察官に訊いた。
答えは「NO」だった。つまりは「ありません」だ。
「な、何だって⁉︎」
私はその答えに絶望した。ここは外国じゃなくて、日本だ。
他人が落とした財布を盗むような卑劣な日本人がいるはずがない。
私は日本人の「お・て・も・な・し」の心、素晴らしい精神を信じている。
まだ届いてないだけ……と信じることに、いや、信じたいと思う私の綺麗な気持ち(純粋な心)を信じることに決めた。
交番で遺失物届けを出すと、入れない家に引き返すことにした。
帰り道に財布が落ちてないか再び確認して、現場周辺にある防犯カメラもスマホで撮影した。
「絶対に犯人を捕まえてやる!」
水谷さんの【相棒シリーズ】をほぼ見ている私にとって、警察官並みの捜査を自力で行なうことは造作もないことだ。
周辺は比較的人通りの少ない住宅地の裏道だ。
犯人は日常的に使う近隣住民の可能性が高いと考えた。
現場近くには16階ぐらいの高級マンションが1棟、3階建てのアパートが3棟、民家が7軒ぐらいある。
犯人候補は200人ぐらいだろうか?
まあ、それはどうでもいい。
肝心で重要なのは防犯カメラだ。犯人の姿を想像するよりも、実際に見た方が早い。
まず自宅とは逆方向のコインパーキングの防犯カメラは、現場から20メートルほどの離れた場所にある。
犯人が私の財布を持って、その前をニヤニヤと通っていたのならギルティ(有罪)だ。
次に私の自宅方向で現場から5メートルほどにあるアパートの防犯カメラだ。
この近距離なら誰にも見られないように持ち逃げしようと考える前の、財布を持った油断した犯人の姿が捕らえられる可能性大だ。
そして、これがほぼ完璧なカメラだ。その名も【車載カメラ】だ。
私を転倒させた車止めも、転倒する私の姿もバッチリ撮影できる位置、現場から3メートルに停車していたカメラだ。
しかも、ある会社の駐車場に停めてある車が4台、カメラ4台だ。
もう犯人の姿が無修正で丸写りしているようなものだ。
だが……車載カメラは2つの録画方法があるらしい。
運転中だけ録画するものと、停車中も常に録画するものだ。
運転中だけ録画する設定にしていた場合、犯人の姿も私の姿も映っていない。
この場合はコインパーキングとアパートの防犯カメラに、財布持った犯人の姿が映っていると祈るしかない。
「落とした財布が帰ってくる可能性は……と」
家に帰った私だが、家の外で待機するしか出来ない。
だから、スマホで捜査を始めた。
その結果、財布が戻ってくる確率が60~70%もあると分かった。
これなら戻ってくるじゃないの?と期待してしまう数値だ。
だが、世の中そんなに甘くないと私は知っている。
事件発生から1時間半待っても、警察から連絡は来なかった。
時刻は午前11時だ。このまま期待して待つという手は愚策としか思えない。
このままだと家の外で野宿確定だ。しかも、食べ物もなく、トイレも出来ない。
さらに最悪なのは財布の中には住所が分かるマイナンバーカードと自宅の鍵だ。
犯人に隙を見せれば自宅の中まで荒らされる可能性大だ。
迂闊に家から離れることは出来ない。
ある人物が言っていた格言『最悪の状況を想定して動け』を実行する時だと判断した。
まずはマンションの管理会社に連絡。
合鍵で扉を開けてもらうのと、鍵の交換をお願いした。
鍵を交換しないと外出中に荒らされてしまうからだ。
私はもう二度と今日は油断しないと決めている。
けれども、管理会社は「合鍵は大家が持っている」と言ってきた。
大家に連絡すると「今は外出中で夕方までは無理」だと言ってきた。
……常人が何もせずに夕方まで待てると思っているのか?
もちろん不可能だ。スマホの充電は残り40%だ。
シーモアでコミックでも読んで楽しく時間を潰したりしたら、連絡不能状態になってしまう。
この状況で連絡、助けを呼べなくなるのは最悪だ。
だからこそ、大家と交渉することにした。
鍵はどうせ交換しなくてはいけない。というか絶対にすると決めている。
つまり合鍵で開ける必要はなく、壊して開けてもいいはずだ。
その巧みな交渉の結果、合鍵を待つ必要を省略することに成功した。
管理会社に再び連絡して、鍵開けと鍵交換をしてくれる業者の手配をお願いした。
それも了承されて、手配が出来たら再び連絡すると言われた。
これで一安心だ。あとは待つだけでいい。
………………3時間後。手配が出来たと管理会社から連絡がきた。
窓ガラス割って、家の中に入っても許されるレベルだと思うんですけど、どうでしょうか?
もちろん、そんな苦情は言わない。思ったとしても言わない。
そこからは業者の人との電話連絡になる。
なんと!「30分」で来てくれるそうだ。神様だとしか思えない早さだ。
しかも、到着後。扉の外側の覗き穴から器具を突っ込んで、パパッと鍵を開けてくれた。
3分もかかってない神技で、鍵交換も10分もかからなかった。
もう神様としか思えない。料金も【2万8千6百円】だ。
「安ぅ~~い♡ 社長、安ぅ~~い♪」と、どこぞの通販番組の女性並みに身悶えしても許されるレベルだ。
喜んで自宅に置いてあった預金通帳から、近所のATMで現金を引き落としてお渡しさせていただいた。
「はぁ~~、助かったぁ~~」
家の床に寝転んで一息ついた。時刻は午後3時を回っていた。
無一文の危機的状況から奇跡の大復活を遂げたような達成感だ。
ついでに財布落としてから6時間だ。交番に届けるつもりがあるなら、遅すぎる時間だ。
確実に犯人がネコババしていると判断していい時間だ。
私の財布はどうやら60~70%の良心的な人達には拾われなかったみたいだ。
今頃は私の金で寿司でも買って食べているのだろう。
だが、お前の罪は重いと言ってやろう。
落とし物を盗んだ場合、2つの罪があるらしい。
【遺失物等横領罪】と【窃盗罪】だ。罪が重いのは窃盗罪だ。
スマホで調べた中で分かりやすい説明があったので、この説明を使わせてもらう。
遺失物等横領罪とは路上などに捨てられている壊れた傘を盗むようなものだ。
捨てているのか、置いてあるのか、よく分からない物を盗むのがこれだ。
逆に窃盗罪は雨の日のコンビニなどの傘立てにある傘を持っていく行為だ。
明らかに人が使っていると、使うと分かっている物を持っていくのが窃盗罪だ。
ゴミかもしれないものと、使用中のものを持っていくのは確かに違うことだ。
そして、私の財布の中にはレシートが入っていた。
その日、事件発生日に食料品店で買い物をしたレシートだ。
数十分まで使っていたという、これからも使うという明確な証拠だ。
つまりは【窃盗罪】が適用される可能性があるということだ。
「犯人よ。お前の示談金で寿司を食う日が楽しみで、今夜も眠れそうにないぜ!」だ。
やられたら、やり返す。盗られたら、取り返すだ。土下座だけで済むなと思うなよ。
【完?】——【このまま泣き寝入りか、倍返し成功なるか】
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