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第1章・異世界転移編
第3話・孤独な人生
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『パチパチ♪パチパチ♪』
緑の草綿だけが燃えて行きます。どうやら土綿は燃えないのか、燃えにくい性質のようです。
「よし、もう安全確認はいいだろう?服は燃やしたくないし、火を焚けば煙で誰かが俺達に気付いてくれるだろうよ。」
亜紀斗は焚き火を起こしたのは初めてのようです。今の時代は焚き火も簡単に出来ません。洗濯物に煙の匂いがつくとか、有害物質とか、とにかく駄目駄目な世の中になりました。
「痛たたたた……馬鹿野郎!こんな得体の知れない場所で煙なんか上げてみろ、敵兵が寄って来たらどうすんだ。」
「鉄さん、もう21世紀なんですよ。今の平和な世界でいきなり襲って来るような野蛮な人達はいませんよ。まったくもぉ~♪」
敵地で潜伏中ならばいざ知らず、戦争が終戦してから75年も経っています。地面で腰を押さえて寝ている鉄男は当時はたったの3歳です。それでも、あの頃の日本の姿はありありと思い出す事が出来ました。誰かを助けるような余裕もなく、誰かに助けを求める事も出来ない、辛く貧しい生活でした。いえ、あんなもの、とても生活していると、言えるようなものではありませんでした。
「小夜さん、確かにアンタの言う通り戦争は終わったかもしれねぇ。でも、ここが日本だとは俺は思えないんだよ。いざという時に戦える準備はしておこうじゃねぇか。ハチ、亜紀斗、弦音ちゃん、いま満足に動けるのは俺達4人だけだ。大丈夫だとは思うが、いざという時はよろしく頼むぜ。」
「任せとけ。」「はいはい。」「頑張ります!」
最年長の柳源造は終戦当時は11歳でした。竹槍を持って近所の防空壕で暮らしていた日々もありありと思い出す事が出来ます。戦争で敵兵を殺した経験はないものの、いつでも戦えるように毎日毎日、母親達や近所のおばちゃん達と一緒に訓練を繰り返していました。あの日々は本当に忘れられません。
❇︎
「ルミルミ、あのモクモクしているのは何だタヌ⁇」
「モクモク?………って⁈アレは煙ルミ‼︎誰かがあそこで火を焚いているんだルミ。この世界に火は存在しないルミ。つまり、侵入者ルミ‼︎」
二足歩行のタヌキのヌイグルミと、宙に浮いている金色のハーピーのヌイグルミが話しています。ハーピーとは顔と上半身が人間で、四肢が鳥の鳥人間です。どうやら2人はこの世界の住民のようです。この世界ではヌイグルミ達が人間のように街を作って、共同生活しています。
「こんな時に侵入者なんて最悪ルミ。早くこの世界の危機を救う7人の勇者を探さないといけないルミなのに………」
もしかすると、これが予言にあった世界の危機なのかもしれません。街の危機を察知して、凄腕の2人の戦士が現れました。
「ルミルミ、準備出来たクマ。いつでも戦えるクマよ。」
「僕も一緒に戦うピョン。侵入者なんて皆んなで倒すピョン♪」
斧を持ったクマのヌイグルミと、長槍を持ったウサギのヌイグルミが侵入者と戦うようです。武器も布と綿で作られているようです。こんな可愛い武器で侵入者を倒せるとは思えませんが、2人は本気の本気のようです。
「駄目ルミ‼︎侵入者がどんな奴らかも分からないの、もしも捕まったら大変ルミ。まずは僕が空から様子を見て来るルミ。1時間で僕が戻って来ない時は、皆んなで安全な別の街に避難するルミ。クマクマ、あとの事は任せたんだルミよ。」
「分かってるクマ。でも、何人かは言う事を聞かずに勝手に戦いに行くかもしれないクマ。その時は僕も一緒に戦いに行くんだクマ。」
「僕も行くんだピョン♪」
「勝手にするルミ。でも、危ないと思ったらすぐに逃げるんだルミよ。」
ルミルミは両手の翼を広げると、バサバサと翼を羽ばたかせて煙の上る方向に飛んで行きました。
❇︎
『パチパチ♪パチパチ♪』
燃える焚き火の中に、草綿を引っこ抜いては次々と放り込んで行きますが、濡れた服を乾かすには火力が足りないようです。自力で歩くのが困難な小夜とハナの女性2人は車椅子に乗せられると焚き火の側まで連れて行かれました。
「ありがとうね、弦音ちゃん。とっても暖かいよ。ほら、ハナちゃんもいつまでも黙っていないで何か4人で話しましょうよ。」
「……………」(あーあ、何やってんだろう私。)
「やめとけ、やめとけ。ショックで何も話せなくなってんだろうよ。そのうちに話せるようになるか、そのままか……まあ、今はそっとして置くんだな。」
ガタガタと平野ハナは車椅子の上で寒くて震えています。やっと死んで父と母、兄と会えると思ったのに、まだまだ何処かも知れない場所で生きなくてはいけません。旦那に死なれて6年。2人の子供達は早くに独立して他県に住んでいました。もう、1人で暮らすのは正直我慢の限界でした。
「どうして生きてるの?何で死んでいないの?どうして死なせてくれないのよ。……うっ…うっ……」
ハナは築40年の旦那が建てた家で6年間も孤独な生活を続けていました。また家に戻るぐらいなら崖から落ちた時に死んだ方が良かったと泣き出してしまいました。
「はぁっ~~~?そんなの知るかよ‼︎死にたきゃ、首でも吊って死ねばいいだろう。でも、今まで生きて来たのは死にたくねぇからなんだろ!どんなに寂しくても、辛くても、惨めな人生でも、それでも生きたいと思える人生だったんだろ!生きていても何の意味もねぇかもしれねぇけど、俺達は心臓が動いているうちは生きないといけないんだよ!分かったら、メソメソしてないで仏様に念仏でも唱えてやがれ!」
「鉄さん、少しは言い方というものを考えたらどうなんですか?でも、その通りよ。いつかはお迎えが来るんだからね。だから、その時までは生きないと駄目なのよ。私達は生きる事が仕事なのよ。生きられなかった人達の分まで、1日でも長く、1分でも長く生きないと駄目よ、ハナちゃん。」
自分の意思で死ぬる事はある意味、幸せかもしれません。でも、他人の意思で殺される事は幸せでしょうか?孤独や不幸という目に見えぬ意思に負けて殺される事が幸せな死に方な訳がありません!いつの日か訪れる心臓が止まる瞬間まで生きる事が、本当の意味で自分の意思で死ぬという事なのではないでしょうか。
◆次回に続く◆
緑の草綿だけが燃えて行きます。どうやら土綿は燃えないのか、燃えにくい性質のようです。
「よし、もう安全確認はいいだろう?服は燃やしたくないし、火を焚けば煙で誰かが俺達に気付いてくれるだろうよ。」
亜紀斗は焚き火を起こしたのは初めてのようです。今の時代は焚き火も簡単に出来ません。洗濯物に煙の匂いがつくとか、有害物質とか、とにかく駄目駄目な世の中になりました。
「痛たたたた……馬鹿野郎!こんな得体の知れない場所で煙なんか上げてみろ、敵兵が寄って来たらどうすんだ。」
「鉄さん、もう21世紀なんですよ。今の平和な世界でいきなり襲って来るような野蛮な人達はいませんよ。まったくもぉ~♪」
敵地で潜伏中ならばいざ知らず、戦争が終戦してから75年も経っています。地面で腰を押さえて寝ている鉄男は当時はたったの3歳です。それでも、あの頃の日本の姿はありありと思い出す事が出来ました。誰かを助けるような余裕もなく、誰かに助けを求める事も出来ない、辛く貧しい生活でした。いえ、あんなもの、とても生活していると、言えるようなものではありませんでした。
「小夜さん、確かにアンタの言う通り戦争は終わったかもしれねぇ。でも、ここが日本だとは俺は思えないんだよ。いざという時に戦える準備はしておこうじゃねぇか。ハチ、亜紀斗、弦音ちゃん、いま満足に動けるのは俺達4人だけだ。大丈夫だとは思うが、いざという時はよろしく頼むぜ。」
「任せとけ。」「はいはい。」「頑張ります!」
最年長の柳源造は終戦当時は11歳でした。竹槍を持って近所の防空壕で暮らしていた日々もありありと思い出す事が出来ます。戦争で敵兵を殺した経験はないものの、いつでも戦えるように毎日毎日、母親達や近所のおばちゃん達と一緒に訓練を繰り返していました。あの日々は本当に忘れられません。
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「ルミルミ、あのモクモクしているのは何だタヌ⁇」
「モクモク?………って⁈アレは煙ルミ‼︎誰かがあそこで火を焚いているんだルミ。この世界に火は存在しないルミ。つまり、侵入者ルミ‼︎」
二足歩行のタヌキのヌイグルミと、宙に浮いている金色のハーピーのヌイグルミが話しています。ハーピーとは顔と上半身が人間で、四肢が鳥の鳥人間です。どうやら2人はこの世界の住民のようです。この世界ではヌイグルミ達が人間のように街を作って、共同生活しています。
「こんな時に侵入者なんて最悪ルミ。早くこの世界の危機を救う7人の勇者を探さないといけないルミなのに………」
もしかすると、これが予言にあった世界の危機なのかもしれません。街の危機を察知して、凄腕の2人の戦士が現れました。
「ルミルミ、準備出来たクマ。いつでも戦えるクマよ。」
「僕も一緒に戦うピョン。侵入者なんて皆んなで倒すピョン♪」
斧を持ったクマのヌイグルミと、長槍を持ったウサギのヌイグルミが侵入者と戦うようです。武器も布と綿で作られているようです。こんな可愛い武器で侵入者を倒せるとは思えませんが、2人は本気の本気のようです。
「駄目ルミ‼︎侵入者がどんな奴らかも分からないの、もしも捕まったら大変ルミ。まずは僕が空から様子を見て来るルミ。1時間で僕が戻って来ない時は、皆んなで安全な別の街に避難するルミ。クマクマ、あとの事は任せたんだルミよ。」
「分かってるクマ。でも、何人かは言う事を聞かずに勝手に戦いに行くかもしれないクマ。その時は僕も一緒に戦いに行くんだクマ。」
「僕も行くんだピョン♪」
「勝手にするルミ。でも、危ないと思ったらすぐに逃げるんだルミよ。」
ルミルミは両手の翼を広げると、バサバサと翼を羽ばたかせて煙の上る方向に飛んで行きました。
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『パチパチ♪パチパチ♪』
燃える焚き火の中に、草綿を引っこ抜いては次々と放り込んで行きますが、濡れた服を乾かすには火力が足りないようです。自力で歩くのが困難な小夜とハナの女性2人は車椅子に乗せられると焚き火の側まで連れて行かれました。
「ありがとうね、弦音ちゃん。とっても暖かいよ。ほら、ハナちゃんもいつまでも黙っていないで何か4人で話しましょうよ。」
「……………」(あーあ、何やってんだろう私。)
「やめとけ、やめとけ。ショックで何も話せなくなってんだろうよ。そのうちに話せるようになるか、そのままか……まあ、今はそっとして置くんだな。」
ガタガタと平野ハナは車椅子の上で寒くて震えています。やっと死んで父と母、兄と会えると思ったのに、まだまだ何処かも知れない場所で生きなくてはいけません。旦那に死なれて6年。2人の子供達は早くに独立して他県に住んでいました。もう、1人で暮らすのは正直我慢の限界でした。
「どうして生きてるの?何で死んでいないの?どうして死なせてくれないのよ。……うっ…うっ……」
ハナは築40年の旦那が建てた家で6年間も孤独な生活を続けていました。また家に戻るぐらいなら崖から落ちた時に死んだ方が良かったと泣き出してしまいました。
「はぁっ~~~?そんなの知るかよ‼︎死にたきゃ、首でも吊って死ねばいいだろう。でも、今まで生きて来たのは死にたくねぇからなんだろ!どんなに寂しくても、辛くても、惨めな人生でも、それでも生きたいと思える人生だったんだろ!生きていても何の意味もねぇかもしれねぇけど、俺達は心臓が動いているうちは生きないといけないんだよ!分かったら、メソメソしてないで仏様に念仏でも唱えてやがれ!」
「鉄さん、少しは言い方というものを考えたらどうなんですか?でも、その通りよ。いつかはお迎えが来るんだからね。だから、その時までは生きないと駄目なのよ。私達は生きる事が仕事なのよ。生きられなかった人達の分まで、1日でも長く、1分でも長く生きないと駄目よ、ハナちゃん。」
自分の意思で死ぬる事はある意味、幸せかもしれません。でも、他人の意思で殺される事は幸せでしょうか?孤独や不幸という目に見えぬ意思に負けて殺される事が幸せな死に方な訳がありません!いつの日か訪れる心臓が止まる瞬間まで生きる事が、本当の意味で自分の意思で死ぬという事なのではないでしょうか。
◆次回に続く◆
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