21 / 58
第2章・異世界調査編
第21話・期待外れ
しおりを挟む
『ハァハァ、ハァハァ、化け物だガウ‼︎あんな生物見た事ないんだガウ‼︎』
灰色狼は謎の巨大生物に追いかけられていました。その身体は象のように大きく、その速さはチーターよりも速いです。灰色狼が追いつかれるのも時間の問題です。
『ハァハァ、ハァハァ、もう走れないガウ。』
『ドォフーン‼︎』
『ガッウゥ‼︎』『ポーン』
巨大生物の体当たりが灰色狼を高々と宙に跳ね上げました。その身体が空中で消えると地面に獣の皮が1枚だけ落ちて来ました。その晩、草原にいた獣グルミンや虫グルミンの多くが謎の巨大生物に蹂躙されました。
❇︎
街の端で暮らし始めて2回目の朝です。まだまだ早朝5時です。この世界のお日様が昇るのは朝6時からなので、街の住民からしたら、もう少しだけ静かに寝て欲しいものです。
「今日の朝飯もフナの塩焼きかよぉ~。釣り竿1本じゃ腹一杯食べられないぜ。」(早く夜になってくれないと羊肉が食べられないぜ。)
「働かざる者、食うべからずよ。さっさと仕事に行きな‼︎」(夜食に焼き鳥食べたでしょうが。もしかして、ボケてんじゃないかしら?)
朝からハチとハナが口喧嘩を始めています。ジジイとババアの喧嘩なんか見てもつまらないですが、食卓にはフナの塩焼きがたったの3匹です。これを7人で分ける事はどう考えても無理です。
「ちょっと待てよ!まさかとは思うが、女、子供に優先して食べさせろとか言わねぇよな?こっちは今から仕事なんだよ!俺達3人に食べさせるのが道理だろう。そうだろ、源さん、ハチ!」
「俺は構わねぇ。食べたい奴が食べな。」(この歳になると夜中の肉料理は駄目だな。)
「じゃあ♪俺が源さんの分を食べるから、残りの2匹はジャンケンして決めるんだな。」『ヒュイ…パク。モグモグ……ダッー!』
マスターズの7人はどうやら夜中に肉料理を食べたようです。歳の所為か源造は消化不良で食欲がないようです。ハチは焼き魚を1匹奪い取ると走って逃げて行きました。ハチの逃げ足はマスターズの中でもトップクラスです。誰も泥棒ジジイを捕まえる事は出来ませんでした。
「チッ。油断したぜ。」
「ちょっと!この泥棒ジジイ!待ちな!なんて意地汚くて、逃げ足の速いジジイなんだろうねぇ。ありゃ~、ロクな家の生まれじゃないわよきっと。」
フナの塩焼きはハナが朝から作業場で料理したものです。魚を釣って来たのは源造です。フナの塩焼きはオーブンの中にフナと塩綿を少々入れて、あとは数分待つだけで完成するという驚きのお手軽料理でした。どの職人の作業場でも、同じように簡単に何でも作れます。
「構わねぇよ。また、釣って来る。それよりも亜紀斗。この街の全部の作業場を回って、レシピ帳なんかが置いてあれば、スマホで写真を撮って来てくれねぇか?他にも街の図書館なんかを回って、レシピ帳があれば同じように写真を撮って来てくれ。見せてくれないようなら無理しなくていいからな。任せたぞ。」
「まぁ、俺は夜までやる事ないし、そのぐらいは簡単だしいいぜ。さっさと材料を集めて色々と作らないとな。」
街に到着した初日は作業場を案内されたり、魚が泳いでいる水綿の川に案内されたりと、街の観光で終わってしまいました。銅綿を集めても簡単に銅の延べ棒に加工出来るので、昼前にはほとんどやる事が無くなって暇になってしまいます。釣り竿が人数分あれば、魚釣りで時間も潰せて、お金も稼げますが、材料が無いので作れません。現状では1本の釣り竿を使って、交代で1日中釣りをする事になってしまいます。………表向きにはそういう事になっています。
「さてと、俺も作業場に木箱でも作りに行くとするか。小夜さんとハナさんは街の情報を集めておいてくれ。とくに隣街の情報と精霊王の情報は念入りにな。」(コイツらの親玉の精霊王は一部の住民しか知らねぇようだ。何故、街には住んでいないんだ?理由でもあるのか。)
「源さん、心配しなくてもやる事はキチンと理解しているよ。そっちも上手くやるんだよ。」(本当にこんな事に意味があるのかねぇ~?)
「小夜さん、こんな感じでいいですか?」(よし♪これで車の修理はバッチリです。)
「やれやれ、忙しいねぇ~。今行くよ。」(昨日の今日でまた壊してくるんだから、年寄り扱いが荒くて大変だよ。)
源造との話の途中で弦音に呼ばれてしまいました。小夜はどうも源造のやり方に納得出来ていないようです。それでも多数決には逆らえません。送迎車を修理している弦音の手伝いに向かいました。
「もうちょっと凹んだ部分に綿が必要かもね。その辺の土綿でも使えればいいんだけどね。」(車の修理は鍛治職人のハチさんの仕事なんじゃないのかねぇ~?まぁ、武器作りで忙しいから文句は言えないんだけどねぇ。)
「やっぱり鉄綿とかですよね。あ~あ、昨日取って来たものを分けて貰えれば良かったんですけどね。」(今は武器と防具作りが最優先ですね。余裕が出来るまで我慢です!)
送迎車のボディーがところどころ凹んでいます。この送迎車が今の寝床です。弦音は少しは見た目を良くする為に頑張って修理していましたが、今のところは銅綿を詰めるしか良い方法はなさそうです。集めた素材はハチの武器と防具作りに優先的に使用されていました。
「このペットボトルでいいか。とりあえず水綿を入れる容器が必要だな。多分そのままの状態で放置してたら自然に蒸発するだろうし、これからは大量に密閉容器が必要になってくるだろうな。」(薬品類の保存はとにかく密閉が重要課題になるな。流石に野晒しで放置するのは嫌だな。)
「何言ってんだい!全部作るのにどのぐらいかかるのさ!材料なんか無いよ!」(どいつもコイツも材料を浪費するから管理が大変だよ。男共はどうして無駄遣いするんだろうね。)
「フッフ♪料理の知識があっても駄目だな。この世界の技術なら土綿があれば花瓶ぐらいは大量に量産出来るぜ。しかも、ヌイグルミなのに割れるんだぜ‼︎この世界は本当に凄いぜ♪まったくババアは元の世界の常識に捉われ過ぎなんだよ。」(この世界ならロボットでも簡単に作れそうだぜ。)
「はいはい、凄い凄い。じゃあ、さっさと作って来な。あ~あ、土鍋もついでに作って来るんだよ。」(そろそろ魚鍋でも食べたいねぇ。)
作業場が使えるようになった事で色々と作れるようになりましたが、残念ながら低レベルな物が多いです。花瓶に木箱に使えない物が街の端に溢れて行きます。マスターズの住処はまるでゴミ置き場のようになってしまいました。………住民達にはそういう風に見えているはずです。
❇︎
「ゲンゾウ、何やってるブヒ!また木箱ブヒか!いい加減に他の物も作るブヒ。こんなのが伝説の職人に選ばれるなんて、他の職人に悪いと思わないブヒか?」(また昨日と同じ事をやっているブヒ。しかも、組み立てた木箱を分解せずに山積みにするから邪魔なんだブヒ。)
「済みません、親方。自分不器用なんです。まずは完璧な木箱を作りたいですよ。」
「あの日本人、昨日の夜から何個木箱を作ったか知ってるウホか?今ので16個目ウホ♪あれしか作れない可哀想な奴ウホ。」(ある意味安心したウホ。伝説の職人が凄過ぎたら勝てる訳ないウホ。)
街に生えている木から取れるのは低級木材です。それを加工する事で低級角材にする事が出来ます。源造は木を切っては、低級角材に加工して、低級角材2個で作れる木箱を作っていました。入れる物がないのに木箱がドンドン作られて行きます。
「いいブヒか!銅の斧ぐらいは作れるんだブヒ!角材と銅の延べ棒があれば作れるブヒ。今日中に1本ぐらいは作るんだブヒ!まったく期待して損したブヒ!」『トコトコトコ……』
「済みません、親方。1週間時間をください。まだまだ自分には早過ぎます。」
「ブヒィーー‼︎」(この役立たず‼︎)
「ウホホホホ♪あの日本人、才能がまったくないウホ。教えるだけ時間の無駄ウホね。」(1週間もいらないウホ。材料を用意して機械でチーンすれば完成ウホ。馬鹿な日本人ウホ。)
源造は大工職人達が集まる作業場でちょっと浮いていました。相変わらず低級木材を低級角材に加工しては、黙々と木箱を作り続けています。豚の親方からも、隣の作業台で作業中のゴリラからも呆れられています。期待のマスターズが初級の初級の木箱しか作れないのです。期待外れもいいところでした。………でも、本当に意味もなく空の木箱を作っているのでしょうか?今日も誰も職人達が居なくなるまで源造は作業場に残って、空の木箱を作っていました。
◆次回に続く◆
灰色狼は謎の巨大生物に追いかけられていました。その身体は象のように大きく、その速さはチーターよりも速いです。灰色狼が追いつかれるのも時間の問題です。
『ハァハァ、ハァハァ、もう走れないガウ。』
『ドォフーン‼︎』
『ガッウゥ‼︎』『ポーン』
巨大生物の体当たりが灰色狼を高々と宙に跳ね上げました。その身体が空中で消えると地面に獣の皮が1枚だけ落ちて来ました。その晩、草原にいた獣グルミンや虫グルミンの多くが謎の巨大生物に蹂躙されました。
❇︎
街の端で暮らし始めて2回目の朝です。まだまだ早朝5時です。この世界のお日様が昇るのは朝6時からなので、街の住民からしたら、もう少しだけ静かに寝て欲しいものです。
「今日の朝飯もフナの塩焼きかよぉ~。釣り竿1本じゃ腹一杯食べられないぜ。」(早く夜になってくれないと羊肉が食べられないぜ。)
「働かざる者、食うべからずよ。さっさと仕事に行きな‼︎」(夜食に焼き鳥食べたでしょうが。もしかして、ボケてんじゃないかしら?)
朝からハチとハナが口喧嘩を始めています。ジジイとババアの喧嘩なんか見てもつまらないですが、食卓にはフナの塩焼きがたったの3匹です。これを7人で分ける事はどう考えても無理です。
「ちょっと待てよ!まさかとは思うが、女、子供に優先して食べさせろとか言わねぇよな?こっちは今から仕事なんだよ!俺達3人に食べさせるのが道理だろう。そうだろ、源さん、ハチ!」
「俺は構わねぇ。食べたい奴が食べな。」(この歳になると夜中の肉料理は駄目だな。)
「じゃあ♪俺が源さんの分を食べるから、残りの2匹はジャンケンして決めるんだな。」『ヒュイ…パク。モグモグ……ダッー!』
マスターズの7人はどうやら夜中に肉料理を食べたようです。歳の所為か源造は消化不良で食欲がないようです。ハチは焼き魚を1匹奪い取ると走って逃げて行きました。ハチの逃げ足はマスターズの中でもトップクラスです。誰も泥棒ジジイを捕まえる事は出来ませんでした。
「チッ。油断したぜ。」
「ちょっと!この泥棒ジジイ!待ちな!なんて意地汚くて、逃げ足の速いジジイなんだろうねぇ。ありゃ~、ロクな家の生まれじゃないわよきっと。」
フナの塩焼きはハナが朝から作業場で料理したものです。魚を釣って来たのは源造です。フナの塩焼きはオーブンの中にフナと塩綿を少々入れて、あとは数分待つだけで完成するという驚きのお手軽料理でした。どの職人の作業場でも、同じように簡単に何でも作れます。
「構わねぇよ。また、釣って来る。それよりも亜紀斗。この街の全部の作業場を回って、レシピ帳なんかが置いてあれば、スマホで写真を撮って来てくれねぇか?他にも街の図書館なんかを回って、レシピ帳があれば同じように写真を撮って来てくれ。見せてくれないようなら無理しなくていいからな。任せたぞ。」
「まぁ、俺は夜までやる事ないし、そのぐらいは簡単だしいいぜ。さっさと材料を集めて色々と作らないとな。」
街に到着した初日は作業場を案内されたり、魚が泳いでいる水綿の川に案内されたりと、街の観光で終わってしまいました。銅綿を集めても簡単に銅の延べ棒に加工出来るので、昼前にはほとんどやる事が無くなって暇になってしまいます。釣り竿が人数分あれば、魚釣りで時間も潰せて、お金も稼げますが、材料が無いので作れません。現状では1本の釣り竿を使って、交代で1日中釣りをする事になってしまいます。………表向きにはそういう事になっています。
「さてと、俺も作業場に木箱でも作りに行くとするか。小夜さんとハナさんは街の情報を集めておいてくれ。とくに隣街の情報と精霊王の情報は念入りにな。」(コイツらの親玉の精霊王は一部の住民しか知らねぇようだ。何故、街には住んでいないんだ?理由でもあるのか。)
「源さん、心配しなくてもやる事はキチンと理解しているよ。そっちも上手くやるんだよ。」(本当にこんな事に意味があるのかねぇ~?)
「小夜さん、こんな感じでいいですか?」(よし♪これで車の修理はバッチリです。)
「やれやれ、忙しいねぇ~。今行くよ。」(昨日の今日でまた壊してくるんだから、年寄り扱いが荒くて大変だよ。)
源造との話の途中で弦音に呼ばれてしまいました。小夜はどうも源造のやり方に納得出来ていないようです。それでも多数決には逆らえません。送迎車を修理している弦音の手伝いに向かいました。
「もうちょっと凹んだ部分に綿が必要かもね。その辺の土綿でも使えればいいんだけどね。」(車の修理は鍛治職人のハチさんの仕事なんじゃないのかねぇ~?まぁ、武器作りで忙しいから文句は言えないんだけどねぇ。)
「やっぱり鉄綿とかですよね。あ~あ、昨日取って来たものを分けて貰えれば良かったんですけどね。」(今は武器と防具作りが最優先ですね。余裕が出来るまで我慢です!)
送迎車のボディーがところどころ凹んでいます。この送迎車が今の寝床です。弦音は少しは見た目を良くする為に頑張って修理していましたが、今のところは銅綿を詰めるしか良い方法はなさそうです。集めた素材はハチの武器と防具作りに優先的に使用されていました。
「このペットボトルでいいか。とりあえず水綿を入れる容器が必要だな。多分そのままの状態で放置してたら自然に蒸発するだろうし、これからは大量に密閉容器が必要になってくるだろうな。」(薬品類の保存はとにかく密閉が重要課題になるな。流石に野晒しで放置するのは嫌だな。)
「何言ってんだい!全部作るのにどのぐらいかかるのさ!材料なんか無いよ!」(どいつもコイツも材料を浪費するから管理が大変だよ。男共はどうして無駄遣いするんだろうね。)
「フッフ♪料理の知識があっても駄目だな。この世界の技術なら土綿があれば花瓶ぐらいは大量に量産出来るぜ。しかも、ヌイグルミなのに割れるんだぜ‼︎この世界は本当に凄いぜ♪まったくババアは元の世界の常識に捉われ過ぎなんだよ。」(この世界ならロボットでも簡単に作れそうだぜ。)
「はいはい、凄い凄い。じゃあ、さっさと作って来な。あ~あ、土鍋もついでに作って来るんだよ。」(そろそろ魚鍋でも食べたいねぇ。)
作業場が使えるようになった事で色々と作れるようになりましたが、残念ながら低レベルな物が多いです。花瓶に木箱に使えない物が街の端に溢れて行きます。マスターズの住処はまるでゴミ置き場のようになってしまいました。………住民達にはそういう風に見えているはずです。
❇︎
「ゲンゾウ、何やってるブヒ!また木箱ブヒか!いい加減に他の物も作るブヒ。こんなのが伝説の職人に選ばれるなんて、他の職人に悪いと思わないブヒか?」(また昨日と同じ事をやっているブヒ。しかも、組み立てた木箱を分解せずに山積みにするから邪魔なんだブヒ。)
「済みません、親方。自分不器用なんです。まずは完璧な木箱を作りたいですよ。」
「あの日本人、昨日の夜から何個木箱を作ったか知ってるウホか?今ので16個目ウホ♪あれしか作れない可哀想な奴ウホ。」(ある意味安心したウホ。伝説の職人が凄過ぎたら勝てる訳ないウホ。)
街に生えている木から取れるのは低級木材です。それを加工する事で低級角材にする事が出来ます。源造は木を切っては、低級角材に加工して、低級角材2個で作れる木箱を作っていました。入れる物がないのに木箱がドンドン作られて行きます。
「いいブヒか!銅の斧ぐらいは作れるんだブヒ!角材と銅の延べ棒があれば作れるブヒ。今日中に1本ぐらいは作るんだブヒ!まったく期待して損したブヒ!」『トコトコトコ……』
「済みません、親方。1週間時間をください。まだまだ自分には早過ぎます。」
「ブヒィーー‼︎」(この役立たず‼︎)
「ウホホホホ♪あの日本人、才能がまったくないウホ。教えるだけ時間の無駄ウホね。」(1週間もいらないウホ。材料を用意して機械でチーンすれば完成ウホ。馬鹿な日本人ウホ。)
源造は大工職人達が集まる作業場でちょっと浮いていました。相変わらず低級木材を低級角材に加工しては、黙々と木箱を作り続けています。豚の親方からも、隣の作業台で作業中のゴリラからも呆れられています。期待のマスターズが初級の初級の木箱しか作れないのです。期待外れもいいところでした。………でも、本当に意味もなく空の木箱を作っているのでしょうか?今日も誰も職人達が居なくなるまで源造は作業場に残って、空の木箱を作っていました。
◆次回に続く◆
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
44
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる