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第3章・異世界開戦編

第24話・地元素の盾

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『ウォ~ン♪』

 亜紀斗が送迎車のキーを回すとエンジンがかかりました。というよりもエンジンのような綿音でしょうか?とにかく走らせる事は出来そうです。

「よし、直ったぞ!これからどうするんだ?試運転か?」(その前にガソリンスタンドがないんだよな。もしかして、ガソリン要らなかったりして?)

「そうだな。俺とハチは自動車免許を持っているから運転は出来る。他に持っているのがいたら教えてくれ。」

「俺も持ってるぞ。」(仕事で4トンぐらいのトラックまでは運転した事があるぜ。)

「あのぉ~、私も持っています。」(ちょっと大型車は苦手ですが、ここの世界は広いから行けそうですね。)

 鉄男と弦音の2人も持っているようです。7人中5人が車の運転免許を持っているので助かります。持ってないのは足の不自由な小夜とハナの2人だけでした。

「全員がいなくなると誤魔化すのも面倒だな。今日は俺と亜紀斗の2人だけでいいだろう。それに途中で車が止まったら危険だからな。とりあえず街の亜人達が寝ている夜中に出発するとしよう。必要な物があったら教えておいてくれ。」(地図があればいいが……これは明日調べるしかねぇな。)

(いやいや、俺と源さんを2人きりにするなよ。誰か交代しろよ‼︎)

 亜紀斗の不幸はまだまだ続くようです。車内という監禁部屋でジワジワと源造に洗脳されるのかもしれません。

「そうだな。源さん、とりあえず武器に必要な獣の皮を調達してくれないか。車で体当たりすれば多分倒せるはずだろ。」(よぉ~し!明日から武器作り開始だぜ。おっと!亜人達に隠れて作らないと駄目だったな。)

「あぁ、分かった。まずは用心して弱そうな奴から倒さないと安心出来ないな。それに衝突のダメージが車にもあるだろうから、補強しないといけないだろう。ハチの方も銅の盾を2、3個急いで作ってくれ。フロントに付ければ補強には十分だろうよ。」

「はいよぉ~♪今ある材料でも、銅の盾の5個は作れるぜ。とりあえず20分で作って来てやるぜ!」(ヤバイな……1時間にすればよかったかもしれねぇ。)

 そんなに急いでいません。夜中に出発するのでまだまだ時間に余裕があります。出発するのは夜になってからです。でも、この世界に夜はやって来るのでしょうか?空に太陽も見えますし、雲も浮いています。常識的に考えれば、必ず太陽が沈んで月が昇るはずです。昼があるのに夜がないのはやっぱりおかしいはずです。

 ❇︎

 1時間後、ハチが急いで戻って来ました。腕には5個というより、5枚の盾が抱えられています。銅の盾はフライングディスクと呼ばれるプラスチックの円盤と似ています。銅の盾を投げて、皆んなで遊ぶ事も出来そうです。……何故か1枚だけゴツゴツして危険な感じがします。作るのに失敗したのでしょうか。

「いやぁ~、大成功だぜ♪土綿を混ぜたら、銅の盾が変化したんだぜ!ほらほら、強そうだろ!」(コソコソ隠れて作るのは苦労したぜ。)

 盾が強そうとはおかしな表現ですが、確かに強そうです。銅の盾はピカピカの10円玉のように輝いて綺麗ですが、岩の盾はその辺の岩盤を丸く切り抜いただけの印象です。荒々しい表面の感じが大自然の強さを感じさせてくれます。

地の銅盾ちのどうたて】:性能評価Eランク。防御力11。通常の銅の盾よりも頑丈な盾。土綿と銅綿の量に気をつける必要がある。伝説の聖石を持つ者のイメージ力によってのみ製作が可能な特殊な盾。

「こっちの準備も行けそうだぜ。音楽もかけられるし、NHKだけならカーナビで放送が受信出来るぜ。まぁ、ラジオは近場に拾える電波がないと駄目そうだけどな。」(ふぅ~~、これで源さんと2人きりになっても大丈夫だな。)

「フム、なるほどな。だとしたらラジオが使える場所があれば、その近くに出口がある可能性が高いという事だな。………もしかして電波塔でも建ててあるのか?」(街の中には電波塔なんか見えなかったが……もっと高い場所から広範囲に電波を送る装置でもあるのか?)

 異世界でNHKが見れるのは、電波を受信出来るように大型の電波塔があると源造は考えたようです。でも、そんな事があるでしょうか。まだまだ憶測の域を出ません。わざわざそんな物を作る意味が分かりません。それにテレビが出来てから100年も経っていないはずです。そんなに早く亜人達が原理を理解して作れるでしょうか。やはり情報が少な過ぎるようです。

「いやいや、ほらほら、地属性の盾だぜ⁈多分、新発見だぜ!アイツらのレシピ帳をチラッと見たけど、本当なら土の精霊を倒さないとこの盾は絶対に作れない優れ物なんだぜ。凄えだろ?」(ここは褒めるところだぜ。もっと驚くべきなんだぜ。)

「ああ、確かに凄いな。フム、他にも応用出来るのか?」(ハチの奴、興奮してどうしたんだ?まぁ、いいか。)

「当たり前だぜ!とりあえず火綿と水綿は確実に使えるな。ゲームなら光とか、闇属性もあるけど、物グルミン化出来るのはルミルミだけだしな。俺達だけでも出来ればいいんだが、こればかりは仕方ねぇ。」

 実際に作れそうなのは火、水、風、地、氷、雷、光、闇綿の8属性です。簡単に作れそうなものから難しそうなものもありそうですが、まずは物グルミン化する能力が絶対に必要です。でも、どんなに凄い武器や防具を作っても、ファンタジーゲームを知らない老人や若者にはその凄さが通用しません。ハチが褒められる事は多分ないでしょう。

「練習してみるか?全員でやれば可能性があるかもしれない。まずはこの土綿を普通の土に出来るか実験してみよう。」

 源造の指示で地面の土綿を集めて、普通の土に戻せるか挑戦する事になりました。最初から最大の7人で挑戦します。

「ハッ‼︎ちょっと待ってください!誰かルミルミさんの呪文を覚えている人いますか?」(ルミルミ…ハミハミ…グルグル…ポォンだったかなぁ~?)

『シィーーーン』

「まさかとは思いますが、誰も覚えていないんですか?」(やっぱり、グルグル・ハミハミ・グルグルだったと思います。)

 弦音が一生懸命に思い出そうとしていますが、これは無理そうです。それに誰も覚えていないようです。1人も名乗り出ません。でも、予想外の勇気ある人物が現れたようです。

「☆ルミルミ・グルグル・ル~ミル~ミ・ルミルミ・グルグル・ル~ミル~ミ・グルミンになぁ~れ☆だ。さあ、やるぞ!」(間違いねぇ。)

 源造が皆んなに見える場所に移動すると、腕と腰を回して完璧な踊りと呪文を披露してくれました。流石は頼れる隊長です。3人の女性陣が若干引いているようですが、気にしている場合ではありません。

「まさか、源さん……さあ、皆んなやるわよ‼︎グルグル・ルミルミよ。」(見なかったフリをしましょう。)

「ハナさん、違う。☆ルミルミ・グルグルだ!逆だ。あと、腕は右回しから左回しだ。しっかりと覚えるんだぞ。」(フゥ~~、これは教えるのに苦労するな。)

 呪文はしっかりと間違いなく唱える必要があります。順序を間違うのは素人がやる事です。潰れそうな地元商店街を盛り上げる為に必死に覚えた踊りが役に立つ日がまたやって来ました。源造が徹底的に呪文と踊りを覚えさせます。

「こうですね?わぁ~、ちょっと難しいですね。」(スムーズには踊れませんね。)

「弦音ちゃん、違う。可愛いはいらないから本気で踊るんだ。本気で踊らないとお客さんの心は動いてくれないぞ。さぁ、もう一度だ。」

 弦音は余計な動きを増やして、可愛さをアップしているようです。無駄な振り付けは必要ありません。一糸乱いっしみだれぬ完璧な動作が最も美しいのです。可愛いは罪です。あの日のイベントが不評だったのは身体が付いて来れなかったからで、爺さん達が踊っていたのが原因ではないはずです。きっとそうです。

「そんな動きでどうする‼︎最近の学校はダンスも必須科目なんだぞ!キビキビ踊れ‼︎」(盆踊りじゃないだぞ。もっとスピード感を出しやがれ!)

 源造のスパルタ指導によって全員がしっかりと呪文と踊りを覚える事が出来ました。練習の結果、ルミルミと同じように1人でも物グルミン化する事も、解除する事も出来るようになりました。やはり、マスターズになる事で特殊な能力が覚醒するようです。

「おぉ‼︎この黒い綿は絶対に闇綿だな。……本当は風綿が欲しいんだけどな。四大元素を混ぜれば凄いのが作れそうな予感がするのに残念だぜ。」(ゲームなら、火、水、風、地の四つの元素を混ぜれば大抵は凄いのが完成するからな。)

「私達が明日の昼頃にまたやって見るわよ。風綿ねぇ~?扇風機があれば行けそうな感じがするんだけど、団扇うちわでやってみるしかないわね。」

 スパルタ授業が終わった後にハチが1人で夜空に向かって魔法を使いました。どうやら闇綿が作れたようです。普通に考えれば夜が闇綿なら、昼は光綿が出来れそうですが、翌日から日向ぼっこをしながら風綿を作ろうと2人の婆さんは頑張りました。残念ながら送迎車の中で冷房を使って氷綿を作ろうとしていた弦音に先を越されました。彼女の手には出来たばかりの小さな風綿がしっかりと握られていました。これで基本の四大元素が揃いました。やっぱり若い方が柔軟な考え方が出来るようです。2人の婆さんは手の中の光綿を握り潰しました。

 ◆次回に続く◆



 
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