「死にたいようだな!スキル『絶体絶命』これを使ったら俺もピンチになるが、お前もピンチになる。使われたくないなら降伏しろ!」

もう書かないって言ったよね?

文字の大きさ
12 / 16
第1章・冒険者編

第12話

しおりを挟む
 彼は何を言っているのか訳が分かりませんが、黙っていると次々に別の男達も話し始めました。
 「便利なスキルだよな。物だけじゃなくて、経験値やスキル、記憶まで盗めるんだろ?さっきの蜂の巣も街の外で盗んで来たのか?」
 「違うよ!僕が自分で取って来たんだよ!」
 「ああ、盗って来たんだろ。返してくれないか?」
 どう話しても、会話が成立しません。
 説得する方法を考えますが、スキル『交渉』や『説得』を使おうとしたら、すぐにバレて疑いが深まるだけです。
 「僕のステータスを全部調べれば分かるから、『盗む』スキルなんって無いよ!」
 『鑑定』スキルを持った人が何人かいるようで、椅子に座っている彼をじぃ~っと見ています。
 「……っ……くっ……あぁ……ちっ……ふざけんな!多過ぎだ!」
 余りにも多過ぎるスキルの数に、ついに1人がキレてしまい、ボォカァと彼の顔面を殴ってしまいました。
 「何個あるんだよ?200個以上は見たけど、『盗む』系のスキルは無かったぞ!」
 「やっぱり『????』が怪しいな。自信満々で『全部見ろ』なんて最初から怪しいと思ってたんだよ!」
 (……ちょっと痛いけど、大人に殴られても平気みたい……)
 彼は殴られた右頬を、右手の手の平で摩ると、『続きをどうぞ』と『鑑定』の再開を求めました。
 
 ・
 ・
 ・

 数時間に及ぶ『鑑定』の結果、彼の無罪が証明されました。
 『盗む』のスキルは持っていませんでした。
 でも、一部の人というよりも、全員がスキル『????』が怪しいと最初から思っていました。
 彼は依頼の報酬は結構ですと、ギルドから出て行こうとしましたが、ボォカァ、ドォス、ガァツンと数人から殴られると、力尽くで椅子に引き戻されました。
 「ぐっす……こんなことして許されると思っているのか!今すぐに僕を解放しないと役所に訴えるぞ!」
 流石にちょっと痛かったです。涙は見せないように我慢しますが、大勢の大人に囲まれる恐怖は、4人のイジメっ子とは比較になりません。
 (……全員倒して逃げれば罪を認めているようなものだし、空に飛んで逃げても、なんか指名手配されそうだし……)
 いきなり男の1人にドォス、バァカーンと鞘に入ったままの剣で突かれて殴られました。
 「何時間、待たせるんだよ!さっさと締め上げて吐かせるぞ!」
 彼がギルドに来てから、もう4時間は過ぎました。彼もそろそろ限界でした。
 「うっうっ、ぐっす……すみません。トイレに行きたいんですけど……」
 「チッ、そこの通路の奥を右に行けばあるから、さっさと済ませて来い!」
 彼は『すみません、すみません』と謝りながら、トイレに走って行きました。
 「……トイレの窓から逃げるんじゃないのか?」
 筋肉ガチムチの冒険者がなんとなく思った事を話しました。
 何人かのならず者が急いでギルドの外に出てから、外側からトイレの窓を見張っていました。
 「このクソ餓鬼!ぶっ殺すぞ!」
 「てめぇ~暴れるんじゃねぇ!」
 どうやら予想が当たったようです。彼が再び引き摺れながらギルドの建物に入って来ました。
 ドォカァと椅子に無理矢理、座らされると、口を真っ黒なマスクで隠しているならず者の男が近付いてきました。
 「盗みは1回目は利き手の切断。2回目は反対側を切断。3回目は死罪だ。右手と左手どっちだ?」
 「本当にやってません……僕は無実です。」
 「だったら逃げんじゃねぇ!」
 どうせ逃げなくても結果は遅かれ早かれ同じだったと思いますが、この人達は彼に簡単に短時間でいくつもの依頼を達成されたのが悔しいのです。
 しかも、正体不明のスキルの事になると、一切話そうとしません。
 「「「切れ!切れ!切れ!切れ!」」」
 このままだと右手が無くなってしまいます。
 彼は女神様との約束をもう一度だけ、破る事に決めました。
 「待って!僕の固有スキルは『絶体絶命』このスキルを使ったら、僕もピンチになるけど、おじさん達もピンチになる危険なものなんだ。だから女神様がスキルを見えないようにしているんだ。だから『盗む』スキルじゃないよ。分かったら僕を解放して、しないならスキルを使うよ?」
 シィ~~んとさっきまでの騒ぎが嘘のように静かになりました。
 (……やっぱり普通は信じないよね)
 彼も言ったものの信じてくれないのが当たり前です。
 建物の中の人も、隣の人と顔を見合わせて、どうしようかと考えているようです。
 「嘘付くなら、もっとマシな嘘を付くんだな」
 「「「舌!舌!舌!舌!」」」
 建物の中で『舌』という単語が響きます。
 どうやら、嘘つきの泥棒は舌も切られてしまうようです。
 チョキン、チョキンと音を鳴らして、紙を切るために使っていた鋏を、元冒険者のおじさんが引き出しから持ってきました。
 「坊主……今なら本当のことを話せば右手だけで済むんだぞ?怒らないから本当の事を話すんだ」
 彼の耳元で、彼にだけ聞こえるように小声で聞きました。
 「信じて、おじさん。本当に盗んでいません!僕が頑張って、森や海岸まで行って取ってきたものです!」
 彼も最後まで本当のことを言い続けますが、元冒険者のおじさんは怒りを滲ませながら言い放ちました。
 「クソッタレ!……今のがラストチャンスだった!どうやら一度、本当に痛い目に遭わないと分からないようだな!」
 黒マスクのならず者に鋏を渡すと、おじさんは離れていきました。
 

 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...