22 / 50

第22話 濡れ衣のマグカップペロペロジジイ

しおりを挟む
「おおおおおおい‼︎ こっちはこの辺で許すつもりはないぞ‼︎」

 私は素早く立ち上がると、ケイトに向かって吠えた。
 何なんだ、これは! 泥棒扱いされて、蹴られ叩かれ、それで謝罪はなしか!
 もう土下座程度で許されると思うなよ。罰として夕食抜きだ。

「まあまあまあ。落ち着いてよ、ギルっち。ケイトも反省しているし、勘違いでよかったじゃん」
「これが落ち着けるか! お前も私を犯人扱いしただろう!」
「にゃあ!」

 私を落ち着かせようとするミアの手を振り解いた。
 こいつも共犯だ。色々と言いたい事がある。
 灰色魔石があるのに隠していたのは、私に盗まれると思ったからだろう。
 まあ、そこは私に横領の罪があるから、百歩譲って仕方ない。理解しよう。
 安物の黒魔石と武器を使わせて、私を危険な目に遭わせたのも仕方ない。
 持ち逃げすると思ったのだろう。そこもなんとか理解してやる。
 問題は何故、この流れで私が夕食を作ると思った?

「これを見ろ!」
「「……」」

 バン! テーブルの上に白魔石を一個叩きつけた。
 ケイトとミアの視線が白魔石に集まっていく。

「私はお前達と違って疲れているんだ! そんなに飯が食いたいなら、自分達で作れ!」

 もう飯炊きジジイは終わりだ。
 手に入れたお宝を売って、私は独立する。
 そのぐらいの金は手に入るはずだ。

「んっ?」

 ゴリッと突然、私の左のこめかみに、硬く冷たい感触が突き付けられた。

「動いたら撃つよ。ギル、ポケットの中身を全部出して。それとも、脳味噌の中身全部出してみる?」
「えっ……」

 ソッと目だけ左に動かすと、パトリが銀色の銃(自動装填式拳銃)を持って、隣に立っていた。
 殺し屋のような冷たい視線と口調は、もう何十人も絶対に殺している。
 身体をピーンと硬直させて、絶対に刺激しないようにした。

「おかしな動きはしないでね。床掃除が大変だから」
「ど、どういうつもりなんだ⁉︎ わ、私を殺すつもりなのか⁉︎」
「それはギル次第だよ。ミィー、ギルは自分じゃ取り出したくないみたい。ポケットから取り出してあげて」
「う、うん、分かった!」

 パトリに言われるままに、ミアが慌ててポケットの中身を取り出していく。
 携帯電話、白魔石三個がテーブルの上に次々に置かれていく。
 ズボンのポケットを調べ終えると、次は足や腕に隠してないか叩かれて調べられる。
 もう何も隠し持っていないと分かったようだ。
 ミアがパトリに報告した。

「これで全部みたい」
「ちょうど良かった。四個あるなら、問題ないね。ケイトとミィーはリングの魔石を白魔石に交換して」
「うん、交換すればいいんだね」

 ケイトとミアの二人が、装着しているアビリティリングの黒魔石を白魔石に交換していく。
 人の事を泥棒扱いした癖に、自分達がやっている事は強盗じゃないか。
 あの隠していた灰色魔石も、男を騙して奪い取った物なんじゃないのか?

「くっ、いつもこんな事をしているのか? 恥ずかしくないのか? 人が苦労して手に入れた物を横取りするなんて」
「安心して。ギルが初めてだよ」

 そうか、それなら安心だな……安心できるかぁー! 
 常習犯は初めてって言うに決まっている。
 騙されると思うなよ!

 母さん、聞いてくれ。家を飛び出した娘は悪事に手を染めていたぞ。
 悪い友達と手を組んで、男を騙して、手柄を横取りしている。
 きっと、この車も殺した男から奪い取った物に違いない。
 そして、私もその男と同じ運命を辿る事に……。

「パトリ、交換したよ。ギルっちは殺すの?」
「殺さないよ。殺したら、夕食が作れないでしょう」
「確かにそうだね」

 ここまでやって夕食を作らせるとか、お前ら正気じゃないぞ!
 さっさと病院に行け!

「はい、ギル。もう動いていいよ」
「くっ、地獄に落ちても知らないからな」

 こめかみから銃を離すと、パトリはテーブルの上から白魔石を一個手に取った。
 自分のアビリティリングに嵌っている灰色魔石と交換しようとしている。

「最初から殺すつもりなんてないよ。ただ戦力差を同じにしたかっただけだよ」
「どういう意味だ?」
「ギル一人が凄い力を持つのは危ないでしょう。力尽くで言う事、聞かせられちゃうから」
「確かに浮気したぐらいだから、私達みたいな美少女にムラムラしちゃうかも」

 黙れ! 
 ジトッーと目を細めたミアが、自分の胸を隠して、私を睨んでいる。
 中盛りスレンダー体型にはまったく興味ない。
 特盛りグラマー体型になって出直して来い。

「安心しろ。お前達にそんな感情を持った事は一度もないぞ」
「嘘吐き。今日の朝、私の黒猫さんマグカップを舐め回していたのは、知っているんだからね!」
「マグカップ? 何の事を言っているんだ?」

 私が興味がないと言ったので、ミアが怒り出した。難しいお年頃なのだろう。
 黒猫のマグカップなら、冷蔵庫の奥に隠すように入れておいた。
 こうすれば、夜中に寝惚けて入れた事に出来る。

「ふぅ~ん、ギルっちには内緒にしてたけど、車外の映像はカメラでバッチリ録画してるんだよ。この変態!」

 ミアがリモコンのスイッチを押すと、車のフロントガラスに今朝の駐車場の映像が流れ始めた。
 そこには黒いマグカップを持った私が、コーヒーを飲んでいる姿が映っていた。

「こ、これは誤解だ! たまたま使っていたカップが、あれだったんだ!」
「だったら、何で車の下に隠したんだよ! ペロペロしてたくせに!」
「くぅぅぅぅーーー!」

 車の下にちょうどマグカップを隠したところで映像を停止されている。
 カメラを使うのは反則だろぉー。そんなの使ったら駄目だろぉー。
 普通に使っただけなのに、ペロペロしてないのに、言い逃れ出来ないじゃないか。

「ほら、ペロペロジジイは夕食をさっさと作りなさいよ。明日はあんたが倒したティラノサウルスの回収に行くんだから。早く寝て案内しなさいよ」
「はい、かしこまりました」

 ケイトに言われて、私は項垂れながらキッチンに向かった。
 徒歩三歩の距離だ。
 母さん、私達の可愛い娘はもうどこにもいないぞ。

「ほら、忘れ物」
「んっ? おっと!」

 ケイトに呼ばれたので、振り返った。
 ソファーに座ったままのケイトが、白魔石を投げてきた。
 それを慌てて両手でパシィとキャッチした。
 テーブルには四個置かれていたから、最後の一個だ。

「あんたの分よ。ペロペロジジイの癖に、まあまあ頑張ったんじゃないの」
「ああっ……ありがとうございます」

 褒められたので、思わず感謝してしまった。
 でも、よく考えれば、この白魔石は私が手に入れた物だ。
 五個中三個も奪われたのに、感謝したくもない。逆に感謝しろ。

「ほら、さっさと作って、シャワー浴びなさいよ。臭いんだから」
「はい……」

 よし、今日もシチューにしよう。
 嫌がらせを決めると冷蔵庫を開けた。
 圧縮した謎肉や野菜を取り出しながら、ついでに黒猫マグカップも取り出した。
 料理と一緒にテーブルに置くとしよう。

 ♢
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった

黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった! 辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。 一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。 追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜

犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。 これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

神罰カウントが見える追放技師は、兵器開発を断って辺境港で遺物工房をひらく

蒼月よる
ファンタジー
反宗教国家の遺物管理局で働いていた技師ジンは、危険な接続実験を止めたせいで「臆病者」として追放された。 彼には遺物の危険度――神罰までの目盛りが見える。 流れ着いた辺境港アルヴァスで、壊れたポンプを直し、止まった航路灯を点け、生活道具だけを作る小さな工房を始めるが、評判はすぐに軍と闇市場へ届いてしまう。 「兵器にしろ」と迫る圧力。 「便利なら危険でもいい」と進める上層。 数字が赤くなる前に、守るべきは誰の暮らしか。 追放技師の逆転工房譚。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

処理中です...