23 / 50
第23話 製造工場
しおりを挟む
「おっ……」
運転席に座る私の目に町が見えてきた。人が住む町だ。
車の積載量限界まで積み込んだオリハルコンを換金して、豪遊してやる。
屋根まで使って、たっぷりと積み込んだので、初給料が楽しみだ。
「大金仕送り楽しいなぁ~。ギルっちも沢山仕送りするだよねぇ~」
「……」
ソファーで騒ぐ猫娘には何も答えない。今は妻と息子の事は考えたくない。
仕送りをするのは、仕事が軌道に乗った後だ。
大金が手に入っても、調子乗って使えば、すぐに使い切ってしまう。
それでも、一部を廃都に貯金してきた。多少の豪遊ぐらいは許される。
数日前の朝、ティラノサウルスの所まで案内した私は解体作業を始めた。
リングと剣に白魔石を使って、ケイトと二人で大雑把に尻尾から輪切りにしていく。
もちろん切っても総量は変わらない。
車で積むには重過ぎるので、一度で廃都から町まで運ぶ事は出来ない。
何度も往復して運ばないといけない。
けれども、廃都の道路に置いていたら、盗まれるか、食べられてしまう。
話し合った結果、パトリに複数の高層ビルの屋上に運んでもらう事にした。
あそこまでは簡単には行けない。でも、私と同じように外壁を登れば可能だ。
その時は偉大な勇者に敬意を払って、お宝を与えるしかない。
「まずは【ファクトリー(製造工場)】に行って、荷物を降ろすわよ。これだと買い物も出来ない」
オリハルコンの床を滑りながら、ケイトがやって来た。
ソファーと金色の床の高さが一緒になっているので、立って歩く事が出来ない。
ファクトリーに行けば、金属と魔石は買取ってくれるそうだ。
ケイトの指示通りに道を進んでいくと、屋根が楕円形の建物に到着した。
「あの透明な壁の建物がファクトリーよ。裏に車が入れる入り口があるから、そこから入って」
「裏に回ればいいんだな」
指示通りに車を建物の裏に回して、長方形の大きな入り口からファクトリーの中に入った。
そこそこ広いファクトリーの中には、数種類の機械が置かれている。
あの大きなベルトコンベアの途中に、いくつか箱が付いているのは金属探知だ。
天井からぶら下がっている多数の四本指の腕が、ガラクタと金属を自動で仕分けしてくれる。
よし、分かるのは、あれだけだな。降りるとするか。
こっちは現場の第一線で戦っていた営業だ。
商品の知識はあるが、裏方の仕事道具までいちいち覚えていられない。
「よぉー、嬢ちゃん達。買取りか?」
「はい、オリハルコンをお願いします」
「ほぉー、オリハルコンか。だとしたら、ティラノサウルスだな。なかなかやるじゃないか」
「そんなぁ~、まぐれですよぉ~」
車から降りたケイトが嬉しそうに、短髪灰色の四十代の男と話している。
少し日に焼けた茶色い肌にたくましい筋肉、その筋肉の上に紺色のタンクトップと黒の長ズボンを着ている。
腰には暑いのか脱いだ黒の上着を結んでいる。着ないなら、ロッカールームに置けばいい。
あんな男がタイプなのか? 趣味が悪いな。断固阻止しなければ……。
「どうも、いつも娘がお世話になっています。ケイトの父親のギルバートです」
右手を握手の形にして、ズカズカと二人の会話に割り込んだ。
当然、アビリティリングのスイッチは既にオンにしている。
筋肉男に硬い握手を強要して、顔を歪めさせてやった。
「うぐっ! いえいえ、こちらこそ、お嬢さんにはいつもお世話になっています。工場主任をしているアドルフです。いやぁ~、お父さんですか。二人でお仕事なんて仲が良いんですね」
お前にお父さんと呼ばれる筋合いはないぞ。
娘には馴れ馴れしく話していた癖に、私には随分と礼儀正しいな。
痛いのか? 痛かったのか?
コイツ、痛みを我慢しやがった。絶対にケイトに気がある。
歳を考えろよ、中年が。
「ええ、仲が良いんですよ。これから買い物に行くんで、出来れば早く買取ってくれると助かるんですけどね」
「もぉ~、お父さん、暑苦しいよぉ~。さっさと離れないとブチ殺しちゃうよ」
ケイトの肩に腕を回して、仲良し親子アピールをする。
ケイトの方も我慢して、仲良し親子アピールをするつもりがあるようだ。
一度も聞いた事のない可愛い声で話してきた。
「はっはは。分かりました。そういう事なら急がないといけませんね。おーーい、買取りだ! 車から運ぶのを手伝ってやれ!」
「うっす!」「へーい!」
愛想笑いを浮かべるアドルフが大きな声で作業員達に呼びかける。
それぞれが返事をすると、六人程がキャンピングカーに走っていった。
ミアとパトリからオリハルコンを受け取ると、ベルトコンベアに乗せていく。
気に食わない奴だが、多少の権力を持っていると思っていいかもしれないな。
娘に気があるなら、父親として、それを最大限に利用して貢がせてやる。
そして、ボロ雑巾のように捨ててやる。
「いやぁー、凄い。私と同い年ぐらいなのに工場主任なんて」
「いえいえ、全然大した事ないですよ。任されているのは、この辺のフロアだけですし、お父さんの方が凄いですよ。その腕のは白魔石ですよね?」
アドルフが私の右腕につけているアビリティリングを手で指して聞いてきた。
コイツ、またお父さんと言ったな。
ムカつくので、ケイトの右腕を掴んで、白魔石のペアリングを見せてやった。
羨ましがればいい。
「ええ、娘とお揃いなんですよ」
「ちょっと!」
「いやぁ~、羨ましい。本当に仲が良いんですね。うちの娘は絶対にペアリングなんてしてくれませんよ」
「んっ? 結婚しているんですか?」
「ええ、結婚十八年目です」
「へぇー、そんなんですか。私は二十二年目ですけどね」
指輪をつけてないから独身だと思っていたが、違ったようだ。
ズボンのポケットから金色の指輪を取り出した。多分、オリハルコン製だろう。
なんだ、既婚者か。なら安心……逆に安心できるか!
結婚していても、年頃の娘がいても、浮気する時はする。それが男という生き物だ。
私が言うんだ。間違いない!
「それそれはそうと……リング本体はミスリル製なんですね」
「何か問題でもあるんですか?」
右拳に顎を乗せて、アドルフが難しい顔をしている。
確かに鉄の指輪にダイヤモンドを取り付けたような見映えの悪さがある。
ダイヤモンドなら、純銀か、プラチナの指輪に取り付けた方が見映えは良さそうだ。
「しばらくは問題ないと思いますが、使い続けていると魔石の力に負けて壊れてしまいます。長期間使用するなら、オリハルコン製に変えた方がいいですよ」
「それは困ったな。余計な出費はしたくないんだが……」
「よろしかったら、工場内のカスタムショップ(工房)でオリハルコン製に変えましょうか? 材料をお持ちなので、特別割引き価格でお引き受け出来ますよ」
特別割引き価格⁉︎ 自分以外にも、その言葉を使っている人間がいたんだな。
そんな特別割引き価格だが、そのチャンスをケイトは断ろうとしている。
理由は簡単だ。お金がないからだ。
「すみません、アドルフさん。いま手持ちのお金がなくて……」
「大丈夫だよ。オリハルコンの買取り金額から差し引いておくから」
「すみません、ありがとうございます!」
ケイトは沈んだ表情から、パァッと花が開いたような明るい表情になった。
両手でアドルフの手を握って凄く感謝している。
普段のあいつを見ているから、見ていて凄く気持ち悪いな。
「こんなの大した事じゃないよ。さあ、お父さん。こちらです」
「ああ……」
もうお父さんでもいいかもしれない。
アドルフに案内されながら、私はミアとパトリも誘って、カスタムショップに向かった。
どうせなら、全員分を特別割引き価格でやってもらおう。
♢
運転席に座る私の目に町が見えてきた。人が住む町だ。
車の積載量限界まで積み込んだオリハルコンを換金して、豪遊してやる。
屋根まで使って、たっぷりと積み込んだので、初給料が楽しみだ。
「大金仕送り楽しいなぁ~。ギルっちも沢山仕送りするだよねぇ~」
「……」
ソファーで騒ぐ猫娘には何も答えない。今は妻と息子の事は考えたくない。
仕送りをするのは、仕事が軌道に乗った後だ。
大金が手に入っても、調子乗って使えば、すぐに使い切ってしまう。
それでも、一部を廃都に貯金してきた。多少の豪遊ぐらいは許される。
数日前の朝、ティラノサウルスの所まで案内した私は解体作業を始めた。
リングと剣に白魔石を使って、ケイトと二人で大雑把に尻尾から輪切りにしていく。
もちろん切っても総量は変わらない。
車で積むには重過ぎるので、一度で廃都から町まで運ぶ事は出来ない。
何度も往復して運ばないといけない。
けれども、廃都の道路に置いていたら、盗まれるか、食べられてしまう。
話し合った結果、パトリに複数の高層ビルの屋上に運んでもらう事にした。
あそこまでは簡単には行けない。でも、私と同じように外壁を登れば可能だ。
その時は偉大な勇者に敬意を払って、お宝を与えるしかない。
「まずは【ファクトリー(製造工場)】に行って、荷物を降ろすわよ。これだと買い物も出来ない」
オリハルコンの床を滑りながら、ケイトがやって来た。
ソファーと金色の床の高さが一緒になっているので、立って歩く事が出来ない。
ファクトリーに行けば、金属と魔石は買取ってくれるそうだ。
ケイトの指示通りに道を進んでいくと、屋根が楕円形の建物に到着した。
「あの透明な壁の建物がファクトリーよ。裏に車が入れる入り口があるから、そこから入って」
「裏に回ればいいんだな」
指示通りに車を建物の裏に回して、長方形の大きな入り口からファクトリーの中に入った。
そこそこ広いファクトリーの中には、数種類の機械が置かれている。
あの大きなベルトコンベアの途中に、いくつか箱が付いているのは金属探知だ。
天井からぶら下がっている多数の四本指の腕が、ガラクタと金属を自動で仕分けしてくれる。
よし、分かるのは、あれだけだな。降りるとするか。
こっちは現場の第一線で戦っていた営業だ。
商品の知識はあるが、裏方の仕事道具までいちいち覚えていられない。
「よぉー、嬢ちゃん達。買取りか?」
「はい、オリハルコンをお願いします」
「ほぉー、オリハルコンか。だとしたら、ティラノサウルスだな。なかなかやるじゃないか」
「そんなぁ~、まぐれですよぉ~」
車から降りたケイトが嬉しそうに、短髪灰色の四十代の男と話している。
少し日に焼けた茶色い肌にたくましい筋肉、その筋肉の上に紺色のタンクトップと黒の長ズボンを着ている。
腰には暑いのか脱いだ黒の上着を結んでいる。着ないなら、ロッカールームに置けばいい。
あんな男がタイプなのか? 趣味が悪いな。断固阻止しなければ……。
「どうも、いつも娘がお世話になっています。ケイトの父親のギルバートです」
右手を握手の形にして、ズカズカと二人の会話に割り込んだ。
当然、アビリティリングのスイッチは既にオンにしている。
筋肉男に硬い握手を強要して、顔を歪めさせてやった。
「うぐっ! いえいえ、こちらこそ、お嬢さんにはいつもお世話になっています。工場主任をしているアドルフです。いやぁ~、お父さんですか。二人でお仕事なんて仲が良いんですね」
お前にお父さんと呼ばれる筋合いはないぞ。
娘には馴れ馴れしく話していた癖に、私には随分と礼儀正しいな。
痛いのか? 痛かったのか?
コイツ、痛みを我慢しやがった。絶対にケイトに気がある。
歳を考えろよ、中年が。
「ええ、仲が良いんですよ。これから買い物に行くんで、出来れば早く買取ってくれると助かるんですけどね」
「もぉ~、お父さん、暑苦しいよぉ~。さっさと離れないとブチ殺しちゃうよ」
ケイトの肩に腕を回して、仲良し親子アピールをする。
ケイトの方も我慢して、仲良し親子アピールをするつもりがあるようだ。
一度も聞いた事のない可愛い声で話してきた。
「はっはは。分かりました。そういう事なら急がないといけませんね。おーーい、買取りだ! 車から運ぶのを手伝ってやれ!」
「うっす!」「へーい!」
愛想笑いを浮かべるアドルフが大きな声で作業員達に呼びかける。
それぞれが返事をすると、六人程がキャンピングカーに走っていった。
ミアとパトリからオリハルコンを受け取ると、ベルトコンベアに乗せていく。
気に食わない奴だが、多少の権力を持っていると思っていいかもしれないな。
娘に気があるなら、父親として、それを最大限に利用して貢がせてやる。
そして、ボロ雑巾のように捨ててやる。
「いやぁー、凄い。私と同い年ぐらいなのに工場主任なんて」
「いえいえ、全然大した事ないですよ。任されているのは、この辺のフロアだけですし、お父さんの方が凄いですよ。その腕のは白魔石ですよね?」
アドルフが私の右腕につけているアビリティリングを手で指して聞いてきた。
コイツ、またお父さんと言ったな。
ムカつくので、ケイトの右腕を掴んで、白魔石のペアリングを見せてやった。
羨ましがればいい。
「ええ、娘とお揃いなんですよ」
「ちょっと!」
「いやぁ~、羨ましい。本当に仲が良いんですね。うちの娘は絶対にペアリングなんてしてくれませんよ」
「んっ? 結婚しているんですか?」
「ええ、結婚十八年目です」
「へぇー、そんなんですか。私は二十二年目ですけどね」
指輪をつけてないから独身だと思っていたが、違ったようだ。
ズボンのポケットから金色の指輪を取り出した。多分、オリハルコン製だろう。
なんだ、既婚者か。なら安心……逆に安心できるか!
結婚していても、年頃の娘がいても、浮気する時はする。それが男という生き物だ。
私が言うんだ。間違いない!
「それそれはそうと……リング本体はミスリル製なんですね」
「何か問題でもあるんですか?」
右拳に顎を乗せて、アドルフが難しい顔をしている。
確かに鉄の指輪にダイヤモンドを取り付けたような見映えの悪さがある。
ダイヤモンドなら、純銀か、プラチナの指輪に取り付けた方が見映えは良さそうだ。
「しばらくは問題ないと思いますが、使い続けていると魔石の力に負けて壊れてしまいます。長期間使用するなら、オリハルコン製に変えた方がいいですよ」
「それは困ったな。余計な出費はしたくないんだが……」
「よろしかったら、工場内のカスタムショップ(工房)でオリハルコン製に変えましょうか? 材料をお持ちなので、特別割引き価格でお引き受け出来ますよ」
特別割引き価格⁉︎ 自分以外にも、その言葉を使っている人間がいたんだな。
そんな特別割引き価格だが、そのチャンスをケイトは断ろうとしている。
理由は簡単だ。お金がないからだ。
「すみません、アドルフさん。いま手持ちのお金がなくて……」
「大丈夫だよ。オリハルコンの買取り金額から差し引いておくから」
「すみません、ありがとうございます!」
ケイトは沈んだ表情から、パァッと花が開いたような明るい表情になった。
両手でアドルフの手を握って凄く感謝している。
普段のあいつを見ているから、見ていて凄く気持ち悪いな。
「こんなの大した事じゃないよ。さあ、お父さん。こちらです」
「ああ……」
もうお父さんでもいいかもしれない。
アドルフに案内されながら、私はミアとパトリも誘って、カスタムショップに向かった。
どうせなら、全員分を特別割引き価格でやってもらおう。
♢
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
66
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる