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第31話 メタルスライム?

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「んっ……ふっ……」

 暖かい光が目蓋の先に見える。
 ゆっくりと眠っていた意識が、引っ張り上げられているような心地良い感じだ。
 確か、百人以上の革ジャンの集団に暴行されたところまでは記憶にある。
 実にリアルな夢だった。
 現実的に考えれば、そんな危険な目に私が遭うはずがない。
 会社をクビになって、キャンピングカーに乗って、娘にこき使われるなんて有り得ない。
 実にリアルで悪い夢だった。
 さあ、ギルバート。起きる時間だ。会社に行かないといけない。

「んっ……何だこれは? ここは何処だ⁉︎」

 バンバンバン! 目覚めると、目の前には透明な蓋があった。
 透明な丸みのある蓋を力尽くで持ち上げて、急いで外に脱出すると、状況を確認した。

「私の部屋じゃない……酔っ払って変な場所に来てしまったのか?」

 縦二十五メートル、横幅三メートル、高さ四メートル程の長方形の明るい空間に私はいた。
 壁も床も鉛色の金属で覆われている。
 どうやら、カプセル型の楕円形のベッドに寝ていたようだ。
 そして、寝ているのは私だけじゃないようだ。
 横並びにずらっーと同じカプセルが二十台近くある。
 変なホテルに泊まったのか?

「こいつ……下っ端グラサンじゃないのか?」

 室内を軽く歩いて、カプセルの中を見ていく。カラ、カラ、カラと誰も寝ていない。
 そして、やっと一人見つけた。カプセルの中には茶髪でオールバックの男が寝ていた。
 サングラスをかけてないので、いまいち確信は持てないが、服装はグラサンと一緒だった。

「間違いない。夢の続きは起きて見ろという事か」

 何を言っているのか自分でも分からなかった。
 分かっている事は革ジャンの集団に襲われて、リンチされた後に治療されたという事だ。
 身体は少しダルいが、痛みはない。
 とりあえず、あそこに見える扉から外に出てみよう。
 まずは何処にいるのか、分からないと何も出来ない。

「なっ! お前は……!」

 そう思って、扉に向かって移動していた。
 そんな時に扉がゆっくりと開いていった。
 開いた扉からは白黒の革ジャンを着た男が現れた。
 バイアスだ。

「三日振りだな。動けるなら、ちょうどいい。娘と一緒に仕事をしてもらう」

 右手の拳を握り締めて、目の前に現れたバイアスを憎々しい感情で見た。
 ここがどこなのか嫌でも分かった。
 リンチされた後に、町の病院に運ばれた訳じゃないようだ。
 私の右手首にはアビリティリングが付いていない。
 取り上げられてしまったようだ。
 それに三日振り……つまりは三日間も寝ていた訳か。

「娘は無事なんだろうな?」
「お前と同じで治療済みだ。一日で回復した。残っているのは、重傷のレヴィとお前だけだ」
「そうか……変な事はしていないだろうな!」

 ケイトが無事だと聞いて少し安心してしまった。
 けれども、三日間の間、何もされない訳はない。
 いやらしい事をされている可能性がある。いや、かなりある。
 こいつらは屑野朗だ。絶対にしている。

「お前の考えているような事はしていない。これから大きな仕事をするのに、統率の取れない気の緩んだ馬鹿を作るつもりはない。さて、仕事の話をしようか。時間がないからな」

「はぁっ? やる訳ねぇだろ!」と言いたい。言いたいけど、大人は状況を見て判断しないといけない。
 アビリティリングを取り上げられ、娘を人質に取られた状況で、相手を怒らせて何の意味がある。

「大した仕事は出来ないからな」
「問題ない。重要な仕事を任せるつもりはない。お前達四人には囮になってもらうだけだ」

 お前達四人? つまり、ミアとパトリも一緒に仕事するのか。

「囮? 何の囮だ?」
「住宅街の怪物の噂を聞いた事があるか?」
「ああ、それぐらいは知っている。遭遇死亡率百パーセントの正体不明の不死身の怪物だろう」

 つまりはその怪物に対しての囮役、リンチして殺すよりは有効利用しようという訳か。
 車が無ければ、囮役の途中で逃げ出せたとしても、町には帰れない。
 結局は最後まで仕事をしないと助からない。
 絶対に逃げ出せない仕事で、終わったとしても、どうなるか分からない。
 それでも、やるしかないという最悪の仕事だな。

「不死身ではあるが、正体不明ではない。住宅街の怪物はコイツだ」

 バイアスは革ジャンのポケットから手帳を取り出して、一枚の写真を渡してきた。
 受け取った写真には、荒れた地面に濃い灰色の水溜りが映っているだけだった。

「……これが怪物? 溶けた金属が広がっているようにしか見えないぞ」
「そいつは【メタルスライム】。液体金属と言えば分かるな。身体を好きなように変化させる事が出来る。もちろん、人間にも変われる」

 液体金属……確か液体形状記憶合金装置だったな。
 溶かした金属を好きな形に作り変える機器で、ミスリルやオリハルコンの武器を作る時にも使われている。
 だが、溶かして別の形に作り変えて安定させるには、最低でも十五分以上はかかる。
 それにこれは溶けた金属そのものだ。機器を使わずに変われるとしたら相当に凄い。

「つまりはコイツを引きつけている間に、住宅街の骨董品を根こそぎ回収する訳か。分け前は貰えるんだろうな?」
「何を言っている。WBはゴミ漁りのジャンク屋とは違う。狙うのは怪物だけだ」

 いや、不機嫌そうに言われても困るんですけど……。
 それ、不死身だから倒せないんですよね?
 倒せないのを倒すんですか? 倒せないから倒せないんじゃないですか?
 わたくし、何か間違った事を言いましたか?

 もちろん、思うだけで絶対に言わない。
 今度は治療してくれるとは思えない。
 黙って、お口にチャックだ。

「いいか。コイツらは本体から切り離された分身だ。倒せないのは魔石を持っていないからだ。お前達囮役の役割は、分身を本体から引き離して、本体を弱体化させる事にある」

 黙っている私の代わりにバイアスがペラペラと計画を話していく。
 結局は未知の怪物倒しが目的だ。
 未知の怪物で未知の魔石を手に入れようという訳だ。
 確かに炎の魔石が三十万ドルもするんだ。
 最低でも、三十万ドル以上の価値はありそうだ。

「つまりは囮役が頑張っている間に、あんたが精鋭と一緒にメタルスライムの本体を倒すのか」
「魔石を持つ本体は未確認だ。いるかどうかも不明だ。ただし、潜伏している場所は分かっている。そこを調べれば何か見つかるだろう。お前は連絡があるまで何日間も囮役をやり続ける。分かったな?」

 不確定な情報が多くて、上手くいくのか微妙だな。
 まあ、拒否権がないのは分かっている。やるしかない。
 頭を下げて、こちらこそお願いします感を全開に出して返事をした。

「はい、娘と一緒に精一杯頑張らさせてもらいます」
「ああ、そうしろ。それと娘には感謝しておくんだな。無償で仕事を手伝う代わりに、お前の治療を頼んで来た。でなければ、そのまま荒野に放置して、今頃は死んでた。助かった命は大切にするんだな」
「ケイトが……」
「外に出ろ。お前以外の出発の準備は出来ている」

 まさかケイトが私を助ける為に、そんな事をするとは夢にも思わなかった。
 複雑な心境でバイアスと一緒に扉の外に出ると、廃都の街並みが見えた。
 私がいた部屋のような場所は、大型トレーラーの荷台の中だった。
 治療用のベッドが二十台もあるとは、相当な金を持っているな。
 もう一台のトレーラーも同じなら四十台以上か……このまま雇ってもらえないだろうか?

「娘はあそこにいる。すぐに出発しろ。メタルスライムを見つけたら、連絡して引き離せ」
 
 バイアスは広い駐車場の一画を指差している。
 そこには武装したケイト、ミア、パトリを二人の男が監視するように立っていた。

 ♢
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