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第34話 冷酷無比な犯罪者達

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「パーカー‼︎ バイアスさんは女に手を出すなと言ったんだ! 今すぐにその手を離さないと報告するぞ!」

 私が動く前に、誰よりも早くロミオが動いた。
 焼きそばの入った皿を瓦礫のテーブルに乱暴に置くと、声を荒げて立ち上がった。
 私と同じで相当怒っている。流石はブラザーだ。
 左手にはズボンにぶら下げていた四角い無線機を握り締めている。

「はぁっ? おいおい、ロミオ。いつ俺がバイアスさんの命令に逆らったんだ? 言ってみろよ」
「これから逆らおうとしているじゃないか!」
「おいおい、何もしてないのに犯人扱いかよ。仲間を疑うなんて酷い奴だな。それに何か勘違いしてないか?」
「勘違いだと? 男女が寝るという意味に他にどんな意味がある」

 激怒しているロミオに対して、ケイトの腕を離したパーカーは悪びれる様子もない。
 それどころか、ケイトの方から誘ってきたと言い出し始めた。
 
「この金髪がお礼がしたいって言うから、仕方なく相手してやるんだよ。そうだろう、金髪?」
「……」

 ニヤニヤと笑いながら、パーカーは座っているケイトの頭を撫でている。
 ケイトは地面に俯いたまま返事が出来ずに黙っている。
 何がお礼だ。拒否したら、反抗したと嘘の報告をして、私達全員をリンチさせるつもりだろ。
 ケイトが逆らえないと分かっているから、何でも好き放題に出来ると思ってやがる。
 そんな事は絶対にさせない。お前一人ぐらいは仲間が来る前に殺してやれる。

「お前が断ればいい話だ。あんたは何もしなくていい。疲れたなら一人で寝てくればいい。怖いなら、俺が添い寝してやるよ」

 そんな私の気持ちに応えるように、ロミオはケイトを庇うように、パーカーの前に立った。
 髪はボサボサ、身体は痩せているけど、ロミオ、お前は男の中の男だ。
 そんな屑に負けるんじゃないぞ。

「おい、ロミオ。馬鹿言ってないで、その無線機を地面に置けよ。猫に鳥にお前も好きな方を選べよ。この金髪が気に入っているなら、俺の後なら使ってもいいぞ? なぁ、お前も楽しめよ」
「お前と一緒にするな!」
「おいおい、俺に興奮するなよ。興奮するなら、女相手にしろよ。勿体ねぇぞ」
「もういい、報告する。お前には何を言っても通じないようだ」

 男らしいロミオに向かってパーカーは馬鹿なのか、汚らわしい誘惑をする。
 ロミオはそんな男じゃない。下衆なお前と一緒にするな。
 もう終わりだ。ロミオが左手に持つ無線機を口元に近づけていく。

「待て待て、よく考えろ。明日には怪物と接触するんだ。その時、お前も俺も死ぬかもしれないんだぞ。今日が最後の夜だ。何もせずに終わるか、楽しんで終わるか。お前は最後の夜をどう楽しみたいんだ?」
「……」

 しつこい野郎だ。何を言っても、ロミオの返事はノーだ。
 そんなに誰かと寝たいなら、私も添い寝してやる。
 娘と同じ金髪サラサラだ。これなら文句ないだろう。
 男同士三人で朝まで楽しもうじゃないか。

「分かった。お前がそういうつもりなら仕方ないな」

 ロミオは静かにそう言うと、ソッと地面に無線機を置いた。
 ロミオ? 何をするつもりだ?
 そいつを殴って止めるつもりなら、私も手伝ってやるぞ。
 力尽くで添い寝させるつもりなら、それも手伝ってやる。

「……さっさと済ませろ」
「あっはははは、そうだ! それでいいんだよ、ロミオ! おい、金髪。行くぞ」

 おい、ロミオ⁉︎ お、お前、何を言ってるのか分かっているのか⁉︎
 私の娘が乱暴されそうになっているんだぞ。
 止めろよ! 止めるんだよ! 報告しろよ!

 私の心の叫びを無視して、パーカーはケイトを車に連れて行こうとしている。
 ロミオは見ているだけで、助ける素振りも見せない。
 ケイトは力なく立ち上がると、真っ直ぐにパトリの方を見た。

「……パトリ、もういいよ」

 次の瞬間、パパァンと二発の銃声がすぐ近くで鳴り響いた。
 パトリが左右に持った銀色の銃を同時に発射したようだ。
 少し斜めに下がった二つの銃口の先には、壊れた無線機が二つ転がっている。
 驚くパーカーとロミオの視線がパトリに集まっていく。

「お、おい、鳥女……うっ、どういうつもりだ、こんな事して、おごぉおおおおお!」

 引き攣っている顔でパーカーがパトリを脅そうとしていたが、無駄だった。
 ケイトが素早く反転すると、すぐ後ろにいたパーカーの腹に左拳をめり込ませた。

「うるさいのよ、このクズ。静かにしなさいよぉ!」
「あひぃ‼︎ おおおおおおおおお~~~っ‼︎」

 グシャ‼︎ 腹を押さえて苦しんでいたパーカーの股間に、更に追い討ちの左膝蹴りが炸裂した。
 パーカーが股間を押さえながら、地面に膝をついて、次に頭をついた。
 もしかすると、私には予知能力があるかもしれない。
 この後、土下座態勢のパーカーの頭にケイトが足を乗せて、頭を思いっきり踏んづけるはずだ。
 ドガッ‼︎ あっ、やっぱり……。

「何してんのよ、ジジイ? さっさとその汚いロン毛を捕まえなさいよ。逃げられたら殺すわよ」

 ケイトがパーカーの右腕からアビリティリングを外しながら、怒鳴ってきた。
 えっ、ジジイ⁉︎ パパじゃないの?

「ギル、邪魔。動いたら、脳味噌ブチ撒けるよ」

 パトリが右手で私を軽く突き飛ばすと、ロミオの後頭部に銃口を斜め上に向けて、突きつけた。
 ロミオは両手を上げて、両膝をガクガクと震わせている。
 撃たれるのは時間の問題かもしれない。

「や、やめてくれ! 抵抗するつもりは——」

 パァン‼︎

「動くなって言ったよ」

 ロミオの身体が地面に向かって倒れていく。
 ロミオが喋った瞬間に、パトリは躊躇なく脳味噌をブチ撒けた。
「ロミオぉ~~~~‼︎」と地面に倒れている元ブラザーに、心の中で絶叫した。

「ハァ、ハァ、ハァ……お、お前達、何をしているんだ? こんな事をしたら……」

 軽く目眩がする。胃袋の中の焼きそばを外にブチ撒けたくなる。
 襲われそうになったから、仕方なく殺してしまったのは分かる。
 でも、こんな事をしたら駄目だ。だって殺人じゃないか。
 
「別に問題ないわよ。無線機は壊した。連絡は明日まで来ない。コイツらは分散しているし、戦闘中の奴らもいる。奇襲して各個撃破できるチャンスがやって来たの。ここまで、この私が我慢してやったのよ。当然、皆殺しにするに決まっているでしょう!」
「きゃああ!」

 ケイトは鞘から剣を抜くと、容赦なくパーカーの背中から心臓をブッ刺した。
 我慢できずに悲鳴をあげてしまった。
 ヤバイ、ヤバイ、母さん。娘が殺人犯になってしまったぞ!
 正当防衛を主張したいが、ちょっと無理かもしれない。
 明らかに計画的な犯行にしか思えないからだ。

「ギル、これはやるか、やられるかの戦争だよ。覚悟を決めないと駄目だよ。町に戻っても、ずっと奴隷扱いだよ。むしろ、町で戦うよりは今戦った方が断然有利な状況なんだから」
「そうそう、ギルっち。チャンスだよ。今なら人間に化けたメタルなんとかの所為に出来るんだから。殺し放題だよ」

 冷静にパトリが、嬉しそうにミアが状況説明を始めてきた。
 分かる。分かるよ。ついでに言わせてもらえば、仕事が終わっても町に戻れる保証はなかった。
 更についでに言わせてもらえば、明日の朝までに出来るだけ多くのチームを気付かれずに始末した方が良い。
 無線機に応答しないチームがここ一組だけだと、私達が何かやったとすぐに怪しまれる。
 でも、多数のチームが応答しなければ、メタルスライムにやられたと思ってくれるかもしれない。
 でも、やめてくれ! 横領だけで勘弁してくれ! これ以上、私に罪を重ねさせないでくれ!

「ほら、ジジイ。さっさと行くわよ。人間の皮を被った悪魔共を退治に行くわよ」
「ああっ……ああっ……」

 私の葛藤を無視して、ケイトがパーカーのショットガンを渡してきた。
 この銃を受け取ったら、もう後戻りは出来ない。
 この銃を私が受け取らなくても、きっとケイト達は三人で殺しに行くはずだ。
 そして、ここにパーカーとロミオの死体があるというのも変わらない事実だ。
 誰がやったのかは、もう問題じゃない。
 もう逃げられない殺し合いは始まってしまっている。

「寄越せ。人間に化けたメタルスライムを殺しに行くぞ!」

 ガシャン‼︎ ケイトから奪い取ったショットガンを勢いよく鳴らした。
 もう後戻りは出来ない。娘は殺人犯だ。
 共犯者にでも、何にでもなってやろうじゃないか。

 ♢
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