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第44話 屑野朗を超える外道女達

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『ギル、聞こえていたら、何も言わずに両手を上げて立ち上がって、そのまま動かないでね。準備が出来たから援護するよ』
「……」

 首の無線機からパトリの冷静な声が聞こえてきた。
 遅すぎる援護だ。もうケイトは戻って来ない。
 それでも、目の前の男を殺す事が出来るなら、何でも協力してやる。

「ぐっくぅ~~!」
「どうした? まだ戦いたいのか?」

 たった一度でいい。一度だけ立てる力があればいい。
 震える両足を動かして、力を振り絞って立ち上がった。
 そして、静かに両手を上げた。

「ハァ、ハァ……」
「それは何のつもりだ? 命乞いしても結果は変わらない。お前は死ぬ」

 両手を上げて立ち上がった私を見て、バイアスは降参のポーズだと思ったようだ。
 私もパトリに指示されたポーズをやっているだけだ。意味は分からない。
 でも、嘘でも降参しているとは言いたくない。

「誰がするか。命乞いでも降参でもない。殺したければ殺せ。お前はそれしか出来ない能無しなんだからな」
「ふっ、口だけはまだ動くようだな!」
「ぐほぉぉ!」

 砲撃ではなく、足蹴りが腹に叩き込まれた。
 痛みに声を上げ、二歩だけ後ずさりさせられた。
 でも、倒れなかった。もう絶対に倒れない。

『ちょっと、ギル。特別な弾丸だから、動かれると困るんだよ。もう動かないでね』
「ふっ、ふふふ……効かねぇーよ」

 こっちも動きたくて動いた訳じゃない。
 文句があるなら、さっさと援護しろ。
 準備は出来たんじゃなかったのか。

「どうした? 急に頑張るじゃないか。他にも仲間が二人いるから助けを待っているのか?」
「ミアとパトリなら、お前が監視役に寄越した屑野朗が乱暴した後に殺した。今はその敵討ちだ」

 二人が生きている事はバレてはいけない。
 誰か殺されないといけないなら、それは私一人だけで十分だ。

「お前達と一緒にいたのはパーカーとロミオだったな。俺の言いつけを守らない馬鹿がいたとは驚きだ。二人はどうした? お前がここに居るという事は殺したんだろう」

 分かっていた事だが、人選ミスを謝るつもりはないようだ。
 結局は私達がどうなろうと知った事じゃなかった、そういう事だ。

「ああ、殺した。次はお前を殺してやる」
「それは無理だと言った。現実と妄想の区別が出来ないのか?」
「殺すと言ったら殺す! 死んでもお前を殺してやる!」

 私の言葉をバイアスが信じているとは思えない。
 私を殺した後にミアとパトリの死体も探すだろう。
 見つかるはずはないけど、見つからなかったら生きている証拠になる。

「死んだら終わりだ。もういい。もしも、あの世で娘に再会したら謝るんだな。敵討ちは出来ませんでした、とな」
「くっ!」

 右腕の砲口が胴体に真っ直ぐに向けられた。
 話は終わりのようだ。これから何をするつもりなのか分かった。
 私の身体が灰になったとしても、機体に搭載されている白魔石には傷一つ付かないだろう。
 だからこそ、バイアスは容赦なく撃ってくる。

『そう、そのまま。ギル、砲口を狙っているから絶対に避けないでね』

 避けなければ死ぬだろう、というツッコミは今は言えない。
 そもそも、エネルギー弾が充填されている時に狙撃しないと駄目なのかと聞きたい。
 死んでもいいけど、出来れば、バイアスが死んだのを確認した後に死にたい。
 つまり、何が言いたいかというと……まだ撃たないのか?

「じゃあな」

 マジで発射一秒前だ。巫山戯る! 援護が遅過ぎる! 
 こうなったら、自分で砲口の中に腕を突っ込んだ方が早い。
 片腕を犠牲に止められれば上出来だ。
 四メートル先にいるバイアスに向かって走り出そうとした。

『ケイト、もういいよ』
「‼︎」

 でも、パトリの声に行動と思考を急停止させた。
 何を言っているのか理解する前に、機体の左側をヒューンと何かが通っていった。
 ドガァン‼︎ 次の瞬間、バイアスの右腕の砲口が爆発した。

「えっ⁉︎」
「があああああ~~~っ‼︎」

 バイアスが絶叫を上げて、機体の左手で右腕の二の腕を握り締めている。
 爆発した右腕の砲口周辺は、肘の近くまで吹き飛んで無くなっている。
 機体の右肘の先から、右手を失った生身の白い腕が見える。
 その腕から赤い血が滴り落ちている。
 
『ふっふふふふ。ついに私の出番だね。ギルっち、選手交代だよ。あとは私が片付けるから問題ないよ』

 無線機からミアの声が聞こえたと思ったら、一機の戦闘機が飛んできた。
 バイアスの仲間がやって来たのかと思ったが、飛行状態のままバイアスに足蹴りした。

「ぐごおおおっ!」
『にゃはは。まずは逃げられないように背中の羽根を壊すんだよね』

 間違いなく、私の味方だと思っていい。
 乗っているのはミアのようだ。戦闘機の六枚の翼をへし折ろうとしている。

「どういう事だ⁉︎ 状況が全然分からない。何で戦闘機に乗っているんだ? それよりも『ケイト、もういいよ』とはどういう意味なんだ!」
『…………』

 混乱する私は矢継ぎ早に質問していく。
 けれども、誰も答えてくれなかった。
 ムカついたので、大声で怒鳴った。
 
「おーーーーい‼︎ 誰でもいいから答えろよ!」
『にゃあああ‼︎』
『ギル、煩いよ。今、戦闘中だよ。静かにしないと、対戦闘機ライフルで脳天ブチ抜いて静かにさせるよ』
「すみません。静かにするので説明をお願いします」

 相変わらず、物騒な鳥だ。すぐに頭をブチ抜こうとする。
 そもそも対戦闘機ライフルとか便利な物があるなら、さっさとバイアスの脳天をブチ抜けよ。

『しょうがないから、馬鹿なギルにも分かるように教えるね』

 色々と言いたい事はある。でも、頭をブチ抜かれるのは困る。
 ミアがバイアスの戦闘機を破壊しているのを見ながら聞いた。

 対戦闘機ライフルは私の報告で戦闘機があると分かって、パトリがキャンピングカーから取ってきた。
 何故、そんな物騒な武器が車に積まれているのか聞くつもりはない。
 パトリは間違いなく、反社会的な人間だ。持っている理由はそれだけで十分だ。

 次にデスメタルスライムの出現を聞いて、ケイト達は行動を開始した。
 逃げているバイカー達を追跡して、攻撃して倒してきたそうだ。
 そして、黒いキャンピングカーの所で待機していると、一機の戦闘機が大鎌でやられてしまった。
 そこから私に無茶振りで、やられた戦闘機の代わりに戦闘に参加するように指示した訳だ。

 でも、途中でどれが私が乗っている機体か分からなくなったらしい。
 だから、とりあえず放置する事に決めたらしい。
 この時点で馬鹿はお前達だと言い返したい。

 それでも、首の無線機から聞こえてくる私の声と機体の動きで、何となく分かったようだ。
 その最終確認として、倒れている私に何も言わずに手を上げて立ち上がれと指示したそうだ。

 バイアスが倒れていて、手を上げて降参する場合もあるけど、無言で降参する人間はそうそういない。
 まあ、私としては左右の砲口が破壊された機体が私だろう? と普通に聞きたいところだ。
 援護射撃が恐ろしく遅かった原因が、馬鹿な狙撃手がターゲットが分からなくなったからだった。

「じゃあ、あの機体はどうやって手に入れたんだ? 戦闘機に乗っている相手から、どうやって奪ったんだ」

 パトリの簡単な説明を聞いたけど、まだ謎がある。
 戦闘機は無傷だ。戦って奪うとしても無傷は有り得ない。
 だとしたら、運良く機体から降りたところを狙ったとしか思えない。
 
『そんなの簡単だよ。バイクで逃げている人達を捕まえて、機体から降りないと撃ち殺すと脅したんだよ』
「つまりは脅迫して、奪い取った訳か」
『違うよ。殺すつもりはなくて、戦えないようにするだけだって説得したら、素直に降りてきてくれたんだよ』
「なるほど。アビリティリングを没収したんだな」
『あぁー、そういう方法もあったね』

 パトリとの会話が上手く噛み合わない。
 同じ内容なのに、一階と十階のように違う階層から見た感想を言い合っている感じだ。
 
「んっ? 半殺しにして、ロープで縛ってきたのか? それだと危ないんじゃないのか?」
『大丈夫だよ。キチンと一人残らず戦えないようにしてきたから』
「……」

 これ以上は聞いたら駄目な気がしてきた。
 殺意はないけど、戦えないように殺してきました、にしか思えなくなった。

 んっ? そういえば、逃げている連中を十二人殺したとか言ってなかったか?
 それに一度だけ無線機で男が三分で到着できると言っていた。
 その時、ケイト達は黒いキャンピングカーにいたはずだ。
 全然話が違う。辻褄が合わない。
 適当な事を言って、サボっていただけなんじゃないのか。

「そういえば、ミアが戦闘機に乗れるなんて知らなかったぞ。飛行まで出来るなんて凄いじゃないか」
『ウェイドっていう素直な人が教えてくれたよ。もう用済みだから、戦えないようにしてきたよ』
「そうか、それは良かったな……」

 やっぱり駄目だ! もう何も聞きたくない!
 黒いキャンピングカーの近くに、戦闘機と銃を頭に突き付けられているウェイドの姿しか見えない。
 やめろ。操縦の仕方を全部話したら、撃ち殺されるだけなんだぞ。

「パ、パトリ……ケイトは死んだんだよな?」
『んっ? 死んでないよ。ケイトなら白黒が茂みの中に放り投げた魔石を拾いに行ったよ』

 そんなサラッと言う事じゃないだろう。
 ケイトが死んだのにミアもパトリも冷静だから、おかしいとは思っていた。

「なっ⁉︎ じ、じゃあ……」

 いや、わざわざ聞く必要はないな。
 あの千切れた右腕がケイトの腕じゃないなら、他の誰かの腕だ。
 問題は死体から引き千切ったのか、操縦の仕方を話させる為にウェイドから引き千切ったものなのかだ。
 どっちにしても他人の腕を使って、死んだと見せかけるなんて、人間がやる事じゃない。

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