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第43話 娘ケイトの死亡

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「援護射撃を頼む。かなりピンチだ」
「何か言ったか?」
「大至急頼む……」

 バイアスに聞こえないように、小声で援護射撃を頼んだ。
 確信はないけど、あいつらなら私の機体を狙撃できる位置で待機しているはずだ。
 でも、無線機からはパトリではなく、ケイトの声が聞こえてきた。

『パトリは無理よ。私が行くから漏らさずに待ってなさい』
「なっ⁉︎」

 誰が漏らすか、と答えたくても出来ない。
 パトリの援護射撃を頼んだのに、ケイトが援護にやって来るらしい。
 剣を片手に援護に来ても秒殺されるだけだ。

「ボス、車が猛スピードで突っ込んで来ます。どうしますか?」
「通信で急いで確認しろ。応答がなければ威嚇射撃で止めろ。止まらなければ敵として排除しろ」
「分かりました。こちら——」

 アムロの声が聞こえてきた。
 どんな車がやって来るのか確認したいけど、それは無理だ。
 私の機体はバイアスの機体に胴体を踏み付けられて、砲口を向けられている。
 おそらく、ケイトが黒いキャンピングカーを飛ばして援護に来たのだろう。
 無茶をするな。エネルギー弾の的になるだけだぞ。

「さて、話の続きだ。お前は誰だ? 仲間は何人いる? どこの組織に所属している?」
「組織だと? ただの営業課だ。私はギルバートだ。車を撃つんじゃないぞ。撃てば魔石を握り潰す」
「……またお前か」
「まずは両手を上げて、右足を退けろ。早くしないと魔石を壊す」

 左腕に力を入れて、握っている球体を壊すと、バイアスとアムロを脅す。
 この状況をどうにかするには、メタルスライムの魔石を使うしかない。
 この球体の中に魔石があるのか分からないけど、ある可能性はかなり高いはずだ。
 これが壊れてしまったら、三十人近くの犠牲者を出した戦いが全て無駄になる。
 それはバイアスも望んでいない。この取引に必ず乗ってくれる。

「テメェー、ジジイだったのか! ビリーはどうしたんだよ!」
「うるさい、黙れ! 魔石を壊すぞ! さっさと退け!」
「そうだな。それは困る……」

 取引する意思はあるようだ。
 バイアスは両手を上げると、右足をゆっくりと上げていく。
 でも、上がっていた右足がピタッと止まった。

「なあ!」

 バキィン‼︎ 停止していた右足が一気に下げられて、左腕の手首を思いっきり踏み潰した。
 私は取れた左手首を地面に残して、大声を上げて地面の上をのたうち回った。

「あっあああああ‼︎ ……あれ? 痛くない」

 でも、全然痛くない事に気付いた。
 踏み潰されたのは機体の手首だけだった。
 私の腕はそこまで届いていなかったので無傷だった。

「交渉は却下だ。アムロ、車を破壊しろ」

 バイアスは左手に握られている魔石を拾い上げると、アムロに冷酷に命令した。

「了解、ボス。発射!」
「やめろ‼︎」

 急いで立ち上がって攻撃を止めようとした。
 でも、アムロの右腕の砲口からエネルギー弾は容赦なく発射された。
 エネルギー弾がヘッドライトを点けた黒いキャンピングカーに向かっていく。

「ケイト、避けろ‼︎ ケイト、避けるんだぁ‼︎」

 首の無線機に向かって声を上げる。無線機からの反応はない。
 代わりにキャンピングカーが左に大きく曲がって、エネルギー弾を避けようとしている。
 けれども、道路の幅は七メートル程だ。
 左に曲がって回避しようとしても、車体の後方が犠牲になる。
 完全には避けられない。

「アムロ、避けられるぞ」
「問題ありません。左が充填完了です。トドメだ」
「やめろと言っているんだ! 撃てば殺す!」
「へっ、発射!」

 急いで駆け寄って、アムロの二発目を止めろうとした。
 けれども、また遅かった。
 アムロは笑いながら、二発目のエネルギー弾を発射した。
 二発目が運転席に向かって飛んでいく。

『きゃああああ‼︎』

 ドパァン‼︎ 一発目のエネルギー弾が車体の後方右側面に直撃した。
 ケイトの悲鳴が上がり、車体の四分の一が破壊された。

「あっ……あぁーあ、やめてくれ……」

 ドサァと力なく地面に座り込んでしまった。
 車は左右に激しく揺れながら、道路脇の家に突っ込んでいく。
 でも、車が家に突っ込むよりも早く、二発目のエネルギー弾が運転席の側面に直撃した。
 ドパァン‼︎ 運転席がバラバラに弾け飛んで、ケイトの悲鳴が上がった。

『きゃああああああ‼︎』
「ケイト! ケイト! 無事なのか! 返事をしろ!」
『……』

 首の無線機に呼びかけるが、ケイトの声は聞こえない。
 今すぐに車に駆け寄って、助けに行きたいのに足が動かない。

「アムロ、死んでいるか確認して来い」
「分かりました。まあ、死んでいるでしょうけどね」
「安心しろ。生きていても殺す。死んでいても、お前は殺す。結果は何も変わらない」

 アムロの機体が車に向かって飛んでいく。
 バイアスが話しかけてくる。
 何も聞きたくない。何も知りたくない。
 頭の中をただただ真っ白にしたい。
 何も考えられないようになりたい。

「おっ、あったぞ」
「っぅ!」

 でも、それは許されなかった。
 車を引き千切りながら、ケイトを探していたアムロが何かを見つけた。
 右手で何かを掴むと、笑い声を上げながら、こっちに戻って来る。
 握り締めていた右拳を更に強く握り締めた。
 充填率三十パーセント。

「ほら、ジジイ。お土産だぞ」

 アムロは右手に掴んでいたものを私の目の前に放り投げた。
 白く長いそれは地面に音もなく落下した。
 それは肘から上の人間の右腕だった。

「くぅっ!」
「すみません、ボス。確認したくても腕だけじゃ、誰が死んだのか分かりません。そこのジジイなら分かるんじゃないですか? なんたって娘ですから、腕だけでも分かるでしょう」
「確かにな。ギルバート、その腕はお前の娘のものか?」
「……ブ……して……」

 充填率八十五パーセント。
 私の殺意に右腕の充填が全然追い付かない。

「聞こえねぇよ。腕だけじゃ分からないなら、千切れたおっぱいでも探してきてやるよ。へっへへへ。でも、うちは男しか仲間にいないから、おっぱいだと俺でも分かってしまうな!」

 ブチ‼︎ 充填率百パーセント。
 もう、こいつの声は聞きたくない。
 右腕の砲口をアムロの機体に向けると同時に叫んだ。

「ブッ殺してやる‼︎」
「へっ?」

 三メートルの距離から発射されたエネルギー弾は機体の胸の中心に直撃した。
 ドパァン‼︎ 目の前でアムロの機体が弾け飛び、手足がバラバラに転がっていく。
 機体の残骸の中に搭乗者の血が見えた。
 残りは一人だ。

「バイアス! お前も殺してやる!」

 怒りを原動力に立ち上がり、左側に立っていたバイアスの機体に右手一本で殴りかかった。

「それは無理だ」
「ぐがぁっ! ぐぅぅ!」

 ドガッ! ドガッ!
 右拳を簡単に避けられると、そのまま腹と胸をサンドバッグのように連続で殴られる。
 押し潰された装甲が私の身体を圧迫していく。

「お前は簡単には殺さない。苦しんで苦しんで命乞いしろ。手足を踏み潰し、娘の腕を口の中に突っ込んで殺してやる」
「ぐぅっ、がああぁぁっ!」

 戦闘能力が違い過ぎる。こっちは営業だ。
 喧嘩でのし上がったようなチンピラ格闘家と殴り合いで勝てるはずがない。

「まだだ……ハァ、ハァ、まだ死ねねんだよ! うおおおおおお!」

 それでも、気合で何度も立ち上がり、バイアスに突っ込んだ。
 充填率四十五パーセント。私は死んでもいいから、必ず殺す。
 どんなに生意気な娘でも小さい頃は可愛かった。
 今でこそ生意気な娘だが、八歳までは可愛かった。
 料理も掃除もド下手な口の悪い娘でも、私を奴隷のようにこき使っても、それでも大切な娘なんだ。

「命乞いだと! 巫山戯るぁー! お前が死ね!」

 充填率七十五パーセント。
 全力で右拳を胸に向かって突き出して、エネルギー弾を発射する。

「ぎゃあぎゃあ煩い負け犬だ」
「なっ⁉︎」

 けれども、エネルギー弾が発射される前に砲口を左手で掴まれた。
 更に右手で砲口を掴まれて、バキィンと引き千切られるように破壊された。
 無造作に引き千切られた砲口が、草の茂みの中に投げ捨てられた。

「危ないから取らせてもらった。最初から何を狙っているかバレバレだ。それしか勝つ方法はないから当然だろうがな」
「まだだ、まだ終わって——ぐがあぁぁ‼︎」

 右拳を大きく振り被って、目の前の機体の胸部を押し潰そうとした。
 でも、それさえも出来なかった。バイアスの機体の右足が私の胸部に蹴り込まれた。
 蹴り飛ばされた機体が地面に仰向けに倒された。

「ぐぅ、ぐぅぅぅぅ……」
「終わったんだよ。この世界は白と黒しかない。勝者と敗者は大人に成長した瞬間に決まる。お前は長い年月をかけて、敗者として成長して、敗者として生きる事を選んだんだ」
「ぐぅっ、巫山戯るな、私はまだ負けてない」

 起き上がりたくても、起き上がれない。
 気持ちがもう諦めかけている。
 バイアスが向けている右腕の砲口の先に赤い光が見えた。

「無能な奴は足掻くものだ。運命も結果も変わらない。お前は死ぬ。まずは両足を焼き消す」
「ぐぅっ、くぅぅぅ!」

 巫山戯る。こんなところで絶対に終われない。
 終われる訳がない。まだ一発も殴っていないのに、終われるはずがないだろう!

 ♢
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