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第6章 地の宝珠(ここからは縦書きでも読めます)
『勇者の条件』
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『勇者』という言葉が意味するのは、勇気のある人という単純な意味だった。
好きな異性への告白、ゴミのポイ捨ての注意、2階からジャンプなどの行為も以前までは勇者だと褒め称えられた。
けれども、いつしか人類最強、善の象徴、魔王を倒す者という、なんとも言えない困難な意味に変わってしまった。
そして、いつしか世界から勇者という言葉が忘れ去られようとしていた。
「『勇者』フェイス!』」
ある日、突然。彼は勇者にされてしまいました。今までは、世界剣術大会で優勝しても『フェイス!』だった。冒険者ギルドで最上位の『8段=レッドカード』に昇段しても『フェイス!』だった。
「これから勇者フェイスには魔王討伐に尽力してもらいたい。魔王ライラは強力な魔法を呼吸するように使え」
「ちょっと待ってください!展開が早過ぎてついて行けません!」
昨日の朝に飛空艇で自宅までやって来られて、そのままお城に連れていかれました。そして現在。王様の前で跪いて意味の分からない話を聞く羽目になっています。
「勇者フェイスよ。混乱するのはよく分かる……儂もまさか、私の代で魔王が現れるとは夢にも」
「そこじゃねぇよ!それとさっきから度々俺を勇者と呼んでいるけど、もっと強い奴は大勢いるだろう!俺の実力なんて一騎当千ぐらいなんだから」
「貴方じゃないと駄目なの!」
思わず勇者フェイスは話の途中で、割り込んできた人物に『誰だ⁈』と叫びそうになりましたが、その人物を見て言葉を飲み込みました。
(うおおお~!やべぇ~!やべぇ~の来ちゃった~!)
勇者フェイスの視線の先には、国の第三王女シャーロット姫がいました。
「これこれ、シャロ!お前は出て来るなと言っただろうが、勇者フェイスには儂から伝えるから、お前は下がっているんだ。」
「いいえ、私の口から理由を話すのが道理というものです!」
王と王女シャーロットの『儂が!私が!』の繰り返される遣り取りを長々と聞いていましたが、流石に勇者もどっちでもいいから早く話してくれと思い始めていました。
(確か、あれが噂の第三王女シャーロット姫。もう17歳になるのに自国や他国の貴族との婚約を断り続ける、わがまま姫か……でも、噂通りの美女だな……)
王族の娘ならば16歳で結婚が当たり前です。
それなのにお見合いの申し込みさえ、もう500件以上も断り続けています。
流石にこのままでは行き遅れになってしまうと、周囲も心配していたところに、魔王復活の知らせが入ってきました。
古来より国一番の戦士が魔王を倒す仕来り(しきたり)があり、当然のように冒険者ギルドの最上位、8段以上の強者を勇者にする事が決まりました。
各国の王が集まって勇者を決める会議では、満場一致で冒険者ギルド最高位の10段『レイア・アッシュグレー』に決まりかけましたが、会議に参加していた、ある王国の大臣から『一つだけ問題がある』と結論が先送りになってしまいました。
「古来より、勇者が魔王を倒した褒美には、国一番の王子か王女を送る仕来りです。王女ならば、ランドルフ王国の第三王女シャーロット様でございましょうが、王子となると甲乙つけがたいもので……しかも、レイア様はお孫様もいらっしゃる既婚者でございます。未婚の男勇者を選び、レイア様は賢者としてご同行してもらうのが如何でしょうか?」
「だが、仕来りは所詮は仕来り!既婚者にはそれ相応の褒美があれば文句はなかろう!」
「いやいや、仕来りは大事ですぞ!以前に仕来りを守らなかった王家には酷い災いが舞い降りたとか……」
これ以上の議論は時間の無駄だと、会議は終了しました。
けれども、一応は第三王女シャーロットに『勇者と結婚する必要があるかもしれない』と、国王ランドルフ12世は伝えなくてはいけませんでした。
未婚の男勇者の顔写真とプロフィールを持って、シャーロットの自室に向かいました。
王は『あれこれで、こうなったから、この中の誰かと結婚しなければならない!』と姫に誠意を持って話しました。
それでも、いつものようにシャーロット姫は何も答えません。お見合いや結婚の話はいつも無反応なのです。
王は返事がない姫の自室を諦めて出ていきました。
父親が出て行ったのをしっかりと確認すると、シャーロット姫は丸いテーブルの上に置かれた、勇者候補のプロフィールをパラパラとめくり始めました。
「なんでゴリラが載ってんのよ!こっちはオッサンで、こっちは病人みたいな顔色だし……あ~あ、こっちは顔中傷だらけ!罰ゲームじゃないんだから、まともな男を用意してよぉ~!」
どうやら、シャーロット姫が行き遅れている理由は結婚相手の顔に問題があったようです。
パラパラとプロフィール帳をめくり続けると、1人の男性に目を止める事になりました。その結果、1人の勇者が誕生しました。
「単刀直入に申し上げます!貴方の顔が好きだから、私の勇者になってください!」
「えっ~!顔で選ばれたの!」
「勇者フェイスよ。姫とこの国の運命をお主に託す。無事に魔王を倒したあかつきには、シャーロットと王族の領地を授ける。」
美しい妻と広大な領地を与えられるなら、普通は二つ返事で了承するものですが、勇者フェイスは『魔王討伐後にお返事させてください。』と王城から出ていきました。
次回もあります。作者の一人『絵日記風に書くのは難しい。こっちはこっちの書き方があるのだから……』
好きな異性への告白、ゴミのポイ捨ての注意、2階からジャンプなどの行為も以前までは勇者だと褒め称えられた。
けれども、いつしか人類最強、善の象徴、魔王を倒す者という、なんとも言えない困難な意味に変わってしまった。
そして、いつしか世界から勇者という言葉が忘れ去られようとしていた。
「『勇者』フェイス!』」
ある日、突然。彼は勇者にされてしまいました。今までは、世界剣術大会で優勝しても『フェイス!』だった。冒険者ギルドで最上位の『8段=レッドカード』に昇段しても『フェイス!』だった。
「これから勇者フェイスには魔王討伐に尽力してもらいたい。魔王ライラは強力な魔法を呼吸するように使え」
「ちょっと待ってください!展開が早過ぎてついて行けません!」
昨日の朝に飛空艇で自宅までやって来られて、そのままお城に連れていかれました。そして現在。王様の前で跪いて意味の分からない話を聞く羽目になっています。
「勇者フェイスよ。混乱するのはよく分かる……儂もまさか、私の代で魔王が現れるとは夢にも」
「そこじゃねぇよ!それとさっきから度々俺を勇者と呼んでいるけど、もっと強い奴は大勢いるだろう!俺の実力なんて一騎当千ぐらいなんだから」
「貴方じゃないと駄目なの!」
思わず勇者フェイスは話の途中で、割り込んできた人物に『誰だ⁈』と叫びそうになりましたが、その人物を見て言葉を飲み込みました。
(うおおお~!やべぇ~!やべぇ~の来ちゃった~!)
勇者フェイスの視線の先には、国の第三王女シャーロット姫がいました。
「これこれ、シャロ!お前は出て来るなと言っただろうが、勇者フェイスには儂から伝えるから、お前は下がっているんだ。」
「いいえ、私の口から理由を話すのが道理というものです!」
王と王女シャーロットの『儂が!私が!』の繰り返される遣り取りを長々と聞いていましたが、流石に勇者もどっちでもいいから早く話してくれと思い始めていました。
(確か、あれが噂の第三王女シャーロット姫。もう17歳になるのに自国や他国の貴族との婚約を断り続ける、わがまま姫か……でも、噂通りの美女だな……)
王族の娘ならば16歳で結婚が当たり前です。
それなのにお見合いの申し込みさえ、もう500件以上も断り続けています。
流石にこのままでは行き遅れになってしまうと、周囲も心配していたところに、魔王復活の知らせが入ってきました。
古来より国一番の戦士が魔王を倒す仕来り(しきたり)があり、当然のように冒険者ギルドの最上位、8段以上の強者を勇者にする事が決まりました。
各国の王が集まって勇者を決める会議では、満場一致で冒険者ギルド最高位の10段『レイア・アッシュグレー』に決まりかけましたが、会議に参加していた、ある王国の大臣から『一つだけ問題がある』と結論が先送りになってしまいました。
「古来より、勇者が魔王を倒した褒美には、国一番の王子か王女を送る仕来りです。王女ならば、ランドルフ王国の第三王女シャーロット様でございましょうが、王子となると甲乙つけがたいもので……しかも、レイア様はお孫様もいらっしゃる既婚者でございます。未婚の男勇者を選び、レイア様は賢者としてご同行してもらうのが如何でしょうか?」
「だが、仕来りは所詮は仕来り!既婚者にはそれ相応の褒美があれば文句はなかろう!」
「いやいや、仕来りは大事ですぞ!以前に仕来りを守らなかった王家には酷い災いが舞い降りたとか……」
これ以上の議論は時間の無駄だと、会議は終了しました。
けれども、一応は第三王女シャーロットに『勇者と結婚する必要があるかもしれない』と、国王ランドルフ12世は伝えなくてはいけませんでした。
未婚の男勇者の顔写真とプロフィールを持って、シャーロットの自室に向かいました。
王は『あれこれで、こうなったから、この中の誰かと結婚しなければならない!』と姫に誠意を持って話しました。
それでも、いつものようにシャーロット姫は何も答えません。お見合いや結婚の話はいつも無反応なのです。
王は返事がない姫の自室を諦めて出ていきました。
父親が出て行ったのをしっかりと確認すると、シャーロット姫は丸いテーブルの上に置かれた、勇者候補のプロフィールをパラパラとめくり始めました。
「なんでゴリラが載ってんのよ!こっちはオッサンで、こっちは病人みたいな顔色だし……あ~あ、こっちは顔中傷だらけ!罰ゲームじゃないんだから、まともな男を用意してよぉ~!」
どうやら、シャーロット姫が行き遅れている理由は結婚相手の顔に問題があったようです。
パラパラとプロフィール帳をめくり続けると、1人の男性に目を止める事になりました。その結果、1人の勇者が誕生しました。
「単刀直入に申し上げます!貴方の顔が好きだから、私の勇者になってください!」
「えっ~!顔で選ばれたの!」
「勇者フェイスよ。姫とこの国の運命をお主に託す。無事に魔王を倒したあかつきには、シャーロットと王族の領地を授ける。」
美しい妻と広大な領地を与えられるなら、普通は二つ返事で了承するものですが、勇者フェイスは『魔王討伐後にお返事させてください。』と王城から出ていきました。
次回もあります。作者の一人『絵日記風に書くのは難しい。こっちはこっちの書き方があるのだから……』
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