【完結】王洞 〜名も無き国の名前を捨てた王様〜

もう書かないって言ったよね?

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第一話★ 私の代わりはいくらでもいる

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「○○君! ○○君!」
「○○さん! ○○さん!」

 最近は上司や同僚に名前を呼ばれるだけで、ドキドキしてしまう自分がいる。無能な上司や無能な同僚はどこの職場にもいる。そして、それを引っ張るそこそこ優秀な人間がいる事も分かっている。それは分かっている。

 職場選びは大切だ。無能な上司や同僚に囲まれて、自分の優秀さに優越感を感じたい人間にはそれでもいいだろう。だが、そんなのは小学生の宿題を手伝う大人と同じだ。そして、その小学生程度の宿題が解けない時がやって来る。必ずやって来る。その時、優越感は凄まじい劣等感に変わってしまう。

 人を馬鹿にして生きている人間は、人に馬鹿にされる事を極端に嫌っていると私は思う。私がそうだから、きっと皆んなそうだと思う。仕事は順調、人間関係は希薄、生活は何も無い一本道を歩き続けているだけのつまらないものだった。

 つまらない人間はつまらない人生を送る事になる。その証拠に好きだった同級生の女子から結婚式の招待状が送られてきた。告白はしていない。一年後には母親になるらしい。

 もちろん、結婚式には出席する事にした。彼女を最後に見たのは成人式だから、もう何年前の事になる。人生で一番幸せな日に、彼女はどのような姿でどのような顔をするのだろうか?

 きっと、私が想像したような素敵な笑顔をするのだろう。私がさせたかった、その素敵な笑顔を誰か別の男がさせるのだ。
 職場でも、生活でも、恋愛でも私の代わりをする人間はいくらでもいる。私が死んでも、世界は回り続けて、幸せな人と不幸な人を作り続ける。

 最近は死について考える事が多くなった。歳を取ったと言うには若過ぎる。人生に失望したと言うにも若過ぎる。私は自殺は日本人の文化が根強く残っている証拠だと考えている。
 誰にも迷惑をかけたくない。責任は死をもって償う。明らかに武士道精神の影響を強く受けているとしか思えない。その悪影響で仕事一つ辞めるだけで、日本人は責任感で潰れそうになってしまう。

 誰にも迷惑をかけない人間も、誰にも迷惑をかけない法律やルールも存在しない。国に守られるという事は同時に国に縛られるという意味がある。では、その戒めから解放されるには死ぬしかないのだろうか?

「いや、それ以外の方法もきっとあるはずだ。どのような問題も解決する方法は一つじゃない」

 死ぬ為の準備は終わらせた。この国で残された役割は2つだけだ。職場に辞表を提出して、結婚式に出席する以外にない。
 私は鏡で着ているスーツをチェックすると、辞表と彼女へのご祝儀を持った。そして、二度と戻らないと決めた家を出た。ガチャリと鍵を閉めると、扉に付いているポストの中に鍵を放り込んだ。もう私には必要ない物だ。



 
 
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