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第三話★ いつかは消える不安な気持ち

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『本日、15時30分頃に浜松市○○町の藤代さんのお宅で空き巣事件が発生しました。藤代さんは結婚式で家族全員が留守にしていたので、浜松警察署は顔見知りの犯行だと捜査して——』

「……予想より早い」

 意外と高揚感があるものだ。周波数を変更してラジオのニュース番組を別番組に変更した。
 顔見知りがどこまでになるのか不明だが、同じ日に仕事を退職した人物は第一容疑者になるだろうか?
 私としては犯人死亡として処理される事を期待しているが、警察も馬鹿ではない。軽はずみに結論を出したりはしないはずだ。

「さて、水をたくさん作らないといけないな」

 いつまでもラジオを聞いて遊んでいる時間はない。この国では、全てを自分一人で用意しないといけない。缶詰の中身をそのまま食べていては、すぐに食糧は底を突いてしまう。

 この国で一番大事な仕事は水を作る事だ。雨水をたくさん集めるという方法もあるが、雨水は畑に撒くので使えない。
 適当に森の中に野菜の種を蒔いたら、芽が出て来ていた。雑草なのかは育ててみないと分からない。ある程度生長したら植物図鑑で調べる事になるだろう。その時まで私の国が滅びていなければだ。

 洞窟の中の図書館には趣味も含めて色々と本を用意した。サバイバル、格闘術、キノコ、昆虫と知識はいくらあっても足りない。必要になる時が来るかもしれない。

 プラスチックのコップと2リットルの空のペットボトルを一個だけ持つと、洞窟から少し離れた場所にある水汲み場を目指した。歩いて20分ぐらいの距離に地面から水が湧き出ているのだ。
 元々は直径15センチ程の穴だったが、今ではバスケットボール程の大きさになっている。水質は透明で水温は水道水よりも少し低い。肉眼で見えるような虫はいないので、気になるのは枯れ葉ぐらいだ。

 コップで水汲み、それをペットボトルに移す。誰でも出来る簡単な作業が数分で終わると、私は城に戻った。夜になる前に城に帰らなければならない。この森で何回か夜を過ごしたが慣れる前は凄く恐ろしかった。それは今でも少しだけ残っている。

 夜が怖いのか、一人が怖いのか、それとも、いるかも分からない幽霊や怪物の存在が怖いのか……。

 心理的に恐怖と不安は違うものらしい。恐怖は殺人鬼にナイフを突きつけられている状態だとしたら、不安は誰かにナイフで襲われるかもしれないというものだ。
 おそらく私が感じているのは不安だ。この国で一人で暮らせるのだろうかという不安だ。不安はいつかは消えるものだ。一週間、二週間と時間が経てば、暮らす事が出来ると自信を持つ事が出来る。それまでの辛抱になる。今はその時が来るのを楽しみに待つとしよう。



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