【完結】王洞 〜名も無き国の名前を捨てた王様〜

もう書かないって言ったよね?

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第九話☆ ダブルパーカー

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「田代さん、ちょっといいですか?」
「……んっ? どうした?」

 □□警察署の自分のデスクで昼飯のカップラーメンを食べていると、藤岡が数枚の写真を持ってやって来た。おそらく事件の相談だろう。とりあえずラーメンを食べながら、指導役としての相談ぐらいには乗ってやるつもりだ。

「あのダブルパーカーの事なんですけど……」

 藤岡が俺のデスクの上に三枚の写真を並べていく。黒いパーカーを着ている人物、スーツ姿の男、どこかの高校の集合写真だ。

「ずるっ、ずるっ……お前はまだあの事件を追っていたのか⁉︎ 捜査三課は一課と違って、一つの事件を調べるほど暇じゃないんだぞ!」
「すみません、つい気になってしまって……」

 ダブルパーカーとは、一週間前に起きた結婚式空き巣事件の容疑者の事だ。現場周辺を走行していた車載カメラに、顔を隠すように、黒い大きなパーカーを二着重ね着している男らしき人物が映っていた。三課はその男を通称『ダブルパーカー』と呼んで、周辺をパトロールしている警察車両に警戒してもらっている。

 殺人事件を担当する捜査一課と違って、うちの三課は空き巣から自転車泥棒までと、窃盗事件全般を担当する部署だ。
 毎日、数十件以上も起きる窃盗事件を捜査する為に、猫の手も借りたい程に忙しい部署である。盗まれた物がない空き巣事件を捜査する暇な捜査官はいない。

「いいか、藤代……お前の気持ちも分かる。誰だって、犯人検挙率100パーセントがいいに決まっている。でも、実際はそのやり方では駄目なんだよ。毎日、毎日、毎日、事件は何処かで必ず起きるんだ」

 俺もこんな事は言いたくはない。認めたくもない。犯人に負けを認めているようなものだ。だが、言わなければならない。警察は死んだ人間を捕まえる事は出来ない。

「——一日十個の事件が起きて、一日十個の事件を解決する事は出来ないんだ。そんな事はベテラン刑事でも無理なんだ。早期解決できるものと、そうでないものがある。その事件は容疑者が死亡しているかもしれないんだ。もう調べなくてもいい事件だ。さっさと別の事件に集中しろ」

 相模陽平さがみようへい、23歳。被害者宅の藤代明音、23歳とは小、中、高と同じ学校に通っていた男だ。
 藤代明音に確認したところ、ただの同級生の一人という返答が返ってきた。高校まで一緒に通っていた同級生という事で結婚式の招待状を送ったそうだ。

 そのただの同級生のご祝儀が20万円という高額なものだった。余程の金持ちか、特別な感情がなければ、そんな金額をただの同級生の女に渡すはずはない。

 俺は相模陽平を第一容疑者として、藤岡と共にその男が住んでいるマンションへと訪れた。チャイムを鳴らしても応答はなく、隣人の話では、ここ数日、人の気配はなかったという……マンションの管理会社に連絡を取り、部屋の鍵を開けてもらうと、テーブルの上に遺書を発見したという訳だ。

「相模の自家用車が海岸近くの駐車場に何日間も放置されていた。車内の中から現金2万円近く入った財布と車の鍵も見つかった。銀行に預けていた300万近くの預金も、恵まれないなんたらに分けて寄付したそうだ。これ以上、何が気になるんだ」

 自殺者は年間一万人だ。そのうち20~39歳が多くを占めている。そこに失踪者を含めれば、更に増える。悪いが俺達に出来るのは、死体が浮かんで来るのを待つか、漁船が死体を引き揚げのを期待するしかない。

「……でも、自殺する日に好きな女の子の結婚式に出席して、その子の家に空き巣に入りますか? それに自殺する人間がパーカーでわざわざ顔を隠すなんておかしいでしょう。なんか違和感を感じてしまうんですよね」
「顔を隠すのは当然だ。犯行がバレて、自殺する前に警察に捕まれば、自殺できなくなるからな。納得できない気持ちを無理やり納得するのも刑事の仕事だ。ほら、さっさと昼飯食って、次の事件を解決して来い!」
「ウッス……」

 ちっ、まったくスープが冷めちまったじゃないか。

 
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