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第三十二話★ 海水浴場

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「きゃあ~♪ わぁ~♪」
「きゃあ~♪ わぁ~♪」

 新品の靴と服を購入すると海水浴場に向かった。家族連れや若者達が集まって賑わっている。ザッと見たところ、90~120人程度はいるだろう。海の家は無いけど、シャワー室とコインロッカーはある。まずは泳ぐ前に身体を念入りに洗う事にした。

「はぁ…温かい……」

 海の中で洗うよりは温水シャワーの方が汚れは落ちやすい。
 狙いは単純だ。金はあるが、ラブホテルに泊まるつもりはない。大金を餌に海で知り合った水着の女性の家に居候するつもりだ。特にこの近所で一人暮らしをしている女性ならば最高だ。

 女一人で海水浴場に来ているのならば、おそらく趣味や部活、トレーニングに来ている。警戒心が強く、一人でいる事を好む相手に居候をお願いするのは難しい。
 次に女二人組は狙い目だ。大人しめの黒髪と強気な茶髪の組み合わせは最強だと言ってもいい、よくは分からないが、本にそう書いてあった。実際に試して確認するのは今日が初めてだ。

 手順はまずは黒髪ではなく、茶髪の方に声をかけて、茶髪に優越感を感じさせる。そして、黒髪に劣等感を感じさせた後に、茶髪に隠れて、黒髪の方に気があると伝える。黒髪は密かに優越感を得られるという訳だ。
 短期的に居候になりたいならば、茶髪。長期的に居候になりたいならば、黒髪だ。黒髪が家から出て行って欲しいと言ってきた場合は、茶髪に関係をバラすと脅す事で、それを阻止する事が出来るらしい。全ては机上の空論、本上の空論かもしれない。

 最後に女三人以上は孤独感を感じていない可能性が高くなる。男と同じように孤独感を埋める為に女も男を利用する。友達が多い女は孤独感を感じていないので、男は不要という訳だ。

「これならイケるかもしれない」

 水着を履いたら出発だ。鏡で見た身体は意外と引き締まっていたので問題ない。ターゲットの年齢は25歳以上が望ましい。それ以下は大学生の可能性が高い。近場に大学があれば、一人暮らしの大学生を狙えた可能性もあるが、おそらく可能性は低い。でも、遊びに来た大学生ならばいるはずだ。
 けれども、海水浴場での出会いは一期一会だ。一回会ったらそれで終わりだ。だからこそ、年齢や実際に何をやっているか偽る人も多い。女性のデタラメな会話情報を信じるのは危険だ。まずは車で来ているか確認して、車の初心者マークがなければ、19歳以上は確実だと思っていい。

「馬鹿か私は。チャンスは今日しかないのに、年齢や容姿を気にしている場合ではない。選んでいる時間はない。遊泳禁止時間まで残り時間三時間しかないんだぞ」

 覚悟を決めると女性客を見て回った。二人組の女性客もいるけど、見た目20代前半が多い。そもそも、今日は平日だ。社会人の女性が海水浴場に遊びに来るはずがない。
 学生と見るか、夜の仕事をしているか、それとも、実家でフリーターをしているのか。誰でもいい訳ではない。けれども、時間はない。行くか、行かないか、早く決めないと駄目だ。

「あっはははは♪」
「いやだぁ~、もぉ~♪」

 小柄な女性よりは、程良く肉付きがある方が良い。胸もある方が良い。身長は160以上は欲しい。性格はそこまで重視はしていないけど、料理上手だと家に篭る事が出来る。
 水着の色と柄で大胆なタイプか、大人しいタイプか分からないだろうか? 水着の露出が多いとやはり積極的な感じがする。
 では、白は子供っぽくて、黒は大人っぽいと言えるだろうか? そう考えると、日焼けしている人としていない人がいる。日焼けしている女性は単純で落としやすいのか?

「何をやっているんだ。水着の女性を見に来た訳じゃないんだ。こうやって考える必要はない。いざという時は金で買春すればいいんだ。10万も渡せば、家にぐらい連れて行って、一晩ぐらいは泊めてくれるんだから……」

 やっと覚悟を決めた。破れかぶれでいい。24歳ぐらいの茶髪の女性二人組に声をかけた。二人とも花柄の水着で日焼けしていた。もしも駄目だったら、黒髪で日焼けしていない方に今度は声を掛けよう。
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