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第24話 ドッグフィンとの戦い④
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『グゥガァァーー‼︎』
レベッカに言われた通りに黒犬の正面に移動すると、囮役なのか餌役なのか微妙な役柄を演じた。どうやら、口を開けて噛み付こうとする黒犬の反応から餌役だったようだ。
(あそこから攻撃するのか……)
てっきり背中に登って攻撃すると思っていたけど違ったようだ。レベッカは倒れている黒犬よりも高い位置の階段に移動していた。あそこから飛び降りて攻撃するつもりのようだ。
レベッカは黒犬の尻尾辺りから助走付けて走り出すと、大きくジャンプして背中の上に見事に着地した。
(まあ、そうなるでしょうね)
派手にジャンプ斬りでもするのかと思ったけど、やっぱり背中に登ってから攻撃するようだ。おそらく、首でも叩き斬るつもりなのだろう。こっちはこっちで餌役に集中していれば、いつの間にか終わっているはずだ。
『フッガヴァァーー‼︎ アヴヴァーー‼︎』
しばらく待っていると大きな叫び声を上げながら、黒犬が首を乱暴に左右に振り回し始めた。レベッカの攻撃が始まったようだ。予想では黒犬の背中をサーベルで出鱈目に斬り刻んでいるんだろう。なんて性格の悪い女だ。一思いに首を撥ねて倒してあげればいいのに。
(とりあえず、援護攻撃するか)
黒犬に階段を転げ落ちるつもりがあるのなら、背中に乗っているレベッカも道連れに出来る。いつまでも背中の上で遊んでいられない。振り落とされて硬い岩階段に激突したら、痛いでは済まない。
左手で鞘、右手で剣の柄を握ると正面の黒犬の二つの目を狙うように構えた。『風太刀居合い・飄風』——風の刃を数メートル先に飛ばす事が出来る技だ。今のレベルでは、最大で六メートル先にしか飛ばす事が出来ないけれど、ほとんど動かないような黒犬相手ならば、なんとか一撃で狙った場所に命中させられるだろう。
意識を剣と黒犬の目玉に集中させていき、ここだ! と思った瞬間に剣を鞘から素早く引き抜いた。
『ガアァァ‼︎』
誰の目にも見えない風の刃が、黒犬の右目の下を斬り裂いたようだ。僅かな血飛沫が空中に飛び散った。とりあえず、的が大きければ攻撃を外す事はないだろう。よし、今日は技を四回も使ったから残りは見学しておこう。
「オラッ‼︎ さっさと死にな‼︎」
『ガルゥゥ‼︎ グゥガァー‼︎』
4~5分程、黒犬の叫び声を聞きながら晩ご飯に何を食べようかと考えていると、黒犬の背中から赤色の何かが飛び降りて来た。赤白の綺麗な蝶々を思わせるレベッカの防具は、今はただの惨殺された蝶々の死体にしか見えない。洗濯が大変そうだ。
「終わったわよ。心臓を滅多刺しにしといたから、多分死んだわよ」
「そうですか。お疲れ様でした」
正直、そこまでする必要はどこにもないと思うけど、まあ、終わったんならどうでもいいや。倒した証拠になりそうな身体の一部を解体して、街に帰ればいい。
「解体は俺がやっておくので、レベッカは装備を綺麗にしておいていいですよ」
「そう。だったら、そうさせてもらおうかしら。じゃあ、頼んだわよ」
「ええ、任せておいてください」
レベッカは僕を殴る事を忘れているようだ。素直にバックパックを置いてある遺跡の入り口に向かって歩いて行く。このままご機嫌を取り続ければ、家に帰るまでは忘れていてくれるだろう。思い出しそうになったら、アリサの話でもして誤魔化しておけばいい。
さて、黒犬を倒した証拠なら頭部を持って行くのが一番だけど、これは重過ぎる。耳とか尻尾、鋭い五本の爪が付いた前足とかで十分なはずだ。でも、ワニトカゲの長鉤爪が一本銀貨3枚もするのだ。この爪が一本いくらになるのか想像がつかない。これは何としても数本は持ち帰らないといけない。
鞘から剣を抜くと、上段に構えて黒犬の前足足首に一気に振り下ろす。当然、一撃では無理だ。何度も何度も振り下ろして、やっと左前足をゲットした。次は反対側を手に入れないといけないな。
♢♦︎♢♦︎♢
「ふぅーー、手間取らせやがって」
45分かけて、耳、尻尾、四本の足、犬歯を黒犬の身体から奪い取った。流石の僕も皮まで剥ぎ取る体力はない。
「それはこっちの台詞よ。いつまで待たせんのよ。耳の片方でも持って帰れば、あとはギルドの連中が回収とかやってくれるんだから。さっさと帰るわよ」
綺麗にしたばかりの防具を汚したくないと、レベッカは30分近くも解体作業を手伝わずに見ていた。早く帰りたいなら手伝えばいいのに、やれやれ困ったものだ。
「何言ってんですか? まだ終わりじゃないですよ」
「はぁっ?」
このアントエストの天辺には黒犬が倒したモンスターの死体が沢山ある。猿皮に蜥蜴皮と金がゴロゴロと落ちているのだ。腐らせるなんて勿体なくて出来ない。闇夜の脅威である黒犬を排除した今なら、時間を気にせずに解体作業に没頭できるのだ。
それにギルドや運び屋に任せたら、取り分が減ってしまうだけだ。特に今回のような大物は、自分の足で運ばないと勿体ない。
「馬鹿らしい。付き合ってらんないわね。そんなにやりたいなら一人でやってなさいよ。私は耳を持って帰るから、あんたも気をつけて帰るのよ」
「ちょっと待ってくださいよ! 持って行くなら足にしてくださいよ」
耳を持って帰ろうとするレベッカを引き止めた。耳は軽い。帰るのなら重い前足を持って帰ってくれないと困る。
「……気をつけて帰るのよ」
女は仕事というものを何も分かっていない。レベッカは耳を一個だけ肩に担ぐと、転移ゲートのある南の方角に帰って行った。
……とりあえず、木の枝を沢山集めて、焚き火で夜通し作業できるようにしよう。今夜中に解体作業を終わらせて、明日の朝にギルドでマリクを捕まえれば、無料の運び屋をゲット出来る。
♢♦︎♢♦︎♢
レベッカに言われた通りに黒犬の正面に移動すると、囮役なのか餌役なのか微妙な役柄を演じた。どうやら、口を開けて噛み付こうとする黒犬の反応から餌役だったようだ。
(あそこから攻撃するのか……)
てっきり背中に登って攻撃すると思っていたけど違ったようだ。レベッカは倒れている黒犬よりも高い位置の階段に移動していた。あそこから飛び降りて攻撃するつもりのようだ。
レベッカは黒犬の尻尾辺りから助走付けて走り出すと、大きくジャンプして背中の上に見事に着地した。
(まあ、そうなるでしょうね)
派手にジャンプ斬りでもするのかと思ったけど、やっぱり背中に登ってから攻撃するようだ。おそらく、首でも叩き斬るつもりなのだろう。こっちはこっちで餌役に集中していれば、いつの間にか終わっているはずだ。
『フッガヴァァーー‼︎ アヴヴァーー‼︎』
しばらく待っていると大きな叫び声を上げながら、黒犬が首を乱暴に左右に振り回し始めた。レベッカの攻撃が始まったようだ。予想では黒犬の背中をサーベルで出鱈目に斬り刻んでいるんだろう。なんて性格の悪い女だ。一思いに首を撥ねて倒してあげればいいのに。
(とりあえず、援護攻撃するか)
黒犬に階段を転げ落ちるつもりがあるのなら、背中に乗っているレベッカも道連れに出来る。いつまでも背中の上で遊んでいられない。振り落とされて硬い岩階段に激突したら、痛いでは済まない。
左手で鞘、右手で剣の柄を握ると正面の黒犬の二つの目を狙うように構えた。『風太刀居合い・飄風』——風の刃を数メートル先に飛ばす事が出来る技だ。今のレベルでは、最大で六メートル先にしか飛ばす事が出来ないけれど、ほとんど動かないような黒犬相手ならば、なんとか一撃で狙った場所に命中させられるだろう。
意識を剣と黒犬の目玉に集中させていき、ここだ! と思った瞬間に剣を鞘から素早く引き抜いた。
『ガアァァ‼︎』
誰の目にも見えない風の刃が、黒犬の右目の下を斬り裂いたようだ。僅かな血飛沫が空中に飛び散った。とりあえず、的が大きければ攻撃を外す事はないだろう。よし、今日は技を四回も使ったから残りは見学しておこう。
「オラッ‼︎ さっさと死にな‼︎」
『ガルゥゥ‼︎ グゥガァー‼︎』
4~5分程、黒犬の叫び声を聞きながら晩ご飯に何を食べようかと考えていると、黒犬の背中から赤色の何かが飛び降りて来た。赤白の綺麗な蝶々を思わせるレベッカの防具は、今はただの惨殺された蝶々の死体にしか見えない。洗濯が大変そうだ。
「終わったわよ。心臓を滅多刺しにしといたから、多分死んだわよ」
「そうですか。お疲れ様でした」
正直、そこまでする必要はどこにもないと思うけど、まあ、終わったんならどうでもいいや。倒した証拠になりそうな身体の一部を解体して、街に帰ればいい。
「解体は俺がやっておくので、レベッカは装備を綺麗にしておいていいですよ」
「そう。だったら、そうさせてもらおうかしら。じゃあ、頼んだわよ」
「ええ、任せておいてください」
レベッカは僕を殴る事を忘れているようだ。素直にバックパックを置いてある遺跡の入り口に向かって歩いて行く。このままご機嫌を取り続ければ、家に帰るまでは忘れていてくれるだろう。思い出しそうになったら、アリサの話でもして誤魔化しておけばいい。
さて、黒犬を倒した証拠なら頭部を持って行くのが一番だけど、これは重過ぎる。耳とか尻尾、鋭い五本の爪が付いた前足とかで十分なはずだ。でも、ワニトカゲの長鉤爪が一本銀貨3枚もするのだ。この爪が一本いくらになるのか想像がつかない。これは何としても数本は持ち帰らないといけない。
鞘から剣を抜くと、上段に構えて黒犬の前足足首に一気に振り下ろす。当然、一撃では無理だ。何度も何度も振り下ろして、やっと左前足をゲットした。次は反対側を手に入れないといけないな。
♢♦︎♢♦︎♢
「ふぅーー、手間取らせやがって」
45分かけて、耳、尻尾、四本の足、犬歯を黒犬の身体から奪い取った。流石の僕も皮まで剥ぎ取る体力はない。
「それはこっちの台詞よ。いつまで待たせんのよ。耳の片方でも持って帰れば、あとはギルドの連中が回収とかやってくれるんだから。さっさと帰るわよ」
綺麗にしたばかりの防具を汚したくないと、レベッカは30分近くも解体作業を手伝わずに見ていた。早く帰りたいなら手伝えばいいのに、やれやれ困ったものだ。
「何言ってんですか? まだ終わりじゃないですよ」
「はぁっ?」
このアントエストの天辺には黒犬が倒したモンスターの死体が沢山ある。猿皮に蜥蜴皮と金がゴロゴロと落ちているのだ。腐らせるなんて勿体なくて出来ない。闇夜の脅威である黒犬を排除した今なら、時間を気にせずに解体作業に没頭できるのだ。
それにギルドや運び屋に任せたら、取り分が減ってしまうだけだ。特に今回のような大物は、自分の足で運ばないと勿体ない。
「馬鹿らしい。付き合ってらんないわね。そんなにやりたいなら一人でやってなさいよ。私は耳を持って帰るから、あんたも気をつけて帰るのよ」
「ちょっと待ってくださいよ! 持って行くなら足にしてくださいよ」
耳を持って帰ろうとするレベッカを引き止めた。耳は軽い。帰るのなら重い前足を持って帰ってくれないと困る。
「……気をつけて帰るのよ」
女は仕事というものを何も分かっていない。レベッカは耳を一個だけ肩に担ぐと、転移ゲートのある南の方角に帰って行った。
……とりあえず、木の枝を沢山集めて、焚き火で夜通し作業できるようにしよう。今夜中に解体作業を終わらせて、明日の朝にギルドでマリクを捕まえれば、無料の運び屋をゲット出来る。
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