【完結】『婚活パーティーで知り合った冒険者達の話』 〜妹と二人暮らしの23歳、レベル31の兄の場合〜

もう書かないって言ったよね?

文字の大きさ
26 / 56

第23話 ドッグフィンとの戦い③

しおりを挟む
(あの構えはまったく意味がなかったな)

 正面から向かって来るドッグフィンに居合いの構えで待ち構えていたけど、あの構えから直ぐに攻撃しないなら、あれに意味はない。走りやすい状態でいた方がマシだ。

 実際は何回も回避した後に背中に飛び乗って、やっと攻撃出来た。動かない薪で練習していたから、いつもの練習のようにやってしまったけど、実戦では二度とやらないように注意しないといけない。

『ガルグウゥ……』

 さて、反省会はこの辺でいいだろう。そろそろドッグフィンを楽にしてやるべきだ。動物と同じ構造をしているモンスターならば、脊髄破壊はかなり有効な攻撃手段だ。逆に脊髄が無いストーンゴーレムでやったら、剣が折れるだけで終わってしまう。僅かでも倒せる自信がなかったら、僕も無茶はしない。

 両翼と後ろ足は脊髄を破壊したので、神懸かり的な回復力を持っていないなら、もう戦うのは無理だ。問題はどうやってトドメを刺すかになるんだけど……手負いの獣は手強い。素早い動きは無理だとしても、鋭い犬歯と前足の爪は健在だ。迂闊に近づけば大怪我だけじゃ済まない。

「このクソガキ‼︎」

「がぁふぅっ!」

 突然、背中に強い衝撃が走った。誰かが僕の背中を蹴り飛ばしたようだ。犯人は分かっている。奴がやって来たのだ。

「よくも私を囮にして逃げたわね!」

「ごぉほっ!」

 やって来たレベッカに問答無用で背中を蹴られ、さらに顔面を殴られた。酷い誤解だ。逃げるなんて明らかな誤解でしかない。野生動物は背中を見せた相手に襲い掛かる習性がある。ああやって、僕が背中を見せて逃げる事で、黒犬の注意を僕一人に引きつける事が出来たのだ。

 まあ、万が一にも追って来なかった場合も考えていたけど、その時は自己責任という形で、あの世で納得してもらうしかない。

「いたたたた……誤解ですよ! ほら、見てください。ほぼ戦闘不能にしてるでしょう?」

『フッヴヴァ……』

 前足で這って進もうと頑張っているドッグフィンを指差して、勇敢に一人戦って倒した事をアピールする。決して、レベッカを囮にして逃げようとした訳じゃない。

「ハァッ? 一人で倒したからって、私が許すと思っているの? どうやら、一発殴られた程度じゃ理解できないようね。なら、望み通りにタップリと分からせるしかないわね」

「ひっ!」

 拳をボキボキと鳴らしながら、笑顔のレベッカが迫って来る。ハグやキスは一度も期待した事がなかったけど、今はサンドバッグになるよりは、そっちの方がいいかもしれない。

「さあ、覚悟はいいわね。顔と腹。どっちから先に殴られたいか選ばせてあげる」

 結局、どっちも殴るんかぁ~~い!

 レベッカは左手を勢いよく突き出すと、僕の右腕を力一杯掴んで、右拳を振り上げて待機させている。今度は逃げられない! 

「ちょ、ちょっと待ってください! 遊んでいる場合じゃないですよ! まだコイツにトドメを刺してないんですから!」

 とりあえず、緊急事態発生だ。別のサンドバッグを大至急用意しないといけない。そして、ちょうど手頃な場所に、手頃なサイズのモンスターが倒れている。巨大な黒犬サンドバッグは一、二発程度じゃ壊せない。コイツが壊れる頃には、レベッカの怒りも収まっているだろう。

「チッ……倒したんなら、ついでにトドメぐらい刺しなさいよ。あんまり手間かけさせんじゃないわよ」

 レベッカは掴んでいた僕の右腕から左手を離すと、左腰の鞘からサーベルを引き抜いて、ドッグフィンに真っ直ぐに向かって歩いていく。標的が一時的に変更になったようだ。

「ふぅー、油断しないでくださいよ。前足と首は動かせるから、前足を使えば方向転換ぐらいは出来るんですか」

 コイツが倒されるまでは、僕の身の安全は確保された。いや、後回しにされたと言ったところだろうか。人間の怒りが持続する時間は30分ぐらいだと聞いた事があるので、出来るだけ時間をかけて倒したいけど……それはちょっと可哀想だ。

「はいはい。要するに身体を回転させたり、ひっくり返す事がまだ出来るんでしょう? だったら、残った前足二本を動かなくすれば、完全に動けなくなるって事ね。ほら、あんたも手伝いなさいよ」

「いやぁ~、一日に使える剣技の回数が三回までなので、今日はもう使えないんですよ」

 もちろん、そんな制限はない。体力とやる気が続く限り無制限だ。そして、今はやる気が落ちているので使えない感じでいきたい。

「はぁっ? そんな話、誰からも一度も聞いた事ないわよ。本当に使えないの?」

「はい、使えません」

「チッ……役立たずねぇ。だったら、この犬の前でウロチョロしてなさいよ」

「すみません、役立たずで……」

 何を言われても低姿勢で謝り続ける。これが女性との僕の付き合い方だ。男同士なら、殴り合いの喧嘩で大抵の問題は解決できるけど、男と女はそうはいかない。解決したと思っていた事も、後でネチネチと口撃してくるのだ。僕の経験から言っても間違いない。

 ♢♦︎♢♦︎♢

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

前世を越えてみせましょう

あんど もあ
ファンタジー
私には前世で殺された記憶がある。異世界転生し、前世とはまるで違う貴族令嬢として生きて来たのだが、前世を彷彿とさせる状況を見た私は……。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...