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第23話 ドッグフィンとの戦い③
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(あの構えはまったく意味がなかったな)
正面から向かって来るドッグフィンに居合いの構えで待ち構えていたけど、あの構えから直ぐに攻撃しないなら、あれに意味はない。走りやすい状態でいた方がマシだ。
実際は何回も回避した後に背中に飛び乗って、やっと攻撃出来た。動かない薪で練習していたから、いつもの練習のようにやってしまったけど、実戦では二度とやらないように注意しないといけない。
『ガルグウゥ……』
さて、反省会はこの辺でいいだろう。そろそろドッグフィンを楽にしてやるべきだ。動物と同じ構造をしているモンスターならば、脊髄破壊はかなり有効な攻撃手段だ。逆に脊髄が無いストーンゴーレムでやったら、剣が折れるだけで終わってしまう。僅かでも倒せる自信がなかったら、僕も無茶はしない。
両翼と後ろ足は脊髄を破壊したので、神懸かり的な回復力を持っていないなら、もう戦うのは無理だ。問題はどうやってトドメを刺すかになるんだけど……手負いの獣は手強い。素早い動きは無理だとしても、鋭い犬歯と前足の爪は健在だ。迂闊に近づけば大怪我だけじゃ済まない。
「このクソガキ‼︎」
「がぁふぅっ!」
突然、背中に強い衝撃が走った。誰かが僕の背中を蹴り飛ばしたようだ。犯人は分かっている。奴がやって来たのだ。
「よくも私を囮にして逃げたわね!」
「ごぉほっ!」
やって来たレベッカに問答無用で背中を蹴られ、さらに顔面を殴られた。酷い誤解だ。逃げるなんて明らかな誤解でしかない。野生動物は背中を見せた相手に襲い掛かる習性がある。ああやって、僕が背中を見せて逃げる事で、黒犬の注意を僕一人に引きつける事が出来たのだ。
まあ、万が一にも追って来なかった場合も考えていたけど、その時は自己責任という形で、あの世で納得してもらうしかない。
「いたたたた……誤解ですよ! ほら、見てください。ほぼ戦闘不能にしてるでしょう?」
『フッヴヴァ……』
前足で這って進もうと頑張っているドッグフィンを指差して、勇敢に一人戦って倒した事をアピールする。決して、レベッカを囮にして逃げようとした訳じゃない。
「ハァッ? 一人で倒したからって、私が許すと思っているの? どうやら、一発殴られた程度じゃ理解できないようね。なら、望み通りにタップリと分からせるしかないわね」
「ひっ!」
拳をボキボキと鳴らしながら、笑顔のレベッカが迫って来る。ハグやキスは一度も期待した事がなかったけど、今はサンドバッグになるよりは、そっちの方がいいかもしれない。
「さあ、覚悟はいいわね。顔と腹。どっちから先に殴られたいか選ばせてあげる」
結局、どっちも殴るんかぁ~~い!
レベッカは左手を勢いよく突き出すと、僕の右腕を力一杯掴んで、右拳を振り上げて待機させている。今度は逃げられない!
「ちょ、ちょっと待ってください! 遊んでいる場合じゃないですよ! まだコイツにトドメを刺してないんですから!」
とりあえず、緊急事態発生だ。別のサンドバッグを大至急用意しないといけない。そして、ちょうど手頃な場所に、手頃なサイズのモンスターが倒れている。巨大な黒犬サンドバッグは一、二発程度じゃ壊せない。コイツが壊れる頃には、レベッカの怒りも収まっているだろう。
「チッ……倒したんなら、ついでにトドメぐらい刺しなさいよ。あんまり手間かけさせんじゃないわよ」
レベッカは掴んでいた僕の右腕から左手を離すと、左腰の鞘からサーベルを引き抜いて、ドッグフィンに真っ直ぐに向かって歩いていく。標的が一時的に変更になったようだ。
「ふぅー、油断しないでくださいよ。前足と首は動かせるから、前足を使えば方向転換ぐらいは出来るんですか」
コイツが倒されるまでは、僕の身の安全は確保された。いや、後回しにされたと言ったところだろうか。人間の怒りが持続する時間は30分ぐらいだと聞いた事があるので、出来るだけ時間をかけて倒したいけど……それはちょっと可哀想だ。
「はいはい。要するに身体を回転させたり、ひっくり返す事がまだ出来るんでしょう? だったら、残った前足二本を動かなくすれば、完全に動けなくなるって事ね。ほら、あんたも手伝いなさいよ」
「いやぁ~、一日に使える剣技の回数が三回までなので、今日はもう使えないんですよ」
もちろん、そんな制限はない。体力とやる気が続く限り無制限だ。そして、今はやる気が落ちているので使えない感じでいきたい。
「はぁっ? そんな話、誰からも一度も聞いた事ないわよ。本当に使えないの?」
「はい、使えません」
「チッ……役立たずねぇ。だったら、この犬の前でウロチョロしてなさいよ」
「すみません、役立たずで……」
何を言われても低姿勢で謝り続ける。これが女性との僕の付き合い方だ。男同士なら、殴り合いの喧嘩で大抵の問題は解決できるけど、男と女はそうはいかない。解決したと思っていた事も、後でネチネチと口撃してくるのだ。僕の経験から言っても間違いない。
♢♦︎♢♦︎♢
正面から向かって来るドッグフィンに居合いの構えで待ち構えていたけど、あの構えから直ぐに攻撃しないなら、あれに意味はない。走りやすい状態でいた方がマシだ。
実際は何回も回避した後に背中に飛び乗って、やっと攻撃出来た。動かない薪で練習していたから、いつもの練習のようにやってしまったけど、実戦では二度とやらないように注意しないといけない。
『ガルグウゥ……』
さて、反省会はこの辺でいいだろう。そろそろドッグフィンを楽にしてやるべきだ。動物と同じ構造をしているモンスターならば、脊髄破壊はかなり有効な攻撃手段だ。逆に脊髄が無いストーンゴーレムでやったら、剣が折れるだけで終わってしまう。僅かでも倒せる自信がなかったら、僕も無茶はしない。
両翼と後ろ足は脊髄を破壊したので、神懸かり的な回復力を持っていないなら、もう戦うのは無理だ。問題はどうやってトドメを刺すかになるんだけど……手負いの獣は手強い。素早い動きは無理だとしても、鋭い犬歯と前足の爪は健在だ。迂闊に近づけば大怪我だけじゃ済まない。
「このクソガキ‼︎」
「がぁふぅっ!」
突然、背中に強い衝撃が走った。誰かが僕の背中を蹴り飛ばしたようだ。犯人は分かっている。奴がやって来たのだ。
「よくも私を囮にして逃げたわね!」
「ごぉほっ!」
やって来たレベッカに問答無用で背中を蹴られ、さらに顔面を殴られた。酷い誤解だ。逃げるなんて明らかな誤解でしかない。野生動物は背中を見せた相手に襲い掛かる習性がある。ああやって、僕が背中を見せて逃げる事で、黒犬の注意を僕一人に引きつける事が出来たのだ。
まあ、万が一にも追って来なかった場合も考えていたけど、その時は自己責任という形で、あの世で納得してもらうしかない。
「いたたたた……誤解ですよ! ほら、見てください。ほぼ戦闘不能にしてるでしょう?」
『フッヴヴァ……』
前足で這って進もうと頑張っているドッグフィンを指差して、勇敢に一人戦って倒した事をアピールする。決して、レベッカを囮にして逃げようとした訳じゃない。
「ハァッ? 一人で倒したからって、私が許すと思っているの? どうやら、一発殴られた程度じゃ理解できないようね。なら、望み通りにタップリと分からせるしかないわね」
「ひっ!」
拳をボキボキと鳴らしながら、笑顔のレベッカが迫って来る。ハグやキスは一度も期待した事がなかったけど、今はサンドバッグになるよりは、そっちの方がいいかもしれない。
「さあ、覚悟はいいわね。顔と腹。どっちから先に殴られたいか選ばせてあげる」
結局、どっちも殴るんかぁ~~い!
レベッカは左手を勢いよく突き出すと、僕の右腕を力一杯掴んで、右拳を振り上げて待機させている。今度は逃げられない!
「ちょ、ちょっと待ってください! 遊んでいる場合じゃないですよ! まだコイツにトドメを刺してないんですから!」
とりあえず、緊急事態発生だ。別のサンドバッグを大至急用意しないといけない。そして、ちょうど手頃な場所に、手頃なサイズのモンスターが倒れている。巨大な黒犬サンドバッグは一、二発程度じゃ壊せない。コイツが壊れる頃には、レベッカの怒りも収まっているだろう。
「チッ……倒したんなら、ついでにトドメぐらい刺しなさいよ。あんまり手間かけさせんじゃないわよ」
レベッカは掴んでいた僕の右腕から左手を離すと、左腰の鞘からサーベルを引き抜いて、ドッグフィンに真っ直ぐに向かって歩いていく。標的が一時的に変更になったようだ。
「ふぅー、油断しないでくださいよ。前足と首は動かせるから、前足を使えば方向転換ぐらいは出来るんですか」
コイツが倒されるまでは、僕の身の安全は確保された。いや、後回しにされたと言ったところだろうか。人間の怒りが持続する時間は30分ぐらいだと聞いた事があるので、出来るだけ時間をかけて倒したいけど……それはちょっと可哀想だ。
「はいはい。要するに身体を回転させたり、ひっくり返す事がまだ出来るんでしょう? だったら、残った前足二本を動かなくすれば、完全に動けなくなるって事ね。ほら、あんたも手伝いなさいよ」
「いやぁ~、一日に使える剣技の回数が三回までなので、今日はもう使えないんですよ」
もちろん、そんな制限はない。体力とやる気が続く限り無制限だ。そして、今はやる気が落ちているので使えない感じでいきたい。
「はぁっ? そんな話、誰からも一度も聞いた事ないわよ。本当に使えないの?」
「はい、使えません」
「チッ……役立たずねぇ。だったら、この犬の前でウロチョロしてなさいよ」
「すみません、役立たずで……」
何を言われても低姿勢で謝り続ける。これが女性との僕の付き合い方だ。男同士なら、殴り合いの喧嘩で大抵の問題は解決できるけど、男と女はそうはいかない。解決したと思っていた事も、後でネチネチと口撃してくるのだ。僕の経験から言っても間違いない。
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