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第36話 お好みタイ焼き
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ケルベロス亜種の買取り金額は金貨20枚だった。ドッグフィンなんて存在しないモンスターを商人に買わせようとした役立たずの女には、金貨3枚を支払って、我が冒険者パーティーからは永久追放してやった。
「くっふふふ。それで、その女が全く使えない奴なんだよ! だから、お兄ちゃんが代わりに素材を売ってね」
「へぇ~~」
今日はとっても機嫌が良いから、家に帰る前にアリサの好きな『天元堂』のお好みタイ焼きを買って来た。普通の黒餡や白餡が入ったタイ焼きが銅貨2枚なのに対して、これは生地の中に肉や魚介類、キャベツがたくさん入って、一匹銀貨1枚と高価である。
ソース、カツオ節、マヨネーズがかかったお好みタイ焼きは、通の間では僕のようにナイフとフォークを使って、一口大に切って食べるのが一般的である。
でも、テーブルの対面に座るアリサはは手掴みでお好みタイ焼きを持ち上げると、頭から齧り付いて食べ始めた。両手や口元がソースやマヨネーズでベタベタになっているのに、全然気にもしていないようだ。
「ねぇ、お兄ちゃん。私も早く結婚した方がいいとは言ったよ。でも、レベッカさんがいるのに、二股とかどうなのかな?」
うっ…まだ、レベッカの事を彼女だと思い込んでいる。完全否定していない僕にも非があるといえ、アリサなら僕の女性の好みは知っているはずだ。全然正反対の女性なんて選ばないでしょう。
「いやいや⁉︎ 二股じゃないし、そもそもマリクの馬鹿が連れて来た女だよ。しかも、性格が超~~~悪い最低女だったんだから。速攻でパーティーを追い出してやったよ! もう二度と会わないから大丈夫だよ!」
「へぇー、何だか必死に誤魔化しているみたいに聞こえるのは、私の気の所為かな? 普段は買わないようなお土産も買っているみたいだしさぁ~」
ガブリとまた不機嫌そうに頭から齧り付いた。どうやら、二股疑惑を抱かれているようだ。まったくの濡れ衣なのに酷い誤解だ。そもそも、レベッカとは付き合ってもいないのに、二股なんて起こり得ない! 不可能犯罪だ!
「そうだ、そうだ! 明日、レベッカと二人でストーンゴーレムを倒しに行くだけど、アリサはクサビってアイテム知ってるかな? 先端がV字になった金属の棒で——」
「その話はどうでもいいよ。ねぇ、お兄ちゃん。『おい、ガチムチ。その女は俺の女だ。欲しけりゃ、まずは俺を倒してから連れて行けよ』ってお兄ちゃん。こんな恥ずかしいセリフを役立たずの女の人の為に言えるんだね。私、この話を聞いた時は感動したのに、レベッカさんじゃなかったんだね」
「……」
誰が教えた⁉︎ いや、犯人探しは後でも出来る。今できる事に全力を尽くさないとやられる!
せっかく、レベッカの話をして機嫌を直してもらおうと思ったのに、今日の朝に冒険者ギルドの前で起こった事件を、アリサは誰かから聞いたのか知っていた。つまりは三人の男から、僕が命懸けでステラを守ったという出鱈目な出来事を信じている。これは非常にマズイ。
ステラがマリクが連れて来た女という事は、既に話しているのでもう知らない女の人が暴漢に襲われていたから助けたという、苦しい言い訳は使えない。
そもそも、武闘派がたくさん集まる冒険者ギルドの前で、女性を襲うような暴漢が現れるとは思えない。今日の奴らのように、フルボッコにされて牢屋に送られるだけだ。
ここは下手に誤魔化すよりは真実を話した方が被害は少ないはずだ。決心を固めると、素直にステラとの事を話し始めた。でも、米三昧での出来事は一切話さない。女性にタックルして、ロープで縛るのは別件で怒られるだけだ。
「ふむふむ……つまりは性悪女を助ける為に仕方なくお兄ちゃんの恋人にしちゃったのか……んんっ~~、それなら仕方ないか。でも、お兄ちゃんにはレベッカさんがいるんだから、ステラさんの事を好きになっても、別れる前までは我慢しないと駄目だよ」
ホッ。どうやら、納得してくれたようだ。まあ、困っている女性を助けただけなんだから、怒られる理由は何処にもないか。そもそも、僕が我慢しているのはグーで殴らないようにしている事だけだ。男女の間違いは起こらない。
「あっはは、大丈夫だよ♪ マリクにも俺にも近づくなって言っておいたから。それに二股しようとしているのは、その女なんだよ。あっ! でも、この話はマリクには絶対に内緒にしておいてよ。あいつ、ショックで寝込んじゃうから」
「うん、言わないよ。でも、お兄ちゃんはマリクさんの恋人を奪ったんだよね。お金を使って、力尽くで」
「はい? いやいや、アリサ! 人聞き悪いこと言わないでよ! あの女は金蔓になりそうなら誰でもいい女なんだから! マリクよりもお兄ちゃんの方がお金を持っていたから近づいて来ただけだよ。それに仕事だよ。働いてくれたら、お金を払うのは当たり前でしょう!」
キチンと働いてくれたら、その分の報酬を払うのは当たり前の事だ。もしも、ステラがサボっていたなら、僕も銀貨の2、3枚渡すだけだった。別にまた会いたいとか、また一緒に仕事をしたいとか思っていない。それは絶対に間違いない!
「でも、お兄ちゃんはその人がお金好きな性格だって知っているのに、金貨3枚も渡したんだよね。普通、二度と近づいてほしくないなら、銅貨1枚で十分でしょう。金貨3枚も上げちゃったら、また来ちゃうよ。本当はお兄ちゃんも本心でも好きだから、多く渡しちゃったんじゃないの?」
アリサにそう言われた瞬間、心臓がドクンと跳ね上がった。まさか、僕があの女の事を……。
「ほら、お兄ちゃん。大事な事なんだよ。レベッカさんとそのステラさん、どっちが好きなの? 素直な気持ちで落ちついて考えてみて。そうしたら、答えが分かるはずだよ」
「僕の本当の気持ちか……」
アリサはとても優しい声で丁寧に僕の気持ちを確かめようしてくれている。そうかもしれない。素直な気持ちで落ちいて考えれば、僕の本当の気持ちが分かるかもしれない。
レベッカは一見ガサツで男に興味なんてない印象があるけど、実は昔は遊び人で、ダンジョンの中で男遊びをしていた過去がある。今も良い男と付き合って、友人のギルド職員の女性を見返そうと頑張っている男好き好き女だ。
ステラは可愛い見た目と声で騙されやすいけど、心はドロドロに腐り切っている。残忍で乱暴、容赦なく使用済みの男は捨てるという最低の女だ。でも、それなりのお金を渡せば、しっかりと仕事する女でもある。
(ああっ、そうか。僕の気持ちが分かった。僕が好きなのは……)
落ちいて考えればすぐに分かる事だった。
「アリサ、分かったよ。僕が好きなのは——」
僕の答えをテーブルの向こう側で待っているアリサに、しっかりとハッキリと教えた。その瞬間、パァン! 左頬をソースとマヨネーズでベタベタになったアリサの右手でビンタされてしまった。
♢♦︎♢♦︎♢
「くっふふふ。それで、その女が全く使えない奴なんだよ! だから、お兄ちゃんが代わりに素材を売ってね」
「へぇ~~」
今日はとっても機嫌が良いから、家に帰る前にアリサの好きな『天元堂』のお好みタイ焼きを買って来た。普通の黒餡や白餡が入ったタイ焼きが銅貨2枚なのに対して、これは生地の中に肉や魚介類、キャベツがたくさん入って、一匹銀貨1枚と高価である。
ソース、カツオ節、マヨネーズがかかったお好みタイ焼きは、通の間では僕のようにナイフとフォークを使って、一口大に切って食べるのが一般的である。
でも、テーブルの対面に座るアリサはは手掴みでお好みタイ焼きを持ち上げると、頭から齧り付いて食べ始めた。両手や口元がソースやマヨネーズでベタベタになっているのに、全然気にもしていないようだ。
「ねぇ、お兄ちゃん。私も早く結婚した方がいいとは言ったよ。でも、レベッカさんがいるのに、二股とかどうなのかな?」
うっ…まだ、レベッカの事を彼女だと思い込んでいる。完全否定していない僕にも非があるといえ、アリサなら僕の女性の好みは知っているはずだ。全然正反対の女性なんて選ばないでしょう。
「いやいや⁉︎ 二股じゃないし、そもそもマリクの馬鹿が連れて来た女だよ。しかも、性格が超~~~悪い最低女だったんだから。速攻でパーティーを追い出してやったよ! もう二度と会わないから大丈夫だよ!」
「へぇー、何だか必死に誤魔化しているみたいに聞こえるのは、私の気の所為かな? 普段は買わないようなお土産も買っているみたいだしさぁ~」
ガブリとまた不機嫌そうに頭から齧り付いた。どうやら、二股疑惑を抱かれているようだ。まったくの濡れ衣なのに酷い誤解だ。そもそも、レベッカとは付き合ってもいないのに、二股なんて起こり得ない! 不可能犯罪だ!
「そうだ、そうだ! 明日、レベッカと二人でストーンゴーレムを倒しに行くだけど、アリサはクサビってアイテム知ってるかな? 先端がV字になった金属の棒で——」
「その話はどうでもいいよ。ねぇ、お兄ちゃん。『おい、ガチムチ。その女は俺の女だ。欲しけりゃ、まずは俺を倒してから連れて行けよ』ってお兄ちゃん。こんな恥ずかしいセリフを役立たずの女の人の為に言えるんだね。私、この話を聞いた時は感動したのに、レベッカさんじゃなかったんだね」
「……」
誰が教えた⁉︎ いや、犯人探しは後でも出来る。今できる事に全力を尽くさないとやられる!
せっかく、レベッカの話をして機嫌を直してもらおうと思ったのに、今日の朝に冒険者ギルドの前で起こった事件を、アリサは誰かから聞いたのか知っていた。つまりは三人の男から、僕が命懸けでステラを守ったという出鱈目な出来事を信じている。これは非常にマズイ。
ステラがマリクが連れて来た女という事は、既に話しているのでもう知らない女の人が暴漢に襲われていたから助けたという、苦しい言い訳は使えない。
そもそも、武闘派がたくさん集まる冒険者ギルドの前で、女性を襲うような暴漢が現れるとは思えない。今日の奴らのように、フルボッコにされて牢屋に送られるだけだ。
ここは下手に誤魔化すよりは真実を話した方が被害は少ないはずだ。決心を固めると、素直にステラとの事を話し始めた。でも、米三昧での出来事は一切話さない。女性にタックルして、ロープで縛るのは別件で怒られるだけだ。
「ふむふむ……つまりは性悪女を助ける為に仕方なくお兄ちゃんの恋人にしちゃったのか……んんっ~~、それなら仕方ないか。でも、お兄ちゃんにはレベッカさんがいるんだから、ステラさんの事を好きになっても、別れる前までは我慢しないと駄目だよ」
ホッ。どうやら、納得してくれたようだ。まあ、困っている女性を助けただけなんだから、怒られる理由は何処にもないか。そもそも、僕が我慢しているのはグーで殴らないようにしている事だけだ。男女の間違いは起こらない。
「あっはは、大丈夫だよ♪ マリクにも俺にも近づくなって言っておいたから。それに二股しようとしているのは、その女なんだよ。あっ! でも、この話はマリクには絶対に内緒にしておいてよ。あいつ、ショックで寝込んじゃうから」
「うん、言わないよ。でも、お兄ちゃんはマリクさんの恋人を奪ったんだよね。お金を使って、力尽くで」
「はい? いやいや、アリサ! 人聞き悪いこと言わないでよ! あの女は金蔓になりそうなら誰でもいい女なんだから! マリクよりもお兄ちゃんの方がお金を持っていたから近づいて来ただけだよ。それに仕事だよ。働いてくれたら、お金を払うのは当たり前でしょう!」
キチンと働いてくれたら、その分の報酬を払うのは当たり前の事だ。もしも、ステラがサボっていたなら、僕も銀貨の2、3枚渡すだけだった。別にまた会いたいとか、また一緒に仕事をしたいとか思っていない。それは絶対に間違いない!
「でも、お兄ちゃんはその人がお金好きな性格だって知っているのに、金貨3枚も渡したんだよね。普通、二度と近づいてほしくないなら、銅貨1枚で十分でしょう。金貨3枚も上げちゃったら、また来ちゃうよ。本当はお兄ちゃんも本心でも好きだから、多く渡しちゃったんじゃないの?」
アリサにそう言われた瞬間、心臓がドクンと跳ね上がった。まさか、僕があの女の事を……。
「ほら、お兄ちゃん。大事な事なんだよ。レベッカさんとそのステラさん、どっちが好きなの? 素直な気持ちで落ちついて考えてみて。そうしたら、答えが分かるはずだよ」
「僕の本当の気持ちか……」
アリサはとても優しい声で丁寧に僕の気持ちを確かめようしてくれている。そうかもしれない。素直な気持ちで落ちいて考えれば、僕の本当の気持ちが分かるかもしれない。
レベッカは一見ガサツで男に興味なんてない印象があるけど、実は昔は遊び人で、ダンジョンの中で男遊びをしていた過去がある。今も良い男と付き合って、友人のギルド職員の女性を見返そうと頑張っている男好き好き女だ。
ステラは可愛い見た目と声で騙されやすいけど、心はドロドロに腐り切っている。残忍で乱暴、容赦なく使用済みの男は捨てるという最低の女だ。でも、それなりのお金を渡せば、しっかりと仕事する女でもある。
(ああっ、そうか。僕の気持ちが分かった。僕が好きなのは……)
落ちいて考えればすぐに分かる事だった。
「アリサ、分かったよ。僕が好きなのは——」
僕の答えをテーブルの向こう側で待っているアリサに、しっかりとハッキリと教えた。その瞬間、パァン! 左頬をソースとマヨネーズでベタベタになったアリサの右手でビンタされてしまった。
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