【完結】『婚活パーティーで知り合った冒険者達の話』 〜妹と二人暮らしの23歳、レベル31の兄の場合〜

もう書かないって言ったよね?

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第41話 ストーンゴーレムとの戦い④

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 二人を追って部屋の中に入ると、松明を二本持ってストーンゴーレムの周囲を照らしているステラと、打撃部分が尖ったハンマーをゴーレムの左足に力一杯打つけているレベッカを目撃してしまった。明らかに作戦とは違う。全然、頭を狙っていない。

(まあいい。こうなる事は予想していた)

 二人には最初から期待はしていないので、まずは僕が戦いやすいように戦闘環境を整える。暗がりを松明で照らせば、薄暗い部屋の全体像が少しだけ見えてきた。

 長方形の部屋は横幅10メートル、奥行き20メートル、高さは4メートル程度あり、出入り口は今入って来た通路しかないようだ。つまりは行き止まりなので、レベッカが話していたようなゴーレムの倒し方は不可能になる。

 この広い空間を有効的に使って、まともに戦うには数カ所に灯りが必要だ。でも、油を撒いて火を燃やせば、何となく酸素が薄くなりそうで怖い。煙の出ない油を使っているとしても、酸素不足は回避は出来ないだろう。

 だとしたら、もうやる事は一つしかない。ステラが放り投げていた僕のハンマーを地面から拾うと攻撃に参加した。やる事は単純だ。素早く倒して、素早く脱出だ。

「オリャャー!」

『ガキィーーン!』

 両手で握ったハンマーをゴーレムの左足に向かって激しく打つけた。攻撃の衝撃でジ~~ンと両手が軽く痺れてしまう。でも、休んではいられない。まずは足を破壊して機動力を奪う。両足、両手を破壊すれば、あとは頭でも胸でも好きに破壊してコアを探せばいい。

「アベル! 片足さえ壊せれば頭を狙えるから、左足を集中攻撃するわよ!」

「イエッサー!」

 レベッカが僕に向かって指示してきた。どうやら、少しは作戦を考えていたようだ。確かに片足をぶっ壊せば、攻撃が頭に届きそうだ。

 目の前のストーンゴーレムの身長は3メートル以上、身体の色は黒っぽい灰色で、プクプクに太ったスキンヘッドの子供のような見た目をしている。

 丸みを帯びた太い手足は肘と膝の区別が難しく、五本の尖った指を持っている。どうやら、この鋭い指でガリガリと岩壁を削って部屋を広くしていたようだ。

 とりあえず、太い手に掴まえられなければ、そこまでの脅威はない。手足に押し潰されないように回避優先で攻撃を当てていけば、必ず倒せるはずだ。

「こっちこっち!」

 ゴーレムの正面に立って、ステラは松明を左右に大きく振って、ゴーレムの注意を引きつける。その隙を突いて、僕とレベッカの二人がゴーレムの背後から左足を強襲した。ステラは今日は囮役と照明係に徹するようだ。

「セイヤァー!」

「ヤァッー!」

 二人掛かりで何度も左足への攻撃を続けていると、表面の岩がボロボロと崩れ始めた。

 表面の硬い岩が崩れると、打撃部分が尖ったハンマーの先端が簡単に突き刺さるようになってきた。表面が一番硬く、中身の岩は意外と柔らかいようだ。これなら楽に倒せる。

「ステラ。倒すから、回避しろよ」

「さっさとやれよ、ウスノロ!」

 ハンマーで攻撃する前に、ステラに一応注意した。どうやら、必要なかったようだ。今度からは絶対に教えないでおこう。自信があるようだから、ゴーレムの下敷きにはならないだろう。

 左足の真ん中、膝っぽい部分を集中攻撃して、膝裏から膝に向かって、半分以上を崩れさせた。あとは自分の体重でへし折れるのを待ってもいいけど、ここまで頑張ったのなら自分でトドメは刺したかった。

「オリャャー!」

 背後から渾身の一振りがゴーレムの左膝をへし折った。ボロボロとクッキーのように岩の身体が砕けると、正面ではなく、後方に向かって倒れて来た。手からハンマーを急いで離すと、左横に走って飛んで緊急回避した。

(くぅぅ~~、何で後ろに倒れるんだよ!)

 身体を急いで起こして、倒れているゴーレムを確認した。仰向けに倒れているゴーレムは、鋭い指先で地面を引っ掻いたり、意味もなく振り回したりして迂闊に近寄れない。

 予定通りにうつ伏せで倒れてくれたら、背中に飛び乗って、頭を一方的に攻撃できる予定だったのに、こういう風に仰向けに倒れられると両腕が邪魔で全然攻撃できない。

 まあ、起こってしまった結果を変える事は出来ない。それにうつ伏せに倒れても、両腕を腕立て伏せのようにして、仰向けにひっくり返る事も出来る。防ぐ事が出来ない事態だったと諦めるしかない。

「二人とも気をつけてよ! この状態になると残った手足で這って進むから」

(それは最初に言うべき事でしょう)

 レベッカが注意してきた。前にもこういう事態を体験したようだ。その時の経験を今回も活かせていないのは残念だけど、覚えていただけでもマシだと思う事にしよう。

 ここは一気に攻めた方が良さそうだ。

 ゴーレムはその場でジタバタ動くだけで這って移動する気配はなかった。隙を突いて、『強斬・地嵐』を頭部に数回振り下ろせば、頭部ごとコアを破壊できる可能がある。まさにピンチをチャンスに変えるとか、ピンチを見逃すな! みたいな感じだと思う。

 両腕の動きを予想して、一気に踏み込み、一気にハンマーを振り下ろした。

『ガキィーーン!』

「くぅっ!」

 硬い表面にハンマーが弾かれて、両手がジ~~ンと痺れた。やはり一発では難しい。そもそもコアがある部分が柔らかいはずがない。もしかすると、左足の数倍の強度があるかもしれない。これは手古摺りそうだ。

「アベル、一気に倒すから準備しておいて!」

「えっ?」

 両腕に掴まれる前に急いで後ろに回避すると、交代するようにレベッカが胸の上に飛び乗って、上、右、左とゴーレムの頭部にハンマーを叩きつけていく。かなり危険な行為なので、早死にしたくない冒険者はやめておきましょう。

「オラッ、オラッ、さっさと砕けなさいよ!」

 ゴーレムの頭部がたったの一撃でボロボロと簡単に砕けていく。おそらく、一撃一撃に『強斬・スラッシュクロー』が込められているのだろう。でなければ、この威力は考えられない。

 僕の出番はなさそうだけど、とりあえず、レベッカが疲れる瞬間を待とう。多分、疲れる前に頭部にコアがあれば、ハンマーで外に弾き飛ばされる。

「あっ!」

 キラキラした何かが岩片と一緒に壁に向かって吹き飛んでいった。レベッカの光る汗だろうか?

「はぁ…はぁ…何やってんのよ。早くトドメを刺さないと逃げられるわよ」

「ああっ、はい! ステラ、灯りが必要だから早く来いよ!」

 流石のレベッカもお疲れのようだ。10連続以上の剣技の使用で、肉体的、精神的にバテバテでロクに声が出せていない。これで逃げられたから、もう一回お願いします、は通用しない。

(コアの色は赤色だったはず……)

 モンスター図鑑でコアの色は知っている。親指台のコアは地面や壁に張り付くらしいので、地面になかったら、思い切って、壁や天井を探して見ないといけない。あまり時間はかけられないので、見つけるなら三分以内だ。

「んっ? 下僕、コレなんじゃないの?」

「絶対に触るなよ! 直ぐに行くから!」

 コアが食べるのは鉱物だけじゃない。水も食べる。人が素手で触るのはかなり危険なのでステラに急いで注意した。

「さっさと壊しなさいよ。これで間違いないんでしょう?」

 ステラが持つ松明の灯りが、地面に落ちている赤い石を照らしていた。親指台で菱形……間違いない。ゴーレムのコアだ。キラキラ輝いてルビーのように見えるけど、そこまでの価値はない。さっさとハンマーで破壊しよう。

「破片が飛ぶかもしれないから、松明を地面に置いて少し離れていろよ……エイッ!」

 ステラが離れたのを確認すると、赤いコアに向かって、ハンマーを迷わずに振り下ろした。グシャっと硬い水風船を潰したような嫌な感触がした。これはハンマーの掃除が大変そうだ。

「うっ!」

 ハンマーを恐る恐る確認すると、ベタベタした赤い何かが付いていた。

 ♢♦︎♢♦︎♢
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