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第1章
第1話①フック
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「フフッ。早速雑魚が来たわね!」
頭に鉄兜を被ると、妹がいつものように派手な装飾が施された軽金属鎧の音を鳴らして突き進んでいった。
手に持つ緑色の両刃の大剣は、何処ぞの王族所有の逸品かと思ってしまう程に豪華だ。
そんな装備に金使いまくりの妹が向かって行くのは、ダンジョン入り口近くに現れた三匹のロックウルフだ。
ガーゴイルと同じぐらいの強度を持つモンスターだが、
「おりゃー!」
『ギャン……!』
振り下ろされた大剣の一撃によって、鼻を境に身体が左右に真っ二つにされてしまった。
流石はLV68の大戦士。【白銀黄金の戦乙女】の二つ名で呼ばれるだけはある。
まあ、不名誉な二つ名ならば俺も持っている。
僧侶LV23の俺の二つ名は【人型回復薬】だ。
少し前までは【意思ある回復薬】とも呼ばれていたが、
「アイツに自分の意思はない」という酷い一言で、俺は見事に人間から道具に降格されてしまった。
まあ、どっちにしても酷い二つ名だ。大した差があるとは思えない。
『グガアアア‼︎』
おっと、もう出番みたいだ。暇潰しの一人語りは一時中断としよう。
ロックウルフの一匹が斬られる覚悟で突進してきている。
間違いなく、あの攻撃を避けれる技量はうちの脳筋妹にはない。
身長程もある長い木の杖を妹に向けて唱えた。
「”ジャストヒール〟」
すると、緑色の淡い光が妹の身体を包み込んだ。
「ぐふっ! このクソ犬ゥ!」
『ギャン……!』
回復魔法の発動と同時にロックウルフの頭突きが妹の腹に炸裂した。
決死の攻撃にも関わらず妹を50センチ程動かして、即座に斬られて、身体が前後に真っ二つだ。
可哀想だが、うちの妹は産まれたての子猫でも容赦なく斬殺する鬼畜だ。
殺されたくなかったら、見た瞬間に逃げ出すべきだった。
「コラッ! ボケッとしてないでさっさと回収! この役立たず!」
「すみません! すぐに!」
まだ残り一匹いるのに、もう次の出番みたいだ。大剣を頭上で振り回して急かしてきた。
妹に素早く謝ると、アイテム鞄にロックウルフの死体を詰め込んだ。
攻撃力と耐久力のある戦士と違って、攻撃力クソ雑魚の僧侶の主な仕事は回復と回収の二つだけだ。
誰でも出来る簡単な仕事だが、脳筋戦士にはとにかく回復が大量に必要になる。
馬鹿だから、知力と防御力と回避力を全部攻撃力に回している所為だ。
『ギャン……!』
「はい、終~了。雑魚すぎて準備運動にもならないわね」
「ご苦労様です」
最後の一匹を倒して、妹が鉄兜と脱ぐと、乱れた長い金髪が露わになった。
これは汗かいたからさっさとタオルの合図だ。
アイテム鞄から素早くタオルを取り出して、妹に駆け寄り差し出した。
「この調子でチャチャとボス倒して帰るわよ」
「はい、仰せのままに」
使用済みのタオルを受け取ると、僧侶だが騎士のように跪いた体勢のまま返事した。
妹には下僕か召使いに見えているだろうが、俺の中では騎士だ。
そう思わなければやってられない。
「おりゃー! おりゃー!」
『グバァ……!』
『ゲバァ……!』
有言実行とは言わないが、本当にチャチャと進んでいく。
向かってきたモンスターをとにかく斬って斬って斬り倒していく。
俺は妹の後ろに隠れて、とにかく回復、回復、回収していく。
この調子ならダンジョンボスも二人で倒せるかもしれない。
さて、今回の目的はこの遺跡洞窟型A 級ダンジョン【古代アルぺニア神殿】の攻略だ。
と言っても、妹の仲間二人を入れた四人で挑めば、攻略はそこまで難しくないダンジョンだ。
妹の真の目的は【上級職の上=特別職】の獲得だ。
職業とは初めてダンジョンに入る事で、神様から与えられる力の事だ。
今から十数年前のあの日、妹は戦士、俺は僧侶を手に入れた。
もしもこれが逆だったら、俺達兄妹は今も仲良し兄妹だったかもしれない……
「痛いよぉー!」
「”ヒール〟」
「わぁー! お兄ちゃん、ありがとう!」
「フィリアのことはお兄ちゃんが守ってやる! 安心して戦っていいぞ!」
「うん!」
……そう、あの頃は素直で可愛かった。
怪我して回復してあげたら、キチンとお礼も言えていた。
今じゃ当たり前だと思っているのか、もう何年もありがとうを聞いてない。
代わりに聞くのは、「回復が遅い!」「私を殺す気!」などの文句と罵倒ばかりだ。
おっと、説明が脱線してしまったな。特別職の話に戻るとしよう。
初ダンジョンで貰えるのが【基本職】で、基本職の上が【上位職】になる。
そして、上の職業になる条件というのが困難な事の達成やLVアップだ。
困難とは試練みたいなもので、職業やその人の能力や性格で条件が変わってくる。
一般的なのはLVアップだ。LVアップの方法はモンスターを倒したり、俺の場合は回復魔法を使うとかだ。
俺のLVのほとんどが戦闘ではなく、回復魔法で上げられたものだ。
ちなみにLV=彼女いない歴じゃない。年齢=彼女いない歴の20歳だ。
ここは重要だから覚えておいた方がいい。
「よぉーし! 着いたわよ!」
「ご苦労様です。見事なお手際で」
おっと、楽しい一人語りの時間は終わりだ。ほら、妹の言った通りだろ。
本当にチャチャとダンジョンボスがいる部屋の、巨人用かと思うぐらいの大扉の前までやって来てしまった。
ここからは一人語りなんてやっている余裕もないほどの激戦だ。
とにかく休む暇なく回復し続けないといけない。
さて、死ぬかもしれない前に最後の一人語りだ。妹のLVは68だ。これはかなり高い方だ。
つまり特別職になる条件がLVアップ以外にある可能性が高いという事だ。
そこで困難な試練をやろうという事になった。
雑魚僧侶LV23の俺をハンデとして背負って、ダンジョンボス制覇に挑むと言い出した。
こんなに頑張っているのにお荷物扱い、物扱いは悲しすぎて笑ってしまう。
「いい。あんたがミスしたら、あんたも死ぬんだからね! 死ぬ気で私を回復しなさい! あんた一人でモンスター倒してダンジョンから帰れないでしょ! さあ、行くわよ!」
「はい!」
俺の返事は聞く必要なしと、一方的に喋って、大扉を押し開いた。
出来れば入るかどうかの最終確認して欲しかったが、もう遅すぎる。
妹置き去りにして逃げても、途中にいるモンスターに殺されてしまう。
俺と妹は二人で一人だ。どちらか片方が死ねば共倒れの運命共同体だ。
杖をしっかりと握り締めると、妹の後に続いて扉を通った。
すると、扉が独りでに閉まり始めた。
完全に閉まるのを見届けると、正面の決戦の舞台を見た。
頭に鉄兜を被ると、妹がいつものように派手な装飾が施された軽金属鎧の音を鳴らして突き進んでいった。
手に持つ緑色の両刃の大剣は、何処ぞの王族所有の逸品かと思ってしまう程に豪華だ。
そんな装備に金使いまくりの妹が向かって行くのは、ダンジョン入り口近くに現れた三匹のロックウルフだ。
ガーゴイルと同じぐらいの強度を持つモンスターだが、
「おりゃー!」
『ギャン……!』
振り下ろされた大剣の一撃によって、鼻を境に身体が左右に真っ二つにされてしまった。
流石はLV68の大戦士。【白銀黄金の戦乙女】の二つ名で呼ばれるだけはある。
まあ、不名誉な二つ名ならば俺も持っている。
僧侶LV23の俺の二つ名は【人型回復薬】だ。
少し前までは【意思ある回復薬】とも呼ばれていたが、
「アイツに自分の意思はない」という酷い一言で、俺は見事に人間から道具に降格されてしまった。
まあ、どっちにしても酷い二つ名だ。大した差があるとは思えない。
『グガアアア‼︎』
おっと、もう出番みたいだ。暇潰しの一人語りは一時中断としよう。
ロックウルフの一匹が斬られる覚悟で突進してきている。
間違いなく、あの攻撃を避けれる技量はうちの脳筋妹にはない。
身長程もある長い木の杖を妹に向けて唱えた。
「”ジャストヒール〟」
すると、緑色の淡い光が妹の身体を包み込んだ。
「ぐふっ! このクソ犬ゥ!」
『ギャン……!』
回復魔法の発動と同時にロックウルフの頭突きが妹の腹に炸裂した。
決死の攻撃にも関わらず妹を50センチ程動かして、即座に斬られて、身体が前後に真っ二つだ。
可哀想だが、うちの妹は産まれたての子猫でも容赦なく斬殺する鬼畜だ。
殺されたくなかったら、見た瞬間に逃げ出すべきだった。
「コラッ! ボケッとしてないでさっさと回収! この役立たず!」
「すみません! すぐに!」
まだ残り一匹いるのに、もう次の出番みたいだ。大剣を頭上で振り回して急かしてきた。
妹に素早く謝ると、アイテム鞄にロックウルフの死体を詰め込んだ。
攻撃力と耐久力のある戦士と違って、攻撃力クソ雑魚の僧侶の主な仕事は回復と回収の二つだけだ。
誰でも出来る簡単な仕事だが、脳筋戦士にはとにかく回復が大量に必要になる。
馬鹿だから、知力と防御力と回避力を全部攻撃力に回している所為だ。
『ギャン……!』
「はい、終~了。雑魚すぎて準備運動にもならないわね」
「ご苦労様です」
最後の一匹を倒して、妹が鉄兜と脱ぐと、乱れた長い金髪が露わになった。
これは汗かいたからさっさとタオルの合図だ。
アイテム鞄から素早くタオルを取り出して、妹に駆け寄り差し出した。
「この調子でチャチャとボス倒して帰るわよ」
「はい、仰せのままに」
使用済みのタオルを受け取ると、僧侶だが騎士のように跪いた体勢のまま返事した。
妹には下僕か召使いに見えているだろうが、俺の中では騎士だ。
そう思わなければやってられない。
「おりゃー! おりゃー!」
『グバァ……!』
『ゲバァ……!』
有言実行とは言わないが、本当にチャチャと進んでいく。
向かってきたモンスターをとにかく斬って斬って斬り倒していく。
俺は妹の後ろに隠れて、とにかく回復、回復、回収していく。
この調子ならダンジョンボスも二人で倒せるかもしれない。
さて、今回の目的はこの遺跡洞窟型A 級ダンジョン【古代アルぺニア神殿】の攻略だ。
と言っても、妹の仲間二人を入れた四人で挑めば、攻略はそこまで難しくないダンジョンだ。
妹の真の目的は【上級職の上=特別職】の獲得だ。
職業とは初めてダンジョンに入る事で、神様から与えられる力の事だ。
今から十数年前のあの日、妹は戦士、俺は僧侶を手に入れた。
もしもこれが逆だったら、俺達兄妹は今も仲良し兄妹だったかもしれない……
「痛いよぉー!」
「”ヒール〟」
「わぁー! お兄ちゃん、ありがとう!」
「フィリアのことはお兄ちゃんが守ってやる! 安心して戦っていいぞ!」
「うん!」
……そう、あの頃は素直で可愛かった。
怪我して回復してあげたら、キチンとお礼も言えていた。
今じゃ当たり前だと思っているのか、もう何年もありがとうを聞いてない。
代わりに聞くのは、「回復が遅い!」「私を殺す気!」などの文句と罵倒ばかりだ。
おっと、説明が脱線してしまったな。特別職の話に戻るとしよう。
初ダンジョンで貰えるのが【基本職】で、基本職の上が【上位職】になる。
そして、上の職業になる条件というのが困難な事の達成やLVアップだ。
困難とは試練みたいなもので、職業やその人の能力や性格で条件が変わってくる。
一般的なのはLVアップだ。LVアップの方法はモンスターを倒したり、俺の場合は回復魔法を使うとかだ。
俺のLVのほとんどが戦闘ではなく、回復魔法で上げられたものだ。
ちなみにLV=彼女いない歴じゃない。年齢=彼女いない歴の20歳だ。
ここは重要だから覚えておいた方がいい。
「よぉーし! 着いたわよ!」
「ご苦労様です。見事なお手際で」
おっと、楽しい一人語りの時間は終わりだ。ほら、妹の言った通りだろ。
本当にチャチャとダンジョンボスがいる部屋の、巨人用かと思うぐらいの大扉の前までやって来てしまった。
ここからは一人語りなんてやっている余裕もないほどの激戦だ。
とにかく休む暇なく回復し続けないといけない。
さて、死ぬかもしれない前に最後の一人語りだ。妹のLVは68だ。これはかなり高い方だ。
つまり特別職になる条件がLVアップ以外にある可能性が高いという事だ。
そこで困難な試練をやろうという事になった。
雑魚僧侶LV23の俺をハンデとして背負って、ダンジョンボス制覇に挑むと言い出した。
こんなに頑張っているのにお荷物扱い、物扱いは悲しすぎて笑ってしまう。
「いい。あんたがミスしたら、あんたも死ぬんだからね! 死ぬ気で私を回復しなさい! あんた一人でモンスター倒してダンジョンから帰れないでしょ! さあ、行くわよ!」
「はい!」
俺の返事は聞く必要なしと、一方的に喋って、大扉を押し開いた。
出来れば入るかどうかの最終確認して欲しかったが、もう遅すぎる。
妹置き去りにして逃げても、途中にいるモンスターに殺されてしまう。
俺と妹は二人で一人だ。どちらか片方が死ねば共倒れの運命共同体だ。
杖をしっかりと握り締めると、妹の後に続いて扉を通った。
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