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魔王誕生編

四人の異世界人

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「国王様、一つ質問してもよろしいですか?」
「構わない。一つと言わず答えられるものは答えよう」

 王妃と王女を交互に視姦していると、長い黒髪の眼鏡女が俺達の前に出て言った。
 国王が了承するとすぐに話し出した。

「ありがとうございます。私は『雪澤楓華ゆきざわふうか』と申します。では単刀直入にお願いします。私達を元の世界に帰してくれませんか? 必要としている人物と違うのならば、何も問題ないと思いますが」

 流石は眼鏡だ。礼儀正しくて知的だ。
 スカートの裾を摘んでお辞儀すると、自己紹介と交渉を始めた。
 ああ、もちろん帰っていい。勇者の俺が一人いれば何も問題ない。
 
「それは出来ない」

 えっ、嘘だろ……どうして?

「それは何故ですか? 会話を聞いた限り、そちらは勇者が必要のようだ。だとしたら僕達は関係ないと思うんですが。帰すと何か問題でもあるんですか?」

 国王の拒否の言葉に金髪の剣聖も俺と同じ反応をした。
 眼鏡女が口を開く前に、流暢な日本語で賢そうに理由を訊いている。
 多分、日本生まれの偽外人だな。

「君達の気持ちは分かる。私も同じ立場ならば、同じように思っただろう。知らない世界に強制的に連れられ、家には帰れず、家族や愛する者と離れるのは死と同じぐらいに辛いものだ。だが、帰す事は出来ない。帰す事は出来ないのだ。私は君達を元の世界に帰す力は持っていない」
「そんなぁ……」

 国王の衝撃の告白に眼鏡女は顔面蒼白になった。まさかの異世界片道切符だ。
 だけど、お前達三人は恵まれている。俺なんか森で鬼娘三人に身包み剥がされて、青女に食われかけた。
 あれに比べたら天国スタートだ。

「では、帰る方法はないんですか? 僕達はこの世界で暮らさないといけないんですか?」
「すまない。けれども、可能性ならある。勇者が魔王を倒せば、召喚された者の役目も終わる。数千年前の伝承でも、勇者は魔王を倒して元の世界に帰ったと伝えられている」
「でも、その肝心の勇者いないよね? 勇者が来るまでここで保護してもらえるの?」

 国王も大変だな。賢者が大人しくなったと思ったら、剣聖と聖女の二人に質問攻めに遭っている。
 そろそろ『俺、勇者ですけど』と助け船を出してもいいけど、面白そうだからもうちょっと見学だな♪

「コホン! 陛下、ここから先は私めが説明を……」
「ああ、そうだな。任せよう」
「御意に」

 俺が助け船を出さなくても、宰相の爺さんが軽く咳払いして国王を助けた。
 やはり質問攻めで疲れていたのか、国王が玉座でホッとしている。

「まず聖女の娘よ、当然最低限の保護と支援はさせてもらう。けれども、この国は魔王国と戦争状態だ。戦力となる異世界人を宮殿で遊ばせる余裕はない。戦線に出て、勇者が召喚される日までこの国を守ってもらいたい。働き次第でそれ相応の褒美も用意しよう」
「それって私達に人殺しをしろって事?」
「そんなのお断りです! 戦争なんて愚か者がやる事です!」

 宰相が褒美を出すと言ってるのに、女二人は戦うつもりはないようだ。
 そんな二人に玉座で休憩中の国王が怒り混じりに話し始めた。

「ああ、その通りだ。愚か者だ。魔王を中心にその愚か者の集団が土地を奪い、勝手に国だと名乗っている。我々も対話で解決したいが、相手が武力での解決を望むなら仕方なかろう。力で排除するしかない」
「陛下の言う通りだ。我々も戦いを望んでいる訳ではない——」

 国王と宰相の二人が自衛目的の戦争だと言っている。つまりは正当防衛戦争だ。
 俺も是非とも正戦に参加して、エルフの女戦士達との性戦のご褒美を貰いたい。
 まあ、それは活躍した後だ。宰相の爺さんの話はまだ終わっていない。
 
「それに戦わなければ元の世界に帰る方法もなくなるかもしれないぞ」
「それはどういう意味ですか?」
「言葉通りの意味だ。脅す訳ではないが、魔王国は強い。このままではこの国が滅ぶのも時間の問題だ。この国が滅ぶという事は勇者召喚が出来なくなるという事だ」
「つまり魔王を倒せる勇者を召喚できなくなれば、魔王も倒せず、私達も日本に帰れないという事ですね」
「理解が早くて助かる。その理解力も『ジョブ』が持つ力の一つだ。ジョブは戦いと経験によって磨かれていく。鍛え上げれば、我々エルフの力も易々と超えるものだ。もしかすると勇者がいなくても、四人の力を合わせれば魔王を倒せる可能性さえもある。それがジョブだ」

 宰相の爺さんが女達のやる気を引き出しているが、それは困る。
 俺は仲良く四人で魔王退治するつもりはない。活躍するのは俺一人で十分だ。
 一人で活躍して、女達に英雄としてチヤホヤされたいに決まっている。

 ……そろそろ勇者だと名乗り出る頃合いだな。

「ちょっ——」
「四人? 三人の間違いではないですか? 一人は戦力にならないと思いますけど……」

 もしかして、俺の事か? 名乗り出ようとしたのに邪魔された。
 しかも、剣聖のガキがチラッと俺を見ながら馬鹿な事を言っている。
 俺が勇者なのに身の程を知らないガキだ。

「確かに。一人だけオッサン混じってる。ずっと気になっていた」
「……」

 おいおい、もう一人いるのかよ。
 青ピンクのお嬢ちゃん。オッサンじゃなくて、お兄さんねえ♪
 次言い間違ったら、お股パンパンするよ♪

「確かに何でいるのって感じね。あなた、まさか無職のニートっていう人ですか?」
「……」

 おいおい、マジかよ。剣聖、聖女、賢者と馬鹿揃いだな。
 どう見たら俺がニートに見えるんだよ。その眼鏡壊れているぞ。
 俺が壊れているって分かるように、グーパンでボロボロに改造してやろうか?

「仕方ない。僕達三人が力を合わせて、頑張るしかないようだ。『ルーエン・桜宮さくらみや』だ。父がイギリス人でイギリスの学校に留学中だったんだが、気付いたらここにいた。一応『フェンシング』の経験がある。地区大会の三位程度の実力だけれどね♪」
「それは頼もしいですね。改めてまして、私は雪澤楓華です。メリス女学院で生徒会長をやっています」
「あっ、聞いた事ある。凄いお嬢様学校ぉ~。その制服も何だか高そう」
「高いだけで全然可愛くないんですけどね。あなたは制服ではないみたいですけど、今日は学校をお休みしたんですか?」
「違う。学校は行ってない。『ティーチューブ』で稼いでいる。実家が裕福だから、遊んで暮らせてラッキーな女の子。名前は『鬼頭月海ルナシー』。月に海と書いて、ルナシー。お母さんがあれのファン」

 俺を軽く弄っただけで、三人が集まって自己紹介を始めた。
 どうやらこの三人でパーティを組むらしい。若者だけで楽しくやりたいようだ。
 だが、それは無理だ。お前達に社会の厳しさを教えてやる。
 俺が主役の桃太郎で、お前達はお供の猿・犬・鳥だ。

「へぇー、奇遇だねぇ~♪ 俺もファンなんだよ。良いよねぇ~、ルナッシー♪」
「「「……」」」

 おい、何だよその顔は?
 知らない人がいきなり話しかけてきたみたいな顔やめろよ。
 俺達一緒に召喚された仲間、戦友と言ってもいい関係だぞ。

「自己紹介は終わったようだな。では、これからの話をしよう。三人には戦闘訓練を受けてもらいたい。いきなり実戦で戦えと言われても無理な話だろうからな」

 何か国王が気を利かせて話し出した。
 でも、三人じゃなくて四人な。それに俺の自己紹介はまだ終わってない。
 ついでにお前ら俺を戦力外通告しているけど、この中の最高戦力——俺な。

「それは助かります。スポーツと実戦は違いますからね」
「そうそうスポーツと実戦は全然違うぜ」
「はい?」
「ここはシング同士で模擬戦しないか? 俺はボクシング、そっちはフェンシングでちょうどいいだろ♪」

 俺を無視する連中に力というものを見せてやる。
 国王と話す剣聖のガキの前に立つと、ファイティングポーズをとった。
 剣聖と旅人……さて、勝つのはどっちかな?

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