第一王子『剣聖』第二王子『賢者』第三王子『泳ぐ』 〜使えないスキルだと追放された第三王子は世界を自由に泳ぎたい〜

もう書かないって言ったよね?

文字の大きさ
90 / 112
第十一章

第5話『脆弱な少年』

しおりを挟む
 ——とある町の病院。

 ウォルターは鑑定が出来るキアラを連れて、各地の病院を回っていました。
 見つけた呪われたスキルは、『病弱』『貧弱』『虚弱』『脆弱』とありました。
 けれども、まだ寿命がたくさん残っている子供に、誰かを助ける為に死んでくれとは頼めません。
 寿命の残りが極端に少ない子供を探す事にしました。

 ウォルターは病気の子供を持つ母親に連れられて、病室まで案内されて行きます。
 そして、二階にある小さな病室に寝ている男の子の所に辿り着きました。

「あの子です。色々と手は尽くしたんですけど、もう駄目です。私達もあの子も諦めました。せめて、残りの時間を安らかに……」

 二十代後半の若い母親は疲れた表情に、無理矢理に悲しそうな笑みを浮かべています。
 本当に手を尽くして、そして、諦めたのでしょう。
 ウォルターはそんな母親に金貨の詰まった袋を渡しました。

「安心してください。ニコル君の命は大切に使わせてもらいます」
「ありがとうございます。あの子をよろしくお願いします」

 ウォルターから金貨の入った袋を受け取ると、母親は子供に会わずに家に帰って行きました。
 子供の命を金で売った酷い親は、もう会う資格がないと思っているのかもしれません。

「キアラ姉さん、鑑定で見てほしい」
「うん、もう終わっているよ。あの子でいいと思う……」

【『脆弱ぜいじゃくLV MAX』=身体が脆く弱くなる。残り寿命五日。】

 ウォルターに言われる前に、キアラはベッドの上で起き上がって、大きな窓から外の世界を見ている子供を鑑定していました。
 茶色のサラサラした髪は小さな頃のウォルターに少し似ています。
 儚げな表情には、静けさと諦めが同居しています。

「行こうか」
「うん……」

 ウォルターは戸惑っているキアラにそう言うと、病室の中に入って行きました。
 二人が病室の扉を横に開けて中に入ると、七歳の細くて儚げな少年は二人を見ました。

「こんにちは、ニコル君。僕はウォルター、こっちのお姉さんはキアラだよ。お母さんから話しは聞いているかな?」
「……」

 ウォルターは微笑みを浮かべて、ニコルに挨拶しました。
 けれども、虚な茶色い瞳は二人を見つめるだけです。
 ウォルターは何を言おうかと考えています。
 キアラの方は沈黙に耐えきれなかったのか、ベッドの横にあった椅子に座ると話し始めました。

「こんにちは、ニコル君。何か欲しい物とか、食べたい物とかあるかな? お姉さんとお兄さんが用意するよ」
「……どっちも無いよ。僕、もうすぐ死ぬんだよね? お母さんから聞いたよ。だから、お兄さんとお姉さんが僕の思い出作りをしてくれるんだよね?」

 男性よりも女性の方が話しやすいようです。
 ニコルはキアラの質問に落ち着いた声で、ハッキリと話しています。

「うん、そうだよ。やりたい事があれば何でも言ってね。出来る事は何でもするからね」
「やりたい事はいっぱいあるよ。お兄さんとお姉さんは恋人なの? それとも、結婚しているの? 僕もお姉さんみたいな綺麗な人と付き合いたかったな」
「えっーと、あっははは、ウォルター、どうしようか?」

 キアラはニコルの質問にどう答えるべきかと、ウォルターに困った笑みを見せながら聞きました。
 恋人同士だと言うべきか、それとも、恋人じゃないから付き合おうか、と言うべきか悩んでいます。
 ウォルターの口から恋人なのか、恋人じゃないのか決めてほしいみたいです。

「恋人になってあげなよ。僕なら、きっと嬉しいと思うよ」
「そ、そうなの? う~~~ん? それじゃあ、ニコル君の恋人になってもいいかな?」

 期待していた答えではないものの、これはこれで悪くないようです。
 キアラはニヤニヤしながらも、どうしようか考えると、少年の恋人に立候補しました。

「えっ、本当にいいの⁉︎ 僕、子供だよ。全然カッコよくないよ。それでもいいの?」

 そこまで言われたら考え直したいですが、キアラは気にせずに答えました。

「そんな事ないよ。病気に負けないように、いつも頑張っているニコル君は、世界一カッコいい男の子だよ。私の彼氏なんだから、もっと自信を持っていいよ」
「わぁー! 僕が彼氏でいいの! やった!」

 サラサラの髪をキアラに優しく撫でながら、ニコルは初めての恋人に喜んでいます。
 この程度で喜んでくれるならば助かりますが、当然そんなはずはないです。

「じゃ、じゃあ、恋人になったんだから、キ、キ、キ、キ、キスしてもいいんだよね?」
「えっ? う、うん、キスだよね。そうだよね。恋人同士なら普通にするよね。じゃあ、キスするからね」

 恥ずかしそうに真っ赤な顔を俯かせて、ニコルは初めての恋人キアラに聞きました。
 流石に一瞬、キアラはウォルターを見てから、どうしようかと考えました。
 けれども、唇じゃなくても問題ないと気づくと、赤くなっているニコルの右の頬っぺたに軽くキスしました。
 でも、少年はそこではないと不満なようです。

「チッ……ねぇ? 恋人同士なら普通、唇にするよね? 僕、もうすぐ死ぬんだよ。普通、頬っぺたにするかな?」

 ニコルの落ち着いていた声は、イライラした感じの声に変わっています。
 子供でも、頬っぺたと唇には雲泥の差がある事は分かるようです。
 望んでいるのは、恋人の演技じゃなくて、恋人です。

「キアラ姉さん、キスぐらいしてあげなよ」
「えっ、でも……」
「いいから。ニコル君も目を閉じて。お姉さん、恥ずかしいみたいだから」
「えっ⁉︎ ウォルター、ちょっと⁉︎」

 ウォルターの中では、キスぐらいは普通に出来る事です。
 でも、男と女では考え方は全然違います。
 キアラは嫌がっていますが、ニコルは目を閉じて、ペロリと唇を舐めて、キスを待っています。
 残り短い命ならば、精一杯楽しみたいようです。

(子供が調子に乗り過ぎだよ。これで十分だ)

 ウォルターは嫌がっているキアラの側まで行くと、目を閉じているニコルの唇に、自分の右手の人差し指と中指を触れさせます。そして、少し強めにグリグリと指を動かした後に、唇から指を離しました。
 ちょっと怒っているようです。

「はぁはぁ! えっへへへ、意外と積極的なんですね!」
「え、ええっ!」

 ニコルは鼻息を荒くさせて、興奮した目でキアラを見ています。
 残念ながら、キスした相手はウォルターの指ですが、キアラは頭を縦に振って認めました。
 ニコルはかなり喜んでいるので、今ならば多少は無理なお願いを聞いてくれそうです。
 ウォルターはニコルに聞きました。

「ニコル君、これから少し遠くに行くけどいいかな? キアラも一緒だから、デートになるよ」
「えっ、デート⁉︎ 僕、病院から出てもいいの⁉︎」
「そうだよ。海が見える静かな海岸に行こう。二人で泳いだり、魚釣りも出来るよ。きっと、楽しい時間になると思うよ」

 ニコルは病院から退院できる事を喜んでいます。
 ウォルターはニコルを港町に連れて行かないといけません。
 ニコルのスキルを聖剣に移植するには、ニコルの心臓に聖剣を突き刺す必要があります。
 ドロシーとマローネの協力も必要です。この病院では出来ません。
 
「僕、海に行けるんだ……ねぇ、僕はそこで死ぬの? 僕が死んだら、出来れば、家の庭に埋めてほしいんだ。僕と一緒に木の苗を埋めてくれたら、お父さんとお母さんに、大きくなる僕の姿を見せられる気がするんだ。海に行った後、僕、家に帰れるんだよね?」

 ニコルは病室の窓から見える大きな木を悲しそうに見つめています。
 大きな木の枝には、茶色くなった木の葉が数枚残っているだけです。
 今にも風で木の葉は全て吹き飛ばされそうです。

「約束するよ。いっぱい楽しんだ後に家に帰れるよ」

 ウォルターは家に帰れると約束すると、ニコルを病院から港町に連れて行きました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強剣士が転生した世界は魔法しかない異世界でした! ~基礎魔法しか使えませんが魔法剣で成り上がります~

渡琉兎
ファンタジー
政権争いに巻き込まれた騎士団長で天才剣士のアルベルト・マリノワーナ。 彼はどこにも属していなかったが、敵に回ると厄介だという理由だけで毒を盛られて殺されてしまった。 剣の道を極める──志半ばで死んでしまったアルベルトを不憫に思った女神は、アルベルトの望む能力をそのままに転生する権利を与えた。 アルベルトが望んだ能力はもちろん、剣術の能力。 転生した先で剣の道を極めることを心に誓ったアルベルトだったが──転生先は魔法が発展した、魔法師だらけの異世界だった! 剣術が廃れた世界で、剣術で最強を目指すアルベルト──改め、アル・ノワールの成り上がり物語。 ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうにて同時掲載しています。

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃
ファンタジー
「あの……ここって、異世界ですか?」 「え?」 「は?」 「いせかい……?」 異世界に行ったら、帰るまでが異世界転移です。 ある日、突然異世界へ転移させられてしまった、嵯峨崎 博人(さがさき ひろと)。 そこで出会ったのは、神でも王様でも魔王でもなく、一般通過な冒険者ご一行!? 異世界ファンタジーの "あるある" が通じない冒険譚。 時に笑って、時に喧嘩して、時に強敵(魔族)と戦いながら、仲間たちとの友情と成長の物語。 目的地は、すべての情報が集う場所『聖王都 エルフェル・ブルグ』 半年後までに主人公・ヒロトは、元の世界に戻る事が出来るのか。 そして、『顔の無い魔族』に狙われた彼らの運命は。 伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分。 信頼とは何か、言葉を交わすとは何か、これはそんなお話。 少しづつ積み重ねながら成長していく彼らの物語を、どうぞ最後までお楽しみください。 ==== ※お気に入り、感想がありましたら励みになります ※近況ボードに「ヒロトとミニドラゴン」編を連載中です。 ※ラスボスは最終的にざまぁ状態になります ※恋愛(馴れ初めレベル)は、外伝5となります

【男装歴10年】異世界で冒険者パーティやってみた【好きな人がいます】

リコピン
ファンタジー
前世の兄と共に異世界転生したセリナ。子どもの頃に親を失い、兄のシオンと二人で生きていくため、セリナは男装し「セリ」と名乗るように。それから十年、セリとシオンは、仲間を集め冒険者パーティを組んでいた。 これは、異世界転生した女の子がお仕事頑張ったり、恋をして性別カミングアウトのタイミングにモダモダしたりしながら過ごす、ありふれた毎日のお話。 ※日常ほのぼの?系のお話を目指しています。 ※同性愛表現があります。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?

ばふぉりん
ファンタジー
 中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!  「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」  「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」  これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。  <前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです> 注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。 (読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)

処理中です...