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問題です。3時間に1回分裂するスライムを洞窟に閉じ込めて、18時間後に洞窟を訪れて、経験値とお金を荒稼ぎしようとした少年はどうなりますか?

第11話・誰でも一度は魔法使いになるのに、大人になると魔法使いになれなくなる。魔法を使えるのは若者だけの特権です。

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『我が名は【ゴールドプラチナキングスライム】。さて、第1問。自動車免許でゴールド免許証はあるが、プラチナ免許証はあるか? 《ある》と《ない》のどっち?』

(ゴールドプラチナキングスライムだと? 金色なのか、白金色なのか、どっちなんだよ!)

 また、倒したキングスライムが消えずに喋っています。でも、クロム少年は問題よりも、ゴールドプラチナキングスライムの身体の色の方が気になっているようです。それにしても長い名前です。さて、問題に集中しましょう。

「ない!」

『…………正解! 次の問題です。第2問、白金はプラチナとも呼ばれる原子番号《78》、元素記号《Pt》の貴金属ですが、金、ゴールドの原子記号は《Au》。では、原子番号は? 《77》と《79》のどっち?』

(分かんないよ! そんなの分かんないよ!)

 流石はレベル『70』の問題です。前の『レア』と言えば正解の簡単な問題とは違います。今のところは二択問題ですが、これは難しいです。

(多分、原子番号は発見された順番だと思うから、金が77。それにダブルセブンは金のイメージに合うと思うから………よし!)

「77!」

『……………残念~~~~!! 原子番号《77》は元素記号《Ir》の《イリジウム》です!』

「ああっ~~~!! 間違えたぁ~~~!!」

 呆気ないものです。たった2問で終わりです。考え抜いて出した答えでしたが、間違えだったようです。原子番号は発見された順番ではありません。クロム少年は自分の愚かさにガックリと項垂れてしまいました。

『ホッホッホッホ♬ 何、冗談だ。そんなにガックリしなくても、レベル『70』の記念品はあるぞ。それ! 見てみなさい』

 クロム少年は言われた通りに自分のステータスを確認しました。そこには新しい魔法がありました。

「これは! 《魔法・レイズデッド》?」

《魔法・レイズデッド》は死んだ人を生き返らせる事が出来る強力な魔法です。でも、よくよく魔法の説明部分を見ると、おかしな点がありました。

「注意? 効果はファーストキスの1回限定。生きてる人とファーストキスをすると、もう使えません! どういう事ですか! これじゃあ、誰ともキス出来ないじゃないですか!」

 これは怒って当たり前です。男子高校生にキス禁止は酷な事です。それにどうやら、身体の損傷が激しかったり、骸骨になっている人には、キスしても生き返らせる事が出来ないようです。もうほとんど眠るように死んだ人にしか使えないという限定的な魔法です。

 こんな使い所が難しい魔法を大事に取っておいて、ファーストキスが一生出来ないのは嫌です。誰でもいいから、さっさと使ってしまいたい魔法です。

『何、その心配は無用じゃ。キチンと揉みほぐし屋で商売を続ければ、お主の評判を聞きつけて、その魔法を使うに相応しい人物と会う事になる。その時まで、呉々も変な気を起こすでないぞ』

 何やら、予言のようなものをクロム少年に伝えると、ゴールドプラチナキングスライムの気配が消えました。レベル70になって、手に入れたのは、《魔法・レイズデッド》と《スキル・HP増加+2》の2つだけです。

「ハァ~~、確かに凄い魔法だけど、魔法は魔法でも、1回しか使えない魔法に価値なんてないよ。あっあ~~~、《魔法・洗脳》とか、《魔法・魅了》とかが欲しかったのに」

 そんな魔法が欲しいのはヤバい奴だけです。そんな危険な魔法を使って、自分の思い通りに他人を動かして楽しいのですか? 

 まあ、クロム少年は楽しそうですね。地獄に堕ちればいいのに。

「よ~~~~~し! 今度こそは!」

(この流れなら、レベル『80』になれば魔法が手に入るぞ。今度こそ、エロ魔法ゲットだぜ!)

 色欲という欲望をメラメラと燃え上がらせています。同級生の3人に告白されたのに、まだ足りないようです。

 ♦︎

「セイ! ヤァ!」と今度は気合を入れて鋼の剣を振り回しています。目の前に魔法という《人参》をぶら下げられた馬のようです。欲望に向かって一直線です。

(グゥフフフフ、《魔法・透明化》とかでも、良いかもしれない)

 自分が欲しいエロ魔法を想像しているようです。確かに今まで手に入った《スキル》や《魔法》は全部、ちょっと欲しいものでした。だとしたら、欲しい魔法を思い浮かべる事で手に入る可能性が高くなると、クロム少年はそう思ったようです。本当にそうなんでしょうか?

 10匹、20匹、40匹、80匹と、キングスライムを倒し続けます。100匹倒しても、レベル80にはなりません。まだまだ先は長いようです。

「ハァ、ハァ、セイッ! 124匹目!」

 もう疲れているようです。でも、目標のレベル『80』達成です! さてさて、《魔法・透明化》や《魔法・洗脳》は手に入ったのでしょうか?

「うっ、嘘だろ⁉︎ 何でこの魔法が出てくるんだ! この魔法は燃えないゴミに1年前に出したはずだぞ!」

 ガラン、ガランとクロム少年は鋼の剣を地面に落としました。そんなに驚くような魔法が手に入ったのでしょうか?

《魔法・ブラッディ・クロス》。14番目の使徒クロムが作りし闇の魔法。右腕の包帯に封じられし闇の力を解き放つ時、世界は崩壊するかもしれない。多分。

「ゴクリ、誰も見てないよね?」

 キョロキョロと周囲を警戒していますが、午前0時頃の洞窟にいるのは、クロム少年ぐらいのものです。ほら、ちょうどキングスライムがやって来ましたよ。気にせずに魔法を使ってください。

 ①《魔法・ブラッディ・クロス》(HPダメージ2055) ② 《魔法・ブラッディ・クロス》(HPダメージ2055) ③ 《魔法・ブラッディ・クロス》(HPダメージ2055)
④ 《魔法・ブラッディ・クロス》(HPダメージ2055) ⑤ 《魔法・ブラッディ・クロス》(HPダメージ2055) ⑥ 《魔法・ブラッディ・クロス》(HPダメージ2055)

《魔法・ブラッディ・クロス》は通常攻撃力の3倍のダメージを相手に与えます。これならば、本当にドラゴンも倒せるかもしれません。

「我は14番目の使徒クロム。血に染まりし十字架と死の宿命を背負う者。今こそ、この右腕に封じられし獣を解き放つ時!」

 クロム少年はいきなり目を閉じると、左腕を天に向けて、ブツブツと呪文を唱え始めました。呪文だけでなく、ポーズも必要なようです。シュバァ! と勢いよく右腕の服の袖を捲ります。

 あれあれ? 右腕に封印の包帯がありませんよ? 付け忘れたんですか? あっ! そのまま続けるんですね。本当にそれで、いいんですか。

「封印開放! エイブラハム・リンカーン・ジョージ・ワシントン・フランクリン・ルーズベルト! その身に刻め! 《ブラッディ・クロス》!!!」

 何故だか、封印解除の呪文がアメリカ大統領の名前ですが、もうどうでもいいです。中学生が考えたような適当な設定です。

 闇の十字架がキングスライムに向かって飛んでいきます。

 ズバァン!! と黒い光が命中すると、キングスライムの身体に十字傷が刻まれました。

「アーメン………あっああ~~~!!! 恥ずかしい! 恥ずかしい! 恥ずかしい~~~~~!!」

 また空中に指先で十字架を書いています。これで全てが終わったようです。恥ずかしそうにクロム少年はゴロゴロ、バタバタと洞窟を転げ回っています。若さ故の過ちを認めたくはないようです。

(はぁ、はぁ、はぁ、攻撃力は凄いけど、呪文とポーズで時間がかかり過ぎだよ。キングスライム1匹倒すのに、これじゃあ、大砲を撃ってるようなもんだよ)

 確かに、鋼の剣で1秒で倒せるキングスライムを、長々と呪文とポーズに1分以上も使って倒すのは馬鹿げています。

「243匹……『3万9852』ゴールドか。ちょっと思ったよりも少ない」

 洞窟内のキングスライムを全て倒したものの、目標金額の4万ゴールドに少し届かなかったようです。

 でも、洞窟1つ、1週間で約4万ゴールド稼げるのなら、ここ以外に使える洞窟を6つに増やして、毎日順番に回れば、4万ゴールド×7つの洞窟で、週に『28万』ゴールドを稼ぐ事が出来ます。そうなれば、月『112万』ゴールド稼ぐ事も夢ではありません。

「さてと、もう帰って寝ようかな」

 またまた、スライムを放置して帰るようです。来週もキングスライムを狩りに来るのでしょう。

(レベル『90』こそは、使える魔法をお願いします)

 クロム少年は心の中で、来週に期待しているようです。おそらく、チャンスは残り2回です。欲しい魔法が手に入るといいですね。

 


 

 




 
 

 



 
 


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