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リル・スタットレイ 〜小さな町の小さな家に住む生命の錬金術師〜

第11話・リルvs勇者②

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「まったく、何が敵襲ですか。相手が国王軍ならば、私達は悪い事は何一つしていません。咎められる理由はありません。堂々としていればいいのです」

 小さな胸を張って、リルは答えます。そんなリルの前にゴロゴロと何かが転がってきました。

「mew Roar……」「Grr……」と瀕死の獅子熊とケルベロスです。何て酷い事を!! 

「我々は国王軍である。国王アントワーズ6世陛下の命により、魔王軍の兵器工場の疑いがあるこの町を捜索する。町の代表者は直ちに前に出よ!」

 白銀の鎧を着た騎士団長がよく通る声で喋ります。この町に来るには、森の中に放し飼いにしている沢山の獅子熊やケルベロスを倒さなければなりません。騎士団員達のほとんどが無傷のようです。町の周囲をグルっと囲むように、数百人の騎士達が武器と旗を掲げて立っています。完全に逃げ道はなさそうです。

「コッホン♬ ファイちゃん、今からあなたがこの町の副村長です。お話を聞いてきてください。私は用事があるので家に戻っています。ではでは、あっ~~忙しい…」

「待ってください」

「ちょっと手を離してください。ここにいたら危ないじゃないですか!」

 家の中に逃げ込もうとするリルを、戦士のファイがガシィっと、リルの腕を掴んで止めました。いつもの手は使わせません。

「リル様、それは難しいようです。弓矢の照準のほとんどがリル様をとらえています。この町の代表者が誰かは、もう調べられているようです。ここは素直に、魔王軍とは何の関わりもないと、ハッキリと主張するべきです」

「……ハァ~、仕方ありませんね。そもそも、魔王軍って何ですか? 私が王国にいた頃には、そんな変な名前の軍がいるなんて聞いた事がないですよ。最近出来た、新興宗教とかですか?」

 リルは何百年も寝ていたので、ちょっと最近の出来事には疎いのです。魔王を知らないようです。

「えっ⁉︎ 本当に知らないんですか? 魔王軍とは人型の魔物を王様とした魔物の国の国王軍のようなものです。今、我々を包囲している国王軍の魔物版と考えたら分かりやすいと思いますよ」

「へぇ~~、だったら魔王軍とはデーモンとか吸血鬼の事ですか。山羊とミノタウロスと大蝙蝠で簡単にデーモンは作れるんですよ。頭も意外といいので、昔は研究資料を作成するのを手伝ってもらっていました。1匹だけ凄く優秀なデーモンがいたんですけど、ある日、突然姿が見えなくなったんですよ。今頃はもう死んでいるんでしょうねぇ~」

 その特別優秀なデーモンは、今は魔王として元気に君臨しています。きっとリルがこの町で生きてる事を知れば、大軍を率いて昔のお礼参りに来るでしょう。

「おい、いつまで待たせるんだ! そこの女! お前がこの町の代表者だという事は分かっているんだ。さっさとこっちに来い!」

「んっ?」とリルは背後を振り返ります。町の住民は全て男から女性に変えています。『そこの女』と言われても分かりません。

「とんがり帽子のお前に決まっているだろう!! 我々、国王軍を馬鹿にするのもいい加減しろ! そっちがそのつもりならば攻撃を開始するぞ!」

 気が短い騎士団長です。この町は人間領に入っています。つまりはリル達は国民なのです。国民に対して乱暴な態度や言葉使いは感心しません。たとえ国税を一度も払っていなくても、許可なく町を作ったとしても、大切な国民なのです。

「ランバートさん、いきなり大勢で町を包囲したのです。怖がられて当然ですよ。それに町の住民の皆様は全員美しい女性のようです。警戒されるのは仕方ない事ですよ」

「いえ、お言葉ですがマーシー様、この町の者達は魔物を作っている疑いがかかっています。先日の街を襲ったグリフィンやキメラもこの町から飛んで来た可能性が高いのです。今もこうやって時間を稼いで魔物を準備しているのかもしれませんよ?」

 ギロリと、コッソリと1人で家の方に移動しようとするリルを睨みます。

「くっ! リルは非戦闘員なのに、何故だか警戒されています! 皆さ~~~ん、リルはこの人達に脅されているだけです。助けてください~~!」

 リルはシクシクと泣いて、国王軍に助けを求めています。仲間を裏切ってでも助かりたいようです。町の住民達はリルがこういう奴だという事をよく知っています。呆れながらも展開を見守っています。

「騙されんぞ、この悪魔の申し子め! お前が私の部下の頭を、棒でカチ割る所を見たんだからな! お前だけは絶対に生かしておく訳にはいかない。覚悟しろ!」

「そ、それは誤解です! このウサ耳女に、『やらないと凄い事するぞぉ~! 凄い事するんだピョンよぉ~!』と脅されて仕方なくやったんです! 本当です。信じてください!」

「ピョンなんて一度も言った事ないのに…」

 ウルウルと瞳に涙を溜めて、自分の罪を近くにいるウサ耳僧侶になすり付けます。リルの迫真の演技に国王軍の騎士達もウサ耳僧侶を警戒し始めました。

 でも、それは最近この町の住民にされた、元騎士団員によって打ち壊されてしまいます。

「ランバート団長~~! この女が言っている事は真っ赤な大嘘です! コイツがこの町のリーダーで、動物達を集めては怪しい術で魔物を…」

 ポチ、ボォン! 元騎士団員の頭が粉々に破裂しました。リルの右手には首輪爆弾のスイッチが握られています。

「ひぃ~!!」「殺しやがった!」「アイツ殺されたはずのメイソンだよな?」「ああ、何で生きてたんだ⁉︎」

 騎士団員達に動揺が走ります。死んだ人間が目の前に現れたと思ったら、頭が爆発して死んだのです。訳が分かりません。

「ランバートさん、どうやら、あなたの言う事が正しいようだ。あの少女の目を見て分かった。人が目の前で死んだのに、まったくの無反応だった。アレは殺し慣れているというレベルではない。もっと別の何かだ。たとえ魔王と関わり合いがないとしても、見逃すのは危険過ぎる存在だ。私も一緒に戦わせてもらいます」

 ズバァン!! 第一級勇者アルフレッド・マーシーは神剣《エア》を鞘から勢いよく抜き放ちました。

「うわぁー!」「飛ばされる!」とその衝撃波で町の半獣人達が吹き飛ばされそうになります。力の差は歴然です。

「ふぅ~~、やれやれ、戦うつもりですか? やめた方がいいですよ。死にたくなかったら早く帰ってください。今なら見逃してあげます」

 リルは嘘泣きが通用しないので、今度は謎の大物オーラを出しています。でも、シャキン、シャキンと騎士団員達も勇者と同じように鞘から剣を引き抜いていきます。

「さあ、早く帰ってください。早く帰った方がいいですよ。本当です。早く帰ってください。お願いしますよ」

 偉そうにしていたリルが、今度は頭を下げてお願いしています。もう何をやっても効果はないようです。

 ギギギィと、弓矢隊が矢を発射する準備完了です。いつでも、とんがり帽子の少女を殺す事が出来るようです。でも、リルは下げていた頭を上げると、笑っていました。

「フッフフフフ、警告はしましたよ。《土の精よ、動いてごらん。トコトコトコと歩いてごらん。無生物創造術【アレク・サンド・ライト】》」

 パァ~~~、ドォン!! 光と爆発が町を包み込みました。

「何だ!!」「家が動いているぞ!」「地面に足を掴まれた!」

 騎士達が悲鳴を上げています。家が動いたと思ったら巨大な土の怪物ゴーレムです。足を掴まれたと思ったら、大木の魔物トレントの根っこです。

「数で負けていたので、こっちも増やさせてもらいましたよ。家を作る時に仕掛けておいた魔法陣が早くも役に立ちました。備えあれば憂いなしですね」

 リルの足元にはいつの間にか、いくつもの魔法陣が描かれていました。確かに時間を稼いで悪巧みの準備をしていたようです。

 国王軍はリル達を包囲したつもりでしたが、今は逆に町の外と中から挟撃されている状態になってしまいました。

「斬れろよ! 斬れろよ!」

 ガァン、ガァン、ガァンと硬いゴーレムの身体に、騎士達は剣を叩きつけています。

「皆の者、落ち着け! 無駄な攻撃はやめて、とんがり帽子の足元の魔法陣を集中的に狙うんだ! あれで魔物を操っているのだろう。術者のとんがり帽子を殺せ!」

 騎士団長のランバートは素早く指示を出します。意外と冷静に対応されるので、リルも困っています。

 でも、もっと困るのは勇者アルフレッドの方です。ズバァン、ズバァンとゴーレムとトレントを軽々と神剣で斬り裂いて倒していきます。

(予想以上に強い人達です。このままではピンチです。私1人でも混乱している隙に逃げましょう)

 町の半獣人達20人が騎士達300人と奮闘しているのに、リルはチョロチョロ、コソコソと隠れながら移動して森の方に逃げようとしています。ちょっと酷過ぎです。

「とんがり帽子が逃げたぞ! 絶対に逃すな! 追え追え!」

「リル様、まさか囮役になってくれるなんて……よし、皆んな。今のうちに武器を捨てて投降しよう! リル様の為にも死にたくはない」

「俺も俺も、ついでに魔法陣も消しとこうぜ!」

 ガチャン、ガチャンと武器を投げ捨てています。ついでにゴシゴシと魔法陣も消しました。リルが居なくなったので戦うフリは終わりです。リルに対して忠誠心の欠片もありません。

 もしも、リルが生きて戻って来た場合は、『リル様の為に無駄死にするよりは投降した方がよいと思いました』と、言い訳もバッチリ用意しておきます。

「あのぉ~、このロープで手足を縛ってください」「俺もお願いします。キツく締めてくださいね」

「何だ、コイツら?」「おい、お前達、何を言っているんだ?」「正気か?」

 用意していたロープを騎士達に差し出すと、縛ってくれるように頼む住民までいます。リル並みに準備がいいです。飼い犬は飼い主に似るものです。

「でも、リル様が死んだら首輪の爆弾が爆発するんじゃねぇ?」

「アッハハハ、馬鹿だなぁ~。あんなの嘘に決まっているだろう」

「それもそうだよな。もしかすると、この首輪も偽物かもしれないぞ。本物は一部だけなんじゃねぇのか。アッハハハ~~」

 勇者と騎士団員達の半数が森に逃げたリルを追っています。町には騎士団長ランバートと一部の負傷した騎士達が残りました。魔王軍との関わりを調べる必要もあります。リルの事は勇者に任せておけば問題ないはずです。

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