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第五話 ……ここ何処?

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「うわああああああツツ‼︎」

 全身汗びっしょりで飛び起きた。酷い悪夢を見てしまった‼︎
 有紗に左胸を刺されて、口の中に舌を入れられ舐め回され、お尻まで撫で回された。
 ド変態に犯された。今すぐに忘れたいのに鮮明に覚えている。
 ファーストキスは鉄錆(血)の味だった。

「オエーッ……んえっ? ここ何処⁇」

 恐ろしい悪夢を見ただけなのかと思ったのに、起きたのは家のベッドじゃなかった。
 教室の机でも病院のベッドでもない。緑の樹木に囲まれた地面の上だった。

「……夢じゃない?」

 もしくは夢の続き……?
 とりあえず立ち上がると、黒い制服についた砂を手で払い落としていく。
 着ている制服の上着とシャツの胸に、包丁で刺されたような縦線の穴が空いている。
 包丁は近くに落ちてない。胸にも刺された傷がない。
 まだ悪夢の中なのか、それとも現実なのか、何だか分からなくなってきた。
 
「うーん、誘拐されたわけじゃないよね?」

 さっぱり状況が分からないけど、近くに有紗はいない。
 上着のポケットに手を入れると、夏帆のスマホと私の財布が出てきた。
 これで警察を呼べるけど、スマホの時刻は午後七時二十三分。
 有紗に襲撃されたのが七時過ぎだったから、気を失ってから五分も経ってない。

 空を見上げると青空に丸い太陽が昇っていた。
 とても午後七時とは思えない明るさだ。
 現実だとしたら、これはおかしい。
 どう考えても死んで生き返ったか、悪夢が続いているか、のどっちかだ。
 
(圏外か。どうしよう……)

 状況はよく分からないけど、生きているなら行動するしかない。
 スマホは圏外だから助けは呼べない。まずは電波が入る場所まで移動しないと。

「ん~どっちに進もう?」

 森の中で迷ったら動かないのが鉄則だ。
 でも、それは団体行動している時と、捜索願いが出される可能性がある時だけだ。
 誰も探しに来ないのに待っているのは時間の無駄だ。自力で何とかするしかない。

『ニャーニャー!』
「駄目だ、壊れてる……」

 圏外でもスマホのGPSは使えるはずなんだけど、壊れているのか現在地が表示されない。
 白と黒のブチ三郎は余裕で表示されるのに、なんて役に立たないスマホなんだ。

 こうなったら十六年という年月で培った、知識と経験と勘で何とかするしかない。
 確か太陽が昇る方角に街があるとか、水場や川の近くに人は住んでいるとか、そんな話を聞いた事がある。
 経験上、曖昧な情報で動かない方がいいけど、動かなければ死しかない。
 女は度胸。ここは慎重さは捨てて大胆に行動しよう。

「とりあえず、こっちに行こう」

 まずは知識と勘頼りだ。木から伸びる黒い影と反対方向に進む事にした。
 これで真っ直ぐ進む事だけは出来る。
 
「うーん、アリサに襲われてからそんなに時間が経ってないから、学校の近くなんだけど……」

 歩きながら今の私の状況を考えてみた。
 スマホの日付と時刻が真実なら、学校帰りに襲われたのは間違いない。
 逃げている時間、気絶時間を含めても、意識が戻るまでどんなに考えても十分以内だ。
 気絶させられて車で誘拐されたとしても、学校近くに十分で行ける森はない。
 もしあったとしても夜に太陽を昇らせる事は出来ない。
 やっぱり現実ではなく、夢か死後の世界にいる可能性大だ。

「あっ、出口かな?」

 森の中を十分程歩いていると、樹木の隙間に開けた景色が見えてきた。
 部活帰りだからお腹は空いてないけど、悪夢で逃げ回って避けまくった所為か喉カラカラだ。
 近くに自動販売機があるといいんだけどな。

「……全然知らない場所だ」

 祈るような気持ちで森を抜けると、緑の大草原が視界一杯に広がっていた。
 森は小高い丘の上にあったようで、草原の中にジグザグに伸びる白い砂利道、その先に楕円形に広がる街が見える。こんな場所は近所にない。日本の何処にも大草原の真ん中に築かれた街はないと思う。

「やっぱり死んだのかな?」

 包丁で刺されたのに胸に傷一つない、全然知らない場所に瞬間移動。
 今の状況から考えると、死んで天国にやって来たと思うのが妥当だ。
 でも、死んだという実感がない。
 睡眠薬で眠らされて、スマホの時刻を偽装されて、誘拐されたと言われた方が信じられる。

「う~ん、街に行くしかないよね」

 やっぱり状況が分からないけど、街に行けば私の疑問も解けると思う。
 街を見下ろすのをやめて、まずは腰の高さまで伸びた緑の茂みの中に入った。

 ガサガサ、ガサガサ……

 柔らかい草だけど、スカートに守られていない膝下が常時くすぐられ状態だ。
 生えている草は一種類だけみたいで、これだけ多いと誰かが育てているのかもしれない。
 何とか草むらを抜け出すと、やっと砂利道に出られた。
 白砂には真新しい車輪の跡が残っている。廃都じゃなくて人が住んでいる街だ。
 この道を進んでいけば、飲み水が手に入るぞ、

 三十三分後——

「ほへぇー」

 十二メートルはありそうな街を囲う赤灰色の外壁が見えてきた。
 どうやら入り口は一つだけみたいだ。砂利道の先に石橋とアーチ型に開いた穴がある。

(うわぁー、普通に入場料とか取られそう)

 街の入り口に槍を持った男兵士が普通に一人立っている。
 真っ白な長袖シャツの上に継ぎ接ぎだらけの赤と緑のベスト。
 頭に赤いベレー帽、黒い長ズボン、茶革のロングブーツ。
 コスプレじゃない本格的な兵士の服装だ。

 でも、一番重要なのは服じゃなくて、男兵士の顔が日本人じゃない事だ。
 外国人ハーフみたいな白い肌と立体感のあるハッキリした顔をしている。
 もうこれで間違いない。私は死んで天国に来たみたいだ。
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