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再十三話 渋いだけなら普通のおじさん
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「あーこれは魔力中毒ですね。魔力を消す薬があれば治せますよ」
「えっ、本当ですか? さっきのお医者さんも魔力中毒とは言ってましたが、治す方法は無いと言ってましたよ」
病名は知っている。治療方法は可能性だけなら一つある。
難しい顔をして、適当にラナさんの顔を見ながら言ってみた。
ラナさんが信じられないといった顔で訊いてきたけど、あれは金目当ての偽医者だ。
あんな奴を信じて諦めたら駄目だ。
「あーあれは偽医者……いえ、あの先生は治療方法が古いんです。新しい治療方法を知らないんです。この辺で品揃えが良い薬屋はありますか?」
「あっ、私知ってます! 案内します!」
「助かります。じゃあ、すぐに用意しますので休んでいてください。じゃあ、行きましょうか」
「はい!」
右手を差し出すとペトラが元気に返事した。
手は握ってくれなかったけど、子供扱いする年齢じゃなかった。
黙って手を下ろすと、お店までペトラに連れていってもらう事にした。
「これから行くお店のおじさんに『妖精の薬草』を注文してたんですけど、謝らないといけないですね。きっと探すの苦労していると思います」
「そうだね」
家を出ると住宅密集地からお店が多い、街の中心部を目指してペトラは進んでいく。
どうやらこれから行く薬屋が嘘の希望を与えたみたいだ。
とりあえず相槌を打ったけど、多分探してないから超苦労してない。
「ここです」
そんな超苦労してないお店に到着したみたいだ。
ペトラが白く塗られた木壁に、ピンク色の四つ葉のクローバーが描かれた一階建ての建物を指し示した。
おじさんが営むにしては、凄く若者向けの明るく可愛らしい外観だ。
そんなお店に十代の女の子二人で入ってみた。
カラララ~ン♪
扉を開けると、扉の上部内側に取り付けられた大きな金の鈴が綺麗に鳴った。
真っ白な店内には透明なガラス瓶に入れられた草・花・種・粉(砂?)が、綺麗に棚に並べられている。
植物の図書館、薬の図書館、そんな印象があるお店だ。
「あれ? どうしたのペトラさん。また訊きたい事でも出来たの?」
伸びた灰色の前髪で目元がまったく見えないおじさんがやって来ると、ペトラに気安く話しかけてきた。
渋くて駄目オヤジの雰囲気がプンプンするけど、蔵之介には遠く及ばない。
つまりただの平凡なおじさんだ。
「あっ、エイアスさん。違います、魔力消し薬を買いに来たんです。このお店に置いてありますか?」
「んっ、魔力消し薬? それはあるけど料理にでも使うのかい?」
「違います。このお医者さんがお母さんを治してくれるんです。それに魔力消し薬が必要みたいなんです」
「へぇー、そうなんだ……」
あっ、なんか超怪しんでいる。
ペトラに紹介された私を、灰色前髪がジロジロ見ているけど、怪しい人を見ている視線だ。
女子トイレで女の子達から『男? 女?』でよく怪しまれているから私には分かる。
「はじめまして、医者見習いのルカです。時間がないので、魔力消し薬をあるだけ全部ください」
「……はぁぁ。まあ、医者見習いなら仕方ないか。残念だけど魔力消し薬を魔力中毒の患者に使うのは危険だよ」
「えっ、使えないんですか?」
軽くため息を吐くと、灰色前髪が軽く口端を上げて言ってきた。
明らかにお馬鹿な医者見習いに呆れている。
「やっぱり知らなかったか。君の先生はあまり指導熱心じゃないらしい。魔力の無い普通の人なら魔力消し薬を摂取しても問題ないけど、魔力がある人には毒なんだよ。魔力がある人には魔力がある状態が正常なんだ。その正常な状態を無理矢理薬で消したら異常になる。その異常を正常に戻す為に、身体が体力や生命力を使って回復するんだよ」
灰色前髪が丁寧に治療は無理だと教えてくれるけど、何もしなければ今日中に死んでしまう。
危険だろうと可能性があるなら、やるしかない。
「つまりは逆効果……あっ、でも、ラナさんは普通の人です。身体に溜まっている魔力を一旦全部消せば問題ないんじゃないですか?」
もしかすると問題ないかもしれない。
ラナさんは元々普通の人だ。今の状態の方が異常だから問題ないと思う。
魔力を全部消しても、減った魔力は新たに作られないはずだ。
「本当に何も知らないみたいだね。いや……むしろ知らないから勉強させているのか?」
だけど、私の説明を聞いて、また灰色前髪が軽くため息を吐いた。
無能な医者見習いだと確信したのか、何やら一人で考え込んでいる。
「普通の人が魔力を何らかの方法で摂取した場合、時間が経てば徐々に身体から放出されるんだ。ラナさんの場合は身体から放出されずに常に保有している状態だ。つまりは身体から放出されない状態か、放出しても新たに作られているか、考えられるのはこの二つだよ。そして私が知っているかぎり、魔力中毒の人に魔力消し薬を大量投与した結果は一つしかない」
「…………んっ?」
灰色前髪は駄目だという説明は丁寧にしてくれたのに、結果は教えてくれなかった。
無能な医者見習いでも、それぐらいは分かるだろうと思ったのか、ペトラの前だからかもしれない。
でも、考えられる結果は死しかない。
「えっ、本当ですか? さっきのお医者さんも魔力中毒とは言ってましたが、治す方法は無いと言ってましたよ」
病名は知っている。治療方法は可能性だけなら一つある。
難しい顔をして、適当にラナさんの顔を見ながら言ってみた。
ラナさんが信じられないといった顔で訊いてきたけど、あれは金目当ての偽医者だ。
あんな奴を信じて諦めたら駄目だ。
「あーあれは偽医者……いえ、あの先生は治療方法が古いんです。新しい治療方法を知らないんです。この辺で品揃えが良い薬屋はありますか?」
「あっ、私知ってます! 案内します!」
「助かります。じゃあ、すぐに用意しますので休んでいてください。じゃあ、行きましょうか」
「はい!」
右手を差し出すとペトラが元気に返事した。
手は握ってくれなかったけど、子供扱いする年齢じゃなかった。
黙って手を下ろすと、お店までペトラに連れていってもらう事にした。
「これから行くお店のおじさんに『妖精の薬草』を注文してたんですけど、謝らないといけないですね。きっと探すの苦労していると思います」
「そうだね」
家を出ると住宅密集地からお店が多い、街の中心部を目指してペトラは進んでいく。
どうやらこれから行く薬屋が嘘の希望を与えたみたいだ。
とりあえず相槌を打ったけど、多分探してないから超苦労してない。
「ここです」
そんな超苦労してないお店に到着したみたいだ。
ペトラが白く塗られた木壁に、ピンク色の四つ葉のクローバーが描かれた一階建ての建物を指し示した。
おじさんが営むにしては、凄く若者向けの明るく可愛らしい外観だ。
そんなお店に十代の女の子二人で入ってみた。
カラララ~ン♪
扉を開けると、扉の上部内側に取り付けられた大きな金の鈴が綺麗に鳴った。
真っ白な店内には透明なガラス瓶に入れられた草・花・種・粉(砂?)が、綺麗に棚に並べられている。
植物の図書館、薬の図書館、そんな印象があるお店だ。
「あれ? どうしたのペトラさん。また訊きたい事でも出来たの?」
伸びた灰色の前髪で目元がまったく見えないおじさんがやって来ると、ペトラに気安く話しかけてきた。
渋くて駄目オヤジの雰囲気がプンプンするけど、蔵之介には遠く及ばない。
つまりただの平凡なおじさんだ。
「あっ、エイアスさん。違います、魔力消し薬を買いに来たんです。このお店に置いてありますか?」
「んっ、魔力消し薬? それはあるけど料理にでも使うのかい?」
「違います。このお医者さんがお母さんを治してくれるんです。それに魔力消し薬が必要みたいなんです」
「へぇー、そうなんだ……」
あっ、なんか超怪しんでいる。
ペトラに紹介された私を、灰色前髪がジロジロ見ているけど、怪しい人を見ている視線だ。
女子トイレで女の子達から『男? 女?』でよく怪しまれているから私には分かる。
「はじめまして、医者見習いのルカです。時間がないので、魔力消し薬をあるだけ全部ください」
「……はぁぁ。まあ、医者見習いなら仕方ないか。残念だけど魔力消し薬を魔力中毒の患者に使うのは危険だよ」
「えっ、使えないんですか?」
軽くため息を吐くと、灰色前髪が軽く口端を上げて言ってきた。
明らかにお馬鹿な医者見習いに呆れている。
「やっぱり知らなかったか。君の先生はあまり指導熱心じゃないらしい。魔力の無い普通の人なら魔力消し薬を摂取しても問題ないけど、魔力がある人には毒なんだよ。魔力がある人には魔力がある状態が正常なんだ。その正常な状態を無理矢理薬で消したら異常になる。その異常を正常に戻す為に、身体が体力や生命力を使って回復するんだよ」
灰色前髪が丁寧に治療は無理だと教えてくれるけど、何もしなければ今日中に死んでしまう。
危険だろうと可能性があるなら、やるしかない。
「つまりは逆効果……あっ、でも、ラナさんは普通の人です。身体に溜まっている魔力を一旦全部消せば問題ないんじゃないですか?」
もしかすると問題ないかもしれない。
ラナさんは元々普通の人だ。今の状態の方が異常だから問題ないと思う。
魔力を全部消しても、減った魔力は新たに作られないはずだ。
「本当に何も知らないみたいだね。いや……むしろ知らないから勉強させているのか?」
だけど、私の説明を聞いて、また灰色前髪が軽くため息を吐いた。
無能な医者見習いだと確信したのか、何やら一人で考え込んでいる。
「普通の人が魔力を何らかの方法で摂取した場合、時間が経てば徐々に身体から放出されるんだ。ラナさんの場合は身体から放出されずに常に保有している状態だ。つまりは身体から放出されない状態か、放出しても新たに作られているか、考えられるのはこの二つだよ。そして私が知っているかぎり、魔力中毒の人に魔力消し薬を大量投与した結果は一つしかない」
「…………んっ?」
灰色前髪は駄目だという説明は丁寧にしてくれたのに、結果は教えてくれなかった。
無能な医者見習いでも、それぐらいは分かるだろうと思ったのか、ペトラの前だからかもしれない。
でも、考えられる結果は死しかない。
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