糸魔術師の日常

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破天荒

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「はっはっはっ。なかなか愉快なご子息だ。私はエルフェン伯シュバルトと申す、ご子息お名前は?」
「エグジム……です」
「緊張させてしまったか。そう畏まらなくてもいいよ。君の父とは昔からの仲でね、酒の席では無礼講だったものだよ」
「昔のことで……っすよ」
「おっと戻ったね口調。それでいいよ」
「バカ息子のせいでね」

はぁとため息ひとつ。エグジムの頭をコツンと叩き親父はボリボリと頭をかいた。

「伯爵様、今は公ではないんですか? ったく」
「そう固いこと言うな。今度また酒でも飲みに来い。最近顔出さないじゃないか」
「酒飲みに行ってたんじゃなくて納品ですよ納品。仕事で行ってただけっすよ」

どういうことか、やけに親しげな親父と伯爵の様子に呆けるエグジム。対して反対にムッとした顔をしたのが伯爵のとなりに立つ少女だ。
少女は背筋を伸ばした美しい姿勢でツカツカと前に出ると、反転して父親の胸に人差し指を突きつけた。

「お父様、今日は私の制服を受け取りに来たのでしょう!? ごちゃごちゃやってないで目的思い出して下さいな!」

突きつけられた指に気押されるように一歩下がった伯爵。心なし顔が引きつっている。

「お、おぉう。そ、そうだな。うん。ということでビリーム、出してくれ」
「はいよっ」

対して親父は呆れた様子で店の奥に行くと、用意してあったブーツと帽子、手袋を持って戻ってきた。

「お嬢様。これが注文の品です。この場で修正するから履いてみてくれますか?」
「これが……いいデザインです。バラの刺繍が美しいわ。履けばいいのね、椅子はあるかしら?」
「こちらにどうぞ。簡素なものですが」

木目もむき出しな謙遜なく簡素な椅子を持ち出して進める親父。しかし不満を言うでもなく伯爵令嬢はそれに腰掛け、手ずから編み紐を解くと履き口を緩め、ヒールから抜いた足を入れて紐を締めた。
そうして左右ともに身につけると立ち上がり、軽く足踏みをした後にジャンプ。ダンスのようなステップを軽く踏んだ。

「うん。しっかりサイズが合ってますね。履きやすいです。すこし紐の長さが余るので短めて貰えれば大丈夫かしら」
「よし、すぐ調整します。手袋と帽子の方はどうです?」
「手袋はもう少しアーマー部分が小さい方がいいわね。これだと干渉しちゃう」
「はいよ。一時間で仕上げますわ」
「帽子はこれでいいわ」
「そりゃ良かった。ならすこしお待ちを。その間……おいエグジム、服の方合わせとけ」
「あいよ。ならお嬢様、こちらの更衣室にて試着をお願いできますか」

促すのは店舗奥に設けられた別室。人が2人寝転べるほどの空間に全身鏡とハンガーラックが取り付けられており、また室内から鍵がかけられる様になっており、女性の顧客に最大限配慮する形になっている。

「分かったわ。あと私のことはユーリと呼んで下さいます? お父様同士も友人の様ですし、私共も仲良くいたしましょう?」
「お嬢様、それはあまり……」

困り顔の執事が割り込んでくるが何のその。

「あらシューイン? 何か問題が?」
「ですので伯爵家の長女ともあろう方が、平民相手に……」

エグジムとしては執事を応援したいところ。伯爵令嬢なんぞと、どう友人付き合いすれば良いのか。むしろ友人付き合いしなくてはいけないのか?
頑張れ執事。とりあえず頭を下げておこう。

「な・に・か、も・ん・だ・い・が?」
「……いえ、なんでもございません」

負けた、執事負けた。

「貴方も何故頭を下げているのかしら」
「あーいえ、なんでもないです」

執事がばつが悪そうにこちらを見ている。

「あと過度な敬語もやめて下さい。むしろタメ口でも良くってよ?」
「それは勘弁してください本当に」

執事も激しく頷いている。大丈夫執事さん、気持ちは同じだ。後でココアでも出してあげようか。

「あら、ならそれは行く行くね。では着替えてきますので、用意してくださいな」
「はい、服は既に試着室にありますのでご着用ください」
「あら用意がいいですわね」

では、と一人で試着室に入り、間も無く鍵がかかる音が聞こえた。

「えーと、執事さん」
「はい、何でございましょう」
「お嬢様ですけど、一人で着替えるのですか?」
「淑女たるものメイドに任せる様に言っているのですが、自分で出来ることを何故任せなければならないのか……と、全く聞かず」
「……お疲れ様です」
「……恐縮です」

お互いに苦笑い。伯爵家のお嬢様は見た目にそぐわず破天荒な方らしい。

「娘がすまんな。出来れば仲良くしてやってくれないか」
「伯爵様!? いや、ええと、光栄です?」
「なんだ不満なのか?」

ニヤリと口端を上げて楽しそうに聞いてくる伯爵。こちらも破天荒か。
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