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第7章 虹ヶ丘小学校とみょんちゃん先生の幸せ〔あーちゃんの視点・他〕
57 第7章第9話 笑顔の芽吹き
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〔一太の視点〕
「はい、いらっしゃい、今日はこのアスパラが食べごろだよ。奥さん、今晩、旦那さんの晩酌のおつまみに、アスパラの肉巻きなんてどうですか? もちろん、ご飯のおかずにもなるから、子供達もきっと喜ぶよ! どうだい?」
「あら、そうかい。おいしそうだね。じゃあ、もらおうかしらね」
「へい、毎度あり! じゃあ、これ、包んでおくれ」
「あいよ! 奥さん、ちょっと待っててね。今、持ちやすいように袋に入れてあげるからね」
「あら、すまないね。いつもありがとうね。本当に、女将さんは優しいよね。この八百屋さんは、女将さんでもってんのよね……あははは」
「やだよ、奥さんったら、もう……あははは」
おいらは、いつもこの笑顔に支えられているんだ。明るく笑う八百屋の奥さん。この八百屋には、この人が居ないとダメだって思うんだ。
おいらは、そんな『八百屋中村』で、大将をやらせてもらってる中村一太さ。
おいらは、小さい頃から畑仕事が好きだったんだ。この虹ヶ丘に開拓に入って、家族と一緒にジャガイモを育てたり、ダイコンを育てたりするのが面白かった。最初は、野菜が大きくなったり、収穫して食べたりするのが楽しかったんだ。
だけど、そのうちにあの人と一緒に仕事をすることが楽しくてしかたなくなってきたんだ。
だって、あの人は、いつも嬉しそうだったし、楽しそうだった。大変な仕事の時もいつも笑顔だったんだ。おいらが困っている時も、一緒に困ってくれたんだ。そして、おいらが笑顔になるまで、いつまでだって待ってくれた。
新しい品種のジャガイモを植えたことがあったんだ。全滅してまった。1つも育たなかったんだ。
それでも、あの人は、涙を浮かべながら、おいら達には笑顔で歌を歌ってくれたんだ。ちょうど今と同じ時期ぐらいの時期だったなあ。
確か、種芋を植えてからあっという間の出来事で、まだ6月にもなっていなかったはず。
「お父ちゃん、これ、おつり渡して頂戴ね。私は、アスパラを渡して、隣の肉屋について行って、肉巻きにちょうどいい肉を教えてくるからさ、お店をお願いね」
「おお、わかったよ! 気をつけてな」
本当に世話好きななんだからなあ。……今、思えば、そんなとこなんか、そっくりだなあ。そっか、だから最初は学校に希望して勤めたのかな?
おいらは、笑美の後姿を見つめながら、遠い昔を懐かしく思い出したんだ。
「ごめんください!」
「へい、いらっしゃい。あ、みょんちゃん先生! 今日は、もうお帰りですか?」
「ええ、最近は、早く帰るのよ。これだかね……」
ちょっと笑顔で、前に出てきたお腹を両手でさすりながら、嬉しそうに体を揺らしたのは、美代乃校長先生だった。先生は、時々学校帰りに、店により買い物をしてくれるんだ。最近は、だんだんとお腹も大きくなって、動くのも大変そうに見える。
「ねえ、笑美ちゃんは?」
「母ちゃんは、お客さんを連れて隣の肉屋に行ってます。すぐ戻りますよ」
「そう。……本当にもう、せっかくいい子が、うちの学校の先生になってくれたのに、一太君にくっついてやめちゃうんだから、私、がっかりしたのよ!」
美代乃校長先生は、半分笑いながら、いつもの調子で、文句を言いはじめた。これは、おいらの奥さんが学校をやめるまではよかったんだけど、その後、おいらと結婚すると決まったとたんに言い続けているんだ。半分笑いながらね。
どうもおいらが、困った顔をするのを見るのが、おもしろくてどうしようもないらしいんだ。その証拠に、この話の後は、必ずうちの奥さんと仲良く近況の報告会になり、おいらそっちのけで盛り上がるのが常なんだ。
「あ! みょんちゃん先生! いらっしゃい。元気でした?」
「見て! 見て!」
「わあ、お腹、出てきましたね。歩きにくくないですか?」
「まだ、大丈夫よ。それより、笑美ちゃんも、でしょ?」
「そうなんです!」
「おめでとう!!」
「ありがとうございます。ところで、みょんちゃん先生も、あの病院まで行くの大変でしょ」
「私、体のこともあるから、定期的に通っているけど、ちょっと遠くてね。汽車でも半日かかってしまうもんね」
「そうなのよね~」
「ところで、お肉屋さんには、何しに行ってきたの?」
「いいアスパラが入ってね。それを買ったお客さんに、アスパラの肉巻きを教えたら、どんな肉がいいか聞かれたので、直接肉屋へ行って教えてあげたのよ」
「へー、親切なんだから、笑美ちゃんは。だから、先生止めないでほしかったのよ、うふふふ」
「ありがとうございます、みょんちゃん先生! でも、学校も懐かしいわ」
「楽しかったわよね~どう? 最近面白いことあった?」
「ええ、毎日がとっても面白いわよ。ここんとこお店も増えたの」
「そうね~この商店街も本当にいっぱいお店が増えて賑やかになったわ」
「最初はね、うちの八百屋しかなかったんだけど、父ちゃんが頑張って、ここを商店街にしようって」
「そんな、頑張ったなんて、恥ずかしいから……」
傍で聞いていたおいらは、照れてしまった。
「いいえ、本当に一太君は、よくやったわ。自分の八百屋のことでも大変だと思うのに、他のお店のことも考えて、いろんな人に、いろんな商売を教えたんだもんね。凄いわ」
そうなんだ、こうやって、この人は、嬉しそうに、他の人の頑張りを喜んでくれるんだ。……本当に自分のことのように……だから、おいらも、そうなりたいと思ったんだ……。
みょんちゃん先生は、いつものように買い物をして帰っていった。その後ろ姿を見ながら、おいらは母ちゃんに、思わず声を掛けた。
「なあ、母ちゃん……お前、あの時、学校勤めを辞めて、八百屋を手伝ってくれたけど、そんなに野菜が好きだったのか?」
「……父ちゃん、何、馬鹿なこと聞いてんの?…………野菜は好きだよ。でも、2番目だからね……」
そのまま笑美は、ありったけの笑みを浮かべて笑っていたんだ。
(つづく)
「はい、いらっしゃい、今日はこのアスパラが食べごろだよ。奥さん、今晩、旦那さんの晩酌のおつまみに、アスパラの肉巻きなんてどうですか? もちろん、ご飯のおかずにもなるから、子供達もきっと喜ぶよ! どうだい?」
「あら、そうかい。おいしそうだね。じゃあ、もらおうかしらね」
「へい、毎度あり! じゃあ、これ、包んでおくれ」
「あいよ! 奥さん、ちょっと待っててね。今、持ちやすいように袋に入れてあげるからね」
「あら、すまないね。いつもありがとうね。本当に、女将さんは優しいよね。この八百屋さんは、女将さんでもってんのよね……あははは」
「やだよ、奥さんったら、もう……あははは」
おいらは、いつもこの笑顔に支えられているんだ。明るく笑う八百屋の奥さん。この八百屋には、この人が居ないとダメだって思うんだ。
おいらは、そんな『八百屋中村』で、大将をやらせてもらってる中村一太さ。
おいらは、小さい頃から畑仕事が好きだったんだ。この虹ヶ丘に開拓に入って、家族と一緒にジャガイモを育てたり、ダイコンを育てたりするのが面白かった。最初は、野菜が大きくなったり、収穫して食べたりするのが楽しかったんだ。
だけど、そのうちにあの人と一緒に仕事をすることが楽しくてしかたなくなってきたんだ。
だって、あの人は、いつも嬉しそうだったし、楽しそうだった。大変な仕事の時もいつも笑顔だったんだ。おいらが困っている時も、一緒に困ってくれたんだ。そして、おいらが笑顔になるまで、いつまでだって待ってくれた。
新しい品種のジャガイモを植えたことがあったんだ。全滅してまった。1つも育たなかったんだ。
それでも、あの人は、涙を浮かべながら、おいら達には笑顔で歌を歌ってくれたんだ。ちょうど今と同じ時期ぐらいの時期だったなあ。
確か、種芋を植えてからあっという間の出来事で、まだ6月にもなっていなかったはず。
「お父ちゃん、これ、おつり渡して頂戴ね。私は、アスパラを渡して、隣の肉屋について行って、肉巻きにちょうどいい肉を教えてくるからさ、お店をお願いね」
「おお、わかったよ! 気をつけてな」
本当に世話好きななんだからなあ。……今、思えば、そんなとこなんか、そっくりだなあ。そっか、だから最初は学校に希望して勤めたのかな?
おいらは、笑美の後姿を見つめながら、遠い昔を懐かしく思い出したんだ。
「ごめんください!」
「へい、いらっしゃい。あ、みょんちゃん先生! 今日は、もうお帰りですか?」
「ええ、最近は、早く帰るのよ。これだかね……」
ちょっと笑顔で、前に出てきたお腹を両手でさすりながら、嬉しそうに体を揺らしたのは、美代乃校長先生だった。先生は、時々学校帰りに、店により買い物をしてくれるんだ。最近は、だんだんとお腹も大きくなって、動くのも大変そうに見える。
「ねえ、笑美ちゃんは?」
「母ちゃんは、お客さんを連れて隣の肉屋に行ってます。すぐ戻りますよ」
「そう。……本当にもう、せっかくいい子が、うちの学校の先生になってくれたのに、一太君にくっついてやめちゃうんだから、私、がっかりしたのよ!」
美代乃校長先生は、半分笑いながら、いつもの調子で、文句を言いはじめた。これは、おいらの奥さんが学校をやめるまではよかったんだけど、その後、おいらと結婚すると決まったとたんに言い続けているんだ。半分笑いながらね。
どうもおいらが、困った顔をするのを見るのが、おもしろくてどうしようもないらしいんだ。その証拠に、この話の後は、必ずうちの奥さんと仲良く近況の報告会になり、おいらそっちのけで盛り上がるのが常なんだ。
「あ! みょんちゃん先生! いらっしゃい。元気でした?」
「見て! 見て!」
「わあ、お腹、出てきましたね。歩きにくくないですか?」
「まだ、大丈夫よ。それより、笑美ちゃんも、でしょ?」
「そうなんです!」
「おめでとう!!」
「ありがとうございます。ところで、みょんちゃん先生も、あの病院まで行くの大変でしょ」
「私、体のこともあるから、定期的に通っているけど、ちょっと遠くてね。汽車でも半日かかってしまうもんね」
「そうなのよね~」
「ところで、お肉屋さんには、何しに行ってきたの?」
「いいアスパラが入ってね。それを買ったお客さんに、アスパラの肉巻きを教えたら、どんな肉がいいか聞かれたので、直接肉屋へ行って教えてあげたのよ」
「へー、親切なんだから、笑美ちゃんは。だから、先生止めないでほしかったのよ、うふふふ」
「ありがとうございます、みょんちゃん先生! でも、学校も懐かしいわ」
「楽しかったわよね~どう? 最近面白いことあった?」
「ええ、毎日がとっても面白いわよ。ここんとこお店も増えたの」
「そうね~この商店街も本当にいっぱいお店が増えて賑やかになったわ」
「最初はね、うちの八百屋しかなかったんだけど、父ちゃんが頑張って、ここを商店街にしようって」
「そんな、頑張ったなんて、恥ずかしいから……」
傍で聞いていたおいらは、照れてしまった。
「いいえ、本当に一太君は、よくやったわ。自分の八百屋のことでも大変だと思うのに、他のお店のことも考えて、いろんな人に、いろんな商売を教えたんだもんね。凄いわ」
そうなんだ、こうやって、この人は、嬉しそうに、他の人の頑張りを喜んでくれるんだ。……本当に自分のことのように……だから、おいらも、そうなりたいと思ったんだ……。
みょんちゃん先生は、いつものように買い物をして帰っていった。その後ろ姿を見ながら、おいらは母ちゃんに、思わず声を掛けた。
「なあ、母ちゃん……お前、あの時、学校勤めを辞めて、八百屋を手伝ってくれたけど、そんなに野菜が好きだったのか?」
「……父ちゃん、何、馬鹿なこと聞いてんの?…………野菜は好きだよ。でも、2番目だからね……」
そのまま笑美は、ありったけの笑みを浮かべて笑っていたんだ。
(つづく)
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