40 / 112
第5章 ありふれた日常の変化
40 第5章第3話 共同作業へ
しおりを挟む
******10年前の夏野太陽******
夏野と布礼愛は、初めの頃、研究室での会話はほとんどなかった。会話をしないというより、緊張のため夏野から話し掛けられなかったのである。
それでも、布礼愛はそんな夏野のことをよく気に掛けていた。同じ歳なのに、どう見ても夏野が弟のような感じに見えた。(これは、後にウィルスから解放された厚着校長が感想として漏らしていた)
「夏野君、一緒に学食へ行ってお昼ご飯食べましょう!」
「夏野君、今日は体育の授業に出てみない? バスケットボールだって!」
「夏野君、図書室に一緒に本を借りに行きましょ!」
「夏野君、一緒に帰りましょ!」
……………など。……ただ、夏野の返事はいつも
「……うん。……ああ。……はい……」 だけっだった。
夏野は、布礼愛が嫌いな訳ではなかった。むしろ、大好きだった。……だから、話せなかったのだ。
それでも布礼愛は、いつも笑顔で夏野に話し掛け、夏野を誘い、夏野と一緒に過ごした。
夏野が、最初に布礼愛に話し掛けたのは、半年もたってからだった。冬だというのに、その日も暑かった。
朝、学校へ行くと研究室前廊下にある冷水ミストが故障していたのだ。
午前中は、選択している授業は無く研究室の作業を予定したが、ちっとも捗らない。2人とも研究室での作業は無理と考え、手を止めてただひたすら暑さに耐えていた。
そんな時、夏野はいきなりどこかへ飛び出して行ったのだ。
暫くして夏野は、ハンドスプレーを持ち帰ってきた。中には、氷と冷たい水が入っている。
「……布礼愛さん? ……この冷水、掛けてもいいですか?」
布礼愛の前に、右手に持っているスプレーを差し出した。
「ええ、お願いします」
布礼愛は、ニッコリ微笑んで夏野にお願いした。
「……気持ちいいわああ……あたしも掛けてあげるわね! 貸していただける?」
「あ、はい……どうぞ……」
夏野は、その時のことを今でも『天に上る気持ちだった』と話すことがある。それからだ。夏野が少しずつ話をするようになったのは。
「……布礼愛さんの論文は、最優秀賞でしたよね……どんな内容なんですか?」
ようやく1年も過ぎようとしていた時、初めて夏野は論文のことを訪ねた。
というのも、夏野と布礼愛は、特別進級のため日常の授業は選択で受けている。学年や教科を問わず、自分の研究の為になると思えば、何を選択してもいいことになっている。
だから、ほとんど学校にいても、2人は同じ授業は受けていない。時々、布礼愛が気を利かせて、夏野を同じ授業に誘った時だけは、同じ教室で授業を受けるのである。
2人が研究室に来るのは、大抵は放課後の時間であった。ただ、次第に2人が話せるようになってからは、研究室にいることの方が多くなってきたのだ。
「わたしの論文は、地球温暖化の原因についてまとめたのよ。……検証方法はいろいろあるんだけど、一番の原因はウィルスじゃないかと思っているの。人間もウィルスに侵されると、発熱するでしょう! ……地球規模ぐらいになると、その発熱期間がとてつもなく長くなると予想したの! そして、そのウィルスを退治すれば、地球の熱も冷めるんじゃないかと考えたのよ」
「す、すごいですね! ……ボクのは、単なる発明品についての論文です。しかも、この温暖化を認めたうえでの単なる対策品だもんなあ」
夏野は、自分の論文に引け目を感じているようだった。それでも、布礼愛を羨むとか、妬むとかは決してしなかった。
それどころか、次第に夏野は全面的に布礼愛を手伝うようになった。2人の研究は、すべて地球の温暖化を止める方法に集約していったのである。
(つづく)
夏野と布礼愛は、初めの頃、研究室での会話はほとんどなかった。会話をしないというより、緊張のため夏野から話し掛けられなかったのである。
それでも、布礼愛はそんな夏野のことをよく気に掛けていた。同じ歳なのに、どう見ても夏野が弟のような感じに見えた。(これは、後にウィルスから解放された厚着校長が感想として漏らしていた)
「夏野君、一緒に学食へ行ってお昼ご飯食べましょう!」
「夏野君、今日は体育の授業に出てみない? バスケットボールだって!」
「夏野君、図書室に一緒に本を借りに行きましょ!」
「夏野君、一緒に帰りましょ!」
……………など。……ただ、夏野の返事はいつも
「……うん。……ああ。……はい……」 だけっだった。
夏野は、布礼愛が嫌いな訳ではなかった。むしろ、大好きだった。……だから、話せなかったのだ。
それでも布礼愛は、いつも笑顔で夏野に話し掛け、夏野を誘い、夏野と一緒に過ごした。
夏野が、最初に布礼愛に話し掛けたのは、半年もたってからだった。冬だというのに、その日も暑かった。
朝、学校へ行くと研究室前廊下にある冷水ミストが故障していたのだ。
午前中は、選択している授業は無く研究室の作業を予定したが、ちっとも捗らない。2人とも研究室での作業は無理と考え、手を止めてただひたすら暑さに耐えていた。
そんな時、夏野はいきなりどこかへ飛び出して行ったのだ。
暫くして夏野は、ハンドスプレーを持ち帰ってきた。中には、氷と冷たい水が入っている。
「……布礼愛さん? ……この冷水、掛けてもいいですか?」
布礼愛の前に、右手に持っているスプレーを差し出した。
「ええ、お願いします」
布礼愛は、ニッコリ微笑んで夏野にお願いした。
「……気持ちいいわああ……あたしも掛けてあげるわね! 貸していただける?」
「あ、はい……どうぞ……」
夏野は、その時のことを今でも『天に上る気持ちだった』と話すことがある。それからだ。夏野が少しずつ話をするようになったのは。
「……布礼愛さんの論文は、最優秀賞でしたよね……どんな内容なんですか?」
ようやく1年も過ぎようとしていた時、初めて夏野は論文のことを訪ねた。
というのも、夏野と布礼愛は、特別進級のため日常の授業は選択で受けている。学年や教科を問わず、自分の研究の為になると思えば、何を選択してもいいことになっている。
だから、ほとんど学校にいても、2人は同じ授業は受けていない。時々、布礼愛が気を利かせて、夏野を同じ授業に誘った時だけは、同じ教室で授業を受けるのである。
2人が研究室に来るのは、大抵は放課後の時間であった。ただ、次第に2人が話せるようになってからは、研究室にいることの方が多くなってきたのだ。
「わたしの論文は、地球温暖化の原因についてまとめたのよ。……検証方法はいろいろあるんだけど、一番の原因はウィルスじゃないかと思っているの。人間もウィルスに侵されると、発熱するでしょう! ……地球規模ぐらいになると、その発熱期間がとてつもなく長くなると予想したの! そして、そのウィルスを退治すれば、地球の熱も冷めるんじゃないかと考えたのよ」
「す、すごいですね! ……ボクのは、単なる発明品についての論文です。しかも、この温暖化を認めたうえでの単なる対策品だもんなあ」
夏野は、自分の論文に引け目を感じているようだった。それでも、布礼愛を羨むとか、妬むとかは決してしなかった。
それどころか、次第に夏野は全面的に布礼愛を手伝うようになった。2人の研究は、すべて地球の温暖化を止める方法に集約していったのである。
(つづく)
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる